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セルロースナノファイバー入門(2) CNFの特徴と用途

岡田きよみ
あなりす

はじめに

セルロースナノファイバー入門の第2弾は、セルロースをナノのスケールまで解したCNFとCNFを利用した製品の特徴、および用途について解説する。

CNFの特徴

CNF繊維の特徴

CNFの特徴を説明するのによく、「重さは鋼鉄の5分の1で強度は5倍」、「熱による変形(熱線膨張係数)が小さく、ガラスの約50分の1」という表現が用いられる。

繊維間で特性比較をすると結果は表1になる。

表1 繊維の特性比較

出展:NEDO平成 20 年度エコイノベーション推進事業調査委託成果報告書[サステナブルバイオによる計量自動車部材の開発に関する調査]

低熱膨張率(0.1 ppm/K)・高強度(3 GPa)・高弾性(140 GPa)であり、どの繊維より軽い。その他に高アスペクト比(横と縦の長さの比率)、高保水性、親水性、薄い膜状に加工可能という特徴を有している。

CNFフィルム(ナノペーパー)の特徴

緻密なネットワーク構造を形成するため、弾性率13GPa・引張り強度223MPa・熱膨張率5-10ppm/Kという優れた機械的特性を示す。また、高い面内熱伝導率(プラスチックフィルムの約10倍)、高い誘電率(5.3 at 1.1GHz)、高いガスバリア性、そして高い柔軟性を有する。
物質特性について紙と比較した結果が表2である。

表2 紙とCNFフィルムの比較

CNFフィルムは、そのサイズにより半透明~透明のフィルムが作成でき、サイズが小さくなるほど透明度は高くなる。
紙の場合、水付着によるニジミを改善し、強度を高めるために、各種添加剤が必要である。しかし、CNFフィルムは添加剤を使用しなくても水付着によるニジミはなく、紙に比べて高い強度を有している。これは、紙では繊維間に水が浸透するすき間があり、繊維間の結びつきが緩いのに対して、CNFフィルムはCNF間に水が浸透するすき間がなく、CNF同士が強固に結びついていることを示している。

CNF水分散体の特徴

静置時の粘度が高く、流動時に極端に粘度が低下するという性質(チキソトロピー性と呼ぶ)を持つ。また、保水性が高い。

CNF多孔体材料(エアロゲル)の特徴

分散液中のCNFを凝集させないようにして溶媒を除去し、乾燥させることによって、多孔体材料の作成が可能である。この多孔体は、押しても崩壊せず、折曲げや引張りに対しても柔軟性を持ち、高い断熱性、防音性、絶縁性、高吸着性を有している。

CNFの用途

上記の特徴から様々な分野で使用されつつある。

高弾性率、高アスペクト比を利用

紙とCNFを組み合わせる→スピーカの振動板
樹脂やゴムに均一分散させる→強度、寸法安定性、軽量化などの品質特性の向上
(自動車部品、家電・PC筐体、プラスチック成型容器、タイヤ、ゴムロール、パッキン、ベルトなどの製造に有効)
石膏と混合する→焼き物の型

紙の性質・透明性・軽量化を利用

銀ワイヤーとCNFを組み合わせる→太陽光発電紙(折りたたみ可能、印刷可能、太陽光ロスなしという特徴を有する。すべてのプロセスが50℃以下で可能という世界初の紙が開発された。)

比表面積の大きさを利用

CNF表面に金属ナノ粒子を付加させ抗菌・消臭機能を付与する→紙おむつ(消臭力は今までの3倍)
顔料プルシアンブルーの放射性セシウム選択性を利用し、CNF表面にプルシアンブルーを固定化する→除染スポンジ

高ガスバリア性を利用

高分子上にCNFを塗布する→紙コップ

溶液の増粘性・チキソトロピー性を利用

ボールペンインクの増粘剤(安定してインクが出る)
化粧品(日焼け止め)の増粘剤(べとつきがない)

その他、ディスプレイ、医薬品、食品、建築材 などにも利用されている。

サンプル提供一覧

部材産業-CNF研究会(近畿経済産業局・(地独)京都市産業技術研究所)が調査した2019年3月現在の「セルロースナノファイバー関連サンプル提供企業一覧」のHPを下記に示す。用途に応じたCNFサンプルを手に入れることが可能である。
http://tc-kyoto.or.jp/2019/03/CNF_Sample_7th.pdf

現状と展望

CNFは、そのサイズや形状ゆえに特異な性質が発現する。一方、CNFの研究の歴史は10-15 年に過ぎないため、いまだその物質特性や利用可能性など、明らかになっていない部分は多々ある。今後、研究開発を推進し、その成果をいかに利益に結び付けていくかは、各企業の工夫次第である。

現在、企業がCNFを使用する上での一番の問題は価格である。上記CNFサンプル提供HPでは価格部分の表示はされていないが、その1(図4)で示したように既存材料と比較すると高価(1,000~10,000 円/kg)である。CNF の価格を下げるためには、量産効果が得られるほどに大量消費することが一つ考えられる。

しかし、CNFの特徴を生かした用途開発が推進されているとはいえ、その使用量は多くない。材料メーカーもまだ量産体制に踏み込める状態ではないと思われる。したがって、CNF という新規材料が採算性のとれる材料となり、広く一般に利用されるにはさらなる年月を要するであろう。

次回は、CNFの活用を目指した研究が増加する成形加工分野に目を向け、その利用可能性と利用上の問題点について紹介する。

plastics-japan

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