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ブッス混練技術とその進化

平井和彦
株式会社ブッス・ジャパン 代表取締役社長

1.はじめに

1940年代初めにドイツ人技師ハインツ・リスト氏は、画期的な単軸スクリュー往復動連続押出機の原理を発明した。当時リスト氏はドイツのI.G.Farbenindustie社のエンジニアリンググループの一員として勤務していたが、このグループに課せられた目標は、高粘度材料のプロセシングを連続で行う機械を開発することであった。そして第二次世界大戦が終わる前までに、リスト氏は単軸往復動押出機の基本コンセプトの研究に集中する為にスイスに移り住んだ。

そしてその基本コンセプトは、最初に1945年8月8日にスイス特許として、続いて1946年にUS特許及びドイツ特許として公開された。リスト氏の最初の論文としては、1950年にヨーロッパのプラスチック業界誌『Kunststoffe』に発表された。その後多くの研究者が単軸スクリュー往復動連続押出機の作動原理を研究したが、実際に論文として発表されたものは多くない。

図1 ハインツ・リスト氏とその特許

スイスのバーゼル近郊に本社を持つ1901年創業のBuss AG社は、1946年にリスト氏の参画により単軸往復動連続混練機ブッス・ニーダーの開発を開始した。当初は鋳物砂やミルクチョコレートの混練機を製造し、1950年以降は現在中心となっているアプリケーションであるプラスチック用、アルミ電極ペースト用、粉体塗料用などの連続混練機の導入を行い、それ以降約70年にわたり各業界における混練工程の生産性向上、製品品質向上に貢献してきた。また長年『コ・ニーダー(Ko-Kneader, 連続式ニーダー)』の名前と共にその実力は様々な業界において認知されてきた。

ブッス・ニーダーは温度やせん断に敏感な材料の混練には抜群の性能を発揮するため、二軸混練機で対応できない材料などの混練で、多くのユーザーの期待に応えてきた。硬質・軟質塩ビをはじめとして、ケーブル被覆やマスターバッチの製造で多くの顧客を獲得すると共に、日本の粉体塗料製造においてもその実力と信頼性は良く知られており、粉体塗料製造装置のデファクトスタンダードにもなっている。なおブッス・ニーダーは、その混練性能により一般的な単軸押出機とではなく、連続式のニーダーであり二軸押出機と比較されるべき混練機であると言える。(図2)

図2 混練押出機の分類

現在Buss AG社は、連続混練機の専業メーカーとしてスイス本社において製品の開発・製造を行い、海外では米国、日本、中国に販売・サービス子会社を持ってグローバルに展開している。これまでに全世界で3,400台以上を販売しているが、日本国内においてもすでに300台以上の販売実績があり、ブッス・サービスによる継続したメンテナンスにより50年以上前に導入した機械も含めて現在でも230台以上が稼働している状況である。

2.ユニークなブッス混練技術

ハインツ・リスト氏が発明したブッス・ニーダーは、単軸でありながら一般的な単軸押出機とは違いスクリューが単純な回転運動だけではなく、一回転する間に軸方向に一往復する動作を繰り返す仕組みになっている。

スクリューには複数の混練フライト(羽根)を持ち、混練ピンが混練フライトの開口部に対応するようにバレル内面に固定されている。スクリューの回転と往復動の組合せにより混練フライトと混練ピンとの間で高度な分散・分配・混合作用をもつ強力な延伸流動が起こる。これによってマトリックス材料及び添加剤の凝集が崩壊する。径方向と軸方向の混合効果の組合せの結果、効率よい分配混合が行われ混練部の最終部分では均質的な混練を確実に行うことができるようになっている。

図3 ブッス・ニーダー混練の基本的な仕組み

混練において非常に重要なせん断勾配は混練ピンと混練フライトの側面で作り出される。ここで重要なのは、せん断ギャップ(Si)で、フライトピッチ全体にわたって均一になっている。この技術的特徴のおかげで、混練される材料は、非常に均一で穏やかなせん断力を得ることができるため、局所的な発熱や過度なせん断による材料のダメージを防ぐことができる。そのような理由から、ブッス・ニーダーは、あらゆる種類の温度とせん断に敏感な材料の混練の為の最良の選択肢として確立されてきた。

更にブッス・ニーダーは、スクリュー径に比例したせん断ギャップを持つ唯一の連続混練押出機であるため、せん断勾配は機械のサイズに関係なく、スクリュー回転速度に常に比例している。二軸混練機、特に同方向回転二軸混練機では、小型サイズの機械と大型サイズの機械では、回転速度によりせん断速度に大きな違いがでるが、ブッス・ニーダーにおいては、この違いが非常に小さくなる。このため、様々なサイズの機械へのスケールアップと混練条件の移転が非常に容易にできるという利点がある。

