アメリカ成形業界状況(2024.10) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功技術士事務所
佐藤功

成形工場トップ10、塩素化ポリエチレン、繊維強化性材料、ボトルモールダー、再生工場の作業環境

1.業界動向

1-1 全体状況

米景気はサービス業、ソフト産業がけん引しており製造業は苦戦している。USスチールで象徴されるように素材産業は衰退期に入っている。これを反映し、プラスチック加工産業指数も後退傾向が変わっていない。樹脂価格もモノマー価格を反映して多少上下することはあるが底値から抜け出せていない。中国をはじめとする海外の需要減退、供給量の増加の影響も懸念されている。

1-2 個別動向

・国立再生可能エネルギー研究所(NREL)がバイオ由来材料製の風力羽根の実用試験を進めている。
・NASA が絶縁材料として 三井化学製のAurum(熱可塑性PI) を検討している。
・安川電機がアメリカ拠点を拡充した。
・台風被災したBinmasterの復興が進み、再稼働した。
・Prismが廃タイヤ原料のカーマットを発売した。
・BorealisとInfiniumはCO2からポリオールを生産する技術を開発した。

2.Top 10

Top 10は雑誌社が毎年行っている下請け射出成形工場を対象にしたアンケート方式による経営調査だ。今回第8回目の結果が公表された。12か国の工場から応募があり、表1の13社(米8工場、インド2,カナダ、メキシコ、パキスタン各1工場、応募は)が選ばれた。選ばれた工場と他の応募工場の経営指標の比較を表2に示す。

表1 Top10工場(2024年)

表2 Top 10の経営指標

Top10の特徴は
・工程監視、作業自動化、検査自動化など様生な自動化手法を駆使してコストアップを吸収している。自動化は成形品精度向上、事故低減、品質向上、生産性向上などの副次効果も生んでおり、先行投資の動機付けになっている。
・金型のメンテは自社で行っている。過半の工場が自社で型製作をしている。
・後加工、付帯サービスが信頼性確保、値下げ阻止のツールになっている。
後加工としては、組立(61%)、溶着(46%)機械加工(38%)、表面装飾(15%)などを挙げている。 付帯サービスとしては、デザインサービス、製品試験(77%)、梱包輸送(88%)がある。
・環境対応は廃棄物削減、省エネ(電動化、照明LED化)、リサイクル、雨水利用などで成果をあげている。しかし、バイオベース/生分解性材料は使用されていない。性能と価格の改善がないと使えないとみている。
・Top10はコロナの影響から回復するのに最長18か月かかった。他工場では抜け出せていないところもある。

3.技術解説

3-1 プラスチック材料

成形技術の高度化には「高分子科学」が必須なので材料講座連載が再開された。

熱可塑性樹脂は「単純な繰り返し単位」をつないだ長い鎖状構造をしている。繰り返し単位が材料特性が決まる。炭素の鎖に水素だけが付いているポリエチレンは結晶性があり、水素の一部を塩素に代えた塩化ビニールは非結晶性だ。ポリエチレンの水素を段階的に変えていくと表3のようにガラス転移点が変化する。これは塩素の極性が分子間力を高めるためだ。塩化ビニールで使われている可塑剤は分子間力を下げる効果がある。

表3  ポリエチレンを塩素化した時のガラス転移温度の変化

3-2 繊維強化性材料射出成形品の性能向上法

繊維添加量、繊維の種類、マトリックス材料によって材料性能が変わる。繊維強化材料は性能の異方性がある。流動方向に強くなるが、成形条件によっては配向が異なる。繊維が長くなると補強効果が大きくなる。繊維断面を扁平にすると配向による性能異方性を減らすことが出来る。

成形中によって繊維が切断される。切断確率は成形条件に依存する。例えば圧縮縮化を下げたり、背圧を下げたりすると切断が減る。

上述したように材料選択、ゲート位置の選定、可塑化条件、ゲート位置決定などの最適化により、成形品性能を向上させることが出来る。

3-3 単軸押出機の樹脂温度引き下げ法

押出成形では樹脂温度を低くした方が有利だ。発泡成形では泡が均一になり、成形品表面が改善できる。パイプ、異形押出ではダイ出口以降の変形が減り、製品精度が向上する。フィルムでは膜厚バラツキが小さくなる。すべての成形で冷却時間が短縮出来、生産速度を上げることが出来る。

圧縮ゾーン、計量ゾーンのシリンダ設定温度を下げると樹脂温度は低下する。90mm以下の押出機では設定温度を10℃下げると樹脂温度は2~3℃程度低下する。吐出圧を下げることも有効だ。例えばスクーンの低圧損化がある。計量部の溝深さを深くすることも有効だ。吐出圧が下がりすぎて成形が困難になる場合はギアポンプによって昇圧する。

4.ケーススタディ

4-1 業態変換によるボトルモルダーの規制対応

小型ブロー容器メーカーCurrier Plasticsはホテル用シャンプーボトルの大手だった。ところが使い捨て批判で、大型の詰め替えタイプに移行し、売り上げも激減した。しかもポンプ機構は輸入品なので採算が悪化した。そこで同社の技術が活かせるヘルスケア向けカスタムボトル、医療用容器の分野に進出した。医用ボトルでは医用グレード、ヘルスケア部門ではPCR材料の使いこなしが求められた。さらには射出成形ブロー、延伸ブロー、クリーンルームの設置も必要だった。これらを達成し、売り上げの過半は新規分野が占めている。

4-2 粉砕の騒音とごみ対策

工具ハンドルメーカーのMayhew Basque PlasticsはPA66、ガラス繊維入りPA6、ガラス繊維入りPP等を使用している。成形スクラップは手動投入で粉砕をしており、オペレータは騒音と粉塵に悩まされていた。従来の粉砕が不十分なため再度粉砕が必要なこともあった。そこでローター回転を下げ冷却を強化し、遮音を強化したWittmann製の粉砕機を導入した。また。これにより破砕能力は落とさず、騒音、粉塵の発生を抑えることが出来た。

4-3 ボトル生産の合理化

PETボトルモルダーのBeermaster Brewery はPET Technologies製のAPF-Max 4Lを導入した。全電動2段式マシンは、0.2〜3Lのボトルを7,000bph生産出来る。また、型交換が20分でできる。

5.あとがき

アメリカのプラスチック産業は苦労が続いている。そんな中で、業績の優れた工場を選び出してその様子を伝えるというTop10の企画は意義深い。結果は予想通りで「やるべきことをきちっと実行する」ということだった。この結論は地域、時代に関係ない。各位の奮闘を期待したい。

 

9月号へ