Categories: 製品技術紹介

リサイクルPETの射出成形分野における活用 ~衝撃特性・耐熱性・印刷性の改質~

株式会社クニムネ 国宗敬弘

大阪府東大阪市高井田14-8

PET樹脂はPETボトルとして大量に使用され、回収されている。回収されたPET樹脂(リサイクルPET)は回収工程における加水分解により物性低下が起こっている。リサイクルPET(R-PET)を射出成形して耐久部材として活用するための材料改質、特にエポキシ基を側鎖に持つポリオレフィン(エチレン・グリシジルメタアクリレート共重合体:EGMA)による改質と改質効果(耐衝撃性、耐熱性、印刷特性)について述べる。

リサイクルPET活用の現状

PET(Poly Ethylene Terephtalate)樹脂は、その優れた特性、コストパーフォーマンスにより多量に使用されている。また、PET樹脂のリサイクルは日本の場合、樹脂業界および商品展開している川下業界の努力により世界的に高いリサイクル率を実現できている。表1には我が国のPET樹脂の回収(リサイクル量)を示す。このリサイクル率は主要外国と比較しても極めて高い。一方、PET樹脂のリサイクル用途は表2のような状況で種々のリサイクル使用がなされている。すなわち、そのほとんどがマテリアルリサイクルであって、かつ95%以上がシート、繊維として再利用されている。射出成形でのPET樹脂のリサイクル使用は数%と少ないのが現状である1)

表 1 米国におけるPET樹脂回収(リサイクル)量   単位:万トン

 (PETボトルリサイクル協議会)

リサイクルPETの射出成形用途における活用の現状

このようにPET樹脂のリサイクルの場合、クニムネが業とする射出成形法でリサイクルを実施している例は極めて少ない。この理由は、PET樹脂が本来有する特性に起因する。すなわち、①耐衝撃性が低い、②耐熱性が低い、③印刷性が低い等の欠点を有している。これらの欠点を解消できれば、リサイクルPET(以下R-PETと略す)の用途が広がりリサイクル使用の量も増大すると期待される。

一方、このPET樹脂を延伸すれば④耐衝撃性が高くなる。結晶化すれば⑤耐熱性が高くなる。コロナ処理表面処理すれば⑥印刷性が十分なレベルとなる。あるいは⑦延伸、結晶化すれば透明で耐熱性が高くなる。これらの特性は旧来から熟知されており、バージン樹脂を使用してPETボトル、ガラス繊維強化PET樹脂、PET繊維、PETフィルムとして広く商品化され世界中で使用されている2)

このように、PET樹脂の射出成形製品がほとんど使用されないのは、PET樹脂をそのまま射出成形する場合、上述した①から③までのPET樹脂本来の欠点が顕著に出現するからである。この特性は、バージンPET樹脂がマテリアルリサイクルされたPET樹脂すなわちR-PET樹脂でも同様である。本報では射出成形業を営むクニムネがこれらの欠点を解消方法について、R-PET樹脂改質の技術的検討を行って製品化した例を紹介する。

耐衝撃性の改良技術

一般的にプラスチックの耐衝撃強度の改質方法として、ゴム状の高衝撃吸収物質を添加すれば効果が得られることが知られている3)。R-PET樹脂の耐衝撃性を改善する場合も、この手法を応用することで実用化することが可能である。

この際、衝撃吸収物質とR-PE樹脂Tとの界面での接着強度が高いこと、および衝撃吸収物質の分散状態が重要なファクターとなる。低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン系エラストマーはそれ自身耐衝撃性のある樹脂として旧知である。

1980年頃デュポン社がスパータフナイロンとして上市したポリアミド樹脂耐衝撃銘柄(ザイテルST801)は、変性ポリオレフィンを使用した衝撃性改良技術の初期の応用例であろう。

われわれは衝撃吸収材料として、その分子内にR-PET樹脂と化学反応し、結合することのできる反応基を有するポリグリジルエチレン変性体(E-GMA)を使用することでR-PET樹脂の衝撃強度を画期的に改質出来ることを確認した。

本報で紹介する例では、耐衝撃改良に使用する改質材であるPE変性体E-GMAは、分子内にR-PET樹脂と反応可能なグリシジル基を有している。このグリシジル基が図1のようにR-PETと反応し、両者の親和性が高められ、図2のような親和条件を実現し、分散している。

図1.R-PET樹脂と改質材の反応

図2.改質剤(E-GMA)とR-PETの親和状態

改質剤とR-PETが反応した部分は改質剤の表面で分散剤的役割をはたす。

図3にはE-GMAの添加量とアイゾッド衝撃強度との関係を示す。図7のようにE-GMAの濃度増加とともにアイゾッド衝撃強度は増大するが4,5)、この高衝撃吸収体であるE-GMA分散粒子はR-PET内であまり細かな粒子で分散するより、やや大きめの分散粒子のほうが高い高衝撃性を有すR-PET樹脂となる。

図3.改質R-PETのアイゾッド衝撃強度とE-GMA添加量

図4にはスクリュウ回転数とアイゾッド衝撃強度との関係を示す。図5にはこれらのR-PETアロイをSEMで観察し、R-PET中のPE変性体の分散状況を示す。図5左のSEM写真および図5右の分散粒子径分布6)に示すように、(a)(b)(c)の順にE-GMA分散粒子の大きさは細かくなるが、それぞれのアイゾッド衝撃強度は図8に示すように(a)約30kJ/m2(b)は27 kJ/m2 (c)は23 kJ/m2とこの順に低下する。

