秋元英郎
秋元技術士事務所
樹脂の語源は樹木から分泌される樹液が固まった天然樹脂に由来するが、その後石油から合成された高分子のことを合成樹脂と称し、合成樹脂のことを略して樹脂あるいはプラスチックと称するようになった。
プラスチックを大別すると、熱硬化性プラスチックと熱可塑性プラスチックに分類される。現在、我が国における熱硬化性プラスチックの生産量は熱可塑性プラスチックの約10分の1程度の規模である。
本稿では、熱可塑性プラスチックについて、代表的なものを紹介し、特徴と用途を説明する。解説のレベルは成形技能士1級の学科試験レベルを想定して書いている。
熱可塑性プラスチックは、セルロイド以外は熱硬化性プラスチックから遅れること30年後の1930年代からポリエチレン、ポリ塩化ビニルなどが市場に登場し、その後成形加工性の良さから市場を拡大してきた。ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネートなどのエンジアニリングプラスチック(エンプラ)は1950年代から市場に登場し、工業部品用途に広く使用されるようになった。
熱可塑性プラスチックは加熱すると溶融し、冷やすと固まるが、再び加熱すると溶融するので、「チョコレート型」とも呼ばれる。
熱可塑性プラスチックは、線状高分子の集合体である。また、分子は長いものから短いものまで分布(分子量分布)を持っている。
熱硬化性プラスチックと比較すると、熱可塑性プラスチックの一般的長所は次の通りである。
① 生産性がよい。
② 設計の自由性がある。
③ 射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形などいろいろな成形法を適用できる。
④ リサイクルが容易である。
一方、一般的短所は次の通りである。
① 強度・剛性は低い。
② 耐熱性が低い。
③ 耐薬品性が良くないものがある。
プラスチックの略称はJISで定められている。
<参考情報:JIS K6899-1:2015プラスチック−記号及び略語>
汎用プラスチックは成形し易く比較的価格が安いので、多量に消費されているプラスチックである。エンジニアリングプラスチック(エンプラと略す)は強度が50MPa以上、耐熱性が100℃以上のものである。自動車・車両、電機・電子、事務機器、精密機器などの工業部品として多く使用されていることからエンプラと称するようになった。特に、エンプラの中でも耐熱性が150℃以上のものをスーパーエンプラまたは耐熱エンプラと称している。
PEはエチレンを原料(モノマー)として作られたプラスチックである。PEは製造法によって密度に違いが生じるので、JIS K6922では下記のように高密度、中密度、低密度の3種類に分類している。
低密度ポリエチレン(PE-LD)密度:0.910~0.929
中密度ポリエチレン(PE-MD)密度:0.930~0.941
高密度ポリエチレン(PE-HD)密度:0.942~
低密度PE(PE-LD)の特徴は次の通りである。
① 比重は0.910~0.929で、結晶化度は60%程度である。
② 衝撃強度は高く耐寒性も優れている。
③ 耐水性、耐薬品性に優れ、水蒸気、酸素などの透過性は低い。
④ 電気的特性は優れている。
⑤ フィルムは透明性がある。
低密度ポリエチレンは高圧法によって製造されるPE-LDと低圧法でエチレン以外のモノマーとの共重合によって製造される直鎖状低密度ポリエチレン(PE-LLD)に分かれる。
高密度PE(PE-HD)の特徴は次の通りである。
① 比重は0.94以上で、結晶化度は90%程度である。
② 強度・剛性は高い。
③ 耐水性、耐薬品性は優れ、水蒸気、酸素などの透過性は低い。
④ 電気特性は優れている。
⑤ フィルムは半透明である。
