展示会レポート オートモーティブワールド名古屋2020
秋元技術士事務所
秋元英郎
1.はじめに
オートモーティブワールドはリードエグジビション・ジャパンが主催し、東京と名古屋で開催される展示会であり、今回が名古屋開催の第3回目となる。10月21~23日にポートメッセ名古屋で開催され、併設の展示会(ネプコンジャパン、スマート工場EXPO、ロボデックス)を含めて3日間で約2万人の来場者があった。コロナ禍の中では比較的賑わっていた。
オートモーティブワールドはさらにクルマの軽量化技術展やカーエレクトロニクス技術展等のエリアに分かれているが、その境界はきっちりとは分けておらず、全体が一体である。本稿では、プラスチックに関するブースの視察報告を行う。樹脂材料、加工装置・加工法、表面処理、3Dプリンター、環境対応、加飾、IoTに分けて報告する。
2.樹脂材料
東洋紡株式会社
ブースの中央にはコンセプトカーを展示していた(図1)。コンセプトカーの詳細はこのリンクからアクセス可能である。コンセプトカーでの提案内容は、内装(フロア、ステアリング、センタークラスター、センターコンソール、ドアトリム、シート)、外装(外板、エンジンルーム、ドア、ランプ、足回り)、EVバッテリーと、広範囲に渡っていた。
発泡技術
発泡技術に関して、吸音材料と断熱材が展示されていた。吸音材料は連続気泡の高倍率発泡体を用いたものである。吸音材として展示されていたのはペルプレンのコアバック発泡体(5倍発泡)であり、気泡壁が破れて連続気泡化している。結晶化速度を速くした専用材を使うことで、気泡壁で結晶化が起こり、破泡をコントールしている。連続気泡の方が気泡径は大きくなっている(図2)。図3はペルプレンの肉厚発泡シートと吸音性のデモ装置である。
断熱材としての発泡体についてはパネルが掲示されていた。同じ重量でも、発泡倍率を高めて厚みを増すことで断熱性能が向上するデータを示していた(図4)。
抗菌・抗ウィルス技術
ブレスエアーはペルプレンの繊維を3次元に絡ませたクッション材であるが、抗菌剤を練り込んでいるため、抗菌性が発現する。ヴィアブロックはアクリル系の酸性微粒子であり、アニオン性官能基の働きで抗ウィルス効果を発現し、繊維に処理して用いることで自動車の内装部品等に抗ウィルス性を付与できる。
高剛性材料
マトリックスのPAあるいはPPにCFあるいはGFを雲母上に配置したプレス成形用シートが展示されていた。用途例として自動車(コンセプトカー)の天井、安全靴の先芯が展示されていた(図5)。
ユニチカ株式会社
ユニチカブースではエンプラ、スーパーエンプラが材料毎に並んでいたが、その中で外観に優れる材料のPRが目立っていた。
高外観材料
クレーナノコンポジットをベースにしたナイロンである「ナノコン」のメタリック色、ピアノブラック色が展示されていた。従来はメタリックが中心であったが、黒が追加された形である。フィラーとしてナノクレーを使用することにより細かく分散して表面の耐傷付き性が大幅に向上している。図6は「ナノコン」の、メタリックとピアノブラックそれぞれの傷付き性試験による光沢の変化を示したものである。
今回はUポリマーのコーナーでも無塗装ピアノブラックをアピールしていた。ポリアリレート(非晶性)に結晶性の特殊ポリエステルを配合したポリマーアロイであるFUNシリーズは透明性、耐熱性、耐久性に優れる。透明性を活かしてピアノブラックグレードを提案していた。実際にカワサキの二輪車に外装部品用途で採用されている(図7)。UポリマーTシリーズはリフロー耐熱性を持つ透明樹脂である。T-200はTgが265℃である。ランプ類・スイッチカバーも透明性と耐熱性を活かしたTシリーズの用途である(図8)。
高耐熱ポリアミド10T「Xecot(ゼコット)」
XecotのPEEKに匹敵する耐熱性(耐熱クリープ、高温引張特性)や電気特性を活かした用途のサンプルが多く展示されていた(図9)。
発泡
発泡用ナイロン「フォーミロン」に関しては、いつものサンプルではあるが、エンジンカバーが展示されていた。このエンジンカバーは化学発泡によって成形されたものである。
3.加工装置・加工法・加工品
東邦機械工業株式会社
同社はウレタンのCO2発泡装置、RTM用注型機をパネル展示していた。RTMに関しては、HPRTM用注型機とエラストマー注型機を持っている。
