秋元技術士事務所 秋元英郎
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プラスチック材料の諸性質を実用面から分類すると、大きく以下の5つに分けられる。
・機械的性質(こわさ、強さ、タフネス等)
・熱的性質(耐熱変形性等)
・化学的性質(耐薬品性、耐熱劣化性、耐候劣化性、吸湿性、分解・架橋性等)
・電磁気学的性質(絶縁性、導電性等)
・光学的性質(透明性等)
・物理的性質(密度等)
プラスチック材料においては、これらの諸性質には密接な関係がある。これは分子論的な面からみると当然であり、これらの諸性質はプラスチック材料の分子量、分子量分布、分子構造のわずかな違い、添加剤によって大きく影響を受ける。したがって、同一種類の樹脂材料においても、その用途に適したグレード(銘柄)が製造・販売されている。
諸性質は温度、湿度、その他の環境条件によっても著しく影響を受ける。特にプラスチック材料と金属材料の大きな違いは、その諸性質の時間依存性、温度依存性において非常に大きい。これは、プラスチック材料が「粘弾性体」である高分子材料から成り立っていることにより、高速/短時間の負荷条件下、または低温の条件では「硬くて脆い」挙動を示し、低速/長時間の負荷条件下、または高温の条件では粘性的な「柔らかくて永久変形しやすい」挙動を示すからである。
材料に荷重を加えると材料は変形し、ついには破壊にいたる。この荷重を加えたときに起こる変形や、材料の強さなどの機械的変化に関連する性質を一般的に機械的性質と呼んでいる。
プラスチック材料の機械的性質は、とくにその温度依存性および時間依存性が大きく、周囲(環境)の温度、材料に加わる荷重の種類や荷重の加わる速度等によって異なる挙動を示す。
試験片の成形条件も、成形された試験片の内部歪みの程度や、(結晶性プラスチックにおいては)結晶の状態が異なってくるなど、諸性質に大きな影響を与える。
一方で、屋外で使用されるときには特に紫外線による劣化が起こり、機械的性質に大きな変化を与える。したがって、材料の選定に当たっては、上記の事項を配慮することが必要である。
「こわさ」とは、変形に対する抵抗であり、基本的には弾性体として把握される。こわさは実用的には成形品の負荷条件に対する形状保持能を示すもので、安定感。高級感などの最終製品の品質価値を決定する基本要素のひとつともなる。
強さとは破壊または永久変形に対する材料の抵抗値であり、通常は引張または曲げ強さとして把握される。強さも外的負荷に対する形状保持能を与える特性であり、こわさとの相関も大で、類似している。
硬さ(ロックウェル硬度等)もこの特性に属し、成形品の表面の傷付きやすさなど外観を重視する実用面では重要である。
粘弾性体であるプラスチック材料においては、これらの性質に対する時間、温度の影響を正確に把握することが必要であり、特に熱可塑性材料では実際に使用される温度範囲内での性質が大きく変化するので注意を要する。したがって、弾性率や降伏応力は部品の負荷時間および最高使用温度・連続使用温度に対応できる値のものを選定しなければならない。
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タフネスとは、外的負荷(特に高速負荷)により破壊に至る際に材料が許容しうるエネルギーであり、プラスチック材料の脆さの指標として重要な項目である。
通常衝撃強度として把握されることが多く、衝撃試験で測定される本質的な性質は試験片の耐えうる最高応力ではなく、破壊を起こすのに必要なエネルギー量である。
破壊エネルギーは前述の強さと破断伸びに相関するが、一般的には後者が支配的であり、伸びはその破壊メカニズムに左右される。すなわち、延性破壊と脆性破壊は典型的な破壊メカニズムの例であるが、粘弾性的性状の著しいプラスチック材料においては、歪み速度、環境温度などの条件因子に著しく依存し、その破壊メカニズムに違いが生じる。その歪み速度依存性は、ノッチ効果としてとらえられている。
プラスチック材料の部品に切り溝があった場合には、その部分が材料強度以下の外力で破壊することがしばしばあり、一般にこれをノッチ効果と呼んでいる。プラスチック材料は特にこのノッチ効果に敏感で、ノッチのある場合にはノッチの無い場合に比べて強度の低下は著しい。このノッチ効果はノッチ部分に応力の集中が起こるためで、部品設計に際しては、このノッチの形状をできるだけ緩やかにする配慮が必要である。
一般的に材料の実用耐衝撃性の目安を知るための試験方法としては、シャルピー衝撃試験、アイゾッド衝撃試験、引張衝撃試験および落錘衝撃試験が多く行われている。前者は衝撃時の歪み速度の大きい条件に、後者は歪み速度の小さな条件に相当する。
一方、環境温度を変化させて実用状態に近い温度範囲でタフネス挙動を測定することも、実用上極めて重要である。材料の基本的検討、製品の他材料からプラスチック材料への切り替えの検討において把握しておくべき必要不可欠な特性である。
