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アメリカ成形業界状況(2024.01) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功技術士事務所
佐藤功

1.業界動向

1-1 全般

11月のプラスチック加工産業指数は総合で42.6と本年(2023)最低となった。これを反映し、汎用樹脂価格も低いままだ。PPは原料価格上昇しているが、新規参入、各社の増産、輸入の増加などが続いており、値上げは考えにくい。

1-2 個別の動き

・SPE自動車部門アワード‘23が決まった。今回から電気自動車・自動運転部門、アフターマーケット部門、環境対応部門が加わった。大賞には長繊維強化PPで一体成形された前方荷物室(frunk)が選ばれた。各部門の受賞者は[付記]に示した。
・RohmとSabicがシート、フィルムなど押出製品部門を統合し、Polvantisが設立された。
・Pepublic が4万トンの処理能力を持つリサイクル施設を開設した。コカ・コーラにリサイクルPETを供給する予定。
・E-Beamが電子照射サービス能力を増強した。
・Bay Plastics Machineryのペレタイザー刃砥サービスを強化する
・GEON PerformanceがPolymaxTPEを買収した。

2.技術解説

2-1 プラスチック原料の保管期間

熱可塑性材料は数年保管しても劣化しない。しかし、熱硬化性樹脂は架橋反応が起きたり、開始剤など低分子成分が揮発して固化しなくなったりすることがある。劣化は温度、水分、紫外線などで促進する。このため低温貯蔵が行われている。可塑剤も揮発したり移行したりする可能性がある。軟質PVC,柔軟ナイロンなどは要注意だ。

2-2 単軸押出成形へのギアポンプ導入

押出機の先端にギアポンプを設置すると吐出量が安定し、品質向上、原単位向上が期待できる。またスクリュー先端圧力、樹脂温度を下げることが出来るので材料劣化防止、動力削減が出来る。ギアポンプを導入する場合、スクリュー回転数を制御してギアポンプ入りの圧力を一定にする。

2-3 3枚金型の設計法-第3回

3枚金型のランナ補強法、ランナ分岐部補強法、ランナバリ防止法を紹介している。
また、固定側型板駆動にボルトを使用するとストローク調整が容易になる。また、タイミングベルトを流用すると衝撃を吸収することが出来る。

2-4 植物由来樹脂のホットランナ成形

使用量が増えているが、グレード数が多く、それぞれ成形特性が異なるのでそれに適合したシステムを構成し、成形条件を設定する必要がある。

流動性が悪い反面、劣化しやすいので、このバランスをとった樹脂流路設計が求められる。デッドスペースがなく、各ゲートへの流路が均等になるようにし、劣化物が確実に排出できる構造にする。接樹脂部はSUSで構成するか耐腐食コーティングをする。

成形機は200MPa程度の高圧成形が出来るものを選定する。ゲートは個別制御し、オーバーシュートしない制御をする必要がある。成形機と連携させ、成形停止時、昇温時の材料劣化を極力減らすようにする。

3.ケーススタディ

3-1 US Merchantsの経営

同社は入荷したパレットのシュリンクフィルムを外したらそのまま店頭で陳列台になるシステムを考案した。この事業の生産から配送まですべて自前で行うため、各種事業を買収して成長してきた。成形工場もその一環で獲得した。
顧客の要請や商品に最適なシステムを構築し最高の品質で提供することを保証するようにしている。一方で利益を最大化するための合理的な事業体制を追求している。

流通における最高の「ターンキーソリューション」の提供を目指し、事業のすべてを掌握するという強い意欲が成長につながったと自らを分析している。

3-2 医療用チューブ押出メーカー

Lightning Cathは医療機器メーカーSwitchbackからスピンアウトした医療用チューブの押出メーカーだ。医療関係者はアイデア豊かだが具現化する能力はない。医療部門と太いパイプを持ち、与えられた課題を確実に実現していくことによって高い成長率を実現している。

4.冷媒規制

環境保全の一環で2024年初から先行13州で冷媒規制が発効し、R-134a、R-410Aなど負荷の小さい媒体の使用が義務付けられる。このため、チラーなどは新しい冷媒が使用される。既存機器は規制されないので買い替える必要はない。
冷媒が異なると熱力特性、粘度、可燃性などが変わるので、冷却過程を再設計しなければならない。

5.人材育成

作業員の訓練が誤解されている。現在行われている訓練は真の原因を追求し、抜本策を構築するのには役立つ。成形現場ではそんなことをする時間も余裕もない場合がある。例えば「成形機や金型の固有のくせを認識した条件設定」、「限られた時間の中で不良発生を最小にしながらなんとか納期に間に合わせる」といったたぐいの「技」は訓練ではおろそかにされている。

この種の「技」は現場固有であることもあって経験によって獲得されることが多い。このため個人が蓄積していく。共有化される場合も限られた範囲にとどまる。このような「技」こそ文章化して共有化すべきだ。

6.Plastics Technologyについて

Plastics Technology誌は本年から70年目に入る。これに伴い、編集長が下記のようなメッセージを寄せている。

プラスチック産業最盛期には業界雑が12誌もあり、それぞれが特徴を競っていた。しかし、今は3誌しかない。当時は材料メーカーや機械メーカーが営業に利用しようとして支援して来たためだ。昨今はこれに頼れなくなった。

信頼できる技術情報が求められていることには変わりない。Plastics Technology誌は今後とも「すぐれた事業の紹介」、「課題解決支援」の2点を重視していく。また電子媒体の活用、展示会、技術会議などの対面コミュニケーションの活用も併進させ、読者の期待に応え続けたい。

7.あとがき

あけましておめでとうございます。年初から地震、火事と物騒な事件が続いた。日本も波乱の時代に入ったのかもしれません。

ご紹介したようにアメリカも紙メディアが衰退しているようです。情報化時代と言われていても、必要な情報を得るにはそれなりの努力が必要です。ささやかですが皆様のお手伝いが出来ればと思っています。

[付記] SPE自動車アワード受賞部品

SPEのURLから各部門の受賞部品を紹介する

*frunk、前方に設けられた荷物室

 

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