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製品設計の「キモ」(3) ~樹脂材料(プラスチック)を使った製品の「使われ方」の見極め~

製品設計コンサルタント
田口技術士事務所  田口宏之

1. はじめに

製品を設計するにあたっては、設計の初期段階において、使用者が製品をどのように使用するかを見極める作業が非常に重要である。特に樹脂材料(プラスチック)を使った製品においては、材料物性が環境から受ける影響が大きいため、その作業の重要性はさらに高くなる。樹脂材料(プラスチック)を使った製品の不具合事例を見ても、製品の使われ方の見極めが不足していることが原因であるケースも多い。今回は樹脂材料を使った製品を念頭に、その使われ方を見極めることがいかに重要であるかを解説したいと思う。

2. 製品の使われ方の分類

製品の使われ方は以下の4つに分類することができる(表1)。

 表1 製品の使われ方の分類例

※国際規格等において異常使用と無謀使用の定義はない。ここでは以下のように区別している。

・異常使用:製品の安全性確保はしないが、注意喚起をする使われ方

・無謀使用:製品の安全性確保も注意喚起もしない使われ方

それぞれの使われ方に対して、どのように製品の性能を確保するかについては、「安全性に関する性能」と「安全性以外に関する性能」の2つに分けて検討する必要がある。

安全性に関する性能

安全性については、「意図される使用」と「予見される誤使用」の両方において、性能を確保することが法律(製造物責任法)や規格(ISO/IECガイド51など)で求められている。したがって、製品設計における最も重要な要求事項の1つである、製品安全を確保するためには、製品の使われ方を漏れなく抽出することは必須の作業といえる。

安全性以外に関する性能

安全性以外については、法律や規格などの規定はない。各事業者がどの範囲まで性能を確保するかを独自に判断する必要がある。「意図される使用」における性能を確保することは言うまでもないが、「予見可能な誤使用」において性能を確保するかどうかは、ケースバイケースである。一般的には、誤使用の頻度が高いものや、誤使用の結果生じる不具合の影響が大きなものについては、ある程度の性能を確保するように設計段階で配慮することが多い。「異常使用」や「無謀使用」は性能を確保しないことが普通である。

多くの設計者を悩ませていることが、それぞれの使われ方の線引きである。法律や規格にはその線引きの基準について具体的な言及はない。クレームや製品事故、リコール、裁判事例、業界の標準などを考慮しながら、自社で判断していくしかない。言い方を変えると、その判断をできること自体が、重要な設計ノウハウの1つであるともいえる。

3. 製品の使われ方の抽出

製品の使われ方の抽出は、実際にやってみると意外と難しい。思いつくままに抽出するだけでは抜けが発生したり、情報が多くなり過ぎてコントロールできなくなったりすることが多い。以下を考えながら抽出することをおすすめする。

5W1Hを意識して抽出する(誰が、何を、いつ、どこで、なぜ、どのように)

  • ライフサイクル全体を想定して抽出する(製造⇒輸送⇒販売⇒使用⇒保守⇒廃棄)
  • 製品への影響が大きなノイズを意識しながら抽出する(温度、水分、荷重など)
  • 同様のノイズにおいては、製品に与える影響が最もシビアな使われ方を抽出する

(例:環境温度が影響を与えるのであれば、最も温度が高い使われ方を抽出)

  • 製品の仕様決定に必要のない使われ方は抽出しない

「プラスチック製の踏み台」を例に、製品の使われ方の抽出例を表2で示す。

 表2 製品の使われ方の抽出例

 例えば、「使用」時における「予見可能な誤使用」が「直射日光下(40℃)で成人男性が使用」であることと想定した場合は、表3のように、製品の要求事項を具体的に検討・決定する。そして、それらを満足するための構造や材料などの詳細な仕様を検討していく。

 表3 製品への要求事項の検討

 このような設計プロセスを必要なすべての使われ方について実施していく。負荷が大きいと思われるかもしれないが、この作業をせずに品質の高い製品を設計することはまず不可能である。特に樹脂材料(プラスチック)は、物性が環境条件によって大きく変化するため(図1参照)、この作業に負荷を掛けずに設計すると、製品事故や大クレームとなって市場から帰って来る可能性が高い。フロントローディングの考え方で、この作業を実施することが望ましい。

図1 ABSの曲げ強度と温度の関係(デンカ株式会社 「デンカABS物性表 p6」より)

 実際には、完全なる新規の製品はほとんどないので、設計変更点に関係する使われ方のみを抽出すればよい。この作業を一度しっかりやっておけば、次回以降それほど大変な作業にはならないものである。

4. 製品の使われ方の検討不足事例

樹脂製の踏み台で、製品の使われ方の検討不足が原因と思われる製品事故が発生している。2015年8月27日のNITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)のニュースリリース(図2)によると、折り畳み式の樹脂製踏み台により、これまでに重軽傷者が12名発生しており、一部の製品はリコールとなっている。

図2 破損したプラスチック製踏み台(NITEニュースリリースより)

  NITEによると、使用者がキャンピングカーの車内から踏み台を使って降りる際に、約30cmの高さから飛び降りるような使い方をしたため、踏み台が破損し、転倒・骨折したとのことである。踏み台を製造・販売している多くの事業者が、飛び降りるような使い方をしないように注意喚起していなかったことを考えると、飛び降りるような使われ方を設計段階で想定していなかった可能性が高い。製品の使われ方を見極めることがいかに重要かを教えてくれるよい事例である。

5. おわりに

製品の使われ方を明確にせずに、品質の高い製品を設計することは難しい。しかし、多くの企業や設計者が使われ方の抽出作業を十分に実施していない。金属材料であれば、材料自体の物性の余裕代と、環境条件に対する安定性から、使われ方の抽出が多少不足していても、問題は発生していなかったかもしれない。しかし、樹脂材料(プラスチック)は物性自体の余裕代が少なく、環境条件に対する安定性も低い。樹脂材料(プラスチック)が原因の製品不具合は非常に多いが、その多くが使われ方の抽出不足と、樹脂材料(プラスチック)の環境条件に対する不安定性に起因すると筆者は考えている。樹脂材料(プラスチック)を使った製品において、使われ方を明確にすることは、金属材料を使った製品よりはるかにその重要性が高いといえるだろう。樹脂材料(プラスチック)を使った製品設計の「キモ」のひとつは、製品の使われ方を見極めることであると考える。

参考文献

NITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)ニュースリリース 「樹脂製踏み台(折り畳み式)の破損転倒事故にご注意!」(2015年8月27日)

 

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