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アメリカ成形業界状況(2024.08) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功技術士事務所
佐藤功

 業界の動向 | NPE2024レポート (成形メーカーの環境適応、AI関係の動き、PETボトル関連動向)| 技術解説(射出成形監視に必要な6項目、押出サージング問題、高温金型技術、発泡成形の活用) | ケーススタディ

1.業界動向

1-1 全体状況

6月の加工産業指数は44.5と急落し景気後退が現実味を帯びてきた。 材料価格は低位ながら安定している。

1-2 個別動向

・INEOS Ole ns & Polymersが高配向インフレフィルムの製膜に成功した。多層フィルムに仕上げる予定。
・NovaがリサイクルLLDPEでFDA取得した。
・ENGELがデジタル化事例を紹介した。
・ENTEKの湿式セパレータがエネルギー省から融資的確認定を受けた。
・Engelが大型金型試験に対応出来る成形機を設置した。
・R. Drayがスクリュープリプラ射出ユニットを発売した。
・Md Plasticsが溶融粘度測定可能な射出ユニットを発売した。
・Dowがリサイクル業者を買収した。

2.NPE2024報告

2-1 成形メーカーの環境適応

Hasky

PETボトルの100%リサイクル実演を行った。ボトル回収、洗浄、粉砕、充填、店頭販売までを5日間で循環する。また、rPETによる軽量ボトル(500㏄で5.89g)の成形、バイオベースのPETの成形、PET製キャプによるモノマテリアル化などを展示した。

KraussMaffei

廃棄医療用機器とバージン材の配合を変えて色調制御をしながらペレット化する実演を行った。このペレットをインサート成形によって栓抜きを作り、レーザーマーキングして見学者に配った。

混練直接成形実演も行った。PP製自動車部品、フェイスマスク(PP繊維)、PPのブロー成形品など6種類の材料を混錬しながら直接成形して5部品からなる通い箱の部品を成形し、自動組み立てを行った。この方式を用いれば材料コストが55%削減できる。

ENGEL

EcoVadisプラチナステータスを獲得し、企業活動自体が「持続可能」を志向している。

日本製鋼

P&Gが開発したiMFLUX制御がリサイクル材の成形に適応できることを前面に出した展示を行った。

新潟機械

CPF(低圧充填制御)リサイクル材の成形に適応できることを展示した。

日精樹脂

2025年に販売予定のPLA/木粉の成形、再生材をコアにしたサンドイッチ成形、100%海洋廃棄物製床タイル成形などを実演した。

2-2 AI関係の動き

開発途上であるにもかかわらず、いろんな展示がみられた。

Arburg

AI活用分野としてユーザーサービス、成形支援、社内活用を進めていることを表明した。

Wittmann

ロボットプログラムの高度化などAI活用に必須な情報の蓄積を進めている。

ENGEL

EngelGPTを構築中。これによりユーザーに最新の技術情報を届ける。

芝浦

成形工場のエネルギー消費解析を高度化し、持続可能経営に貢献する。

2-3 PETボトル関連動向

日精ASB

Industry4.0対応の新監視、制御システムを出展した。プリフォーム成形と予熱工程を統合し生産性が50%向上できる「Zero Cooling」を発表した。また、平板状プリフォームからカップを成形する技術を展示した。

KHS

rPETを使用した軽量ボトル、近赤外線を使用した省エネ、シリカコーティングの薄肉化技術を披露した。

SIPA

成形機小型化により多品種少量生産に対応することを提案。

SIAPI

プリフォーム予熱ラインを複列化による省エネを提案

3.技術解説

3-1 射出成形監視に必要な6項目

工程管理上、すべて成形条件を監視するわけにはいかない。射出成形では下記の6条件を監視することが重要だ。

充填時間:充填時間は溶融樹脂粘度に依存しているが、逆に樹脂粘度に影響を与える。このため、許容幅は狭い。

保圧切替圧力:ショットごとに異なるが、大きい場合は何らかの異常が起きた時だ。

可塑化時間:スクリュー回転によるせん断力で樹脂を融かしている。これが安定しないと樹脂温度が安定しない。

クッション量:充填量を反映する。射出時と保圧終了時では異なる。

成形サイクル:特に冷却速さを反映している。

樹脂温度:重要だが、直接計測することは難しい。

3-2 押出サージング問題

単軸押出機で吐出量が変動する原因ほとんどが固体輸送部分の温度条件だ。バレル内壁温度が低いとペレットが前進しない。高すぎると溶融樹脂層が出来、移送を阻害する。スクリュー冷却は有効で、スクリュー表面温度を90℃以下にすると移送が安定する。ただし、バレル内壁やスクリューの表面温度の測定は難しい。

3-3 高温金型技術

高温金型温調には加圧水、グリコール添加水、オイルが使われる。漏れると危険なので配管は高温高圧仕様にしなければならない。ジョイント類はSUS製を使い、ホースは内面がPTFEで鋼製編組補強されたものを使用する。グリコールは高温劣化し、スケールが発生する。定期的な点検、清掃が必要だ。

3-4 発泡成形の活用

大型厚肉品には発泡成形が活用されておいる。小物、薄物でも軽量化、保圧力削減、サイクルアップなどが期待出来る。

成形機は射出速度が速く、バルブノズル(シャットオフノズル)付が望ましい。射出速度が遅いと充填できなかったり、スワルマークが激しくなったりする。

表面光沢が要求される場合は発泡倍率を下げざるを得ない。多数個取り成形はゲートバランスを取るのが難しい。この場合はバルブゲート使用する。

物理発泡は軽量化に寄与し、化学発泡はサイクルアップに寄与する。もちろん併用も可能だ。

4.ケーススタディ

4-1 Star Plastics

リサイクル業者だったが、独自のコンパウンド製品を持つに至っている。DMAIC(統計的管理法)を導入し品質向上と工程最適化に努めている。各種エンプラグレードを自社開発し、UL認証材料もある。環境にも配慮しており、EPEATやEcoVadisの認証を受けている。

4-2 All American Poly

インフレ製膜機23台で各種PEフィルムを生産している。原料は貨車で入り、受け入れサイロ/ブレンダー/乾燥機を通して各ラインに送られる。空送時に発熱してペレットにヒゲが発生し、配管を詰まらせることがあった。発熱は配管の曲がり角で起きる。曲がり角をHammer Tek製の球状突起付きエルボに変えたら輸送トラブルはなくなった。

5.あとがき

今号はNPE2024報告が中心だった。各社の意図、世の中の動きを垣間見ることが出来た。興味のあるテーマの追加調査を試みているが難しい。日本がものつくりが先端を走っていた時代には技術動向を日々肌で感じ、少し動き回れば何となく情報が入ってきた。

しかし、昨今は身辺で最新技術が開発されることも国内生産拠点が最新技術を活用しているケースも少なくなってしまった。このため技術情報アクセスが難しくなった。情報技術飛躍的に向上し、情報氾濫とさえ言われているが、欲しい情報は汗をかかないと集まらない。

 

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