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回転成形 その1 基礎編

ロト・コンサルタント ジャパン,金沢大学

五十嵐 敏郎

yt-igara@canvas.ne.jp

1.回転成形の歴史

成形原理は有史以前にさかのぼる。陶土をろくろなどで形を整え、様々な文様を付けたあと焼成して大型の壷や甕を作り、水や食料を貯蔵した。金型を用いる成形法も、1780年代のドイツ・ドレスデンでの陶器製造までさかのぼる。

1970~1980年代に大型のタンクなどの成形法として注目されたが、大量生産に不向きなことやタンク・容器以外の用途開発が進まなかったことから、日本では注目度が下がって忘れられた成形法になっていた。海外では、今世紀になってから成形用原料、成形機、金型、成形技術などで多くの新技術が開発され、タンク・容器以外にもデザインの自由度が高いことを活かして家具、レジャー用品、種々の工業製品などに使用されるようになり、改めて注目されはじめた。

ニーズが多様化する社会では、大量生産に向かないという弱点が、多品種小ロット生産に適すという理由で長所に生まれ変わる可能性が出てきた。

2.成形原理

回転成形は図1に示す4工程からなる。最初に金型内に粉体や液体原料を投入し、二軸回転しながら金型を加熱し原料を金型内面に付着・溶融させる。二軸回転を続けながら冷却し、固化した成形体を金型から取り出す。この操作を繰り返す。成形原理は単純で、金型の使用有無は別として太古から行われてきた陶磁器の製法と類似である。

図 1 回転成形の成形過程

3.特徴

プラスチック成形は実に多彩であるが、どの成形法も長所と同時に短所を有す。回転成形の長所と短所を表1に示す。きめ細かな生産対応が可能で多品種・小ロット製品の成形に適すことや多彩なデザイン製品の成形に適すことなどが主な長所であり、利用可能な原料に制約があることや成形サイクルが長く成形時のエネルギー効率が低いことなどが主な短所である。

4.用途と製品例

最初は玩具や人形が作られ,常温粉砕法の開発で安価にPE粉末が入手可能になると大型のタンクや容器が主流になった。図2に示すように用途の多様化が進んだヨーロッパでは,デザインの自由度が高いことを生かして一流のデザイナーがデザインする家具や,大型の中空体が容易に成形可能なことを生かして電気自動車や電動自転車の車体が作られている2)

図2 ヨーロッパの回転成形市場 2)

今後の製品開発には2つの方向が予想される。21世紀は水の世紀と呼ばれるように,清潔な水へのアクセスが困難な人の数が増加すると予想されている。大型の水タンクの需要は,インド・中東・アフリカ・中国・オーストラリアなど深刻な水不足が予想される地域で今後ますます高まる。もう一つは,ヨーロッパで起こったデザイン製品の開発・上市である。欧米だけでなく,インド・中国・韓国・中南米などのデザイン系大学で回転成形技術を基礎から教育する例が増えており,今後それらの大学を卒業した多くのデザイナー達が回転成形を取り上げると予想される。

表2に回転成形に使用される原料レジンの地域別使用量を示す。アジア、中東・アフリカ、中南米、東欧・ロシアなどで伸び率が高い。日本は、一人当たりの使用量、プラスチック産業に占める比率でも世界平均に比べ低く、伸び率でも,唯一マイナスである。原因は種々考えられるが、大量生産指向が強いことも一つである。

5.回転成形の今後

回転成形は,「多品種小ロット製品の成形に適す」「複雑な曲面を有するデザイン製品の成形に適す」「金型や成形機が比較的低価格」という特長を有す。地域固有のニーズや地域特有の伝統工芸技術や文化遺産などをベースに,製品企画力とデザイン力があれば比較的小さな資本で起業が可能であり、地産地消のプラスチック成形に適した成形法である。

地産地消のプラスチック成形が必要とされるかについては、二つの理由があげられる。

第一の理由は資源,特に液状の化石燃料資源である石油の制約問題である。20世紀は1908年のT型フォードの生産開始や1913年の部品製造での流れ作業の採用など,同一規格品を大量生産し,大量輸送し,大量消費し、大量廃棄する世紀であった。21世紀も同じことが続くのかという問いに対する答えは否であろう。安価な石油の確保が困難になることや地球環境への負荷が大きくなりすぎることがその理由である。

図3に人類の歴史とエネルギー消費量の関係を示す。石油資源の制約問題が起こると大量輸送に必要な安価な石油の確保が困難になり,製造物の輸送が制限される。では21世紀に必要とされるプラスチック成形とは何であろうか。一つの答えは,真に必要な物を,必要な時期に,必要とされる場所で,必要な個数だけ成形するシステム,すなわち地産地消のプラスチック成形である。

図3 人類の歴史とエネルギー消費量の推移

第二の理由は,地域のニーズや伝統工芸・文化遺産に基づくプラスチック成形が重要になることである。例えばアフリカ固有のニーズに基づくプラスチック成形の例として,図4に示すLife board 3図5 に示すHippo Water Roller 4がある。いずれもアフリカにとって最大の課題である子供の教育環境を支援する製品であり,アフリカで回転成形されている。

図4 アフリカの学童用多目的ボード(Lifeboard)3)

図5 水の運搬による重労働と時間ロスからの解放 4)

(Hippo Water Roller)

参考文献

 1)五十嵐敏郎:回転成形 -古くて新しい成形技術、第1章 回転成形の基礎,(株)プラスチックス・エージ(2008)

2)Boersch,E.,:World Markets in Rotational Moulding,Rotation,12(4),38(2003)

3)Moldan,N.,:ECM Lifeboard meets the Needs of Rural African School Children,RotoWorld,4 (5),28 (2013)

4)Moldan,N.,: Imvubus’s Hippo Water Roller,RotoWorld,6 (1),28 (2010)

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