アメリカ成形業界状況(2026.08) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功
佐藤功技術士事務所

6月のプラスチック加工産業指数は55.5と、前月から1.1ポイント低下したものの、この半年間は50以上の好況域が続いている。モルダーの最大懸念事項は人材不足から原料・エネルギーコスト上昇へ移り、樹脂価格は安定化に向かう兆しを見せる一方、INEOSのPS工場閉鎖は生産能力過剰の構造が続いていることを示唆する。個別動向では、PU二色成形、リサイクル材を使用した食品容器、ビスフェノールA規制対応、PFAS対策、EVバスバー被覆用PPSを紹介する。技術面では、押出成形機の流路設計、保圧切り替え、成形材料の温度特性、フィルムの細断、インフレ成形機の材料切り替え、AI活用を取り上げる。さらに、Omega Toolの取り組みと卓上型射出成形機を活用した多品種少量生産の事例から、成形工程設計の柔軟化を考える。

1.業界動向

1-1 全般状況

6月のプラスチック加工産業指数は55.5と対前月比1.1ポイント下がったが、この半年間50(好況域)以上が続いている。モルダーの最大懸念事項は人材不足から原料、エネルギーコスト上昇に移っている。樹脂価格は異常な高騰価格からの下落幅が縮小しており、安定化に向かっている感じがする。それでもINEOSはPS工場を閉鎖した。これは樹脂生産能力過剰の構造が変わっていないことを示唆している。

1-2 個別動向

  • 海天はHenneckeと協力して自動車部品産業向けにPU二色成形技術の提供を開始した。
  • Pure CycleとIPL Schoellerが共同でリサイクル材使用の食品容器を開発した。25%リサイクル材を使用しており、New Jersey, California州の規制、FDAに合致している。今月中にこれを使用した商品が発売される。
  • EastmanがビスフェノールA規制対応のため、チョコレート型用PCをTritan(コポリエステル)に代替した。
  • Borouge Internationalが食品包装用フィルムのPFAS対策用に非フッ素系添加剤を開発した。MBが今年後半に発売される。
  • EnvaliorはEVバスバー被覆用にヒートショックに強いPPSを開発した。150℃の使用に耐え、難燃性はUL V-0を肉厚2 mmで取得している。

2.技術解説

2-1 押出成形機の流路設計

押出機ヘッド/ダイス間流路サイズが成形トラブル、品質低下の原因になることがある。細すぎるとせん断発熱により劣化し、太すぎると長期滞留による劣化が起きる。圧力損失を20~30 kPa程度にすることが望ましい。圧力損失は使用材料、溶融温度、成形速度によって変わり、計算が可能だ。流路は曲がり部の曲率を大きくして滞留しないようにする。

2-2 保圧切り替え

射出成形機では、保圧切り替え時の溶融樹脂挙動を、制御変数を変えて調整している。使用条件が制御変数と合っていない場合は切り替え時にオーバーシュートやダウンシュートが大きく、安定するまでの時間も長くなる。実際の成形で、切り替え時の圧力がどんな挙動をしているかを調査することをお勧めする。

2-3 成形材料の温度特性

価格が高騰しており、材料変更の検討が盛んだが成功しないことが多い。いわゆる物性表は決められた方法で測定された値が記載されているにすぎず、実際に製品が使用される環境での値を示しているわけではない。例えば同じような弾性係数のm-PPEでも配合されているABSによって高温特性が異なる。高温性能の目安になるHDTは「特定の応力である量の曲げ変形が起きる温度」であり、実際の使用条件ではない。長期間使用しているとクリープ変形、疲労、材料劣化などが起き製品の不具合につながる。これらも同じ種類の材料でもメーカー、銘柄が異なれば同じではない。このため、材料変更は慎重であるべきだ。

2-4 フィルムの細断

フィルムの細断は過剰喰い込み、固着、ローターへの巻き付き、などのトラブルが生じやすい。これらを防ぐ刃の配列が重要だ。また、冷却して軟化させないこと、刃の鋭角、隙間を保つことが必須だ。

2-5 インフレ成形機の材料切り替え

インフレフィルム装置で複数の品種を製膜している場合、前材料が残っているとフィッシュアイや黒点などの原因になる。押出機サイドに多少残っていても混練部で分散され、不良の原因になることは少ない。

最も問題になるのはダイスのスパイラル流路部だ。この部分は通常の切り替えでは置換しにくい。この対策は停止後、スクリュー回転数を何回か急速に変えてパージを続けるとよい。高せん断力下でも粘度の落ちが少ないLLDPEやブロック防止剤入りグレードはパージ能力が大きい。

2-6 AIの活用

機械学習段階ではデータ解析からパターンを見つけだし、人間に似せた判断を下していた。ディープラーニングの時代に入り予測値と目標値との差異からモデルを最適化できるようになった。

AIの進化とデータ処理量、速度の飛躍的な向上により活用例が増えている。例えば材料選定では要求特性から可能性のあるポリマー構造を探し出すことが出来る。University of Wisconsin大学のYing Li教授は耐熱性と誘電特性を兼ね備えた材料を検討し約50000種のポリマーからビーカースケールで合成されただけのPSUを見つけ出した。この結果は2月のSPEで発表された。

AIの進展により、材料選定、成形品設計、成形条件設定などの分野でも、実験回数を減らし、最適解が短時間に得られるようになることが期待できる。

3.ケーススタディ

3-1 Omega Toolの挑戦

自動車部品用の金型メーカーOmega Toolは市場開拓に必要な最新の設備を入れるようにしている。試作用の450t、500t成形機や塗装ラインも保有している。

これらを駆使して型を提供するだけでなく、製品形状へのアドバイス、新加工技術開発なども行っている。例えば3DプリンタでCF長繊維補強PAを使用して試作を繰り返し、従来約159 kgあった自動車部品を68 kg軽量化するのに成功した。この部品は成形時間も10%短縮が出来た。

型製造にとどまらず、Krauss Maffeiと協力してPUを型内コーティングした部品の成形も行っている。

3-2 卓上型射出成形機の活用

自動車ラッピング用の工具は多品種少量生産で絶えずモデルチェンジがある。この工具メーカーWrap On Toolsは3Dプリンタで試作し、これで実用試験を繰り返す。形状が決まると金型を設計し卓上NC盤でアルミ型を作り、APSXの卓上射出成形機で成形する。成形機は型締力5 t、射出容量50 cm3あり、自動化されており成形技能は必要ない。必要なら型修正も迅速にできる。このため開発担当者が自ら製品成形まで行うことが出来る。これにより設計から出荷までの時間が大幅に短縮できている。

4.あとがき

ケーススタディで取り上げたWrap On Toolsの工程設計法は興味深い。米はHuskyのプリフォーム金型で代表されるような多数個取金型を大型成形機に搭載して大量生産することを得意としてきた。

Wrap On Toolsのような小回りを利かせて少量生産する場合はHusky流では対応できない。我が国も安価な量産品は海外生産が多く、このアプローチは注目してよい。

小型成形機も優れたものが出てきている。高度自動化、ホットランナノズルの組込み、カセット金型化などが進み使いやすくなっている。

コスト的に樹脂化をあきらめていた小ロット製品にも対応できる可能性がある。量産品でも取り数を少なくして金型トラブルを減らし、品質管理、生産管理を容易にするというアプローチもある。工程設計の柔軟化による成形工程のさらなる高度化に取り組んでいただきたい。