Categories: 業界情報

アメリカ成形業界状況(2024.11) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功技術士事務所
佐藤功

PFAS、木質系繊維、混錬強化、回転成形、多層フィルム

1.業界動向

1-1 全体状況

プラスチック産業も大統領選結果待ちのようで、動きは鈍い。記事がないのでハリケーンの影響はなかったようだ。国際的には中国経済の停滞の影響が懸念される。統計上、中国はプラスチック輸出国に転換した。汎用グレードを中心に供給過剰が必至だ。

1-2 個別動向

・Apolloがモルダーの買収を続けている
・混錬業者の再編が進んでいる。
・Covestro(旧バイエルの素材部門)が中東系のAdenocに買収された。
・Husky経営陣が交代した。
・海外企業の米市場参入を支援するPolymer Center of Excellence (PCE)が活動を強化する。
・リサイクル推進機関US Plastics Pactが活動を強化する。
・日用品の詰め替え容器システムzeroooが活動を開始した。標準ビンを用意し回収、使用履歴の提供などを行う。
・2023年に米国の工場で使用されている産業用ロボットは381,964台で、前年比10%増加した。
・Vilsa(独)が内側にガラス層をコーティングしたPETボトルを使い始めた。PETからの溶出を防止し、ガスバリア性が向上する。(編者注:温茶ボトル類似技術だと思われる)
・Plastics Technologyはオンラインサービス強化の一環で、関連コンテンツが利用しやすくした。

2.技術解説

2-1 PFAS対策

PFAS規制が多くの州で始まっているが、インフレ成形で使われているフッ素系の成形助剤はPFAS規制に抵触する可能性がある。Baerlocherの非フッ素系LLDPE用成形助剤Baerolub AID が材料メーカーの試験に合格した。この助剤はフッ素系に劣らない目ヤニ抑制効果、可塑化トルク削減、溶融樹脂温度低下効果がある。また、オレフィン可溶性なのでフィルムの透過率を向上させる。食品用途にも対応しており、他の添加剤との併用性があり、経済的にも有利だ。

2-2 木質系繊維の利用

生分解性樹脂に木質系繊維を添加することが広く行われている。最大60%添加されている例もある。添加により、もろくなるが、強度、剛性、耐衝撃性が向上する。またコストダウン、生分解性向上、環境負荷低減などの利点もある。
パルプはリグニンがのぞかれているので着色回避、食物接触規制対応が可能になる。

2-3 混錬強化による性能改善

Keith Luker がMolecular Homogenizer(MH)と称する混錬性の優れた単軸スクリューを発表した。このスクリューは国際特許を出願中で、ほとんどの熱可塑性樹脂で試験済みだ。L/Dが36で、高さの異なるフライトを有する3条ねじからなる混練部が7ケ所ある。

分散性が向上し、物性改善効果がある。例えば引張伸び、アイゾット衝撃強度が向上する。吸湿性の材料を予備乾燥しないで使うことが出来、水分が減少し、分子量が高くなる(編者注:ベントを併用していると思われる)。材料メーカー、混練業者での活用が期待されている。

2-4 射出成形の滞留時間推定法

射出成形では滞留時間の把握は成形機サイズの適正化。生産性向上、材料劣化防止等の観点から重要である。計算法は射出成形機の最大射出量を成形時の1回当たりの射出量で割り、これに要する可塑化時間を求めればよい。ただし、最大射出容量はGPPSをozで表示されているので、他材料の場合は溶融密度換算をする必要がある。

この計算にはシリンダー内の滞留は入っていない。必要な場合はスクリュー谷部の体積の実測、色替え時のパージ量からの推定などによって求める。

2-5 吐出量の制約要因

単軸押出機でサブフライト付きスクリューが使われることが多くなった。サブフライトが計量部への流れを制限し、流速が落ち、溶融材料が滞留することがある。この状態で長時間運転すると材料が劣化、谷部容積減少、ゲルなどの原因になる。

これを防ぐにはサブフライトの高さを先端に行くにしたがって下げ、容積減少を緩和すると良い。このデザインでも未溶融阻止効果は失われない。

3.ケーススタディ

3-1 太陽光利用回転成形機

Light Manufacturingは太陽光を集光ミラーで加熱する回転成形システムを開発した。最大8 m3のタンクが成形出来る。金型の回転を制御し製品各部の厚みによって給熱量を変えることも出来る。

必要な電力も太陽光発電するので電力が得られない地域でも設置できる。適地は陸地のほぼ半分ある。システムは要素ごとに2~3個のコンテナに収められているので、短時間で設置でき、移動も容易だ。

3-2 治水資材の開発

American Wick and Drain(AWD)は独自の治水資材を開発した。性能で差別化が出来ている。材料はすべてリサイクル材を使用している。生産の主力は押出成形と熱成形で、すべて内製している。製造拠点が東西にあること、主要製品は見込み生産をしている。これらによって全米をカバーしているだけではなく、輸出も行っている。

3-3 Tダイフィルムのインフレフィルム代替

Tダイで高性能多層フィルムを製膜してきたMalpackがWindmoeller製の多層インフレレインを導入する。これを機に農業フィルムの高性能化、薄肉化、再生材の積極的な活用を図る。

4.あとがき

今号のニュースから産業構造の変化が加速しているように見受けられる。原因の第一は米中対立によるグローバル経済体制分断だろう。環境問題の影響も大きい。動きが遅いと言われていたアメリカも本格的な動きを始めた。彼岸の動きがわが国に影響しないはずがない。引き続き注視していきたい。

 

10月号はこちら

plastics-japan

Recent Posts

K 2025まで1年(2025年10月8日から15日まで)

この記事はK2025の主催者に…

1か月 ago

アメリカ成形業界状況(2024.10) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功技術士事務所 佐藤功 成…

1か月 ago

N-PLUS 2024にブースを出します

N-PLUSについて N-PL…

2か月 ago

アメリカ成形業界状況(2024.09) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功技術士事務所 佐藤功 […

2か月 ago

アメリカ成形業界状況(2024.08) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功技術士事務所 佐藤功  …

3か月 ago

This website uses cookies.