プラスチックの引張特性の見方、考え方

本間精一

本間技術士事務所

1.はじめに

プラスチックは粘弾性体であるため金属材料とは異なる強度特性を示す。プラスチックを変形させると、原子間距離や結合角の変位による弾性ひずみを生じるが、時間が経つと分子間の相互位置ずれによる塑性ひずみ(粘性ひずみ)を生じる。

静的強度はゆっくりした一定速度で変形させたときの強度であるので、降伏または破断するまでの時間が経過する過程で粘弾性挙動が表れる。ここでは、代表的な静的強度である引張強度の特性について述べる。

2.引張強度測定と特性

JIS K7161では、図1に示すようにダンベル試験片の平行部(標線間)の初期長さL0がΔLだけ増加したときの引張荷重Fを測定する。

図1 引張試験における変形量ΔLと荷重F

引張強度は次式で求める。
σ = F/S
ここに、σ:引張応力(MPa)、F:荷重(N)、S:試験片平行部の初期断面積(mm2)
降伏するときの応力を降伏強度、破断するときの応力を破断強度とする。

引張ひずみは次式で求める。
 ε = ΔL/L  
ここに、ε:全引張ひずみ(無次元、百分率で表すこともある)、L0:初期平行部長さ(mm) ΔL:平行部長さの増加(mm)
降伏するときのひずみを降伏ひずみ、破断するときのひずみを破断ひずみとする。荷重を加えると弾性ひずみεrを生じるが、引張過程で塑性ひずみεtが生じる。ここで、εtは時間に依存するひずみである。従って、t時間経過後の全引張ひずみεは、次式となる。
ε=ε+ε
ε:全引張ひずみ ε:弾性ひずみ、ε:塑性ひずみ

このように引張過程で塑性ひずみεtが生じるため、応力とひずみは比例しなくなる。
引張弾性率(ヤング率、縦弾性係数)は、基本的には応力―ひずみ曲線の原点からの接線の勾配であるが、プラスチックは応力とひずみが比例する範囲(フックの弾性限度)は狭いため、図2のように微小ひずみにおける2点間を結ぶ直線の勾配として求める。

図2 微小ひずみにおける引張弾性率

E=(σ-σ)/(ε-ε
但し、E:引張弾性率(MPa)
σ:ひずみε=0.0005において測定された引張応力、 σ:ひずみε=0.0025において測定された引張応力

3.応力―ひずみ曲線と材料特性

応力σ(Stress)とひずみε(Strain)の関係を示したグラフがS-S曲線である。図3に降伏現象を示すプラスチックのS-S曲線を示す。

図3 応力-ひずみ曲線

縦軸の応力については、フックの弾性限度を超えると非線形で増大し、上降伏点A(通常、上降伏点を降伏点としている)に達し、同時にネッキング現象が起きる。ネッキング部分では急激な分子の配向により発熱し、いわゆるひずみ軟化を生じて下降伏点Bまで低下しネッキングはさらに成長する。延伸されたネッキング部分は分子配向により強化されるので応力は下降伏点Bより低下することなく未延伸部分に向かって成長し、ついには試験片全体が延伸、強化され、再び応力は上昇し破断点Cに至る。ただし、プラスチックには降伏点に達する前に破断するタイプもある。

横軸のひずみについては、まず応力とひずみが比例する弾性ひずみ領域がある。一般的にはプラスチックでは弾性ひずみは1%以下であり弾性体として扱える領域は非常に狭い。次に遅延弾性ひずみ領域であり、弾性ひずみと塑性ひずみが同時に起こる。さらに上降伏点Aを過ぎるとネッキングが成長する塑性ひずみ領域になり、やがて破断に至る。塑性ひずみ領域が広い材料は衝撃エネルギーを吸収する能力が大きいことを示している。

プラスチックのいろいろなS-S曲線パターンを図4に示す。これらのパターンから次のように材料の性質を読み取ることができる。

図4 プラスチックのS-S曲線パターン

①縦軸の値が高いほど強度は強いことを表し、低いほど弱いことを示す。
②横軸の破断ひずみが大きいほど粘り強いことを表し、小さいほど脆いことを示す。
③原点からの接線の勾配(引張弾性率)は大きいほど硬いことを示し(荷重による変形が少ない)、小さいほど軟らかいことを表す。
④S-S曲線が囲む面積が大きいほど衝撃強度は大きいことを表す。

4.ひずみ速度および温度の影響

JIS規格の試験法では定められた条件で測定するが、プラスチックのS-S曲線はひずみ速度や測定温度によって変化する。
引張ひずみ速度ὲは単位時間にひずみが増加する速度であり、次式で示される。

 ὲ=v/L
ここに、 ὲ:ひずみ速度( /min,またはmin-1)、v:引張速度(mm/min)、L:初期長さ(mm)

プラスチックの引張特性はひずみ速度によって変化する。図5のように、ひずみ速度が速くなると降伏強度または破断強度、弾性率などは大きくなり、破断ひずみは小さくなり弾性体に近い挙動を示す。一方、ひずみ速度が遅くなると降伏強度または破断強度、弾性率などは小さくなり、破断ひずみは大きくなり粘性体に近い挙動を示すようになる。

温度についても、温度が低いと弾性体に近い挙動を、高くなると粘性体に近い挙動を示すようになる。

図5 ひずみ速度、温度とS-S曲線