性能上の注意点としては接着性や印刷性が良くないことがある。
中密度ポリエチレン(PE-MD)は直鎖状低密度ポリエチレン(PE-LLD)と同様の製法で製造される、より高密度なPEである。
超高分子量PE(PE-UHMW)は分子量が100万以上のものであり、通常の射出成形や押出成形では溶融粘度が高くて成形が困難であるので専用の成形機で成形されている。PE-UHMWは耐摩擦摩耗性、耐衝撃性、耐薬品性などが優れている。
PEの一般的な成形方法としては射出成形、押出成形、ブロー成形、熱成形、回転成形などを適用できるので、幅広い用途に使用されている。
代表的な用途は次の通りである。
・射出成形用途:コンテナ、バケツ、文具
・ブロー成形用途:洗剤、食品、灯油などの容器
・フィルム:食品包装、農業用、土木建材
・その他:電線被覆、パイプなど
超高分子量PEには高強度繊維の用途もある。
PPにはホモポリマーとコポリマーがある。ホモポリマーはプロピレンを原料として単独重合したものである。コポリマー(正確にはランダムコポリマー)はプロピレンを主モノマーとし、エチレンと共重合したものである。コポリマータイプはホモポリマーより結晶性が低く透明性に優れている。メタロセン触媒を用いて製造されたコポリマーはより均一で透明性に優れる。
耐衝撃性が求められる場合には、ホモポリマーにエチレンとプロピレンからなるゴムをブレンドするか、製造工程中でPPのホモポリマーとエチレンプロピレンゴムが混ざった状態で製造される耐衝撃PP(PP-HI)が用いられる。耐衝撃PPはあたかもPPホモポリマーとエチレンプロピレンゴムがブロック共重合させているかのような特性を持つことから、一般にはブロックPPと呼ばれることも多い。
PPの一般的特徴は次の通りである。
① 比重は0.9であり、プラスチックの中では最も低い部類に属する。
② 結晶化度は約40~75%と高いので強度・剛性は大きい。
③ 耐衝撃性が優れている。
④ 耐摩耗性、耐熱性、耐水性、耐薬品性などの特性は優れている。
⑤ 水分や酸素の透過性は低い。
一方、性能上の注意点としては塗装、印刷、接着性が良くないことがある。
PEと同様に、いろいろな成形方法を応用できるので射出成形品、フィルム、モノフィラメント、繊維、押出品、ブロー品などいろいろな分野に応用されている。
代表的な用途は次の通りである。
射出成形関係:冷蔵庫トレイ、洗濯機水槽、自動車部品(バンパー、インパネ、ドアトリム等)、コンテナ
押出関係
フィルム:スナック菓子、インスタント食品、マヨネーズなどの包装用
シート:食品トレイ
延伸用途:ロープ、人工芝
繊維用途:カーペット、フィルター
その他の押出品:弁当のトレイ、ストロー、ダンボール
PVCは塩化ビニル(塩ビモノマー)を重合して作られる。PVCは塩ビと呼ばれることもある。PVC自身は熱安定性、成形性などに難点はあるが、熱安定剤、可塑剤などの添加剤を加えることによって、特性を改良することができる。可塑剤無添加あるいは少量添加の硬質PVC、可塑剤を多く含む軟質PVCがある。
基本的な特徴は次の通りである。
①透明性が優れている。
②耐薬品性がよい。
③難燃性である。
④可塑剤の添加量によって軟質から硬質まで幅広く改質できる。
⑤押出加工性が優れている。
⑥高周波溶着性がよい。
性能上の注意点としては熱分解すると塩素系ガスが発生すること、可塑剤を含むグレードについては可塑剤が相手材への移行が起こる可能性があることなどがある。
用途については射出成形以外に、特に押出加工性が優れていることからフィルム、シート、パイプなど、いろいろな用途に使われている。また、リサイクルが進んでいる材料であり、リサイクルの優等生と言われている。
軟質製品:農業用フィルム、壁紙用レザー、車両用レザー、ガスケット類、ホース類
