秋元英郎
秋元技術士事務所
人とくるまのテクノロジー展2023の横浜開催は5月24~26日にパシフィコ横浜にて現地開催、5月17日~6月7日にオンライン開催された。本レポートは2分割の後半部分である。
人とくるまのテクノロジー展2023(横浜)レポート (1)はこちら
MCCアドバンスドモールディングスのコーナーでは、フィルムインサート成形による大型マルティディスプレイ、ヒート&クール成形技術を用いたウェルドレス製品、ガラスアウトサート成形試作品(ガラス面に接着性インクを塗布しておく)が展示されていた(写真26)。
発泡ドアトリムのミニチュアサンプル(写真27)は毎回出展されているが、射出発泡成形用途での長鎖分岐PP「WAYMAX」の採用も広がっているとのことである。
写真28は出展者の意図としては構造部材として分類していたものであるが、内装に分類して紹介する。ガラス長繊維強化PP「ファンクスター」で成形されたバックドアであるが、部分的に車室内に露出するものであるが、繊維の浮き出しも見られず内装部品としての外観品質をクリアしたものである。
構造部材としては、「ファンクスター」を用いたホンダステップワゴンに使用されているバルクヘッド(フロントボディと車室を隔てる隔壁)、日産アリアに使用されているブレーキブラケットが展示されていた(写真29)。
ガラスマット強化熱可塑性樹脂(GMT)はガラスマットにポリプロピレンを含侵させた賦形可能で低比重・高衝撃材料であるが、GMTを用いたエンジンアンダーカバーが展示されていた(写真30)。
写真31はSMCの廃棄物から回収した炭素繊維を再利用したSMC製品試作品である。
EV(電気自動車)向けのバッテリー周辺、駆動系の部品も展示されていた(写真32)。バッテリーケースには炭素繊維SMCやGMTが使用されている。また、バッテリーが異常発熱した際に延焼を防止する部材も展示されていた。
モーター周りの部品としては、CFRPによるモーター向けローターカバーが展示されていた(写真33)。薄肉軽量化することができることで慣性モーメントを小さくでき、モーターのエネルギーロスを小さくできる。
内装部品では多くの実績があるバイオマス由来の高意匠エンプラである「デュラビオ」の外装用途としてフロントグリルが展示されていた(写真34)。表面硬度や耐候性に優れるため、今後は外装用途に広がっていくと考えられる。
回収したアクリル樹脂をモノマーに戻して再度アクリル樹脂に戻す取り組みを行っている。ケミカルリサイクル由来の成形品とバージン品由来の成形品を並べて展示していた(写真35)が、アクリル樹脂になってしまえば全く違いは無い。現在マイクロ波を用いた熱分解法でホンダと組んで検証中である。
消費者の手に渡った後の廃プラは分別が困難という理由もあり、油化して石化原料として活用することが検討されている。ENEOS、リファインバース社と組んで超臨界水を用いた分解技術に取り組んでいる。
豊田通商と組んで、バイオエタノールからエチレンを生成し、その後プロピレンに転換する技術を検証中である。
ボトル用途は既に80%以上が再生されているが、キリンと組んでボトル以外の用途で使われているPETの再資源化を目指している。
金属代替・バッテリー周辺・モーター周辺用途を中心にスミカスパーLCPとスミカエクセルPESが使用されたサンプルが展示されていた。特にLCPのサンプルが多く展示されていた(写真36,37)。LCPはブレーキローペダル、フロントアップライト、オイル循環パイプ、PESはインホイールモーターのケース、エクステンダブルリフレクタが展示されていた。
LCPは薄肉流動性に優れ、薄くても強度が出しやすい材料であるとともに、流動方向に強く配向させると配向方向(MD方向)の熱伝導率がTD方向の5倍にもなる。写真38に展示パネルの一部を示す。
同社は環境負荷低減型プラスチックに「Meguri」というブランド名をつけて積極的にPRしている。住友化学のケミカルリサイクルやマテリアルリサイクル技術などよって生産したポリエチレンやポリプロピレン、アクリル樹脂などのさまざまなプラスチック製品を対象としたブランドである。
アクリル樹脂のリサイクル方法としてマテリアルリサイクル(メカニカルリサイクル)とケミカルリサイクルについてサンプルとパネルで紹介していた。写真39のサンプルは「Meguri」ブランドのアクリルシート(透明,白,黒)であり、再生材を51%以上マテリアルリサイクルされた製品である。
ケミカルリサイクルに関しては実証設備を建てて検証を行っている。
従来可燃ごみとして廃棄されている生活ごみや使用済みプラスチックごみからポリオレフィンのモノマーを取り出し、ポリオレフィンの原料化する取り組みが2つ示されていた。
生活ごみは分別することなくエタノールにしたうえでエチレンにすることでポリエチレンの原料にする。写真40にはごみ由来エタノールを経由経由したポリエチレン製造に関する展示である。積水化学工業との共同事業であり、エタノールまでを積水化学工業が担い、エタノールからポリエチレンまでの技術開発を住友化学が担っている。
一方、廃プラから行うケミカルリサイクルでは、廃プラを油化してナフサ分解炉に投入するのではなく、新たに開発した触媒技術を用いて、廃プラ混合物から直接エチレンやプロピレンを得る技術である。