材料が一定荷重の下で時間の経過に伴い、その歪みを増加させる現象をクリープと呼び、粘弾性体であるプラスチック材料では、金属が高温時に遭遇するようなクリープ現象が常温においても起こる。長時間荷重が加わると、材料は静的試験で得られる破壊応力より小さい応力で破壊に至る。したがって、長時間負荷を掛けて使用する場合には、時間の影響に十分配慮しなければならない。このクリープ特性も、環境温度、負荷荷重、時間の組合せによって大きく影響される。
繰り返し応力または繰り返し歪みを受ける場合に材料が弱化して破壊が促進される挙動を疲労と呼び、絶えず振動を受ける用途には材料の耐疲労性が問題となる。
材料の耐疲労性を表す方法として、一般的には材料が無限回の繰り返し応力に対し破壊しない応力の最大限が用いられる。プラスチック材料は振動時の内部摩擦による発熱の影響を受けやすく、応力の繰り返し速さによっても違ってくるため、データの解釈には注意を要するが、一般に一定の繰り返し応力(S)の下で破壊をおこすのに必要な繰り返し回数(N)の関係S-N曲線データがまとめられる。
磨耗は固体材料が他の固体と接触して相対運動するときに必ず起こる現象であり、プラスチック部品もそのような状態で使用される場合が多い。磨耗の進行とともに製品の機能が低下し、部品の寿命に関係するため、耐磨耗性は重要な特性である。
磨耗は非常に複雑な現象で、接触面の相対速度、摩擦面の状態、摩擦面に介在する液体、ゴミの存在など多くの要因に影響される。
プラスチック材料の場合、環境条件の変化により物性が大きく変化し、成形品の表面状態、製品全体の剛性によって摩擦面での変形状態が変わり、磨耗に大きく影響する。
磨耗の試験方法は、テーバー方式等があり、実用上との対応は限定された範囲でしか有効でないので注意が必要である。
機械的性質には圧縮強さ、せん断強さ等が含まれる。
一般に熱可塑性プラスチックの熱的性質は、金属やその他の無機材料に比較して、熱膨張率や燃焼性が著しく大きい反面、熱伝導率、比熱が小さく、使用可能な最高温度が低いという特徴を有する。
プラスチック材料の耐熱性は実用面から耐熱変形性と連続使用に耐える温度としての連続耐熱使用温度で示される。耐熱変形性とは、高温使用時のこわさ・つやさの低下度合いと解釈することもでき、加熱変形温度(荷重たわみ温度)、ビカット軟化温度等の測定によりその目安を得ることができる。この耐熱変形性は、試験片成形時に生じる内部応力のレベルに大きく影響され、材料の種類によってその荷重依存性が異なってくる。
荷重依存性は加熱変形温度の荷重感度とも呼ばれ、結晶性プラスチック、例えばポリプロピレンなどにおいては高い加熱変形温度を示すが、負荷状態により(すなわち高負荷で)著しく低下する性質がある。したがって、実用面では材料の荷重感度に留意して、さらに成形品の成形歪みをできるだけ小さくすることが必要である。
プラスチック材料は長時間高温にさらされると物性の低下等が起こる場合が少なくない。この目安として、連続耐熱温度が示されるが、これは使用環境条件によって大きく影響されるので、実際の使用にあたっては注意が必要である。
熱膨張係数は樹脂に固有の性質である。実用上各部品の熱膨張係数の差が大きいときには、それらを組み立てる際に大きな難点を生じやすく、特に大型部品の場合には問題となる(例えば、自動車の金属ボディとプラスチックバンパー)。プラスチック材料は加工に際して何らかの異方性を持つことが多いので、熱膨張係数についてもその点を考慮しておくことが必要である。
プラスチック材料の熱膨張係数は金属材料の2~7倍と大きい。
プラスチックの熱的性質
化学的性質と言う表現は極めて曖昧であるが、ここではプラスチック材料の耐化学薬品性、耐ストレスクラッキング性(薬品に接触して使用される場合の環境応力割れ)、および酸化反応などを伴う耐候性、燃焼性について述べる。
プラスチック材料を空気中で加熱すると、材料が酸化および熱により分解し、分解して生じたガスが炎をあげて燃焼する。燃焼時の判定には、一定条件で加熱する時に材料が発火する時間(着火時間)、一定時間内に発火に至る温度(着火温度)、一定条件で一定方向に燃焼させる時、一定時間 後に材料の燃焼した長さ(燃焼速度)、酸素と窒素の混合ガス中で材料を燃焼させて燃える最小限 の酸素濃度(酸素指数、%)などがある。
プラスチック材料は化学薬品に接触した場合、何らかの損傷による性質、性能の変化が見られることが多く、実用面からみて重要な位置を占める。特に対象となるのは有機溶剤の影響、酸、アルカリの影響であり、後者はプラスチックの化学的安定性(耐酸化性など)にも関係する。
通常発表されている耐化学薬品性データは、応力の作用しない状態で1週間程度薬品と接触した後の外観、重量、寸法などの変化を示すものである。