硬質製品:パイプ、継手、波板、建材サッシ
PSはスチレンを重合して作られる。スチレン系樹脂には、大別して一般用GPPS(PS-GP)、高衝撃用HIPS(PS-HI)、AS樹脂(SAN)の3種類がある。
スチレンのホモポリマーは、一般にGPPSと呼ばれ、次のような特徴がある。
① 透明である。
② 吸水率は低く、寸法安定性が優れている。
③ 着色性が良い。
④ 衝撃に弱い。
⑤ 耐油、耐溶剤性は良くない。
また、PSは射出成形機の射出量を表す標準のプラスチックとして使用される。
用途としては、カセットケース、食品容器(主に真空成形)、家庭用品などに使用されている。
ポリスチレンの主要用途に発泡製品がある。発泡ポリスチレン(FS)は軽量性、クッション性、断熱性などが優れ、かつ真空成形性もよいことから容器類、その他に多用されている。例えば、食品トレイ、使い捨てカップ、住宅の断熱材、保冷容器などに使用されている。
発泡ポリスチレンにはビーズ発泡ポリスチレン(EPS 一般に発泡スチロール)、薄肉発泡シート(SPS 主に真空成形でトレイに成形される)、厚肉発泡シート(XPS 断熱材)がある。
PSにブタジエンゴム成分を加えたものはハイ・インパクト・ポリスチレン(HIPS)と呼ばれる。HIPSは透明ではないが耐衝撃性が優れている。用途としては、エアコンなどのハウジング、事務機器、食品容器などに使用されている。
AS樹脂は、スチレンとアクリロニトリルを共重合した樹脂である。AS樹脂はSANともいう。AS樹脂は、PSの性質を改良した樹脂として用いる場合と次項で述べるABSの原料として用いることがある。
AS樹脂は透明性に優れ、PSに比較すると次の特徴がある。
① 強度・剛性が高い。
② 耐薬品性が優れている。
このような特徴を活かしてバッテリケース、扇風機の羽根、カセットテープのハウジング、ランプカバー、文房具などに使用されている。
ABS樹脂はアクリロニトリル(AN)、ブタジエン(BD)、スチレン(ST)の頭文字をとって名づけられている。実際には上述のAS樹脂にゴム成分であるポリブタジエンを加えた材料(ポリマーアロイ)である。製造プロセスはメーカーによって異なる。
ST成分を多くすれば流動性はよくなる。BD成分を多くすれば衝撃強度は大きくなる。ABSの性質は、ANの強度・剛性や耐薬品性、STの成形性や良表面外観、BDの耐衝撃性などの特長を合わせもつ、物性バランスのとれた樹脂である。また、ABS樹脂は化学めっきできるという特長もある。
性能上で注意すべき点としては、耐候性があまり良くないことがある。
ABSの用途としては、自動車用途(センターコンソール、ランプカバー)、電気用途(エアコンハウジング、掃除機ハウジング)、雑貨(アタッシュケース、便座)などがある。
ブタジエンゴムの代わりにアクリル系のゴムに替えることで、透明な材料も得られている。透明ABSとして売られている。
メタクリル樹脂はポリメチルメタアクレート、ポリメタクリル酸メチルなどとも呼ばれる。PMMAはメタクリル酸メチルを重合して作られる。一般的にはアクリル樹脂と呼ばれることも多い。
PMMAは次の特徴がある。
① 透明性に優れ、光学的性質に優れている。
② 耐候性が優れている。
③ 外観、表面光沢が優れている。
④ 表面硬度(耐擦傷性)が優れている。
⑤ シートは熱加工性がよい。
これらの特徴から、射出成形以外のシートの用途でも無機ガラスの代替や装飾用途にも使用されている。性能上で注意すべき点としては燃えやすいこと、吸水しやすいことなどある。
射出成形用途では、優れた透明性を活かし自動車用途(テールランプレンズ、メータカバー、リヤパネルなど)、家電・機械用途(カバー類、銘板、レンズ、照明カバー)などに使用されている。
