佐藤功
佐藤功技術士事務所
景況回復の背景にある労働力不足、材料価格動向、設備投資の潮流を整理するとともに、ガラス転移温度(Tg)、難燃剤、窒素ガスによる劣化抑制、ホットランナ技術などの重要技術をわかりやすく解説。実例を交えた実務視点の記事。
1月のプラスチック産業指数が52.1と久しぶりに50を超え、好況側に移った。背景にはインフレ傾向にもかかわらず消費意欲の大きいことがある。プラスチック加工業界はこのチャンスを十分に活かせていない。主な原因は労働者不足でこの需要を取り込めていない。今年に入っても労働者の製造業離れ、労働時間の減少が続いている。
体質改善を進め固定費を削減しないと製造業の国内回帰は進まない。好況を背景にプラスチック材料価格の低下は底打ちしたようだ。春は需要期なのでこの傾向は続くことが予想されている。
・医療機器モルダー、Matrix Plastic Productsが工場を3倍に拡張する
・BorealisがPPを増産する
・Cypetは昨年のK2025で最大1000ℓまで成形可能なPET延伸ブロー成型機を発表した。この技術を使った成形が年内にアメリカで始まる。
ガラス転移温度(Tg)はプラスチックの特性を理解するのに重要な概念だ。高分子は固相状態では鎖状分子が絡み合っている。Tg以下では各分子鎖は限られた部分に閉じ込められており(自由体積)、隣接分子との相対位置を変えることはない。この状態を「ガラス状態」と称する。自由体積は温度が上昇すると大きくなる。
Tg以上になると自由体積がさらに大きくなり、分子鎖の運動も活発になり、隣接分子との相対位置を変えることも出来る。このため外力が加わると変形したり流動したりする。この状態を「ゴム状態」と言う。なお、結晶性高分子では結晶部分の転移温度が異なるため、温度がTg以上になっても分子運動は結晶部分に拘束されているため変形や流動は起きない。
広く使われているハロゲン系難燃剤は高温で活性酸素を捕捉して燃焼を阻止する。難燃助剤の三酸化アンチモンはハロゲンの揮発を促し捕捉力を強める。しかし健康・環境への配慮から影響から規制強化が進んでいる。また中国がアンチモンの輸出規制をしており、価格が上昇している。このような状況でハロゲン系難燃剤の代替が検討されている。
ポリエステルのように分子内に酸素を含むプラスチックにはリン系難燃剤が使用されている。リン系難燃剤は燃焼時にリンがポリマー内で脱水反応を促し、焦炭層を形成し燃焼部分を覆い燃焼の進行止める。さらに発生する水蒸気やリン化合物が活性酸素補足剤として働く。
窒素系難燃剤は熱分解して窒素、アンモニア、水などの非燃焼性ガスを発生して燃焼を阻止する。リン系難燃剤と組み合わせると焦炭層を発泡させ燃焼効果が向上する。代表的な窒素系難燃剤のメラミンシアヌレートは少量の添加でPAをV0にすることが出来る。
アルミニウムトリヒドロキシドなど金属水酸化物はオレフィンやエラストマーの難燃剤に使用されている。高温になると大量の熱を吸収して結晶水を放出する。吸熱による温度低下と発生水蒸気によって燃焼を阻止する。PEIのようにポリマー自体が難燃性の材料もあるが、高価なので用途に制約がある。無機フィラーも燃焼阻止効果があるが大量に添加する必要があり、材料性能が変わってしまう。ハロゲン系難燃剤と併用する場合もある。
このように難燃効果、機構は材料、難燃剤の組み合わせで結果が異なること、用途ごとに要求性能が異なること、規制等非技術要因が絡むこと、などから最適解を求める動きは終わらない。
押出成形時の材料劣化対策には温度条件、スクリューデザインの工夫などがある。今回取り上げるホッパー内窒素置換も有効だ。この方法は成形時にホッパー下部から窒素を流すのみで良い。窒素ガス必要量はペレットのかさ密度と材料密度の差を体積換算して求めることが出来る。LLDPEフィルムの場合表1のようにゲル数を減らすことが出来た。
表1 LLDPEインフレフィルムのゲル数比較
バルブゲート式ホットランナは電気又は油圧駆動の場合は冷却が必須になり、構造が複雑になる。空気駆動の場合はシールが必要で、定期的な点検・交換が必要だ。Westfall Technikの新しいホットランナは空気式だが部品の仕上げ精度を上げ、シールを不要にした。このため構造が簡単になり、コンパクトで使いやすくなった。
小規模モルダーの収益が上がらないのは設備の古さや従業員のレベルが原因ではない。実態調査によると課題は①立ち上げ、②チョコ停時の対処、③条件変更のやり方だ。①は標準化によって時間短縮できる。②は色替え、ホットランナの昇温、原料乾燥の遅れなどをシステム化すれば負荷が軽減できる。③自動制御化すべきだ。これらにより稼働時間が高まれば受注量を増やすことが出来るし、設備投資の節約にもなる。
包装用インフレフィルムメーカーMid South Extrusionは人材強化と積極的な設備投資によって年25%の成長を続けている。設備投資のポイントは自動化と多層化だ。すべてのラインで複層フィルムが成形できるようになり、高度な顧客の要求に応えられるようになった。
営業では顧客各層との良好な関係の構築を重視している。このためフィルムを納入する包材加工業者だけでなく、さらに川下のブランドオーナーなどとも連携している。顧客は家具、建材関係が多かったが要求性能の高い食品包装分野を伸ばそうとしている。ここには強力な大手ライバルがいることは承知しているが製品の高性能化と高度・迅速サービスレベルで勝ち抜く。
フィンランド系グローバル混錬業者Premixがアメリカ工場を立ち上げた。オレフィン系導電材料の専門工場でCoperionと共同で設計した高度な自動化ラインが2系列ある。配合はオレフィンにカーボン、各種添加剤したものだ。用途は医療検査用のピペットチップなどで宇宙、航空、電子、物流分野で広く使われている
高品質が要求されるので、工程監視システムで電気伝導度などが自動測定でき、金属探知もインラインで行っている。
配合決定にAIを活用して組成から伝導性などを予想し、試作期間、納期を短縮している。
スプリングクーメーカーK-RainはXact metal technology の金属3Dプリント技術を活用して金型コアの水回路を工夫し、成形サイクルを約20%向上させた。
アメリカは好況なようだ。このまま進んでほしいと願っている。この状態になるまでにかなりの時間を要した。成形業の労働力不足が深刻で、注文が増えても簡単には増産できないからだ。労働市場を見ると賃金支払い能力の高いサービス業などに採用負けしている。
技術解説2(5)「小規模モルダーの収益改善」(Plastics Technology,Vol.72, No.3,P20)はこんな状況を背景として書かれた記事だ。わが国にも通じる提案だと思う。技術解説2(3)「窒素ガスによる劣化軽減」(Plastics Technology,Vol.72, No.3,P24)はPAで試みたことがある。効果てきめんで分量低下がほとんどなく、成形品の黄変が消えた。「PPじゃないか」と疑われたことを思い出す。窒素ガスの代わりに燃焼廃ガスをシリカゲルで脱水(N2とCO2の混合ガス)して使用している例を見たことがある。ご参考まで。
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