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アメリカ成形業界状況(2025.02) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功技術士事務所
佐藤功

混錬スクリュー、リサイクル、リユース、金属代替

1. 業界動向

1-1 全般

環境対応が実行段階に移行している。今月号は「高品質」リサイクル材の不足が取り上げられている。ムシの良い要求だが地道な努力重ねて対応していくしかない。景気回復の動きは遅いが、原料メーカーが強力な減産を進めているようで、価格回復が見えてきた。

1-2 個別動向

・PETボトルリサイクル率
2023年PETボトルの回収率は33%で、対前年4%増加した。リユースは 16.2%で、対前年3%増加した。
・リサイクル材料によるヨーグルト容器
Ineos StyrolutionのrPS製ヨーグルト容器が欧州食品安全機関(EFSA)に認定された。
・射出成形機メーカー再編
新潟成形機米国内事業が3月から海天に移管される。
・PLA工場
アラブのEmirates BiotechがSulzerの技術で年産8万トンのPLA工場を建設する。
・PETボトル成形機
成形ラインメーカーSACMIとレベリング装置メーカーのOmniaが合併した。
・Engelの東欧事業
ポーランドでの事業を拡充した。
・着色剤メーカー再編
Chroma Color Corp.がSpectra Color Inc.を買収した。

2. 技術解説

2-1 固体密度、溶融密度

キャビティサイズやCAEの結果は体積表示なので重量データが必要な材料見積もり、成形機選定には密度換算が必要だ。成形機可塑化能力はPS重量で表示されているので、他材料を使う場合は使用材料重量に換算する必要がある。溶融密度は温度、圧力で変化する。この挙動はPVT線図で知ることが出来る。固体密度の0.7~0.8程度が溶融密度とみなすこともあるが正確ではない。

2-2 混練用単軸スクリューの最適化

2軸押出機で混錬し単軸押出機で造粒することがある。2軸混練の吐出量は変動するため、フィーダーで投入量を安定させ、単軸押出機は飢餓状態で運転する。スクリュー溝が深すぎると圧力があがらず、浅すぎると発熱による品質低下が起きる。

2-3 PETプリフォームの加熱法

プリフォーム加熱に近赤外線(NIR)が使用されるようになった。従来使われていた赤外線(IR)よりプリフォーム内部まで浸透するため、均一加熱が出来、熱効率が高い。rPET、着色材料、異形ボトルなどへの適応性も高い。ただし、初期投資が大きいので、完全に置き代わるまでには至っていない。将来はさらに効率の良いマイクロ波加熱になることが予測されている。

2-4 PC/ABSとPC/PBTの比較

いずれもバランスの取れた材料だが細かく見るとそれぞれ特徴がある。PBTとPCのTgの影響を受け、PC/ABSの方がより高温でも使える場合がある。GF補強するとPBTの融点近くまで使用温度範囲が上がりPC/PBTが有利になる。耐衝撃性はPC/ABSが優れており、PC/PBTは耐摩耗性がすぐれている。耐有機薬品性はPC/PBTが優れている。耐環境性ではABSのB成分が黄変しやすい。PBTか吸水性があり寸法変化する。PC, PBT共に加水分解しやすいのでどちらも温水環境には適していない。PC/ABSは成形品のソリ発生が少ない。PC/PBTは収縮が大きく原料乾燥が必須だ。以上に記したようにPC/ABSは高い耐衝撃性を成形加工性の優れた材料で、PC/PBTは耐薬・環境を志向した材料だ。

2-5 高品質リサイクル材料

生活用品の包材用にリサイクル材使用の要請が高いが、対応できていない。量の確保、品質、コストと課題は多いためだ。技術的には樹種選別と汚染除去レベルの向上が求められる。良質な廃棄物量的確保を実現するためにはシステム作りが重要だ。すでに業種を超えた動きがいくつかある。消費者教育、トレーサビリティの確保も重要だ。法制面ではFDAが合法性を示すLNO制度を拡充して支援している。

2-6 食品、保険用品向け製品へのリサイクル材の活用

PP製の調理器から高濃度の臭素が検出され問題になった。リサイクル材の中に含まれていた電子部品由来だと思われる。FDAはこのようなリサイクルは許可しておらず、リサイクル業者もこのような混入はあり得ないと言っている。健康、衛生に係わる製品のリサイクルではFDAのガイドラインを遵守すること、リサイクル材のトレーサビリティ確保が重要だ。

3.ケースステディ

3-1 インフレフィルムへの再生材の使用

先月報告したがReifenhäuser がインラインでリサイクル材が使用できるインフレフィルムラインEVO Fusionを米大陸で初めてメキシコのBioflexに納入した。今回そのラインが公開された。2軸押出機で可塑化しており、数種の材料を様々な割合で混錬できる。リサイクル材はロット間ばらつきが大きいので安定化させるため数ロットを併用することが必須なためだ。また異物除去機能、バブル安定機能が高度化されている。Bioflexは社内で発生する廃材を使用して製膜している。

3-2 エラストマー異形押出メーカー

Kent Elastomer Productsはゴムラテックス成形から1988年にTPEの異形押出に進出した。独自の技術で成長し押出成形が売り上げの半分を占める。顧客は医療機器、食品設備メーカーで、クリーンルームを備えFDA認定、ISO13485を取得している。工場は週5日の連続操業を行っている。専用ラインと汎用ラインがある。ダイス、サイジングダイは自社製だ。重量式計量ホッパーによる原料混合など原料系統の自動化、連続厚み測定による品質管理等を推進している。顧客との関係を重視し、共同開発、試作を積極的に取り組んでいる。

最近の成功例は薬品搬送ラインのSUSからTPEチューブへの代替がある。SUS管は壁への付着を防ぐため定期的にSiコーティングが施されていたが、付着しにくい材料の選定し、コーティングの必要がなくなった。交換も容易になり、顧客のコストダウンに貢献できた。製品はほとんどが直接納入だ。工場では整理整頓清掃に特に力を入れており、カイゼン運動、カンバン方式で無駄の排除に努めている。

3-3 パレットの環境対応

チリの産業廃棄物処理業者Comberplastは再生材の製品開発に注力している。射出成形によってパレットの開発に成功した。

4.あとがき

Trump 2時代が始まった。プラスチックは生活に密着している上、サプライチェーンが長く国際分業が進んでいるので、心配は尽きない。

再生材料需要が大きい。比較的よく管理されている産業廃棄物の取り合いが始まっている。かつて起きた再生紙表示違反のような事件が起きかねない状況だ。アメリカのPETボトル回収率は低い。一方、環境負荷がさらに低いリユースは日本ではほとんど行われていない。いろんなアプローチがあって良い。

昨秋の編集長交代の影響か紙面が少し変わったような気がする。国際関係、環境関係記事が増えた。新鮮な見方を期待している。

 

 

1月号はこちら

plastics-japan

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