一方、シートについては、メタクリル酸メチルから直接シートをつくるモノマーキャスト法や押出機で直接シートにする押出法がある。モノマーキャスト法では、分子量の高いシートが得られるので、強度的に優れているという特長がある。例えば、軍用航空機の風防ガラスに使用されている。水族館では厚み600㎜で使われている例もある。
PAはナイロンとも呼ばれている。「ナイロン」という名称は元々商標であったが、現在では一般名称として使われている。主鎖がアミド結合でつながっている。
PAは原料(モノマー)によって、いろいろな種類があるが、最も多く使用されているのはポリアミド6(PA6)とポリアミド66(PA66 ぴーえいろくろく)である。PA6はεカプロラクタムを原料とする。PA66はアジピン酸とヘキサメチレンジアミンを原料とする。
PA6よりPA66は結晶化度が高いため強度・剛性は大きい。また、PA66の方がPA6より融点が高いため、耐熱性に優れる。
PA6およびPA66の一般的特徴は次の通りである。
① 強度・剛性が大きい
② 疲労強度が大きい
③ 耐油性、耐溶剤性などの耐薬品性が優れている。
④ 摩擦摩耗性が優れている。
⑥ ガラス繊維を充填すると強度・剛性が大幅に向上する。
⑦ガスバリア性が優れている。
一方、使用上の注意点は吸水しやすく吸水により強度や寸法が変化しやすいことがある。
用途としては射出成形品(自動車インテークマニホールド、ガソリンタンク、電動工具ハウジング、自転車リム)、押出成形品(つり糸、食品包装フイルム)、ブロー成形品(ガソリンタンク)などがある。
POMはポリオキシメチレンとも呼ばれる。原料はホルマリンから作られる。主鎖がエーテル結合でつながっているポリエーテルである。
POMにはホモポリマーとコポリマーがある。ホモポリマーは結晶化度が高いため強度・剛性が大きい。一方、コポリマーは成形時の熱安定性が優れている。
POMの一般的特徴は次の通りである。
① 自己潤滑性であり、摩擦摩耗性が優れている。
② 耐疲労性が優れている。
③ 耐油性、耐薬品性が優れている。
ここで、自己潤滑性とは給油しないでも潤滑性を保持できる性質をいう。
一方、使用上の注意点は燃えやすい、耐候性は良くないなどである。
用途としては自動車(ワイパーギア、燃料フィルターケース)、雑貨(ファスナーの虫、ハトメホック)、機械・建材(歯車、カム、戸車)などがある。
PCはビスフェノールAを主原料として作られるポリエステル樹脂である。「カーボネート」とは炭酸エステルの意味である。
PCの一般的特徴は次の通りである。
① 透明である。
② 耐衝撃性が優れている。
③ 耐熱性が優れている。
④ 寸法安定性、寸法精度が優れている。
⑤ 自己消火性である。
⑥ 耐候性はよい。
一方、使用上の注意点は耐温水性、耐溶剤性などは良くない、耐疲労性は良くないなどがある。流動性が良くないことも欠点であり、ABS樹脂とのポリマーアロイであるPC/ABSとして使用されることも多い。
用途としては、光学用途(CD・DVD基板、メガネレンズ、光学レンズ)、自動車(ヘッドランプレンズ、アウタードアハンドル)、電機・電子(携帯電話ハウジング・バッテリーケース)などがある。
また、透明性、耐衝撃性などを活かして、押出成形によるシートにも使用されている。用途としてはカーボートの屋根、高速道路の透明フェンス、自動車メータの銘板などがある。
PPEは2,6-ジメチルキシレノールを主原料にして作られるポリエーテル樹脂である。PPE単独では成形性がよくないため、他のプラスチックとアロイにしている。このようにアロイにした成形材料を変性PPE(mPPE)と呼んでいる。
PPEの相手アロイ材としてはHIPS、PA、ポリオレフィンなどがあるが、最も多く使用されているのはHIPSとのアロイ材である。一般的にはmPPEはPPE/HIPSアロイのことをいう。
