アメリカ成形業界状況(2025.05) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功技術士事務所
佐藤功

PETリサイクル、スクリュー圧縮比、自社混練導入、医用チューブ、高機能フィルム、精密成形、多材成形技術、環状PET、コルク複合材料

1. 業界動向

1-1 全般

関税強化の影響で景気の大きな落ち込みはない。しかし、見通しが立たないという不安が漂っている。アルミへの課税強化でアルミ缶のPETボトル代替が進むとの見通しから、供給能力不足の懸念予測も出ており、PET価格が上昇し始めた。

1-2 個別動向

・HuskyがMGSから多材成形技術を導入した。
・Engelがメキシコで200台/yの生産を開始した。
・設立10周年を迎えたAIM(射出成形協会)は人材不足に備えさらに教育・訓練活動を強化する。
・Precision Concepts が Meredith-Springfieldを買収した。

2.技術解説

2-1 分子の絡み合い

鎖状高分子の特性は分子量の影響を受ける。分子鎖がある程度以上長くなると特性が急激に変化する。また、溶融粘度も高くなる。これは分子同士が絡み合い分子間力が強くなるためだ。分岐があると、溶融粘度が高くなり、結晶化しにくくなる。

2-2 射出成形シミュレーション

シミュレーションは成形条件の初期設定や成形中のトラブル解決に役立つ。成形実験に比べ迅速安価だ。成形実験では望みえない型内の現象や、成形中の現象が追える。また、実験では変えることが出来ない製品肉厚、リブ厚さ、ゲート位置などの変更も検討できる。そりのような複雑な現象は要因を分けて検討することが出来る。使用するデータは成形条件ではない。解析に必要な物性値が入手出来ない場合もある。このような場合は代替値、推定値で検討を進めることになる。このような事情で誤差を含むが、挙動の傾向は把握出来る。

2-3 スクリュー圧縮比

単軸押出機スクリューの圧縮比を変えた実験を行った。直径64㎜、L/D25の押出機を使用し、供給部溝深さのみが異なる、圧縮比が2.0〜3.6の6本のスクリューを使用した。スクリュー回転数を90rpm以上にすると圧縮比2.0以外のソリッドベッドが破壊し、混練不良が起きた。供給部の溝が浅いと圧縮部へ入り樹脂温度が高いため溶融が順調に進むためと解される。低圧縮比スクリューは低回転数で飢餓供給になり吐出量が低下する。シリンダー内のピーク圧は13ピッチ位に現れるが低圧縮比スクリューでは15ピッチ以降になる。樹脂温度は圧縮比、回転数が高いほど上昇する。

2-4 自社混練

自社で混錬をはじめる場合はまず使用材料、処理量等からから押出機を決める。スクリューの選定も大切だ。大型機になるとスペース、受電容量も確認しなければならない。次いで処理量、材料に適した原料混合・供給システムを選定する。粉体は詰まりやすいので注意する必要がある。社内にノウハウがあれば単体購入して自社でライン化できる。その場合は制御データを含む機器間のつなぎ込みが重要になる。一括購入する場合はメーカー選定が重要だ。事前テストによって機種選定が出来ること、立ち上げ支援、保守支援のレベルを見極めて選定する。特にシリンダーとスクリュー組付け精度や保守法が悪いと寿命が短くなってしまう。

2-5 医用チューブの難しさ

医用チューブは特定の業者が独占しており、他の業者やセットメーカーの内製例がほとんどない。これは特別な材料が使用され、要求性能、品質レベルが高いためだ。製造には適切な装置を保有し、狭い許容範囲の成形条件を維持しなければならない。高精度のインライン計測装置が必要だ。よく使われるPA、PUは劣化、ゲル化しやすい。劣化物をろ過除去しようとするとろ過自体が劣化原因になることがある。

2-6 PETリサイクル技術

Macrocycleは環状PETを経由する新しいリサイクル法を開発した。PETを環状にすると溶解性が増す。抽出後開環すれば高純度のPETが得られる。解重合してモノマーまで戻す方式より環境負荷が小さい。現在パイロット段階で2026~27の実用化を目指している。

2-7 人材確保

人手不足がネックになって存続できない工場が増えている。地域との連携を強化し、存在をアピールすること、学校に働きかけ必要人材を育てることが求められている。

3.ケースステディ

3-1 精密部品成形事業

Midwest Precision Moldingは精密部品モルダーで自動化、品質管理強化で業績を伸ばしている。例えばGF20%PA製噴射ポンプ部品はソディックと共同開発し縦型成形機を中心にしたセルで生産をしている。ここでは金属部品のフープ送り、金属部切断、検査が自動化されている。危険分散のため、多軸チューブ、歯車、コイルボビンなど広範な分野の部品を手掛けている。金型の保守設備、品質管理に必要な検査機器も備えている。拡大路線を採らず、事業存続を重視している。

3-2 高機能フィルム

コロンビアのグローバルフィルムメーカーPlastileneは高性能フィルムを16か国に供給している。また、混錬、包装材、リサイクル事業などフィルム関連事業をグループ会社でてがけ、垂直統合を進めている。コロンビアとアメリカにWindmöller の水冷式9層インフレ成膜ラインを導入した。これにより主として畜肉包装用の透明フィルムを生産できるようになり、紙包装を代替した。この装置は下向きに押出し、バブル表面を直接水冷する。

3-3 フィルムリサイクル

NovaはNovolexと共同で6000t/月のフィルムリサイクル工場を試運転中だ。この工場では複合フィルムや汚染の激しい家庭廃棄物は扱わない。選別は可視光線と赤外線が使用され、除去されたものは他のリサイクル業者に引き渡す。ペレタイズ後脱臭され、rPEとして販売している。FDAの食品分野使用可のレターを取得している。洗浄水などは再利用されており、工場廃棄物は出ない。

3-4 コルク複合体

Amorim Cork はコルク複合体を開発した。軽量で弾力性が高い。成形性は問題なく射出成形、ブロー成形、真空成形が可能だ。コルクが発泡体として機能するため樹脂温度、保圧、射出速度などを低く出来る。PLAでは核剤効果があり、物性が向上する。植物由来なので生分解性ポリマーをベースにすれば環境負荷の低い材料が出来る。

4.あとがき

トランプ関税強化は製造業復活が期待できるが、簡単ではない。そんな中でPETボトルのアルミ缶代替の動きは具体的な動きとして注目したい。リサイクルの取り組みが2件紹介されている。PETなど結晶性高分子は環化すると結晶化が阻害され、極性溶媒可溶になる。今後の進展を期待したい。Novaの取り組みは単体フィルムが対象で大量に集めることが難しく、大きな流れにはならないと思う。

 

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