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アメリカ成形業界状況(2025.06) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功技術士事務所
佐藤功


2025年6月のアメリカ成形業界は、関税前の駆け込み需要が消え加工指数が低下。再生材やAI、自動化、スマート混合技術、バイオプラ、EPR対応など環境・技術両面での対応が進む。企業買収も相次ぎ、構造変化が進行中。


プラスチック加工産業指数、再生ポリプロピレン(再生PP)、バイオプラスチック(Nuvone)、低圧成形技術(RJG)、AI活用、スマート材料混合、ポリケトン、拡大生産者責任(EPR)、ケミカルリサイクル、自動化・協調生産(ブローモルダー事例)

1. 業界動向

1-1  全般

関税引き上げ前の駆け込み需要がなくなり、プラスチック加工産業指数が急激に悪化し、4月は45.3となった。樹脂価格も軒並みに下落した。例外はPETでPETボトルのアルミ缶代替期待から価格維持ないしは値上がり傾向がみられる。ただし、テレフタ―ル酸などの課税方針はまだ明らかでない。

1-2 個別動向

・P&G発の低圧成形技術を提供しているRJGがエンジニアリングサービスを強化する。
・押出機メーカーのMaagが制御機器メーカーのSikoraを買収した。
・ブロー成形機メーカーのJomarが金型メーカーを買収した
・ミスミが米同業のFictivを買収した。
・加工機器メーカーのNordsonと Fimicが業務提携を強化した。
・Blue Polymers とRepublic Servicesが共同で高度リサイクル事業を展開する。
・DePolyが500t/yのPETケミカルリサイクル実証施設を今夏スイスで稼働させる。
・K 2025で「Women in Plastics」イベントが開催される。

2.SPE環境アワード

SPEのPlastic Sustainability Innovation Awardは下記5件に決定した。
・PureCycle: P&Gが開発したシステムで高品質な再生PPの生産。
・GreenMantra Technologies廃プラを分解して添加用ワックスを生産。
・Greyparrotの廃プラ材料のオンライン分析システム。
・PPK NaturaのCO2を原料としたメタノール製造。
・SnapSlide 材料使用量が少なく使いやすい医薬品用密封容器。

3.新技術紹介

3-1 発酵によるバイオプラスチック

Valerian Materialsはミネソタ大学で開発されたポリウレタン代替バイオプラスチックの工業化のために設立された。このプロセスは砂糖からメバロン酸を発酵生産する。これからβ-メチルδ-バレロラクトン(BMVL)を合成し、重合して生分解性のポリウレタン代替ポリマーNuvoneを生産する。この材料は廃棄物を加水分解してBMVLに戻すことが出来る。

4.技術解説

4-1 後収縮

成形品はTg以上になると平衡になるまで収縮を続ける。このため、特にTgの低い材料は寸法検査前に平衡に達したことを確認する必要がある。

4-2 スクリューの圧縮比

単軸スクリューには材料ごとに最適な圧縮比がある。例えばPSの射出成形でスクリューの圧縮比を2.2から2.5に変更したら脱気不足起因のシルバーが消えた。この事例では可塑化能力が向上し、成形サイクルが短縮できた。最適圧縮比は供給部での輸送能力によって決まる。ABSは輸送能力が高く、圧縮比3.1では供給過剰になり可塑化が不安定だが、2.5にすると安定する。これに対しHIPSは3.0程度が適している。

4-3 ポリアセタールとポリケトンとの比較

側鎖にカルボニル基を有するポリケトンが登場した。ポリアセタールより融点が高く、靭性、耐クリープ性、ガスバリア性が優れている。POMは剛性、耐疲労、耐摩耗性の優れており、精密機械部品がポリケトンに変わる可能性は小さい。ポリケトンは耐熱性、耐薬品性、耐クリープ性、靭性、ガスバリア性などを活かした新しい分野が拓けることが期待されている。ポリケトンは成形中の分解はポリアセタールより少ないが、高温で架橋することがある。

4-4 材料混合のスマート化

材料混合を自動化・スマート化すると、作業の自動化、精度向上による品質向上、コストダウン、トレーサビリティ向上、誤作動防止などが実現出来る。また、色替え作業などの所要時間、材料使用量が確認でき、従業員ごとに要訓練項目が明確になる。滑剤添加量調整による印刷性の向上のような高度な活用法も可能だ。

4-5 AIへの期待

各分野でAIの活用が進んでおり、人間がすることはなくなるように見える。しかしAIはあくまで道具であり、誤解を気付かせたり、検討時間を短縮させるに過ぎない。人間の創造性を刺激することはあるが代替することはない。

4-6 EPR(拡大生産者責任法)の役割

EPRに沿った立法が各州で進んでいる。製造者の責任が拡大強化されるので負担が増すが、リサイクルの高度化が進むことが期待できる。エネルギーリサイクルを減らしケミカルリサイクルに移行することは推奨される。メカニカルリサイクルは中継手法として引き続き存続するであろう。これに伴いリサイクル材の量的な増加と品質の向上が期待できる。推進するためには規制の整合性が必須だ。事業活動は全国レベルで展開されているので州ごとに異なる規制が行われると対応できない。また、リサイクル技術の有効活用も求められる。事業者が最適な技術を使えるようにすべきだ。このためには資金支援を含めた行政指導が重要である。

5.ケースステディ

5-1 ブローモルダーの顧客との協調自動化

ブローメーカーCurrier Plasticは顧客と提携し、パレット積みロボット、専用パレットの導入を行った。顧客側も開包ロボットの導入と充填ラインへ送り込みの自動化を行った。その結果人件費、トラック積載量増加、包装資材削減などが達成でき、年間9万ドルの経費削減ができた。

5-2 エンプラの効率的リサイクル

エンプラモルダーのAGS Technologyは要求性能に応じた材料使用を徹底し規格に合った成形品を安価に提供している。事前に再生割合を含む材料配合比を決め、これを守り続ける。設備を工夫し、粉砕材でも問題なく成形で出来熱劣化が少ない。材料はロットごとに材料試験を行い、品質確認をしている。なお、高品質が要求される外観部品や色指定が厳格な部品、重要保安部品は受注しない。

5-3 効率的水冷システム

アリゾナ砂漠に立地するモルダーRehrig Pacificの射出成形工場が節水、節電型の冷却システムを導入した。空冷型のヒートポンプ方式で冷却水を循環させている。金型ごとに最適水温と水量を制御する。ヒートポンプエネルギーマッチング方式のDCモーターで駆動させている。これにより水配管がサイズダウンできた。また、完全密閉式なので水質管理、排水処理が不要だ。型温制御の精度が向上し、サイクルアップ、品質向上も達成できた。

6.あとがき

高関税をかけても国内生産が増えるには時間がかかる。このため影響は複雑だ。アルミ缶からPETボトルへのシフトが予想されている。すでに世界的にアルミの余剰感が出ているという報道があった。これがどうなるかによっては我々にも影響が出かねない。今月は環境関連の記事が多かった。この問題は地域性もタイムラグもないので、聞き流せない。一方中身が広範で取り組み方もいろいろある。これらの情報をあなた自身の課題取り組みに役立てていただきたい。


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