プラスチック材料には吸湿性のあるものがある。これは高分子の化学構造および添加剤などの水との 親和性の相違により変化する。
吸湿したまま成形すると、フラッシュ、シルバーストリークなどが発生し、外観上好ましくない結果となる。AS樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂など吸湿し易い材料は、成形前に乾燥が必要となる。
耐ストレスクラッキング性とは、材料が長時間一定応力またはヒズミ下で薬品中に放置された場合 に応力と薬品の交互作用により静的破壊に対する許容応力(またはヒズミ)が低下してヒビ割れが 生じやすくなる現象であり、実用面から重要な項目である。材料の酎ストレスクラッキング性は、 各薬品接触下における臨界許容応力(またはヒズミ)を測定することで知ることができる。
無荷重での薬品の影響を示す射化学薬品のデータでは異常はなくとも、耐ストレスクラッキング性 の低下が大きい場合が少なくないので、この点注意する必要がある。また、薬品中での許容応力の 低下は高温長時間の場合ほど大きくなる。短時間の負荷条件、つまり衝撃的な使用条件においては このような影響は殆どないが、長時間の振動応力を受ける時などでは悪影響がでる。
プラスチック材料は紫外線、酸素などの影響を受けやすいため、屋外で使用すると外観変化、機械的性質の低下が問題になることがある。屋外暴露による劣化は主として試験片表面に生じ、暴露が進むにつれて表面に微細なクラックを生ずる。表面層の厚さは50μm程度であるが、表面の劣化層がノッチ効果をもたらすため予想以上の機械的性質の低下がみられる。
また表面のクレージングの発生により光沢度が下し、各樹脂それぞれに特有な発色グループにより変色も進行する。
その対策としては紫外線吸収剤の添加もしくは耐候性塗料の塗装があり、これらの対策をとることにより相当の酎候性改良ができることが判明している。耐候性評価として屋外暴露による試驗、ウェザーオメーター等による促進暴露試験が行われている。
プラスチック材料は絶縁性が良いため電気関係の分野に広く利用されるが、一方では帯電しやすい性質があり、それが欠点となる場合がある。
プラスチック材料の多くは電流を通しにくく、かなり強い電場にも良く射えられる。絶縁物の作用する電場か強くなると電気伝導は加速的に大きくなり、遂には絶縁物を貫通する穴ができたり、炭化したりして絶縁性を失う。即ち絶縁破壊を起こす。
一方、分極といわれる現象は物質上に構成される正負両電荷の相対位置のずれによるものであり、分極が起こる時には変位電流が流れ、また変位した電荷量に応じて絶縁物の表裏両面に異符号の電荷が誘起され、静電エネルギーが絶縁物の中に蓄えられる。誘電率は静電エネルギーの大きさを表す量として知られている。
絶縁物のこのような性質のうち、主として荷電担体の移動に関係する性質を絶縁性といい、分極現象に関係する性質を誘電性という。
プラスチック材料には電気絶緑性が良い(1013Ω・cm以上の固有抵抗を有する)。しかし吸湿件が少ないものが多いので、摩擦などにより容易に帯電し、且つ一度帯電してしまうと電荷がなかなか減少しないという現象が起こる。この帯電現象は人が触れた場合、電擎ショックを受けたり、空気中の塵埃を吸着して容易には落ちないなどの欠点となる。 そこで、プラスチック材料に導電性(1010Ω・cm以下の固有抵抗とする)を付与し、この帯電現象を弱める方法として帯電防止剤が用いられている。
一方でエアコン用フィルター等の用途では微細な埃を補足するために、帯電性プラスチックをフィルター材料に用いている例もある。
プラスチック材料の電気特性
ブラスチック材料には透明なものが多い。また異種高分子を組み合わせた複合材料においても、用いる高分子の屈折率を合わせることにより透明な材料が開発されている(透明ABS樹脂など)。
一般に結晶性プラスチックは結晶部分と非晶部分(アモルファス部分)の屈折率がことなり、透明性に乏しいが、結晶サイズを小さくする透明核剤の添加によって透明性を向上させる手法も使われる。また、特殊な例であるが、結晶部分の屈折率と非晶部分の屈折率が等しい材料(ポリメチルペンテン樹脂)は結晶性でありながら透明性に優れる。
一方、プラスチック材料は成形加工時に異方性を生じやすく、これにより光学的性質が変わってくる 場合があることに注意する必要がある。
光ディスクや光学デバイス用材料として透明性に優れ、複屈折率が小さいブラスチック材料の開発も盛んに行われている。
プラスチック材料の比重は小さく、高分子の化学的構造、分子間力、分子量とその分布、および結晶化度、分子配向などの、高分子本来の性質と材料の熱的または機械的な取扱いの履歴によって支配される。オレフィン系樹脂においては、その結晶化度、分岐度により比重が異なってくる。
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