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アメリカ成形業界状況(2023.10) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功技術士事務所
佐藤功

1.業界動向

1-1 全般

7月のプラスチック加工産業指数は44.1と本年最低記録を更新した。アメリカ製造業(あるいはプラスチック業界)の景気は一般報道とは乖離している。産業構造中枢が情報、サービス部門にシフトしているためと解される。

不況が続く中で汎用樹脂価格は若干の値上りがあった。これは材料メーカーの強力な価格政策の結果であり、需要回復の兆しとはとらえることが出来ない。現にPP、ABS、エンプラは低迷が続いている。

このようななかで編集長は成形業の活性化策として、以前の提案(アメリカ成形業界状況(2023.06) ―雑誌から垣間見る―)に加え、以下の項目を追加している。

①持続可能性計画の深化:特に廃材の自社リサイクルの実行
② 複合材料製品の単一構成化
③ スペースを取らない自動化。
④ インダストリー4.0を推進のためにセキュリティ強化。

1-2 個別の動き

・包装材メーカーTC Transcontinentalがアメリカ国内生産を発表。
・AMB Spa,(イタリア)が廃棄PET食品トレーからフィルムを生産する。
・NesteがボトルにバイオベースPETを使用開始した。
・Braskemと SCG Chemicalsが合弁でエタノールからPEを生産する。
・Loliwareが海藻からプラスチックを生産する。
・AIM I(射出成形協会)が金型保全訓練コースを開設した。
・DuPontがPOM事業の80%をファンドに売却した。
・サントリー信濃の森工場がSidelのGebo AQFlex搬送システムを採用した。
・Exxonが冬季輸送問題対策としてHDPE射出成形グレードをテキサスでも生産する。

2.優秀成形工場

射出成形モルダー対象に優れた工場の特徴を探り出すためのアンケートを行い、優れた工場の姿を描き出そうとするのが「トップショップ」企画だ。今年は7回目で、オーストラリアなど海外工場を含む17工場が選ばれた。

今年の特徴は売上高、稼働率、収率などの経営指標に顕著な傾向が読めなかったことだ。しいて言えば、材料原単位(材料ロスが一般で5%に対し、優秀工場は1.6%)しか現れなかった。にもかかわらず粗利に10倍くらいの差がある。粗利が大きいということは工賃が高いか、コストが低いということだ。

優秀工場の個別インタビューによると顧客との信頼関係が適正な取引条件につながっているとしている。信頼はユニークな付加サービス、情報公開、取引の継続などによって得られる。

コストダウンはサイクルアップ、材料価格低減、材料ロス削減、作業合理化などで他工場以上に努力していることがうかがわれる。経営指標に表れない優秀工場の特徴として、下項が指摘されている。

・成形機サイズは100t程度が多い。大型機は利益率が小さい
・機械更新頻度が高いわけではないが、電動機、ハイブリッド機比率が高い。
・金型補修を内製化している工場が多い。
・従業員の教育に熱心で従業員との信頼関係が強い
・付加サービスでは試作協力、在庫低減協力の割合が高い。

3.技術解説

3-1 PAの水分許容量

成形原料の水分は成形中に加水分解反応を起こす。高温にさらさ時間が短ければ性能劣化は少ない。条件によっては高温で分子量が増加する反応もあり、メーカー推奨水分率の遵守が唯一絶対の劣化対策と言うわけではない。成形品分子量は水分、温度、滞留時間の複雑な相互作用の結果だ。

3-2 単軸押出機と2軸押出機の混練の違い

2軸押出機では材料がスクリュー間を移行する時に広範な混合が起きる。単軸押出機では混合範囲が溝内の限られた部分でしか混合しない。

また、2軸ではスクリュー間通過時にすべての材料が高いせん断を受ける。単軸ではシリンダ近傍では比較的高いせん断力が加わるが、溝底では小さく、材料が受けるせん断力にバラツキがある。単軸スクリューでミキシングゾーンを設けることがあるが、この差異を埋めることは出来ない。

