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セルロースナノファイバー入門(1) CNFとは何か

岡田きよみ
あなりす

はじめに

セルロースナノファイバー(CNF)は、今話題の新素材の1つである。その理由としては、鋼鉄の1/5の軽さで鋼鉄の5倍以上に匹敵する引張破断強度をもつ品質特性はもちろん、植物由来のセルロースが原料であり、太陽と水と炭酸ガスがあれば無限に再生されるため、素材の低コスト化が可能である点も注目されている。

企業の環境への配慮が将来の業務展開には必須となってきた現在において、品質面やコスト面で様々な可能性を秘めているこの特徴的素材は非常に魅力的である。

CNFの言葉と種類

CNFの別の呼び方

統一した呼び方は決まっておらず、様々な呼び方がある。CNFのほかに、ミクロフィブリル化セルロース、セルロースナノフィブリル、ナノクリスタルセルロースなどと呼ばれる。

CNFの種類

CNFは、由来原料から①CNF(以下ではCNF’とする)、②セルロースナノクリスタル(CNC)、および微細な菌が作る③バクテリアナノファイバー(BNF)の3種類に分けられる。私たちが目にするCNFの記述では、①のみの場合、①②を含む場合、①②③すべてを含む場合があり、内容に応じて判断する必要がある。

① CNF’:「植物由来の極細繊維」

C…(セルロース)分子式 (C6H10O5)n で表される炭水化物(多糖類)であり、植物細胞の細胞壁および植物繊維の主成分。
N…(ナノ)10億分の1を表す単位である。
1ミリメートル=100万ナノミリメートル
F…(ファイバー)繊維。
CNF’の他の呼び方としては、ミクロフィブリル化セルロース、 セルロースナノフィブリルなどがある。

② CNC

木材をナノスケールに解す(ナノフィブリルにする)と水素結合が生じて結晶ができる。これを強酸で処理して余分な物質を取り除きCNCを製造する。針状結晶。
CNCの他の呼び方としては、ナノクリスタルセルロース、セルロースナノウイスカーなどがある。

③ BNF

酢酸菌などの微生物がつくるセルロース。植物が作るセルロースより純度が高く、細い。生分解性や保水性に優れている。デザートとしてよく知られている「ナタデココ」は、BNFの代表例である。ココナッツ水の表層にできる膜がナタデココであり、ナタデココ中には、約0.5%のセルロースが含まれている。

BNFの他の呼び方としては、バクテリアナノファイバー、バイオセルロースなどがある。

現在、工業材料として多く利用されているCNFの種類は、安定供給が可能という理由から、①②が多い。以下では、木材を原料に製造したCNFについて説明する。

木材由来のCNF

木材の階層構造

図1に「木材の階層構造」を示した。

図1 木材の階層構造
参照:Isogai,Journal of Wood Science,59,449(2013)

まず、木材から木片(チップ)にし、機械処理や化学処理を行うことによって1 本1 本の繊維をパルプ(セルロース繊維を取り出したもの)化する。なお、そのパルプ繊維を叩いて適度な柔らかさにし、薬品を加えて調整したものが紙となる。パルプ化した繊維に、さらに機械処理や化学処理を加える事によって繊維を1本1本分離して得られたものがCNFである。

原料パルプの違いによるCNFの違い

木材の成分について簡潔に説明すると、木材を形成する細胞は、ブドウ糖が綿状に結合したもの(セルロース)が束になって微細繊維を形成し木材の骨格となっている。図2に「木材細胞と細胞構成図」を示す。細胞壁には、一次壁と二次壁があるが、一般に木材資源と利用されるのは二次壁である。

図2 木材細胞と細胞構成図
抜粋:飛松、生存圏研究「植物と人を“支える”細胞壁の科学」(2017)

細胞の主な成分は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンであり、木の細胞を鉄筋コンクリートに例えて、鉄筋がセルロース、鉄筋を結ぶ針金がヘミセルロース、コンクリートがリグニンと言われる。ヘミセルロースはセルロースに似た構造を持ち、セルロースを結びつけている。リグニンはフェノール類の一種で、細胞同士を結合させる接着剤の役目をしている。

木材から作られるパルプには2種類あり、リグニンを取り除いたホロセルロースと、リグニンを含むセルロース(リグノセルロース)が存在する。しかし一般には、リグニンの有無に関わらずセルロースと呼んでいるので注意する必要がある。ホロセルロースとリグニンセルロースの有無は物質特性に影響し、例えばリグニンセルロースを含む木片は一定の細かさ以上に機械粉砕できない特性がある。

参考までに、図3に「セルロースの機械的手法解離によるリグニンの有無の違い」を示す。

図3 セルロースの機械的手法解離によるリグニンの有無の違い

同一の機械条件下でパルプを解離しても、リグニンを含有しないCNFは細かくならない。また、リグニンは黒色をしているため、含有リグニン量が多いほど、黒色のCNFとなる。シートの透明性は、CNFが微細であるほど透明度が高くなる。

一見するとCNFシートの強度は弱そうだが、実はリグニンを含有するシートの方が強い。したがって、CNFの作成では、用途に応じたパルプの選択に加え、木材成分の解離も重要である。

*製紙業界で使用される、「晒パルプ」はリグニンを取り除いたパルプ、「未晒パルプ」はリグニンを含んだパルプを指す。

パルプとCNFの価格

最後に、CNFの価格について表1で簡単に紹介する。冒頭で「CNFは低コストの可能性がある」と記載したが、現段階では、他原料と比較すると高コストである。しかし、今後、技術向上や使用量増加によってコストダウンが実現する可能性は大いにある。

表1 価格比較

まとめ

CNFとは、
 植物由来の極細の繊維である。CNFは、CNF’、CNC、BNFに分類される。木材由来のCNFが工業用に利用されつつある。

 CNF(木材由来)が束になったものが繊維であり、それらが紙を構成するパルプを形成する。
 CNF(木材由来)は、リグニンの含有量により物質特性が異なる。
 現在のCNF価格は、他原料と比べ高い。

おまけ

 図4に「CNF溶液とフィルムの作り方」を示しています。CNFを触ってみよう、利用してみようと思った方、身近な材料で気軽に体験できますよ!

図4 簡単なCNF溶液とフィルムの作り方

原料として牛乳パックを利用する際、パック両面は疎水加工されているので、表層部分を取り除いた内側の部分を使用する。ろ紙を使用するとより細かな繊維を解離しやすい。図5で使用した紙は、添加剤が少ないものを選択した。紙を使用した場合はミキサーにかけるまでに少し時間を置いた方が解離しやすい。

繊維が細かくなればなるほど粘度は上がってくるので、ミキサーが回転しにくければ少し水を足す。ガーゼ使用の際は、目が粗いので2枚ぐらい重ねた方がよい。細かな繊維が得られるほど、透明性の高いフィルムになる。

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