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アメリカ成形業界状況(2023.08) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功技術士事務所
佐藤功

1.業界動向

1-1 全般

6月のプラスチック産業指数は46とわずかではあるが改善した。受注型のモルダーは若干低下したが、落ち方は小さくなっている。この影響で材料価格も低迷している。PSはベンゼン価格の下落の影響を受けた。工場稼働率、流通在庫も改善していない。

1-2 個別の動き

・EUでは2024年までに、PETボトルキャップをtethered caps型(図1参照)にする必要がある。CocaColaEUはSidelと組んでこれに対応する。

図1  tethered caps(ひも付きキャップ)の例
(ALPLAのURLから)

・オーストリアのホットランナメーカーHaidlmairが米事業を強化する。

・リサイクル設備メーカーADGが取り扱い機器を拡大する。

・Clean Vision Corpが廃プラガス化工場をWest Virginiaに建設する。

・BASFが生分解性・植物由来材料の研究施設をMichiganに開所する。

・3Dプリントによる少量部品メーカーReplique がBASFからスピンオフして設立された。

・Sabicがアメリカ化学工業会から持続可能社会リーダーとして表彰された。

・ミネラルウオーターボトラーのCrystal Geyserが社内ボトルラインの再生材使用比率を50%に上げた。

2.技術・経営提案

2-1 従業員離職対策

離職理由は低賃金、3K職場などだが、都会から離れていること、将来に希望が持てないことなどもあり深刻だ。処遇改善、作業環境整備、自動化による負担軽減などを進めるべきだ。また、対話の機会を増やし孤立させないこと、仕事の中で創意工夫が活かせる仕組みを作ったり、将来に対する希望が持てるようにしたりすることも大切だ。

2-2 多層ブロー成形

EUで容器分野のリサイクル材の使用義務付けが強化される。 Trexelと W. Müllerはこれに対応するため発泡多層ブロー技術の共同開発を行った。表層をバージン非発泡、内層をリサイクル材による発泡層にすることを提案している。技術を確立し、設備を提供できる。既存ラインの改造もほとんど場合可能だ。

高性能ボトルの生産が可能で、軽量化、サイクルアップが可能な場合がある。発泡層は光を散乱するので、白色顔料が不要になることもある。

2-3 異形押出安定化法

異形押出では断面形状が安定しないことが多い。ダイスが経験則で作られている。このため同じ製品でもダイス構造は違っていることがあり不安定の原因も多様だ。一般論で言えば樹脂温度、樹脂圧力、スクリュー背圧、あるいはダイス温度などが要因になっている。ダイスのランド長が短いと不安定になりやすい。ランド長はリップ開き量の15倍以上は取りたい。長いとダイスエルが小さくなる。ダイス内壁に給油すると摩擦係数が下がりスティックスリップ現象が軽減するため成形が安定する場合がある。

(注:ダイス内への給油は技術開発が必要)。

3.ケースタディ

3-1 Chat GPTの活用

園芸用品成形メーカーMcConkeyはChat GPTの活用を考え、Cognition Worksの支援を仰いだ。まず、社内にある技術文書、異常処理マニアル、修理記録などをAIに記憶させた。その結果、普通の言葉で質問すると回答が得られるようになった。これにより、異常処理が迅速化し、稼働率を向上させることが出来た。

3-2 スーパーエンプラ専業モルダーの挑戦

Allegheny Performance Plasticsは「だれもやらないことをやる」をモットーにし、スーパーエンプラの射出成形をしている。金型は油温調で、後結晶化オーブンを備えている。原則としてすべての成形をホットランナ化、自動取出をしている。生産管理ソフトを駆使し、成形データを集め、これを活用して金型の微調整、予防保全や品質検査を行っている。

分析能力も高く、DSCと水分測定が自社で可能だ。検査はラインで行っている。毎週5日連続生産している。顧客は自動車部品が多かったが、最近は宇宙航空分野の方が多くなった。

3-3 軽量化設計

ドイツの自動車部品メーカーElringKlingerはCelaneseと協力し、Zytel 70G50(50%ガラス繊維入りナイロン66)製エンジンブラケットの軽量化設計を行い、25%の軽量化に成功した。設計にはRafinexの開発したトポロジー最適化手法を使いた。解析に必要な負荷データはCelanese支援してそろえた。

(注:DupontのZaitel部門はCelaneseに移管された)

3-4 食品包装材のPE化

シンガポールのTobe PackagingはExxon Mobil、包装材メーカーのAegis Packagingと協力してオールPE製食品包装用のフィルムを開発した。このフィルムはナイロン系多層フィルムより酸素バリア性が優れている。Exxon製のコーティングのできるmLLDPEおよびAegisのバリアコーティング剤を使用している。フィルムコストは従来品より高価だが、シール温度を下げられ、リサイクルがしやすくなるので吸収可能だ。自立型パウチ用、易開封包装用のフィルムも開発中だ。

4.あとがき

少し明るさが見えてきた。EU規制を捉えてその対応策が提案されている。一方、chat GPTの活用や従業員定着策がとりあげられており、視野の広さを感じる。ケーススタディでは特徴あるモルダーが何社か紹介されている。参考にしていただきたい。

 

7月号

plastics-japan

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