3-3スリープレート金型の設計法

型開き時にストリッパープレートを動かし、ゲートを切る。これは固定側型板とストリッパーの間にバネを入れるなどして、型開き初期に両板間が離して行う。ゲート切りは長いストロークは要らないが十分な力が必要である。ただし、型閉時操作に支障があってはならない。

3-4 ペレタイザーの酸腐食対策

ペレタイズ時の冷却水はアルカリないしは中性なので、水中カットダイの腐食問題はなかった。しかし、バイオポリマーの普及と添加剤の高度化で、材料の酸性成分が冷却水に溶出し、酸腐食が起きる例が出てきた。WCコーティングでは耐摩耗性を向上させるが酸腐食は防げない。ダイス自体を耐酸性の優れたインコネルにし、WCコーティングをするとダイス寿命を飛躍的に伸ばすことが出来る。

3-5 PHA、PLAブレンド品のブロー成形

生物由来プラスチックのPHAは生分解性があり、ブロー容器の需要も大きい。しかし、単一材料では成形が難しいのでPLAを混合する。成形中の加水分解を防ぐため原料水分率を400ppm以下にする必要がある。このためには乾燥剤乾燥機で80℃、4時間程度乾燥すればよい。成形機の他材料をパージした後、シリンダ温度160℃程度で可塑化する。せん断速度が大きいと劣化するのでスクリュー回転数は高くならないようにする。5分以上成形停止する場合はLDPEに置換し滞留劣化を防ぐ。型温度は40~60℃にし、結晶化を促す。出来上がった製品が柔らかい場合はアニールして後結晶化を進める。

4.ケースタディ

・混錬業者の環境対策
合繊向け混錬業者のTechmer PMは環境経営を徹底し、廃棄物ゼロを達成した。その結果省エネ、節水も実現し、各種認証を獲得した。

5.あとがき

トップショップ調査は「Plastics Technology」誌の呼びかけで集められえたアンケートが基礎データになっている。したがって対象工場は経営状態に自信のある工場(≒優秀工場)にかたよっていることが推察できる。そのためだと思われるが今年は有意差のある要素が見つからなかった。差異の顕著だった「粗利」は結果であり、その要因に興味がある。それを優秀工場とのインタビューで探っており、一部が紹介されている。

トップショップ調査自体に「アメリカらしさ」を感じる。アメリカは日本と違い成形業の系列色が弱く独立性が高い。このような「お墨付き」は自己アピールのための経営ツールになる。

新製品ニュースの中でFakuma2023(南ドイツ)の出展予告のアナウンスが何点かあった。興味のある方はURL(https://www.ptonline.com/articles/issues/digital/)にアクセスいただきたい。

添付1 優良工場の経営指標

PDFファイルが開きます。優良工場の経営指標

添付2 優秀工場一覧(2023)

All-Plastics – Kerrville, Texas
Ant Packaging – Bangalow, New South Wales, Australia
Core Technology Molding Corp. – Greensboro, N.C.
Empire Precision Plastics – Rochester, New York
Form Plastik – Manisa, Turkey
J&O Plastics Inc. – Rittman, Ohio
Medical Components of America – Seguin, Texas
Microdyne Plastics – Colton, Calif.
Perfect Fit Injection Moulding – Calgary, Alberta, Canada
Pioneer Plastics Inc. – Marinette, Wisconsin
Plastic Design International – Middletown, Connecticut
PlastiCert Inc. – Lewiston, Minnesota
Plastikos Medical – Erie, Pennyslvania
Plastikos Inc. – Erie, Pennyslvania
Saginaw Bay Plastics – Kawkawlin, Michigan
TSR Molds Inc. – Melbourne, Florida.
Unicar Plastics S.A. de C.V. – Puebla, Mexico

 

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