新製品が売れるかどうかを知る方法~マーケッティングにおけるオープンイノベーション

秋元技術士事務所 秋元英郎

1.新製品開発におけるマーケットテスト(仮説検証)の必要性

本稿では新製品の評価段階において、新製品が売れるかどうかを知るための外部コミュニティを活用した仮説検証について述べる。

新製品開発における開発段階およびテストと検証段階は、量産体制を構築するかどうか、市場投入するかどうかを判断するために極めて重要なステップである。また、これまでのステージで絞り込まれたテーマ数は、これ以降ではあまり絞らず、市場投入まで進むことになる。

とはいえ、開発段階以降は経営資源の投入も莫大になるので、投資に見合う成果を導いていかなければならない。ところが多くの企業において、市場の要求を十分に把握しないまま開発を進めている。製品の魅力度が確かなものかを確認しないまま市場投入したり、国内の特殊事情から生まれた製品を海外でのマーケットテストを経ることなく海外市場に投入して、計画通りの結果が得られない例は数多く存在する。

新製品が市場に受け入れられるには、製品に魅力があり市場のニーズを満たす必要がある。製品魅力度は社内評価や限定顧客の声で確認していることが多いが、これでは不十分である。ユニークな特性があるが何に使えるか判らない、販売実績はあるが購入理由が不明であるということも多い。

 2.製品の魅力度とは何か

製品の魅力度とは、「物性」ではなく、「性能」でもなく、「顧客における利点」である。魅力度はいくつかの要素に分けることができる。既存品・競合品と比較して、総合的に利点の方が犠牲よりも大きければ魅力度が高いと判断できる。

魅力度を構成する要素には図1に示すような、①性能、②法規制への対応、③コスト、④供給とサービス、⑤無形の資産が挙げられる。

図1.魅力度の要素

2-1:製品性能の組合せ

製品性能(複数の性能の組合せやバランスで論じられることが多い)は市場の要求を満たす必要があるが、市場に何らかの「変更」を行う外部圧力が存在し、開発品の性能がその「変更」の方向に合致し、犠牲になる点が少なければ魅力があると判断できる。むやみに物性を高めることは無駄であることは言うまでもない。

ここで、市場からの圧力とは例えば、使用温度域の拡大、ノンハロゲン化、軽量化、安全性向上、温暖化ガスの排出削減、リサイクル性向上等が挙げられる。

 2-2:法的規制

市場に法的な規制が導入される時には、法規制に適合することが魅力になる。

 2-3:コスト

 ここで言うコストとは、単にkg当たりの単価だけではなく、配合割合や物流費、加工費等も考慮したコストである。

 2-4:供給とサービス

 緊急オーダーに対応できる体制やジャストインタイムへの対応は魅力のひとつである。また、技術サポートの充実度も大きく差別化できる魅力度である。

 2-5:無形資産

 形に現れないが、顧客に安心感をあたえることも差別化につながる魅力度である。歴史がある企業の製品を使うことの安心感は非常にじゅうようである。「インテル入ってる」はその代表的な例である。

 2-6:よくある間違いの例

 A社はB社と同等の性能を持つ製品を市場に投入しているが、シェアはA社20%、B社80%であった。A社はシェア拡大のために重合触媒段階から製品設計を見直し、高性能品の開発を行った。

性能が同じで差がついているということは、性能以外で差がついているか、気が付いていない性能があるかを考える必要がある。「性能」だけ上げてもシェア拡大はできないはずである。

 3.魅力度/確かさのマトリックス

 新製品開発において、開発段階やテストと検証段階まで進んでいるということは顧客にとって魅力があると判断されたからであろう。しかしながら、その根拠は十分であろうか。

魅力度の判断は多くの場合、研究開発担当者自身の判断、事業部担当者の判断等の社内判断にとどまるか、社外の声を聴いたとしても一部の(しかも既存の)顧客の意見に限られている。

このようにして判断された魅力度は確かさにおいて低いものである。真に魅力度が高いということは、その魅力度が多くの人の見解から導き出されたものでなければならない。

図2.魅力度と確かさのマトリックス  六角形がマーケットテスト前、円がマーケットテスト後、A,B,Cは市場分野

図2には魅力度/確かさのマトリックスを示した。この例では、ある新製品に想定される用途がA、B、Cとする。用途Aは限定顧客の評価により魅力度が高いと判断していたが、その魅力度が一般的に通用するかどうかの判断はできない。用途B、Cは社内評価のみによる判断である。この例ではマーケットテストの結果、注力すべき用途の優先順位はB、Aであり、Cには経営資源を投入すべきではないことがわかる。

このようなマーケットテストを行うことで、経営資源が有効に投入され、成果が早く現れる。

 4.外部コミュニティを活用したマーケットテスト

多くの人の見解を集約するためには外部コミュニティを活用することが極めて有効である。さらに、そのコミュニティの大きさとメンバーの質が重要である。

ところが、多くの企業が持っているネットワークは地域や業界に偏りがある。自社内で別の事業部が持っているネットワークが活用できないという悲しい事情もあるだろう。

社外の新たな接触先を得る方法としては、学会で発表する方法、展示会に出展する等の方法があるが、一度に得られる数は多くない。質・量の点から最も有効な方法は質の高い多くのメンバーを持っている支援業者の活用である。

 5.終わりに

新製品開発において、その製品が市場から受け入れられるかどうかをテスト(仮説検証)することは極めて重要であることは言うまでもないが、そのプロセスをしっかりと行ってきた企業は多くない。

開発期間を短縮し、開発コストを有効に活用し、価値が高い製品を市場に投入するためには、自前主義を捨てて、外部の支援機関を活用することが必要である。