このmPPEの一般的特徴は次の通りである。
①アロイ材の配合比率によって、耐熱性と流動性を変えることができる。
②難燃剤の配合による難燃化しやすい。
③寸法安定性、寸法精度が優れている。
④耐温水性、耐酸、アルカリ性が優れている。
一方、使用上注意すべき点は耐油性、耐溶剤性はよくないことなどである。
用途としては、事務機器用途(LBPシャーシ)、電機・電子(アダプターケース、端子類)、自動車(コネクタ、ホイールカバー、インパネ)などがある。
PBTはテレフタル酸(またはテレフタル酸ジメチル)とブタンジオールから作られる結晶性のポリエステル樹脂である。
PBT単独では成形材料としてそれほど特長がないので、ガラス繊維で強化したタイプが成形材料として使用されている。一般にPBTはガラス繊維で強化した材料のことをいう。ただ、強化していないPBTは、一部の射出成形品や押出用途に使用されている。
PBT(ガラス繊維強化品)の特徴は次の通りである。
①強度、剛性が大きい。
②クリープ特性が優れている。
③耐熱性がよい。
④難燃剤により難燃化が容易である。
⑤寸法安定性、寸法精度が優れている。
⑥耐油性、耐溶剤性がよい。
⑦電気的特性(耐アーク性、耐トラッキング性)がよい。
一方、使用上の注意点としてはガラス繊維を充填した材料であるのでウェルド強度、金型やスクリュの摩耗などに注意する必要がある。
用途としては自動車(イグニッションコイルカバー、コネクタ)、電機・電子(蛍光灯部品、コンセント部品)などがある。非強化品の押出フィルムではPETボトルのラベル用熱収縮フィルムなどがある。
PET樹脂は結晶性ポリエステル樹脂であるが、結晶化が非常に遅く、非晶状態で使用されることが多い。PETの代表的な製造方法は、テレフタル酸とエチレングリコールによる脱水縮合重合やテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールの脱メタノール縮合重合から作られる。
PETは繊維、フィルム、ボトルなどに多く使用されており、射出成形材料の使用比率は、PET全体の約3%程度である。ポリエステル繊維はPET樹脂を繊維にしたものである。PETボトルはPETボトルをブロー成形して製造される。PET樹脂のシートは真空成形されて、卵パックなどで用いられる。PETのフィルムは印刷され、多層化されて食品等の包装フィルムに用いられている。
非強化PETは射出成形品としては特長がないので、PBT同様にガラス繊維で強化した材料が使用されている。なお、PETボトルの製造過程で、延伸ブロー成形を行うためのプリフォームは射出成形によって成形される。
ガラス強化PETは次の特徴がある。
①強度、剛性が高い。
②耐熱性はPBTより優れている。
③難燃剤で難燃化できる。
使用上の注意点はPBTと同様であるが、PBTより結晶化速度が遅いので金型温度を高温にしなければならない。また、成形前に十分に乾燥しないと成形時に加水分解を起こす。
射出成形品の用途としては電子レンジ部品、コイルボビン、アイロン断熱板、ホットプレート部品などがある。
スーパーエンプラは連続使用温度が概ね150℃以上の高耐熱高剛性のプラスチックの総称であり、高融点の結晶性プラスチック、高ガラス転移温度の非晶性プラスチックの両方がある。
PPSはパラジクロルベンゼンを主原料とする結晶性プラスチックである。PPSとしては分子構造によって分岐型PPS(架橋型と呼ばれている)、直鎖型PPS(リニア型)などがある。
PPSの特徴は次の通りである。
① 荷重たわみ温度は260℃と、耐熱性が優れている。
② 強度・剛性が高い。
③ 耐薬品性、耐水性が優れている。
④ 難燃性である。
⑤ 摩擦摩耗性が優れている。
