アメリカ成形業界状況(2025.10) ―雑誌から垣間見る―
佐藤功
佐藤功技術士事務所
プラスチックの屋外使用、EPR、プラスチックの屋外使用、発泡シート成形法、成形品のトレーサビリティ、射出成形モルダーの環境対応、射出ブロー成形への新しい冷却システム導入等
1.業界動向
1-1 全般状況
8月の産業指数は48.3と4月以来大きく変わっていない。原料樹脂価格も低位安定しており動きがない。しいて探せば新規受注が下降気味だと読めないこともない。今後のどんな政策が出てくるか予測が出来ず、各社とも思い切った戦略が打ち出せないようだ。
1-2 個別動向
- Reel Power Marine & Energy が世界最大のパイプ巻取機を発表した。巻径5mあり直径200㎜までのパイプが巻き取れる。柔軟性を利用して長尺供給すれば接合回数が減り、施工合理化に貢献できる。
- Windmoellerが インフレ製膜機Addexを買収した。当面、営業形態は変更しない。
- Xaloy がカナダのUTS を買収して2軸押出機に進出した。
- Greyparrot(英)は廃プラの新しい選別法を開発した。赤外線分光法でコンベア上を3 m/sec.で流れている廃プラの材質を特定し、画像上に表示する。
- Sidelがレーザーによるプリフォーム加熱機をK2025に出展する。
- 旭化成はPFASフリーのPA潤滑グレードK2025に出展する。
2.TopShop2025
優れた射出成形モルダーとして表の13社が選ばれた。今年選ばれた企業の多くがコロナ禍不況を乗り切って売り上げを回復した企業だ。回復のポイントは注文が減っても顧客をつなぎとめたことと、熟練従業員が辞職しなかったことだ。
業界別では自動車関連が減っており、医療関係が増えている。経営戦略では労務費の高騰を自動化投資で吸収すること、二次加工、付加サービスでの差別化が重要になってきている。
表 Top Shop 2025選定企業
3.拡大製造者責任法(EPR)の現状
拡大製造者責任法(EPR)がすでに33州で成立している。その中でオレゴン州は実施段階に入っている。特に力を入れているのは回収ポイント、サイクルシステムの拡充だ。必要な費用はメーカーから徴収する。
包装材料に加えプラスチック製品全般を対象にし、プラスチック廃棄物を60に分類し、それぞれが処理に必要な費用を算出して課金を決めている。このリストはリサイクルが進めば見直され、軽減される。生分解性樹脂はコンポスト化が進んでないので、課金対象から外されていない。
4.技術解説
4-1 プラスチックの屋外使用
プラスチック製品の本格的な屋外使用はHDPEの登場により始まった。これはポリオレフィンが主鎖に紫外線吸収基がないため、紫外線劣化が少ないためだ。
PVCは脆くて加工しにくい材料だったが1950年以降、配合の工夫で加工しやすく、耐久性の高い材料となり、配管や配線機材に使われるようになった。屋外で長年使用していると表面白化が起きたが1980年以降耐久性が向上し、サッシなど建材にも使われている。中には推定寿命が20年を超えるものもある。
分子鎖が乱れや紫外線吸収しやすい添加剤を加えると耐久性が低下する。紫外線の波長が短いものほど劣化能力が高い。
PMMA、AS、ポリイミド、フッ素樹脂などは耐紫外線劣化性が優れている。PCも劣化しにくいが黄変しやすいので色補正添加剤が使われる。PPSは処方を工夫することにより屋外で使用できる。PSUは紫外線に敏感だがカーボンブラックなどの添加で屋外での耐久性を増すことが出来る。PPO、PBTは安定化すれば屋外で使用できる。PA、POM、ABSは安定化が必須だ。PEEKはγ線には強いが屋外使用には適していない。
屋外使用に際しては、塗装、カーボンブラックの添加なども活用されている。屋外劣化の要因は紫外線以外に水分、オゾンなどがある。
4-2 発泡シート成形法
真空成形して食品トレーなどに使われる発泡シートは押出機を2台つないで成形する。最初の成形機は材料を可塑化し発泡剤を溶解させる。第2押出機で材料温度を調整する。ダイスを出ると圧力が低下し、発泡剤が気化し気泡が発生する。ダイスは円環状をしており、出口に同軸に円錐状低温マンドレルが付いている。ここで冷却固化させながら成形品径が押し広げられる。
マンドレルで径方向に配向するが、引き取り速度を調整して軸方向に配向させバランスの良い発泡シートに仕上げる。固化したシートは切り開かれシート状に巻き取られる。温度条件が悪いと気泡が巨大になったり泡径が不均一になる。また、成形品そりは配向の縦横バランスが悪いことが原因になる。
4-3 成形品のトレーサビリティ
成形品に成形日付を入れると、在庫管理、クレーム発生時のトレーサビリティ確保などが容易になる。用途によっては義務付けされることもある。特に生分解性材料の場合は重要になる。
日付を刻印するため数字コマを入れることが利用されている。デザインの制約があるが読み取りやすい文字の大きさを確保したい。成形品から飛び出すような凸文字が認められない場合がある。コマの固定が不十分で成形中にずれることがある。摩耗あるいはデポジット蓄積により読みにくくなることもある。コアピン頂に日付を彫刻している例もある。
実行に当たっては、更新を確実に行い、ずれないよう固定すること、取付部の定期メンテナンスなどが重要だ。
5.ケーススタディ
5-1 射出成形モルダーの環境対応
射出成形モルダーのHoffer Plasticsは独自のやり方で廃棄プラスチックを1%以下に削減した。また、水、電力の削減も進めている。
最初に手掛けたのはランナを成形機ごとに粉砕して再利用することだった。これを徐々に増やしながら、これ以外の廃棄材料の再利用も進めている。用役削減にも取り組んでおり、クーリングタワーを活用して水使用量の削減、成形機の電動化による電力使用量の削減を進めている。ISO1400はユーザーの要請に応じて取得した。
同社の特徴的な取り組みとしては天然ガスによるコジェネがある。電力自給、エネルギー効率が上昇した。さらに、余剰電力の外販による利益もある。
もう一つの取り組みは製品ごとの環境負荷を算出できるシステムを有していることだ。これにより、輸送工程など成形工程以外の負荷も捉えることが出来、環境負荷削減の有力な判断材料になっている。
5-2 射出ブロー成形への新しい冷却システム導入
射出ブロー成形は射出時とブロー時で金型温度を精度よく調整する必要がる。AmcorはCito の PulseCooling を温度調整に導入した。この冷却法は各金型の表面温度によって冷却水量を制御する。1台のシステムで数型冷却できる。状況に応じて最適の水量を送るので省エネになる。
6.あとがき
世界が激しく動いていると思っていたら、日本でも女性首相が誕生しようとしている。ますます何が起きるか分からない。先が見通せないため米産業界は思い切った戦略が取れないようだ。これを反映して、TopShop2025で選ばれた企業も日々の課題を着実にこなすタイプが多い。
Hoffer Plasticsの環境対応は好感が持てる。出来ることから始め、これを着実に実行していくこと、自らの指標を作り外部騒音を遮っている。
Greyparrotの技術は赤外線分析を活用して廃プラを一歩進めた点は評価できるが、これからが本当の開発だ。自動選別の完成を期待している。
K2025の出展技術の紹介も多く見られたが中身がよく分からないので割愛した。各位の調査報告に期待している。