ポリオレフィンのマテリアルリサイクルとしては、回収されたポリプロピレンを用いたガラス繊維強化ポリプロピレン「THERMOFIL CIRCLE」が展示されていた。
耐薬品性PP,難燃性PP,低比重・高強度高剛性PP(フィラーを入れても比重が上がりにくい工夫),低線膨張率PP(2.8×10-5/K アルミ並み)が展示されていた。
耐薬品性PPは電池モジュール内で使用されるエンジニアリングプラスチックの代替を狙っている。難燃性PPはリチウム電池のカバーを狙っている。低比重・高強度高剛性PPは車載コネクタ用途で非強化PBTの代替を狙っている。低線膨張率PPはアルミニウムと接合しても反らないので、接合して使用する用途を想定している。
短繊維、長繊維ともに50%まで可能であり、長繊維タイプはマスターバッチとして希釈して使われることが多い。展示物(写真42)は短繊維30%のポリプロピレンを用いた燃料フラップである。
難燃性がV-0の変性PPEのビーズ発泡体「サンフォース」が、リチウムイオン電池の難燃・耐熱・断熱ソリューションとして展示されていた(写真43)。
ガラス繊維織布とポリアミド樹脂による連続繊維強化複合材料「LENCEN」を用いたバッテリーカバーのコンセプト部品が展示されていた(写真44)。同じ衝撃エネルギーを吸収する際に鉄の約1/2の変形量で済むため、よりバッテリー内部の保護性能が高まっている。
セルロースナノファイバー(CNF)をシート化する工程を踏まずに直接プレス成形で賦形した。形状の自由度に優れる。CNFの微細な隙間を音が通過する際に減衰することで高い遮音効果が発揮され、かつ従来の遮音材よりも軽量・省スペース化が可能になる。写真45は小物入れとワインケースである。
エンプラ系材料として、CNFを添加したポリアセタール樹脂コンポジット(開発中)、炭素繊維強化ポリアミドUDテープ(開発品)、ポリアミド「レオナ」と変性PPE「ザイロン」の多層パイプ(開発品)が展示されていた。
環境対応技術として、機能樹脂製品のカーボンフットプリント算出システム、バイオマス由来のエタノールから基礎化学品を製造するプロセスが展示されていた。
本格的な自動運転化に向けてモバイルカメラ用途に積極的に取り組んでいる。写真46はポリアミド10T樹脂「Xecot」、ポリアリレート樹脂「Uポリマー」を用いたモバイルカメラ部品である。
機構部品用途として耐摩耗性を活かした「Xecot」の用途例の部品サンプルが展示されていた(写真47)。
自動車部品の環境対応として、塗装を不要にして高意匠化する技術がサンプルとともに展示されていた。写真48は無塗装ピアノブラック成形品と材着メタリック成形品のサンプルである。
環境対応材料として、バイオマスナフサを原料としてマスバランス法を適用した「バイオマスPP・PE」を紹介していた(写真49)。昨年のK2022では多くの化学会社が取り組んでいた手法である。
関連会社となったARRKの製品開発支援サービスの紹介として、折り畳み式電動自転車が展示されていた(写真50)。
冷却配管用多層チューブが展示されていた。要求水準に合わせて5つの水準の製品を用意しており、最上位から2番目のレベル4のい製品はポリアミド12(最外層)とポリプロピレン(再内層)から成り、接着層として三井化学のアドマーを使用している。最上級のレベル5は東レと接着層を含めた共同開発した製品で、ポリアミド12(再外層)とPPS(最内層)及び両者を接合する接着樹脂「トレリナ」から構成されている。写真51は紹介パネル(左)と多層チューブの試作品(右)である。
ポリカーボネート樹脂「マクロロン」の透明性とフィルム加飾技術(マクロロンフィルムを加飾フィルム用途がベース)を組み合わせた、光透過を利用したデザイン表現の活用例のサンプルを展示していた。写真52は東レの「ピカサス」も使われている電気自動車用フロントグリルのプロトタイプである。光を裏と端面から当てることでフロントの表情に変化を持たせ、外部とのコミュニケーションを行う。
写真53は自動車の室内天井に取り付ける照明のアッセンブリーである。電子回路とLEDが取り付けられたシートをインサートして透明樹脂と加飾フィルムが成形時に複合化される。写真の右側にあるのは導光機能を利用して端面を光らせるユニットである。
車室内を光で演出する方法として、薄い天然素材に透明樹脂(ポリカーボネートにガラス繊維を添加したもので、両者の屈折率が近いものを組み合わせている)を積層したもの(写真54)、光を通す黒(ピアノブラック)成形品(写真55)が展示されていた。
特設コーナーとしてホワイトボディー(自動車の製造工程において塗装をする直前の車体)が展示されていたが、金属製バッテリーカバーも展示されていた(写真56)。これが樹脂化のベースになる。
完成車の展示はほとんど見ていないのでその部分はわからないが、樹脂材料メーカーも部材・部品メーカーも電気自動車や燃料電池車などの将来の自動車や自動運転の動向を予想しながらのコンセプト展示が多かった。
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