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アメリカ成形業界状況(2024.09) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功技術士事務所
佐藤功

[業界動向] | 全体状況 | 個別動向| [NPE2024報告] | 統計 | 材料関係| [技術解説] | 射出成形機起動法| 単軸押出機の混練| PHA(海洋生分解性プラスチック)の活用| PHAのパージ法| 現場関連の事務作業の削減| [ケーススタディ] | [あとがき]

1.業界動向

1-1 全体状況

7月のプラスチック加工産業指数は43.5と減退幅が小さくなったものの、低迷傾向は続いている。プラスチック材料価格はPSがベンゼン価格連動による低下がみられたが、他材料は値上がり気味だった。これは異常気象による供給不安で、各段階で在庫積み増しが起きたためだ。

1-2 個別動向

・連邦政府がプラスチック汚染防止戦略を発表した。
・KraussMaffeiが型内ポリウレタン塗装システム試験機を公開した。
・Windmoellerが米拠点を拡充した。
・Aachen工大でPEの高度リサイクル推進プロジェクトが発足した。
・Dowはリサイクル材供給体制の強化を続けている。この一環で今月もリサイクル業者の買収があった。

2.NPE2024報告

2-1 統計

事務局から統計数値が発表された。登録者数は51394人で、外国人は133か国、15156人だった、ラテンアメリカからの来訪者が増加した。

2-2 材料関係

・持続可能性指向が強く出ていた。
・オレフィンのShell Polymers、Heartland Polymers、エンプラのSyensqo(ソルベイからのスピンオフ)、Envalior(DSMとLanxessのエンプラ部門が統合)が新たに登場した。
・新規材料など
紹介されている材料を表1にまとめた。作表の都合上メーカー名などは略記している。リサイクル方式も本文では詳しく紹介している。興味ある方は本文を参照するかメーカーURLにアクセスいただきたい。

表1 報道されている材料(NPE2024)

3.技術解説

3-1 包装フィルムのリサイクル支援技術

酸化チタンを添加して不透明性にしたLLDPE フィルムはリサイクルの障害になっていた。VOID Technologies製のマスターバッチ添加剤「VO+」はフィルムを不透明化し、リサイクル協会の受け入れガイドラインをクリアできる。10%添加すると製膜時に溶融樹脂がキャビテーションを起こし、ナノスケールの隙間が出来、不透明になる。

3-2 射出成形機起動法

成形トラブルのほとんどは起動時に起きる。ヒートアップが終了してもすべての機能が働いているわけではない。また、成形機内で材料の劣化が進んでいるかもしれない。どこかで材料漏れが起きているかもしれない。再生材の使用比率が変動することもある。これらすべてを織り込んだ起動マニアルは作ることは出来ない。成形現象をよく理解して慎重に起動して欲しい。

3-3 単軸押出機の混練

カラーマスターバッチを少量添加して可塑化し、急停止後スクリューを抜き出し観察すると混合の進行を観察することが出来る。混合はメルトプールで起き、前進するにしたがって均一になる。ただしこの段階でも十分な混錬は保証できず、さらなる混錬が必要なことがある。

3-4 PHA(海洋生分解性プラスチック)の活用

環境配慮が必須の時代になっており、これからはモルダーも主体性をもって取り組んでいかなければならない。PHAメーカーのCJ Biomaterialsはこれを支援している。PHAは結晶性のものと非晶性のものがある。また、PLAとブレンドして使われることが多い。フィルムでは非晶グレードにPLAをブレンドし生分解性が増進する。ストロー押し出しは結晶グレードが主体だが非晶グレードを添加すると柔軟性、耐衝撃性が向上する。トレーなど熱成形用シートは非晶グレードにPLAを添加して性能を向上させている。射出グレードは結晶グレードを使用している。PLAに非晶グレードを添加すると耐衝撃性、耐油性が向上する。このように用途ごとに配合を変える要請が強いので非晶グレードのマスターバッチも用意されている。

3-5 PHAのパージ法

PHAやPLA/PHAは劣化しやすいので押出終了時、あるいは15分以上停止する時は押出機内を他材料に置換しておく必要がある。置換材料としては高粘度(MI2〜5)LDPEが適している。他材料から移行する場合は、まず温度条件を変えず前材料をLDPEで置換する。置換が終わったら、PHAの温度条件に変更し、PHA(又はPLA/PHA)でLDPEを置換し、そのままPHAの成形に移行する。PHA成形終了時には温度を変えずにLDPEで置換する。LDPEベースの市販パージ剤は置換を促進したり、こびりついた劣化物を除去機能が高い。

3-6 現場関連の事務作業の削減

成形作業の自動化が進んでいるが現場スタッフの仕事は減っていない。現場と経営をつなぐ情報処理の自動化が遅れているためだ。受注したら在庫を確認して出荷指示が自動的にできるだろうか。在庫がない時には生産計画に織り込み、納期を回答できるだろうか。この時、成形機、材料、作業要員の充足手配が自動的にできているだろうか。新規注文時の信用調査や見積、品種ごとの在庫の最適化、キャッシュフロー、売り上げ、受注、在庫等、業績評価が日々自動的にできているだろうか。これらが現場負担なく出来るようにしたい。

4.ケーススタディ

Core Technology はPA製の赤い板状のコアを黒いTPUで覆った部品を成形している。通常の成形機に射出ユニットを付けて2色成形している。表皮材はコア材に比し、射出容量が少ないが、このやり方だと最適サイズの射出ユニットが選定出来る。その結果、設備投資が節約出来、効率の良い成形が可能になった。

5.あとがき

アメリカの石化産業がメキシコ湾岸に集中しているために台風被害で材料不足になったことが何回かあった。冬には寒波による交通障害で材料切れも毎年のように起きている。7月に大型台風の襲来予報によって材料の値上がりが実際にあった。こんなところにも温暖化の影響が出てくる。日本も石化産業は太平洋岸の限られた地域に集中している。温暖化の影響を考えなければならない時期に来ている。

 

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