図4 せん断速度は回転速度にのみ比例

また混練ピンの周りを混練フライトがこすり合うようなかたちで通過しているので、セルフクリーニングの機能も持っている。またバレルが左右に120°大きく開く構造であるため、クリーニングやスクリューのメンテナンスのために、二軸押出機のように重いスクリューを引っ張り出す必要もなく、簡単に作業を行うことができる。スクリューもエレメントに分かれており、簡単に交換や位置の変更が可能である。

写真1 バレルが開閉するためメンテナンスが容易

ブッス・ニーダーにおける混練ピンは、常にバレル内面に固定されているが、こちらもさらなる進化を遂げている。混練ピンの先に液剤注入の為の貫通穴が付き、先端部に逆止弁機能を持たせたものもオプションで用意されているため、液剤を溶融した材料の中に直接注入が可能で、液体がバレルの内壁を覆い高熱により焼き付くこともなく、より効果的な混練がプロセスのあらゆる場所で可能となっている。

図5  液剤注入用混練ピン

一般的に温度測定はバレル部に設置した温度センサーにより、混練中の材料の外側の温度を計測することは可能である。それに対してブッス・ニーダーは、混練ピン内に熱電対(温度センサー)を内蔵したタイプもオプションで用意されており、その混練ピン自体が混練中の樹脂に囲まれるため、その測定された温度は樹脂温度と同じか極めて近いものとなっている。

この熱電対付き混練ピンを複数配置することにより、プロセス中の温度分布や温度勾配も極めて正確にモニターできる。これは温度に敏感な材料の混練において、プロセスコントロールが正確にできるということである。

図6  温度センサー内蔵混練ピン

ブッス・ニーダーでは、バレル内の圧力を低く保つことが可能で、また非常に大きな自由容量を持つため、フィラーの充填率を非常に高くすることが可能である。2または3か所に供給口を分けたり、サイドフィードスクリューなどの供給方法の採用、フィラーの重量による独立供給、バックベントによる混入した空気の除去、優れた搬送効率などにより、非常に高充填のフィラー投入が可能である。

例えば金属フィラーでは最大94 wt%、無機フィラーでは85wt%、水酸化アルミニウムなどノンハロゲン難燃剤でも70wt%の充填率となっている。このため、二軸混練機では難しかったフィラーの高充填が可能となる。

さらに揮発性物質は通常、バレルの終端部か押出ユニットに追加された真空脱気装置により除去されるが、ブッス・ニーダーが実現した多数の混練サイクルや亀裂、曲げにより、常に混合材料の表面が再生され、空気や揮発性物質閉じ込めを極めて効率的に抑制すると共に、水蒸気も効果的に排出することが可能である。

以上のようにオリジナルのユニークな技術とその長年にわたる改良と進化により、ブッスの混練システムは、一般的な二軸混練機に比べて以下のような優位点がある。

 均一で適度なせん断率により、材料の損傷が少ない
 緻密な温度コントロールで局所的な発熱を抑えられる
 多種多様な材料・添加剤の投入が可能
 効果的に液剤を導入できる
 フィラーなど高い充填率
 簡単メンテナンス・クリーニング
 スケールアップが容易

3.マルチ対応の新型連続混練機COMPEO(コンぺオ)

2018 年に発表されたCOMPEOシリーズは、熱可塑性樹脂、強化プラスチック、エンジニアリングプラスチック、マスターバッチからエラストマー、ゴムに至るまで一台で様々な用途に対応し幅広い作業工程に対応できるよう、高い柔軟性・堅牢性とともに作業工程の安定性向上を実現した。

操作性の向上やオペレーターの安全性向上にも配慮しながら、さらにエネルギー効率の改善による運転コストの削減にも重点を置いて開発された。またモジュールシステムの採用により、各用途それぞれのコンパウンディング方法に最適な構成が可能となった。

写真2 ブッス新型混練機COMPEO外観

その基本構成(写真2)においては、2箇所の材料供給部があり、ポリマー・添加剤およびフィラーは第1供給ゾーンから投入され加工部に運ばれる。続いてポリマーは溶融ゾーンで溶かされ、添加剤と混ぜ合わされることになる。第2供給ゾーンにおいてはフィラーが更に追加され、均一に混ぜ合わされながら下流工程の混合部へ運ばれる。そして脱気ゾーンにおいて揮発性物質と混入した空気が取り除かれ、押出ユニットへ運ばれることになる。その際の加工部の長さ、フィーダーの種類と数、温度・脱気方法・加工部形状は、それぞれのコンパウンディング用途に合わせ最適な形に組み合わせる事ができる。

