秋元技術士事務所 秋元英郎
オープンイノベーションという言葉は2003年にヘンリー・チェスブロウ1)によって生み出され、最近ようやく耳にする頻度が高くなってきた。しかしながら、その意味するところは使う人によって多少異なっている。
オープンイノベーションとは技術革新(イノベーション)を「社外」のリソースを活用して行うことである。もちろん、「企業」の枠を完全に超えてネットワークを形成し、技術的知見を持ち寄って開発を行う場合もあり、クリス・アンダーソンの「MAKERS」2)で紹介されているオープンイノベーションはそのタイプである。
企業活動において新製品開発は利益率を高め、持続的に利益を生むために極めて有効である。そのため、各企業体において、多くの経営資源を投入している。オープンイノベーションは企業活動における研究開発や事業開発において、「社外」の知見を活用して独創的で魅力度が高い製品を短期間かつ低コストで仕上げる手法として有効である。日本には「他人のフンドシ」という言葉があり、自前主義が強かったが、最近では多くの企業でオープンイノベーションを積極的に活用している。
オープンイノベーションは外部から新しいアイディアや解決用法を得る手法であり、さまざまな形態が存在する。
研究会やコンソーシアムは企業の枠を超えて集まったメンバーによりアイディアを出し合い、共同で技術革新を行う方法である。これらもオープンイノベーションのひとつのタイプと考えられる。この場合は、契約によって成果を共有することになる。
アイディアコンテストは新規開発テーマのアイディアを募集するものである。優秀なアイディアには賞金が渡され、実際の開発行為は原則的に募集元で行われるが、共同研究や委託研究の形態も存在する3)。
技術スカウティングは研究開発を進めていく過程で必要な技術を外部から獲得する方法である。RFP(Request For Proposal)を示して、提案を待つ方法が多い。技術獲得の場はサプライチェーンを通して探す方法、公的機関等のマッチングイベントに参加する方法、自社のホームページ等で募集する方法、仲介業者を活用する方法等がある。探索対象とする技術には基礎研究レベルのものから即活用可能なレベルのものまである。
技術ライセンシングは研究開発の過程で得られた新規技術の内、自社で活用する機会が無いものを外部にライセンスすることで、対価を得るとともに研究担当者のモチベーションを維持するために行われる方法である。
多少違和感のある表現ではあるが、はオープンイノベーションには「開放的」なオープンイノベーションと「閉鎖的」なオープンイノベーションが存在する。すなわち、開かれた外部から技術的な情報を取り入れる場合と、限られた外部組織から取り入れる場合が存在する。
図1にオープンイノベーションのタイプ別マトリックスを示した。横軸はどの程度外部に開かれているかを示している。
クローズドは、オープンイノベーションの形はとっているが、自社内で行われる。オープンは、対象となる集合に制限が無いことを表し、広い国や業種を対象とする。縦軸は自前主義か、アウトソーシングしているかを示している。自前とは、自社内で全て管理するやり方であり、アウトソーシングは外部のリソースに業務委託する方法である。外部の機関を活用する方が対象は広くなることは容易に理解できるであろう。
オープンイノベーションによって獲得する情報は、新製品開発のためのアイディア、技術開発における技術課題を解決する方法(分析方法も含む)、不要技術のライセンス先、新技術・素材の用途に関するアイディア等が含まれる。
新製品開発の段階をステージゲート法4)に基づいて分類すると、アイディア創出(ステージ0)、初期調査(ステージI)、ビジネスプランの策定(ステージII)、開発(ステージIII)、テストと検証(ステージIV)、本格市場投入(ステージV)の段階に分かれる。
図2にはオープンイノベーションのパラダイムを示した。ステージゲートでテーマの継続の可否が判断されテーマ数が絞られてくる。
ステージ0におけるアイディア創出においては、社内のアイディア公募を活用して関連部署以外からもアイディアを募集することができる(極めて閉鎖的なオープンイノベーション)。特に巨大企業においては、社内に存在する技術・知見にたどり着くことが困難になっている場合もあるので、思わぬアイディアや専門家を発見できる可能性がある。それと同時に社外から賞金付きでアイディアを募集する方法も有効である。
ステージIからIIではビジネスプランの策定に当たり、自社で保有していない技術について自社開発するか外部から獲得するかを判断する必要がある。経営資源を有効活用し、開発期間を短縮するためには、外部からの獲得を積極的に検討すべきである。
ステージIIIの開発以降では、顧客の要求に合わせて設計変更が必要になる場合がある。そのような場合に、補うべき技術を外部から獲得することで開発スケジュールを遅らせないようにすることも可能である。
研究開発の各ステージにおいて、数多くの研究開発テーマが中止になる。これら中止になったテーマの中には有用な技術的な知見や知的財産が含まれる。このような資産はそれぞれのステージで、外部にライセンスすることが可能になる。
ステージIIIからIVにおいては、新製品が市場にとって魅力的かどうかの検証が必要である。その際に外部のコミュニティの意見を集め、評価パートナーを探すことが重要になる。
オープンイノベーションにおいて技術的知見・アイディアを提供してくれる人(パートナー)とは、企業の技術者・研究者、大学や公的研究機関の研究者、町の発明家等である。
パートナーは意外と近くにいるかも知れないし、国内のどこかに居るかも知れない。あるいは、世界中のどこかなのかも知れない。同じ業界かも知れないし、全く違った業界にいるかも知れない。重要なことは、探すべきは「ベスト」なパートナーである。探す対象の母数が大きければ大きいほどベストパートナーに出会えるチャンスは高くなる。
外部のパートナーを探す方法としては、既存のサプライチェーンを活用して情報を探す方法(納入業者のつて、商社のつて、顧客のつて)、展示会(出展および視察)、学会への参加、ホームページやフェイスブックページによるニーズ情報の発信、自治体や公的機関によるマッチングイベントへの参加およびオープンイノベーション支援業者の活用が挙げられる。
最適なコストで母数を大きくするには、複数の手法を組み合わせるべきである。その中で、支援業者は圧倒的な情報を持っているので、各社の特長を理解したうえで積極的に活用すべきである。支援業者を活用すると当然費用が発生するが、専門家を活用することで結局安くて、早くて、うまくいくことが多い。
オープンイノベーションの活用にあたって考慮すべき点がいくつかある。
オープンイノベーションの支援業者には色々なタイプがあるが、代表的な支援業者を紹介する。実際には紹介しきれない程の数が存在する。
1)ヘンリー・チェスブロウ:ウィム・バンハバーベク:ジョエル・ウェスト,“オープンイノベーション(日本語訳)”,英治出版,(2008)
2)クリス・アンダーソン,“MAKERS 21世紀の産業革命が始まる(日本語訳)”,NHK出版,(2012)
3) 例えば旭硝子のリサーチコラボレーション制度
(http://www.agc.com/collaboration/index.html)
4) ロバート・G・クーパー,“ステージゲート法(日本語訳)”,英治出版,(2012)
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