アメリカ成形業界状況(2024.07) ―雑誌から垣間見る―
佐藤功技術士事務所
佐藤功
1.全体状況
1-1 全般動向
年初あたりから復調の気配があったが、5月の指標があまり良くなかった。アメリカのマクロ経済諸指標も低下気味なので、このれらが影響している可能性がある。
1-2 個別動向
・ReifenhäuserはLG化学と共同で厚み18μmのシュリンクフィルムを開発した。約25%の材料節減になる。
・Arburgが米での組み立て計画を発表した。アジアでの現地組み立ても計画中。
・Stork(蘭、成形機メーカー)が米進出する。
・Coperion(独、二軸押出機)が Schenck を買収した。
・芝浦機械がNFM Weldingとの技術提携を延長した。
・PTIがイタリアHelios Slitting(伊)の代理店になる。
・Smart ChronosがX-Compound(スイス)から混練技術を導入した。
・Davis-Standard米生産工場のカーボン排出量ゼロを達成した。
・Portsmouthの固体廃棄物処理場がAIを活用した自動分別を開始した。
・Piovan Groupが固体廃棄物の活用を推進している。
・Plastics Technology誌の編集体制が変わった。
2.NPE2024レポート
2-1 添加剤
時代を反映してPFASフリーのフィルム添加剤・成形助剤、バイオ由来あるいは廃棄物ベースの黒色顔料などが出展されていた。また、食品、医薬品分野と保管期限延長志向を受け、包装資材用ガスバリア剤、酸素吸収剤、UV吸収剤などの出展があった。
PP核剤は透明化、成形ひずみ軽減、サイクルアップなどにより、製品高付加価値化、生産効率アップに貢献できる
2-2 3Dプリント
3Dプリントの活用により、金型部品、取出機治具などが迅速に製作できる。また、ロットサイズや納期で射出成形できない需要に応えることも可能だ。プリンタ自体の使い勝手も改善している。プリント品の切削・研磨機などの支援機器も長足の進歩を遂げている。3Dプリントは射出成形の脅威ではなく、補完成形法であり支援機器だ。
2-3 その他の注目点
他のレポートで登場しないが注目すべき事項をリストアップする。
・Netstalと StackTech薄肉PET容器を共同開発した。流動長を確保するため、多点ゲート金型でシーケンシャル射出を行っている。オレフィン容器の代替をねらっている。
・BMBのブースでStackTeckがスタックモールドで容器ふたを成形していた。
・Macchiは包装用インフレフィルムを多層化によるオールポリオレフィン化を提案していた。
・AllRollExは再生材料を使ってシュリンクフィルムの製膜実演をした。
・Coveが 世界初のPHA延伸ブローによる生分解性の水ボトルを展示した。
・Alpekは飲料容器の完全PET化をねらい、PET製ボトルキャップを開発した。
・Delta Engineeringは日精ASBの延伸ブロー成形機でPET製スクイズチューブを成形していた。
・Novoloopは廃棄ポリオレフィンをケミカルリサイクルして得た熱可塑性ポリウレタンを出展した。
・UBQは都市ごみから無機物を取り除いた繊維/熱可塑性樹脂の複合体を展示した。様々な材料と混和できる。
3.技術解説
3-1 キャビティ用薄肉センサー
Fraunhoferが薄肉温度センサーを開発した。耐熱、耐圧性があり、キャビティ内面にはり、温度、フローフロントを検出できる。
3-2 単軸スクリューのヤケ問題
単軸押出機で材料替えをすると古い材料がフライトの谷コーナーに残り、ヤケの原因になる。新旧材料の特性にもよるが、コーナーの曲率を大きくすることで滞留を軽減できる。
3-3 生産管理システムの選定
生産システムの高度化は経営資源活用、顧客指向、作業効率化などに有効だ。このため、実効性が高く、使いやすいものを選ぶべきだ。生産計画を入力すると必要設備、資材、人員割り当てなどが自動的に出来、スケジュールを最適化し、生産、保全、購買指示書が発行されるものが望ましい。もちろん、個別製品の納期まで明らかにすることが出来る。使い勝手も重要で、対話式に入力でき、結果が分かりやすく表示されることも求められる。
3-4 レオメータ活用法
レオメータは昇温に時間がかかり、所定温度になっても温度が安定しない。まず40℃にして試料を投入し、回転を続け温度とトルクのデータを取り続けると良い。温度の上昇に伴いトルクも変化し、Tg,流動開始温度などを観察することが出来る。
4.ケーススタディ
4-1 医療用チューブ
Midwest Precision Moldingは精密射出成形品のモルダーだったが、Reproductive Provisionsの要請に応え精密チューブの製造を開始した。設備はイタリアのBausano製だ。メーカーで試運転し、品質を確認したうえで設置した。従来輸入していたチューブを国産化出来たので品質保証レベルが向上した。
4-2 成形設備メーカーの顧客指向
食品、医薬用ブロー容器成形機メーカーUniloyは顧客の稼働率向上、製造時間短縮、品質向上を向上するためにサービス体制を一新した。第一は電動機化の推進だ。これにより、衛生管理対応が容易になるだけでなく、省エネにも貢献できる。また、サービス要員、補給部品在庫を増やし補修、メンテサービスの迅速化、的確化を図った。大手ユーザー向けには金型のメンテ、保管サービスを開始した。使用済み金型を預かり、整備し、使用予定に応じて届ける。
4-3 ブロー成形モルダーの使命
ブロー容器メーカーのCKS Packagingは高品質と顧客第一のスタンスで急成長している。短い開発期間、即納体制を構築している。要請に応じてオンサイト工場を設けている場合もある。根強い要請がある軽量化、リサイクル材の活用も進めている。生分解性材料は要請があればいつでも使用可能な状態になっている。自動化、省エネも推進している。自動化は従業員の生産性を高める効果もある。家族経営である一方、従業員を大切にしており、すでに何代か継続して働いている家族もいる。
地域社会の要請に応じ様々な福祉事業にも参画している。刑期を終えた人や薬剤依存症の社会復帰を援け、更生者を雇用している。
4-4 インフレフィルムエアリング
梱包用フィルムメーカーのCrayexはAddexの回転/振動ダイ用のエアリングを導入し、厚みバラツキを大幅に減らすことが出来た。このリングは168に分割されており、各部を冷却制御している。従来ロス率が18〜22%だったが導入により15%程度になった。自己学習機能があるため、最近は6%程度まで下がっている。全ラインへ拡大することを検討している。
5.あとがき
今号はNPE2024レポートのウエイトが高い。企業M&A記事が多いのもNPE効果だと思う。アメリカ全体の景気動向は様々な憶測がある。プラスチック業界もこれに影響されている感じがする。ケーススタディでは顧客指向の事例が紹介されているが、難しい時代を生き抜く戦略例として参考になる。
Plastics Technologyの編集陣が変わった。来月あたりから影響が出る可能性がある。