図10にウレタン発泡におけるCO2注入の効果を示した展示の様子を、図11に説明パネルを示す。図12には展示されていたミキシング装置を示す。
北川精機株式会社
CFRTP-UD積層板を使ったサイドインパクトバー、曲面ラミネーター等を展示していた。
図13はサイドインパクトバーとその説明パネルの写真である。
曲面ラミネーターは曲面のガラスに合わせて太陽電池等を貼る装置であり、プレス金型が不要で、ゴムシートを介して加圧する装置である。図14は曲面貼り合せサンプルと装置の説明パネルの写真である。
大和化学工業株式会社
同社はブロー成形、射出成形、真空成形を行う成形業者であり、別工程で成形した射出成形品や六角ナットをブロー成形時にインサートする技術を展示していた。図15は射出成形されたエルボーと六角ナットをインサートしたブロー成形品である。
株式会社三秀ファインツール
babyplastを使用して二色成形の実演を行っていた。成形品では超精密成形品(点滴用ジョイントや歯間ブラシ)、二色成形品が展示されていた。その他、塗装・印刷・レーザーマーキング等の二次加工製品も展示されていた。図16には超精密成形品の写真、図17には二色成形品の写真を示す。
テイボー株式会社
同社はもともとペン先のメーカーであり、技術の応用として多孔質成形・PBTブラシ・樹脂チューブの成形に力を入れている。図18には樹脂チューブとPBTブラシの展示サンプルの写真を示す。
MIM(金属粉末を用いた射出成形)も手掛けている。図19は説明パネルの写真である。
4.表面処理
日本プラズマトリート株式会社
同社は大気圧プラズマ発生装置のメーカーである。プラズマ処理の目的には、基材表面の汚染物質除去、基材表面への反応性官能基生成、基材表面への重合被膜の生成等が挙げられる。その中で、今回の展示の中では難接着の組合せの二材料を用いた二色成形への応用技術(InMould-Plasma二色成形)が展示されていた。
提案していたプロセスは、金型が3ゾーンに分かれて120度ずつ回転する構造で、硬質材(例えばPP)を射出→キャビティ内をプラズマで満たして硬質材にプラズマ処理→硬質材の上に軟質材(例えば熱可塑性エラストマー)を射出という流れである。図20にInMould-Plasmaを用いた二色成形品の写真を示す。
三菱ガス化学株式会社
化学研磨(酸による処理)技術として、アルミニウム、ステンレスの粗化技術およびアルミニウムの光沢化技術を展示していた(図21)。前者は5分以内、後者は約2分と処理時間が非常に短い。粗化した金属をインサートすることで樹脂と複合化が可能である。
5.3Dプリンター
ホッティーポリマー株式会社
同社は押出成形のメーカーであり、最近は3Dプリンター(FDM方式)のフィラメントの開発に力を入れている。
押出成形品
押出製品としては、エコスポンジトリム(中芯にアルミを採用したワンタッチEasy&Convenienceガスケット)、ノンタッキーシリコーントリム(改質技術により表面のべたつきを無くしたトリム材)、デュラビオの押出シート(エンボス付き)・ブロック(押出シートの積層品)、エンプラの超極細チューブ等を展示していた。
図22にはエンプラの超極細チューブとノンタッキートリムの写真を示した。図23にはデュラビオ製品の写真を示した。デュラビオは三菱ケミカルのポリカーボネート系素材であり、流動性に優れる、透明性に優れる、外観に優れる等の特長がある素材であり、射出成形では自動車の内装部品に採用されている。
3Dプリンター用フィラメント
FDM方式3Dプリンター用フィラメント「HPフィラメント」としては、非常に柔らかい材料(スーパーフレキシブルタイプ)、スーパーエンプラであるPEEKが展示されていた。図24には軟質造形品、図25にはPEEKの造形品の写真を示す。なお、同社ではPEEKの造形受託も行っている。
3Dプリンター
今回ドイツ製の2液シリコーン樹脂を造形するための3Dプリンターを展示し、造形の様子を動画で上映していた。複雑な形状の製品は部品ごとに造形したのちに、この3Dプリンターを用いて架橋接合することも可能である。図26右には造形品の写真を示したが、寿司の模型を入れた容器は底面2枚、側面6枚を造形したのちに架橋接合したものである。
株式会社ファソテック
