ロト・コンサルタント ジャパン,金沢大学
五十嵐 敏郎
元々回転成形はロクロを回して甕や壷を作っていた太古の時代から、デザインと密接に結びついていた。したがって、デザイン運動がいつから始まったのかはっきりしないが、現在行われている回転成形技術でのデザイン運動は、1978年のPlastics Design Forum の発表がきっかけと思われる。回転成形のデザイン運動を推進してきたG.L.Beallの努力によって、回転成形がデザインの多様性に適した成形法であることを知るデザイナーの数が少しずつ増えてきた。回転成形協会(ARM:Association of Rotational Molders)では1993年に“The Introductory Guide to Designing Rotationally Molded Plastic Parts”と題するガイドブックを発行し、デザイナー達にPRした。
やや単発的なデザイン運動から組織的なデザイン運動へと転換するのは1999年以降である。ARMでは、2000年以降全米工業デザイナー協会(IDSA:Industrial Designers Society of America)の開催する展示会に参加し、2002年にはカナダのトロントで開かれたRotoplasTMでデザインワークショップを開催した。
学生や若手デザイナー達を対象とするデザインコンペは、オーストララシア回転成形協会(ARMA:Association of Rotational Molders Australasia)が1999年にはじめたのが最初であり、2002年にはARMや南部アフリカ回転成形協会(ARMSA:Association of Rotational Molders Southern Africa)でもデザインコンペを開始した。
SPEでは、回転成形ディビジョンが発足する前年の1999年にオハイオ州クリーブランドで行われたRETEC “Innovationa in the Year 2000 and Beyond”で、 “Design and Simulation” セッションを実施し、2004年にはPD 3(Product Design and Development Division)との共催でデザインTOP CONを実施した。引き続き、2005年のTOP CONでもデザインセッションを実施するなど、デザイン活動を活発に行った。
ここでは、2003年にAISRが開始したデザイン運動を例に取り、デザインが今後の製品開発の重要な要素になりうることを述べる。この運動は、回転成形に関心のない人たちを含めより多くのデザイナーや学生達に回転成形に対する関心を引き起こすことを主要な目的とし、長期的なプロジェクトで進めている活動であり、質的な転換を達成している。
AISRの運動を取り上げたのは、以下の理由による。
1)回転成形を知らないデザイナー達にアプローチするという確固たる戦略を立て、短時間の間に成果を挙げた。
2)イタリアは文化と経済が両立し、中小企業がそれぞれ特徴を持って元気良く事業を行っている。
3)フィレンツェ近郊のプラート市(ミラノファッションをリードする高級布地の生産地で、デザイナーと経営者が開発メンバーを勤めるインパナトーレという企画開発会社を中心に、市全体が有機的に連携している)に見られるように、デザインを中心とした製品作りが盛んである。
4)毎年4月に世界最大の家具展であるミラノサローネが開催されるなど、世界のデザインの一大拠点である。
5)自主自立、連携、高付加価値に代表されるイタリアモデルを作り上げ、他人と違うモノ作りを実行している。
AISRのデザイン運動は、ミラノに事務所を構えるデザイナーのR.GiovanettiとAISRの副会長(初代の会長)O. Accorneroの二人が推進する形で2003年後半に始まった。2004年3月の第3回全ヨーロッパ回転成形会議でAccorneroが発表したデザイン運動の目的は次の11項目である6)。
1)未来のデザイナー達(デザインコースの学生達)に回転成形の知識を広める
2)斬新なアイデアを発掘し、新規な市場分野へ展開する
3)著名なデザイナー達に、回転成形の長所を知ってもらう。
4)回転成形とデザインについて、新しいグローバルな文化を作り上げる
5)回転成形が多様性と柔軟性に富む成形法であることを示す
6)低価格で優れた外観を持つ製品を開発する
7)光を利用した回転成形製品を開発する
8)回転成形を戦略的なキーテクノロジーとして確立する
9)主要なデザイン雑誌に回転成形の高いデザイン適応性を紹介する
10)回転成形の知識を、デザイナーを通して製造業者に、また、メディアを通して消費者に広める
11)「回転成形」を最新のクールでかっこいい言葉にする
短期間のうちに大きな成果を上げた7),8)。表3に2003年末の計画と2006年初めまでの実績を示す。
表3 AISRのデザイン運動-計画と実績
なかでも、2006年から始まったISAD(Istituto Superiore di Architettura e Design:the Higher Institute for Design and Architecture)でのFull Degree Courseの開設は、回転成形を基礎からしっかり教えることで、プラスチックスの特性を理解し、回転成形の特徴を理解したデザイナーを数多く社会に送り出す点で有意義な活動である。
2004年は家具などの室内品をテーマにデザインコンペを行い、2005年はストリートファーニチャーをテーマにデザインコンペを行った。最優秀作品は子供達が丸太に乗って遊んでいることからヒントを得て(図6)、積み重ねられた丸太(図7)をイメージして図8に示す公園用ベンチをデザインした。2006年はいろいろな乗り物をテーマにデザインコンペを行い、カタツムリをイメージした乗り物のデザインがグランプリを獲得した。
図6 丸太に乗って遊ぶ子供達
図7 積み重ねられた丸太
図8 2005年のデザインコンペ最優秀作品:公園ベンチ
デザイン運動の成果を広める目的で、第4回全ヨーロッパ回転成形会議でデザイン展示会を行った9)。会場の設計・設営はR.Giovanettiが行い、回転成形で用いられるスパイダー上に用途別にすでに上市されているデザイン商品を展示していた。図9と図10に展示品の一例を示す。
図9 吉岡徳人のTokio Pop シリーズ
図10 水上用遊具
(小型カヤック、ライフボード)
5) 五十嵐敏郎:回転成形 -古くて新しい成形技術、第7章 デザイン運動,(株)プラスチックス・エージ(2008)
6) Accornero.O., 3rd Pan-European Rotomoulding Conference,Panel Discussion (2004)
7) Giovanetti.R.,:Design and Rotomoulding A Successful Case,RotoWorld,1(4),28(2005)
8) Giovanetti.R.,:Teaching Rotational Design,RotoWorld,2(1),26 (2006)
9) Giovanetti.R.,:Rotational Design New Frontiers for the Modern Rotomolding,RotoWorld,2(4),26 (2006)
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