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アメリカ成形業界状況(2023.05) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功技術士事務所
佐藤功

1.業界状況

1-1 概要

年初は景気回復の兆しが感じられたが、3月のプラスチック加工産業指数は48と若干後退し早期浮揚は難しそうだ。原料樹脂はサプライチェーン全体が大量在庫を抱えており、価格低迷が続いている。

こんな中で、編集長が巻頭で「経済安保政策が製造業国内回帰につながる可能性がある」と述べている。プラスチックで具体化しているのはバッテリーセパレータ位だが他分野にも広がることが期待されている。

1-2 合従連衡

産業構造の変化に伴い、企業再編がグローバル規模で進んでいる。今月はヨーロッパ企業DSMとLanxessのエンプラ部門を統合することが報じられている。日系では旭化成が樹脂部門とアサクリン部門を統合した。

1-3 ライセンスビジネス

P&Gは自社開発の低圧成形技術iMFLUXのライセンスビジネスを進めていた。今般、技術を組み込んだ成形機を普及させる方式を発表した。すでに成形機メーカー16社にライセンス済だ。

Trexelも発泡ブロー技術をW.Mullerの成形機に組み込むことによる間接ライセンス方式を発表した。新設備を伴う技術はソフトとハードを一元的に得られる方がライセンシーとしては好都合だ。

1-4 フィルムリサイクル

洋服用ハンガーのグローバル企業Mainnettiがハンガーのリユースのノウハウを活かし、処理能力は3000t/yの衣料保護袋のリサイクルシステム「Polyloop」をイギリスで構築した。使用済みの袋を回収し、洗浄後フィルム成形して再使用する。20μ以下の薄肉フィルムが多いうえ、透明性の要請が強いので分別洗浄技術の確立が大変だった。イギリスでは2022年から再生材使用比率の低い包材に課税したことが実現につながった。このシステムの他国展開も検討されている。

2.技術状況

2-1 フィルム用ポリエチレン

3月に開催されたSPEで、新しいフィルム用PEが発表された。第一はExxon Mobil の1軸配向用HDPEだ。透明性が高く高性能で成形性も良好だ。クロスラミによって食品包装分野のPPとの複合フィルムを代替し、リサイクルに貢献する。

Dowはリサイクル率最大70%の非食品シュリンク包装用LDPE、LLDPEを発表した。また、ASTM D 3350-PE435540適応グレードも発表された。5Gケーブルダクトに使用できる。

2-2 単軸押出機による廃棄プラスチックのリサイクル

プラスチック廃棄物を単軸押出機でリサイクルすることは難しい。異なった材料は原則として混ざらず、わずかな混入でも性能が低下する。同種類材料でも溶融粘度が異なると混ざりにくい。また、PVCのように他の材料を劣化させるものもある。

事前に分別、洗浄を徹底させ、細かく粉砕しておくことが重要だ。また単軸スクリューは混錬効果がほとんどないので、原料段階でよく混ぜ合わせ、均質にしておく必要がある。

2-3 成形ノウハウ

2-3-1 ノズル形状

適切でないと焼け、詰まり、糸引き、ハナタレ、色替え不良、成形不安定などの原因になる。まずデッドスペースをなくすことが必要だ。糸引き防止装置が有効な場合がある。

2-3-2 色替え

稼働時間、廃棄樹脂、労力、用役のロスになる。特に濃色から単色への切り替えは時間がかかり、パージ剤が有効な場合がある。パージ剤は物理的なものと化学的な機能がある。また、ホットランナには使えないものもある。様々なものがあるで試してみると良い。パージ条件によっても効果は違ってくる。メーカーは色替えの状況を見て適した種類、使用法を指導してくれる。

3.ケーススタディ

3-1 床タイル成形

CH3は各種床用タイルを製造している。形状は単純だが特注品も多く、高度な成形技術が必要だ。まず、反りが許されない。敷き詰められるため、寸法精度も厳しい。同じものが多数並ぶので、色ブレも許されない。

同社はこれを全員参加型の品質管理体制で達成した。オペレータ自らが異常を発見し改善する。このためには何でも話せる雰囲気を作ることが重要だ。成形機、測定器は最新のものを使用し、予防保全を徹底させている。金型はホットランナ化されている。寸法測定用機はだれでも使えるようになっている。色ブレを小さくするためには原料ロットを混ぜないようにしている。

3-2 医用チューブ

Spectrum Plastics は医療用機器を成形している。押出成形部門と3Dプリント部門があり、押出部門では精密チューブを成形している。特徴は顧客に成形現場を公開していることだ。工程を見せることによって、信頼性得られると同時に、押出技術の理解を深めてくれる。

3Dプリント部門は接手などを成形している。しかし、チューブでも押出で成形できない場合や要求精度が満たせない場合は3Dプリントする。80フィート連続成形したことがある。押出製品は巻き取る必要があり、専用機が必要だが、断面形状だけ入力すればよい。押出成形に比べリードタイムが短いので3Dプリントが有利な分野が増えるかもしれない。

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