これらの特性を活かし、用途としては自動車(バルブ、ディストリビュータ部品)、機械(歯車、ピストンリング)、化学機械(ポンプハウジング、ポンプ羽根)などに使用されている。
欠点は射出成形時にアウトガスが出やすい事、バリが発ししやすいことである。
PSUはビスフェノールAとジクロロフェニルスルホンを主原料とするプラスチックである。
特徴は次の通りである。
① 透明である。
② 耐熱性が高く、難燃性である。
③ 耐酸性、耐アルカリ性が優れている。
④ 耐温水性がよい
用途としては、自動車(ヒューズボックス、ランプ部品)、電機・電子(ICコネクター、ソケット類)、雑貨(コーヒメーカー)、医療(動物飼育箱)などがある。
PARには芳香族環を鎖に持つポリエステル樹脂であり、いろいろな種類があるが、一般に使用されているのは、ビスフェノールAとテレ/イソ混合フタル酸からつくられたものである。
PARの特徴は次の通りである。
①透明である。
②耐熱性が優れている。
③強度、剛性が高く、特に耐クリープ性がよい。
このような特徴を活かして次の用途に使用されている。
電機・電子用途(スライダースイッチ)、自動車(フォッグランプレンズ)、医療・食品(目薬容器、食品容器)
LCPは、パラヒドロキシ安息香酸又はパラアセトキシ安息香酸などを主原料として作られたポリエステル樹脂である。
LCPは溶融状態においても、一部配列した分子の集合体(液晶)が存在するという特徴がある。溶融樹脂を金型に射出すると液晶が流れ方向に配列することで流れ方向の強度が大きくなるので、自己補強型プラスチックと呼ばれる。
LCPは荷重たわみ温度によって、タイプⅠ、Ⅱ、Ⅲの3つに分類されている。
Ⅰ:荷重たわみ温度 300℃以上、ディップはんだ対応
Ⅱ:荷重たわみ温度 250~270℃、1.5型鉛フリーはんだ対応、SMTはんだ対応
Ⅲ:荷重たわみ温度 230℃以下、はんだ耐熱性なし
LCPの特徴は次の通りである。
①強度・剛性が高い
②荷重たわみ温度は200℃~300℃以上までカバーする耐熱性を有している。
③薄肉流動性がよい。
④難燃性である。
⑤寸法安定性が優れている。
⑥ガスバリア性が優れている。
注意点としては強度、成形収縮率、線膨張係数などの異方性が大きいことがある。
用途としては、電機・電子(SMTコネクター、ICソケット)、OA・AV(スピーカコーン、CDピックアップ部品、自動車(エンジン周辺部品、燃料周辺部品)などがある。
PEEKはハロゲン化ベンゾフェノンとハイドロキノンから作られる。結晶性プラスチックであり、結晶融点は334℃、ガラス転移温度は143℃である。
特徴は次の通りである。
①機械的強度、特に耐クリープ性、耐疲労性が優れている。
②耐熱性はスーパーエンプラの中で最高レベルにある。
③難燃性である。
④耐熱水性、耐薬品性に優れる。
⑤ガンマー線などの耐放射線性に優れる。
用途としては熱水ポンプハウジング、ベアリングリテーナ、パッキン、半導体ウェハーのマガジンなどに使用されている。
PFAは分子中にふっ素原子をもった樹脂の総称である。PFAとしてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)などがある。
一般に流動性が悪く射出成形はできないが、成形できるように改良した材料もある。例えば、テトラフルオロエチレンーエチレン共重合体(ETFE)がある。
特徴は耐熱性、耐薬品性、耐候性、耐摩耗性、電気特性などが優れていることである。
用途としてはパッキン、ガスケット、ライニング、半導体ウエハーキャリアなどがある。成形方法としては、押出成形、射出成形、回転成形、焼結成形などがある。
熱可塑性エラストマーとは加熱すると溶融して成形でき、冷却固化するとゴムのような弾性を示すプラスチックである。
