展示会レポート 第7回高機能プラスチック展・第1回高機能塗料展
秋元英郎
秋元技術士事務所
1.はじめに
従来は春に東京ビッグサイトで開催されていた高機能プラスチック展が今回は12月5日~7日にかけて、高機能素材ワールド(主催:リード エグジビション ジャパン株式会社)の一部として開催された。また、今回から新たに高機能塗料展が開催された。併設された展示会を含めて3日間で約6万人が来場した。
本レポートでは、高機能プラスチック展と高機能塗料展および高機能フィルム展(ごく一部)から注目の技術を紹介する。
2.塗装
2-1 人工知能を活用した塗装ロボットのティーチング技術
塗装をロボットのティーチングには熟練の技が求められていたが、タクボエンジニアリング(株)が開発した塗装シミュレーションソフト「SWANIST」は、気流による塗料の液滴の動きをシミュレーションすることで、塗膜の厚みムラを計算し、ガンの動きを最適化することを可能にした(図1)。
2-2 ホースレス塗装装置
タクボエンジニアリング(株)は、塗料の無駄を最小にするための工夫として、塗料のタンクからガンまでのホースを無くし、塗料をプラスチックのパウチに装填してガンの近くに設置する方法を採用した。これによりパウチの交換で色替えが容易になり、色替え時間と塗料もの無駄が削減される(図2)。
2-3 インクジェット
インクジェットによる加飾は単なる塗装の代替ではなく、フルカラーが可能で高粘度材によるテクスチャー(凹凸)の表現(2.5次元)及び延伸性の付与に伴う深絞りへの対応が可能になることでアプリケーションが広がってきている。
図3の左は大日本塗料(株)の「デジタルコーティング」であり、建築塗装における意匠層をインクジェットで加飾する。プライマー、ベース層、トップコートは従来方式の塗装が行われる。
図3の右はセーレン(株)の高精細インクジェットシステム「ビスコテックス」による加飾の例である。破れたジーンズの色合いとテクスチャーを再現しながら、三次元貼り合わせ工法に対応可能なレベルで加飾層が延伸性を持っている。
2-4 高輝度金属調塗装
最近はクロムめっきに迫るような高輝度塗料が開発されている。大日本塗料(株)の「スーパーブライトNo.2000」は薄膜で粒子が非常に小さい蒸着アルミを顔料成分として使用し、めっきのような質感の高輝度を達成している(図4)。
武蔵塗料(株)のミラー調塗料「エコミラーエージェント」は、バインダー/銀ナノ粒子/クリアからなる3コートの塗料である。硬化条件は100℃で30分であり、基材の制約はあるが、金属そっくりの外見が得られる(図5)。
2-5 ソフトフィール塗装
塗装面が視覚的および触覚的に柔らかさやしっとり感を付与する塗料が開発されている。図6は武蔵塗料(株)のソフトフィール塗料「ネオラバサンシリーズ」による塗装サンプルの外観である。見た目も柔らかそうであり、実際に触れるとしっとりとした柔らかさがある。
2-6 リアル感塗装
図7にはオリジン電気(株)の塗装サンプルを示した。これらは、南部鉄器や錆の色調とテクスチャーや朝露のような液滴を塗装で再現している。
2 材料
2-1 光透過性エラストマー
最近の自動車内装部品の特徴として、光を使った演出や不要な時には情報を出さない工夫がされるようになってきた。例えばインスツルメントパネル(インパネ)に文字が浮かび上がるような細工が好まれてきている。デンカ(株)の「SEポリマー」はスチレン系エラストマーであり、光透過性がある(図8)。
2-2 射出成形可能なインパネ表皮材
ソフトインパネの工法としては、スラッシュ成形で表皮を作るのが一般的であるが、三井化学(株)は厚み1㎜のインパネ表皮を射出成形できるスチレン系タイプのミラストマー高流動グレードを開発した。メルトフローレートが250と超高流動であり、射出成形できるためスラッシュ成形よりもシボの転写性を高めることができる。図9は射出成形された表皮を用いてウレタン注入して出来上がったインパネである。
2-3 起毛形状のエラストマーシート
デンカ(株)は押出成形時に凹凸のパターンを刻んだロールでパターン転写することで起毛させたシートを成形する技術を開発した。そのシートが「ノーブルタクト」である(図10)。このシートは三次元貼り合せ成形(例えばTOM工法)やインサート成形が可能である。
2-4 熱可塑性ポリイミド
三菱ガス化学(株)は開発品として熱可塑性ポリイミド「サープリム」を展示していた。融点323℃,ガラス転移温度185℃,荷重たわみ温度170℃で射出成形,押出成形,CFRTP,フィルムの用途を想定している(図11)。
2-5 ミルフィーユコンポジット
ダイセルエボニック(株)のブースでは、CFRTP(PP)とロハセル(ポリメタクリルイミド発泡体)を積層したコンポジット「ミルフィーユコンポジット」が展示されていた(図12)。これはロハセルを薄くスライスして積層したもので、米島フエルト産業(株)の製品である。
2-6 生分解性ポリアミド(PA4)
日本曹達(株)はグルタミン酸を出発物質とするポリアミド4を開発品として展示していた。生分解性ポリエステルとの共重合により、海水中での分解性を高め、紙に勝る分解速度が得られている。物性的には、融点265℃と高いが、熱分解温度が300℃であり、分子デザインについて更なる改良中とのことである(図13)。
2-7 膨張性マイクロカプセル
松本油脂製薬(株)は、膨張性マイクロカプセル「マツモトマイクロスフェアー」を用いた射出発泡成形品(コアバック法)を展示していた(図14)。
2-8 植物繊維強化樹脂
堀正工業(株)はHemp(麻)を用いたバイオマスプラスチックを展示していた。麻は日本国内では栽培できないため、展示サンプルはイタリアのMica,オランダのヘンプアラックスからの輸入品である。麻ファイバーの不織布,麻のコアの粉をブレンドした樹脂(図15),麻20%とPLA80%をブレンドした3Dプリンター用フィラメントが展示されていた。
3.おわりに
会場と開催時期の変更はあったものの、3日間で6万人の来場者は非常に盛況と言える。その中で三菱ケミカルホールディングス(高機能フィルム展でフィルムの装置の展示はあった)のような本展示会の常連で出展を見送ったところがあることが気になる。