アメリカ成形業界状況(2025.12) ―雑誌から垣間見る―
佐藤功
佐藤功技術士事務所
K2025展示会情報と雑誌記事を基に、押出・射出成形技術、AI活用、リサイクル事例まで体系的に解説
インフレ製膜 自動化 AI、押出機 スクリュー温度、多数個取り射出成形 充填時間、金型温調 管理、プラスチックリサイクル 技術、3Dプリンタ 金型 活用
1.業界動向
1-1 全般状況
度重なる関税変更、行政機関の閉鎖などで米経済は混乱が続いている。しかし10月のプラスチック加工産業指数は54.3を記録し、景気回復傾向が顕著だ。新規受注が増えており、この状況は継続することが予想されている。
成形材料は世界的な生産過剰と需要の減退で材料価格下落が続いている。来年上期以降には関税引上げの効果が出ることを期待する向きもある。
1-2 個別動向
・SPEが研究支援、奨学制度を強化した。
・新しい製造支援サイトManufacturing Connectedが立ち上がった。
・インフレ製膜技術動向
K2025では多くのインフレ製膜の実演が行われていた。トレンドは「自動化とAI」で、主として作業員の負担軽減を指向する。
Windmoellerは切り替え時間の短縮、ライン速度の最大化、省エネをねらっていた。
ReifenhäuserはAIによる作業員への助言を重視している。逆に作業員のスキルを吸い上げAIが技術伝承に寄与する。
細川アルパインのバブルの形状をカメラで監視する。好ましいバブル形状を自動的に再現する。
・Cargillと Dowはオレフィンフィルム用のPFASフリー加工助剤をK2025に出展した。
・AdekaのPP透明化剤(結晶核剤)をK2025に出展した。
・Vecoplanがドイツの廃プラ洗浄業者 Pla.to を買収した。
・Davis-Standard Investsが技術サービス強化した。
・EvonikとSchneider Electric が共同でリサイクル試験設備を設置
・Allegheny Performance がHolbrook Tool and Moldingを買収した。
・Huskeyがカード会社CompoSecureを買収した。
2.技術解説
2-1 単軸押出機のスクリュー温度
75φL/D21のスクリューの谷に熱電対を17個埋め込み、HIPSの押出実験を行いスクリュー各部温度の経時変化を観察した。
運転を始めると圧縮部では温度が低下する。下がり方は回転数を上げるほど大きい。この付近では材料がまだ固体であり、回転数が増すと加熱能力が追い付かなくなることを示している。
計量部入口では温度が上昇するが、回転数を増すと上昇幅が小さくなる。この部分では溶融しているが、滞留時間が短い低温の材料が供給されるためだ。計量部後半では回転数が増すにしたがって温度上昇が大きい。これは溶融材料のせん断発熱がおおきくなるためだ。
この実験によって理論モデルと実際の溶融現象を結び付けて理解できるようになる。
2-2 射出成形の充填時間
多数個取り成形では各キャビティの充填時間をそろえたい。しかし、ゲートの寸法誤差、型温度ムラなどがあるためバラツキは避けられない。
所定の射出速度ではバラツキが小さくなることが知られている。このレベルを掴めば成形品品質が向上するだけでなく、成形機を変えたときの射出速度の設定の参考になる。
2-3 高精度チューブ成形の制御
チューブ押出の制御は
外径によるスクリュー回転数/引き取り速度設定
肉厚による引き取り速度調整
冷却制御
外径によるサイジングダイの真空度制御
の4つが基本だ。これらを迅速に測定し、フードバックすることが好ましいが、これらの制御ループは錯綜している。この錯綜関係を解析して、矛盾が起きないようにしなければならない。この判断はベテラン作業員でも時間を要する。これを自動化、精緻化し、しかも短時間でフィードバックすることにより、不良率が低下し、生産性が向上させることが出来る。
3-4 金型温調
良い製品を得るためには金型温度を適正に管理する必要がある。そのためには冷却管のすべての範囲で冷媒流速をレイノルズ数4000~8000の間にする必要がある。しかも冷媒出入の温度差が2℃以下にすることが望ましい。冷却配管が長いと圧損が大きくなり流速が上げられない。ヘッダーを設けると配管長を短くすることが出来る。
保全も重要で、特に配管のスケールは冷却を阻害する。除去薬剤、さび抑制剤を活用すべきだ。
モニタリングも重要で、冷却管ごとに流量計、温度計を付けると良い。型面を赤外線写真で観察するとは温度ムラが分かる。
3-5 P&Gのリサイクル技術
P&Gは2030年に包装材料に100%リサイクル材にすることを目指している。この一環でオーストリアのLindnerと共同で溶剤洗浄技術を開発したことをK2025で発表した。従来のリサイクル工程の粉砕後にこの工程を追加する。この工程で様々な不純物が除去され、実験では不純物の99.7―99.8%を除去することが出来る。
4.ケーススタディ
4-1 KW Plasticsのリサイクル事業
同社はオレフィン系材料再生の専門業者で蓄電池容器のリサイクルから始め、徐々に品目を増やしてきただ。コロナ禍でDIY関連需要が拡大したのでこれに応えるため、品質管理、仕分け・洗浄工程に投資し、事業を拡大した。原料、用途を限定しそれぞれ最適の工程を組むのが原則でバラツキの大きい都市棄物は扱わない。
廃棄ポリエチレンの洗浄、色選別を強化し、「白い塗料容器」の自社成形を始めた。この工程は絶えずモニタリングされており、異常があればすぐに対処する。
4-2 熱成形メーカーの3Dプリンタ活用
Lindarは厚肉成形品と薄肉成形品を併産している熱成形モルダーだ。用途は包装材料、エクステリアなど多岐にわたっている。エクステリア向けに回転成形も導入している。またシート成形ラインも持っており、薄手の原料シートの一部は内製している。
今回、フィラメントタイプの3Dプリンタを導入し、CF強化PCやABSで金型を製作するようになった。同社の金型はアルミ製で切削加工によってつくられるが、3Dプリンタ製樹脂型は型製作時間が約80%短縮できる。これにより試作時間が大幅に短縮したため、新規用途開発が促進できた。
製品のプロトタイプを製作しユーザーに提供することもある。今後は表面粗さの改善に取り組む。また、粉末原料が使えるプリンタの導入を検討している。
5.あとがき
・国際情勢の不安定化でブロック経済化に戻るような気配を感じる。一方ではここまで進んだグローバル化は後戻りできるだろうかとも思う。引き続き注視した行きたい。
・今号では Mark A. Spalding(Dow)の押出機スクリュー温度を実測した記事が紹介されている。スクリューに熱電対を埋め込み回転させながら連続的に信号を取り出すことは実験装置を作るだけでも大変だ。こんな研究が行われていることを知っただけでうれしい。成果を期待したい。