アメリカ成形業界状況(2025.08) ―雑誌から垣間見る―
佐藤功技術士事務所
佐藤功
8月の最新レポートでは、「アメリカのプラスチック成形業界動向と最新技術 ― 金属代替・押出スケールアップ・リサイクルと環境対応」 をテーマに、米国市場で進む成形業界の変化を多角的に分析しています。産業指数や企業投資動向から始まり、金属代替による軽量化やコストダウン、押出機のスケールアップ技術、スクラップ粉砕や材料輸送における品質管理の最新知見を詳しく紹介。さらに、リサイクル材を活用した製品開発や環境対応に積極的な企業の事例を取り上げ、業界の未来を展望します。
金属代替 プラスチック材料、押出機 スケールアップ 技術、リサイクル 環境対応
1.業界動向
1-1 全般
6月のプラスチック加工産業指数が48.9と対前月0.4改善した。原料樹脂価格も低位ではあるが安定している。高関税の影響はグローバルサプライチェーンの弱体化をもたらす一方で国内生産促進効果がある。これらが錯綜してマクロ指標には反映しにくい可能性がある。個別企業は立ち位置によっては深刻な事態が生じている可能性がある。目の離せない状態が続く。
1-2 個別動向
・GEが洗濯機工場に投資する。27年稼働予定。
・中国系成形機メーカーYizumi-HPM がHPMブランドを廃止した。
・RollepaalがO-PVCパイプ(配向塩ビパイプ)製造ラインを設置した。
・SyensqoがEV高電圧用ハーネス向けオレンジ顔料を発売した。
・オランダのAvantiumがPET/PEF複層ボトルが既設のボトル用設備でリサイクル可能なことを明らかにした。
・精密成形モルダーAdkev が歯車成形専業のWinzeler Gear を買収した。
2.技術解説
2-1 金属代替
フェノール樹脂以来、在来材料をプラスチックに代替する努力が続いている。材料や加工法、設計法の進展があり代替可能範囲が広がっている。代替を着実に進めるには、代替目的、例えばコストダウン、軽量化、外観改良、耐久性向上、柔軟性付与等々、を明確にすることが重要だ。次に機械性能、寿命、使用環境(使用温度など)、外観、コストなど要求事項を明確にすなければならない。
金属とプラスチックでは強度、剛性、熱膨張係数、耐性、可燃性、水分など使用環境の制約、クリープ、疲労などの長期性能、耐薬品性などかなり違うので慎重に検討しなければならない。近時活用手法 設計法、材料改善などが進み検討しやすくなった。例えば、リベット39個を使ったアルミのファンはPA66GF30で軽量化、空力特性を向上させたものがワンショットで成形出来、大幅な性能向上、コストダウンになった。
2-2 PC押出におけるスクリュー冷却の効果
単軸押出機ではホッパー下の固体輸送が重要だ。固体輸送はバレル内面とペレットの動摩擦係数に依存している。摩擦係数は温度によって変化する。吐出量が増えると摩擦熱で温度が上昇し摩擦係数が変化し、固体輸送の状態が変わり、吐出量変動が激しくなる。PCはこの影響を受けやすい。そこでクリューの根元から3.5D分水冷却穴を有する200φ押出機で実験した。冷却水を使用すると安定押出領域が13%広がった。冷却水穴は8D程度まで延長可能なので、スクリュー改造すればさらに吐出量を上げられる可能性がある。
2-3 二軸押出のスケールアップ
二軸押出機の空間体積はスクリュー径の3乗で増えるのに対し、伝熱面積は2乗でしか増えない。このため、スケールアップが難しい。
ポリオレフィンのマスターバッチ混錬実験を26φ、40φ、92φ押出機で行った。まず、26φで優れた混錬が出来るスクリュー構成、温度条件、回転数などをつかんだ。この条件を40φ押し出し機に移して実験を行ったところ混錬出来なかった。Specic Mechanical Energy(SME、処理材料当たりのエネルギー投入量)を計算すると26φは0.083kWh/kgで、40φは0.055kWh/kgだった。次に40φ押出機で混錬実験を行い、うまく混練出来る条件を見つけ出した。この時のSMEは0.079だった。
同じことを40φ、92φについても行った。92φはSMEが0.026のときは混錬できなかったが0.086では問題なく混錬できた。
2-4 スクラップ粉砕
粉砕品の活用が増えている。粉砕品の大きさが適切でないと成形が不安定になる。適切な形状、サイズの粉砕品を得るにはスクラップの状況に応じた粉砕方式を選ぶ必要がある。薄肉品にはせん断型が適している。粉砕原料の大きさがばらつくと安定しない。このような場合は粉砕トルクによって投入量を制御すると安定する。
2-5 材料輸送時の材料損傷
輸送中のペレットの損傷が生産性や品質に影響する。材料受け入れ、分配は品質管理の一環として管理すべきだ。運送業者任せではいけない。輸送配管は接地を取ったSUSパイプが望ましい。樹脂やアルミだと、摩耗したり帯電したりして品質に悪影響を及ぼす。輸送速度が速すぎると発熱する。酷暑で高温になった輸送管でペレットが溶融することがある。当然のことだが、異材料混入は事前清掃などで避けなければならない。
2-6 作動油管理
作動油が汚れてくると誤作動や、保全費用の増大、設備寿命の短縮につながる。管理には専門知識とノウハウが必要だ。例えば投入前のタンクの洗浄、投入前の油の管理をきちっとしなければならない。管理は手際よく、継続的にしなければならない。
3.ケーススタディ
3-1 ブロー成形の環境対応
Ring Container Technologiesは液体用の容器を生産している。材料削減、リサイクル材の活用、省エネ、節水など環境対応活動を地道に続け、環境アワードを獲得した。
3-2 Trash Pandaのリサイクル材活用
ディスクゴルフ用品メーカーのTrash Pandaはディスクをリサイクル材で作ることを思いつき、手動のプランジャ成形機で試作した。当初は入手しやすいPPを使用する予定だった。試作と試験を繰り返しているうちに、エラストマーが最適であることを突き止めた。今では海天の成形機を導入しリサイクルエラストマーを安定的に使用している。
4.あとがき
恥ずかしながら、O-PVCパイプもPEFボトルも知らなかった。情報パイプが少しずれていると伝わってこない情報がある。世界は広い。そして激しく動いている。見過ごしていた情報が翌日には我業務を襲うかもしれない。アンテナを高く掲げることの重要性を痛感している。