熱可塑性エラストマーは分子の動きを拘束する硬い成分(ハードセグメント)と分子の動きが容易な軟らかい成分(ソフトセグメント)からなっている。固化した状態では、ハードセグメントが疑似的な架橋点になる。加熱するとハードセグメントが溶融するため成形加工できる。冷やすとハードセグメントは固まり、ソフトセグメントが弾性を示す。
熱可塑性エラストマーの種類としてはハードセグメントとソフトセグメントの組み合せによってポリオレフィン系、ポリスチレン系、ポリ塩化ビニル系、ポリエステル系、フッ素樹脂系などがある。
熱可塑性エラストマーは射出成形や押出成形ができることから、自動車、電気・電子、医療器具などの用途に使用されている。用途としてはシューズ底、フレキシブルチューブ、コンベアベルト、パッキン類などがある。
生分解性プラスチック(グリーンプラ)と植物由来プラスチック(バイオマスプラスチック)は別の概念である。また、どちらも環境に優しいという観点から両者を合わせてバイオプラスチックと呼ぶ。
生分解性プラスチックはグリーンプラとも呼ばれ、環境にやさしいプラスチックとして注目されている。生分解性プラスチックは、「使用中は通常のプラスチックのように使えて、使用後は自然界で微生物によって水と二酸化炭素に分解され、自然に環えるプラスチック」と定義されている。代表的な生分解性プラスチックとしてはポリ乳酸(PLA)があり、食品(食器、包装フイルム)、農業資材などに使用されつつある。
バイオマスプラスチックは植物由来プラスチックとも呼ばれ、植物を原料として作られたものである。
当然ながら、バイオマスプラスチックは生分解性でないものもある。バイオマスプラスチックは大気中の炭酸ガスを取り入れて生育した植物を原料にして作られ、廃棄の段階で炭酸ガスを排出しても、炭酸ガス(地球温室効果ガス)の収支は0(カーボンニュートラル)であるので、温室効果ガスを増やさないという利点がある。
バイオプラスチックとしてはバイオポリエチレン、ポリ乳酸(PLA)、ポリアミド11などがある。自動車部品(スペアタイヤカバー)、電子・電機(パソコンハウジング)などへの開発が進められている。
バイオポリエチレンは主にサトウキビから得られたエタノールからエチレンを製造し、そのエチレンを重合して製造されたポリエチレンである。石油由来のポリエチレンと性状は同じで、生分解性は無い。
バイオプラスチックの代表であるPLAは、グリーンプラであり、バイオマスプラスチックである。
2種以上のプラスチックをブレンドした樹脂をポリマーアロイと称している。アロイとは合金のことである。合金は複数の金属を混ぜることで、どちらにも無い新しい機能を発揮する。同様にプラスチック同士を混ぜることでどちらにも無い新たな機能を得る手法がポリマーアロイ技術である。
プラスチックは長所もあるが欠点もある。長所を活かし、欠点を改良する目的でポリマーアロイ材料が開発されている。
次の例がある。
PPの低温衝撃性改良:PP(ホモポリマー)のエラストマーのアロイ(耐衝撃性PP)
PAの衝撃性改良:PAとエラストマーのアロイ(高衝撃ポリアミド)
PCの成形流動性の改良:PCとABSのアロイ(PC/ABS)
PPEの成形流動性の改良:PPEとHIPSのアロイ(mPPE)
PPEの成形流動性・耐薬品性の改良:PPEとPAのアロイ
2つ以上の樹脂を押出機で混練することによって、ポリマーアロイをつくることができる。全く新しいプラスチックを開発することに比較すると短期間で、研究開発や製造設備に関する費用も安く開発できるという利点がある。
高分子材料の物性評価についてはこちらのサイトがわかりやすいです。
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