図7 COMEPOプロセス加工部

柔軟な組み合わせを可能としたCOMPEO のプロセス加工部では、スクリューの羽根を2枚から3枚、4枚、6枚まで選択できる混練エレメントが採用され、さらにさまざまな混練への対応が可能となった。つまり、これまでのスクリュー技術(3枚または4枚フライト)に新開発の2 枚及び6 枚羽根のエレメントを組み合わせることで、さまざまなアプリケーションへの対応力が向上すると共に、高い処理能力と投入エネルギーの抑制という、これまで相反してきた2つの大きな課題を同時に解決することが可能となる。

混練フライトの形状は、材料が流れていく過程全般において、混練フライトと混練ピン間のせん断ギャップが一定に保たれるように、自由局面加工をベースに設計されている。これにより、材料にかかるせん断応力を均等にすることが可能となり、局所的な温度上昇のリスクを排除できることになる。このように、新しいスクリュー形状と原材料供給工程の改良などを組み合わせることで、生産量を旧モデル対比20%も向上させることに成功した。

加工部のはじめにある原材料供給口(図7)の長さを、スクリュー軸径比4L/D取ることにより、より多量で多種の材料を自由落下で供給することができるようになる。加えて、混入空気を排出するダクトを供給部に取り付けたことにより、供給部充填容量が増加しギアボックスシールへの負担がより軽減される。

さらに複数台の計量器により充填されるホッパーの代わりに、垂直スクリュー付きホッパーやサイドフィーダーを使用することも可能となっている。このように新しいスクリュー形状と原材料供給工程の改良などを組み合わせることで、生産量を旧モデル対比20%も向上させることに成功た。またトルクも容量比で15%向上し、その結果従来よりも長い混合部を配置することが可能となった。これらの改善により、エネルギー効率を犠牲にすることなく、加工安定性が向上した。

写真3 120度開くバレルによりメンテナンスが容易

COMPEOはこれまでの機種に比べ、回転スピードと吐出量の設定範囲が極めて広くなっている。そのため、スクリュー構成を変えることなく吐出量を最小から最大まで1:6の比で変化させることができ、例えば機械の起動時やサンプル製造など小ロットの作業にも対応できるなど、製造の柔軟性はもとよりユーザーにとって使い勝手の向上も期待できる。

また、COMPEOの設計には人間工学・メンテナンス性・省エネ性能などに、大きく配慮がなされた。例えば配線やケーブルは、簡易清掃性を考えてパネルの後ろに配置され、ギアボックスは防音フードで覆うなど、操作時の安全性も向上させている。さらに、エネルギー損失を最小化するため、混練部のバレルを断熱材で覆う形とした。使用されているモジュールもあらかじめ標準化されているため、旧機種対比で最大30%ものコスト削減を実現し、また加工部に高い耐摩耗性を持つ表面強化材を使用したことで、補修部品の交換などメンテナンス費用も最小限に抑えられる。

ブッス・ニーダーは全ラインナップをモジュラー化して設計されているので、あらゆる要求に容易に適用させることができ、また1つのスクリュー構成でさまざまな配合のプロセスに対応することができる。これは多くの他の二軸や多軸混練システムと比較してプロセス長が半分程度と短くなっていることや、調整可能な適度なせん断力、スクリュー構成の高い柔軟性によるものである。

4.おわりに

2018年にブッスは、様々なアプリケーションに対応できる新型混練機COMPEOを発表した。温度に敏感な熱硬化性樹脂から極めて高温のアプリケーションに対応するエンジニアリングプラスチックや熱可塑性エラストマーに至るまで、多種多様なコンパウンディング作業に応じて最適化された混練ラインの提供が可能になったが、様々な幅や厚さのフィルム及びシート用の塩ビの混練でも、特に優れた性能を発揮する。

ブッスの強みは、混練加工プロセスにおいて顧客や製品ごとにソリューションを提供できることにある。技術的な市場ニーズがより高いレベルになってきているのと同様、加工プロセスや製品品質の向上も必要不可欠となっている。ブッスの製品の高い性能と費用対効果は、『Swiss Quality』という言葉に集約されており、これによって最高品質の混練技術のメーカーとなっている。

図8 新型混練機COMPEOによる混練システム例

参考文献

1. Stefan Nägeleほか “コンパウンディング-4-フライトブッス・ニーダ技術“(『PALSTICS AGE ENCYCLOPEDIA 進歩編2013』プラスチック・エージ社刊)

2. Wolfgang Walterほか “より多様化した混練フライトによる先進的なコンパウンディングシステムの開発” (『Kunststoffe International誌』2018年5月号)

 

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