図4.スクリュウ回転数とアイゾッド衝撃強度および引張強度

図5.R-PET樹脂中のE-GMAの分散粒子径におよぼす混練時のスクリュウ回転数の影響

左はSEM写真、右は分散粒子径分布

ブレンド比:R-PET/E-GMA=86.5/13.5

(a):回転数100rpm,(b):150rpm,(c):200rpm

すなわち、衝撃吸収体であるE-GMA分散粒子はR-PET内であまり細かな粒子で分散するより、やや大きめの分散粒子のほうが高い高衝撃性を有すR-PET樹脂となる。

耐熱性の改良技術

PETのような結晶性樹脂の耐熱性を改良するには、結晶化させて使用することにより、PET樹脂の融点近くまでの耐熱性を実現できる。このためにはPET樹脂の結晶化を金型内部で速やかに発生させることが重要で、PETに結晶化核剤を加え、さらに結晶化を速めるため金型を高温に保ち結晶化させる手法が用いられる。

R-PET樹脂に結晶核剤としてタルクを添加してその効果をみた。ここでの成形金型温度は60℃、金型冷却時間は30秒としている。タルクの粒子径を2.5μm程度に細かくすることにより低濃度でも結晶化効果が高いことがわかる。図6に例示するデータは機械粉砕による平均粒径2.5μmのタルクを使用したものであるが7)、最新の技術によれば更なる小粒子化が可能であり、今後の検討が期待される。

図6.タルク濃度と熱変形温度

結晶化の速度をアップするためにPETと同類のポリブチレンテレフタレートPBTをポリマーブレンドすることによっても同様の効果が得られることが知られており、上記無機粒子との併用によって更なる効用が期待される。

印刷特性等の表面改質

R-PET樹脂成形品の表面を直接プラズマや化学的なプライマー処理により印刷性能を改善し、塗装や印刷などの後加工の耐久性を上げることが要求される場合もある。

R-PETとABSとのブレンドによりR-PET素材の性能を改質することでこの改質を行うことも可能である8)。このブレンド系は親和性のある分散系でなく動的粘弾性測定では図7のように完全にR-PETとABSの2つの主分散ピークに分かれる。

図7.R-PET/ABS/EGMA(組成=34.6/60/5.4)系の動的粘弾性特性

       緑:貯蔵弾性率、 赤:損失弾性率、青:損失正接(tanδ)

目的とした印刷性はR-PETのみの成形品表面とR-PET/ABSの成形品の表面に同じウレタン系の樹脂をコートし、カッターで碁盤の目状の切れ目を入れコート面をセロハンテープ剥離試験で比較した。図8のようにABSとのブレンドでR-PETの塗膜密着性は大幅に改善されていることがわかった。

図8.R-PET/ABS/EGMAとR-PET/EGMAのセロテープ剥離試験結果

左:R-PET/ABS/EGMA=34.6/60/5.4(wt%)

右:R-PET/EGMA=86.5/13.5(wt%)

用途展開

R-PET樹脂材料の性能面から改質を行い、具体的にどのような用途展開を行っているのか㈱クニムネにおける具体例を図9にまとめて示す。Aには工業薬品の容器として使用されることが可能となった例を示した。衝撃性を改善したR-PETはその衝撃性特性とPET樹脂の有する耐薬品性をいかした。Bは屋上緑化の植栽用トレイである。

図9.R-PET樹脂を使用した具体例

A: 工業薬品の容器,B:屋上緑化の植栽用トレイ,C: 配膳トレイ,D:寿司皿,

E: 緑化化トレイで環境整備した鹿児島空港の屋上

屋上緑化は緑化を通してビルの夏季の室内温度上昇を抑制するため温調エネルギーの抑制効果もあり省エネルギー効果や、癒し効果から注目されている。当社のトレイで緑化した大阪市内のビルでは年間温調エネルギー費用として10%程度低下した。

耐熱性・耐衝撃を改良したR-PETはCのように配膳トレイとして使用されることが可能となった。さらに印刷特性を改善し食器の意匠性を高めたDのすし皿のような使用もできる。最後に緑化化トレイで環境整備した鹿児島空港の例をEに示す。

今後の応用展開

これまでクニムネで実施してきたR-PETの材質を改善することによる射出成形品の応用展開を紹介した。最近はリサイクルPETのみならず、植物由来樹脂のポリ乳酸樹脂にも取り組んでおり、耐熱ポリ乳酸の成形方法に関する特許を取得した9)。また、新しい成形技術として超臨界性流体を使用した発泡成形10)や2色成形と上記材質改良等を組み合わせることで斬新な応用分野への展開をめざした開発研究を行っている。

参考文献

1)  ペットボトルリサイクル協議会ホームページ http://www.petbottlerec.gr.jp/

2) Modern Plastics World Encyclopedia,B-27,A Chemical   Week Associates Publication(2001)

3) L.E.Nielsen:小野木重治(訳)高分子と複合材料の力学的性質 化学同人(1978)

4) 国宗範彰ら :成形加工シンポジア’08,S-213 (2008) ,301

5) 国宗範彰ら:成形加工シンポジア’09,E-217 (2009) ,219

6) 国宗範彰ら:成形加工シンポジア’09,A-204 (2009) ,39

7) 国宗範彰ら:成形加工シンポジア’10,A-216(2010),51

8) 国宗範彰ら:成形加工シンポジア’09,A-205 (2009) ,41

9) 特許第4645971号(ポリ乳酸樹脂組成物の成形方法およびその成形体)

10) 国宗範彰ら:成形加工シンポジア’09,E-207(2009) ,199

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