Markforged社の連続炭素繊維を含んだ樹脂を造形できる3Dプリンター「MARK TWO」他、最終的に金属造形品が得られる3Dプリンター「METAL X」を展示していた。今回特に力を入れていたのは「METAL X」で銅の造形が可能になったことである。金属粉を練り込んだ樹脂のフィラメントを用いて造形し、樹脂分を除いてから焼結すると金属の造形品が得られる。図27に金属の造形品(造形後に焼結を済ませたサンプル)の写真を示す。
6.環境対応材料(植物由来、生分解性)
株式会社コバヤシ
植物由来の原料を用いたA-PET(アモルファスPET)のシート、でんぷんとPPの混合物(60/40)のトレー「レジームトレー」を展示していた。植物由来A-PETは原料の5~30%が植物由来である。図28に紹介パネルとサンプルの写真を示す。
堀正工業株式会社
生分解性を持つガラス長繊維とポリ乳酸のコンポジットとして「ArcBiox」を紹介していた。ガラス繊維が生分解性を持つとの説明であるが、ガラス繊維の詳細な組成はわからない。2018年の生物原料材料に関する技術大賞(Bio-based Material of the Year 2018)を受賞している。図29に成形品の写真を示す。
木質繊維とポリ乳酸のコンポジット「LATIGEA」の成形品も展示していた(図30)。植物繊維と植物由来樹脂のコンポジットであることから、「OK Biobased」の認証を受けている。
7.加飾
柿原工業株式会社
二色成形を利用した部分めっき、3価クロムを使用した「超シルバー」、レーザーを用いた工法(樹脂に絶縁コートを施し、レーザーで絶縁コートを除去してレーザーを照射した部分をめっきする工法)、プラチナサテンめっき、プラチナサテンチタニウムめっき、ダーク調3価クロムめっき等を展示していた。
図31に二色成形を利用した部分めっき品の写真を示す。手前に手で持っているのはめっき前の部品の側面であり、白く見える部分がめっきされる。図32は同社配布資料に記載のプロセス図である。
図33にはレーザーを用いた工法によるめっきサンプルの写真を示す。
図34にはダーク調3価クロムめっきの製品の写真を示す。
上原ネームプレート工業株式会社
同社はエンブレムメーカーであり、外装用フレキシブルエンブレム(ポリエステル系エラストマーを用い、貼るときに曲面に対応できる)、漆黒めっきエンブレムが展示されていた。図35にフレキシブルエンブレムの写真を示す。
山下電気株式会社
ウェルドレス成形技術であるY-HeaTを用い、透明PMMAを成形し、裏面に黒で塗装することで深みのある黒を実現していた。文字の部分はレーザーで塗料を除去して光が透過するようにしている。このような開口部がある透明製品は両面のウェルドラインを消す必要がある(裏面のウェルドも塗装では消えない)。図36に製品の写真を示す。
株式会社セイコーアドバンス
開発品としては、表鏡面インキ(熱硬化性でレベリング性に優れる)、ハーフミラーインキ(顔料と樹脂の最適化)が展示されていた。図37に説明パネルの写真を示す。
視覚的、触覚的に興味深い製品として、ラスターシリーズ(透明層の凹凸パターンによって意匠表現できる)、触感インキ「ソフトタッチ」(微細な粒子を入れて凹凸を持たせている)が展示されていた。図38にラスターシリーズと触感インキのサンプルの写真を示す。
十条ケミカル製造株式会社
絞り加工に対応できる導電性インキ(図39)、絞り加工可能な触感インキ(図40)等が展示されていた。
8.IoT
三菱商事テクノス株式会社
同社は株式会社日進製作所の金属加工工場向けのIoTシステムを展示していた。元々日進製作所が社内で使っていた技術を外販しており、採用数も増えている。将来的にプラスチック加工工場にも導入できるようになる可能性がある。古い装置、メーカーが異なる装置が混在している状況でも専用のインターフェイスをかませることでデータ収集して一括管理が可能になり、データ収集と日報作成の時間が短縮され、得られたデータを分析して不良対策に集中できるようになる。図41はシステムの概念図、図42はインターフェイスの写真とエッジサーバーの説明パネルである。
9.おわりに
展示会の目的は、出展者側から見ると新規リード(課題を抱えている人)の獲得、来訪者から見ると課題を解決するソリューション提供者との出会いである。最近はオンラインの展示会が増えているが、リアルに会って話をすればこそわかることも多い。その点で今回はリアルに参加できてそれぞれのブースでしっかりと会話ができた。