Categories: 展示会情報

展示会レポート 第10回クルマの軽量化技術展

秋元英郎
秋元技術士事務所

1.はじめに

第10回クルマの軽量化技術展は、2020年1月15~17日にかけて東京ビッグサイトで開催されたオートモーティブワールド(リードエグジビションジャパン主催)に一部として開催された。

主催者による発表によると、3日間の来場者数はオートモーティブワールドとして約39,000人であった。この時期はまだ新型コロナウィルスの影響を受けておらず、ほぼ前年並みに来場者数であった。

本レポートでは、クルマの軽量化技術展(同時開催の自動車関連の展示会を含む)からプラスチックに関係が深い出展内容について報告する。

2.材料メーカー

2-1 東洋紡

東洋紡ブースでは、同社の材料を使った部品で構成された車両の展示が目を引いた。

図1 東洋紡ブースのコンセプトカー

電磁波シールドを目的に、リフロー対応の高融点ポリアミド樹脂「バイロアミドMJ-376KD」を紹介していた。ABSのめっき設備が使用可能なため、専用のめっき設備が不要である。

図2 東洋紡のめっき用耐熱ポリアミドの説明パネル

図3 東洋紡ブースのめっきサンプル

軽量化に直接貢献可能なアプローチとして、金属代替可能な高剛性材料、硬質発泡の紹介があった。

高剛性材料は単に剛性が高いだけでなく、高衝撃、高流動、低そり等の特長も併せ持ったタイプが用意されていた。図4は説明パネルの一部である。

図4 高剛性材料の説明パネル

硬質発泡に関しては、コアバック発泡適性を高めるためにレオロジー特性と結晶化特性を最適化するという手法が採られているが、ポリアミドのみならず、エラストマーのコアバック発泡についても紹介されていた。図5は紹介パネルであり、主にポリアミド系の特性を紹介している。

図5 東洋紡のコアバック発泡の説明パネル

2-2 ユニチカ

ユニチカブースでは発泡用ポリアミド「フォーミロン」を用いて成形されたエンジンカバーが展示されていた(図6)。コアバック法により30%の軽量化を達成している。化学発泡によるものである。

図6 ユニチカブースに展示されていた発泡成形によるエンジンカバー

耐熱ブロー用成形材料であるPA66-GF30等による成形品を展示していた(図7)。エンジンのダウンサイズ化によって要求される耐熱レベルに応じて材料が用意されている(図8)。

図7 耐熱ブロー成形品(ダクト)

図8 ユニチカの耐熱ブロー用材料(配布資料より)

ポリアリレート「Uポリマー」に関して種々の用途が実例とともに示されていた(図9)。図10は無塗装ピアノブラックであり、二輪車に採用されたものである。図11はリフロー耐熱を持つ透明グレードであり、着色が可能である。

図9 「Uポリマー」の説明パネル

図10 無塗装ピアノ成形品

図11 透明耐熱用途

2-3 JXTGエネルギー(ENEOS)

(JXTGエネルギーは2020年6月より社名を「ENEOS」に変更する。)

今回の展示の中で興味深い材料は難燃透明ポリマーの開発品である。リン系の難燃性モノマーを用い、分子中に取り込んでいる。高屈折率の透明樹脂でありながらノンハロゲン、ノンフィラーでV0難燃を達成している。図12は説明パネル、図13は燃焼試験の様子の動画を流しているようすである。

図12 JXTGエネルギー(エネオス)の透明難燃樹脂の説明パネル

図13 燃焼試験のようす

2-4 出光興産

出光興産のブースではシンジオタクティックポリスチレン樹脂(SPS)「ザレック」の高電圧、高周波向け用途を紹介していた(図14)。図15は「ザレック」を用いた製品例である。

図14 出光興産の「ザレック」説明パネル

図15 「ザレック」を使用した部品

2-5 堀正工業

堀正工業はヘンプ(麻)繊維と樹脂を複合化した製品を紹介していた(図16)。

図16 堀正工業のブースのようす

3.接合・封止技術

3-1 大成プラス

大成プラスは、金属表面をエッチング処理して表面にナノオーダーの多孔化処理した後に射出成形によってプラスチックと接合する「NMT」と表面処理された金属と接着剤を用いて接合する「NAT」を紹介していた。図17は「NAT」の説明パネルの一部、図18は「NAT」と「NMT」の展示サンプルである。

図17 大成プラスの「NAT」説明パネル

図18 「NMT」と「NAT」による製品例

3-2 イーテック

イーテックはJSRのグループ会社で、PPに対してプライマー等の表面処理することなく接着することが可能なアクリル系接着剤「MIGHTYLOCK」を展示していた。PPと種々の材料と接合可能とのことである。ゴム成分を含まないホモPPでも接着可能なのかは確認できなかった。図19は説明パネル、図20は接合サンプルである。

図19 イーテックのPP接着説明パネル

図20 PPと他素材の接合サンプル

3-3 松本加工

松本加工はホットメルトモールディングの装置メーカーであり、ヘンケルのホットメルトの販売も行っている。今回は、基板の封止の使用例を中心に展示していた。図21は装置、図22はホットメルトモールディングを用いた部品である。

図21 松本加工のホットメルトモールディング装置

図22 ホットメルトモールディングで封止した部品

4.加飾(めっき、フィルム加飾)

4-1 奥野製薬工業

奥野製薬工業は装飾用3価クロムめっき液を紹介していた。色調はBright finish, Metallic finish, White finishと調整できる。図23は紹介パネル、図24は色調のバリエーションのサンプルである。

図23 奥野製薬工業の装飾用めっき液紹介パネル

図24 めっきの色調サンプル

4-2 柿原工業

柿原工業は黒色めっき「スーパーダーク」を展示していた(図25)。特別仕様車に多く使われるとのことである。

図25 柿原工業ブースの黒色系めっきによる自動車のグリル

4-3 大洋工作所

大洋工作所は漆黒調クロムめっきに表面処理「Eコート加工」を施したサンプルを展示していた(図26)。

図26 大洋工作所ブースの黒系めっきサンプル

4-4 ミノグループ

ミノグループはスクリーンパッド印刷で圧空成形されたフィルムに導電インクで回路を印刷する実演を行っていた。スクリーンパッド印刷とは、平板の上にスクリーン印刷し、そのインクをパッドで3D 形状の上に転写する手法である。図27は説明パネル、図28は加工サンプルである。

図27 スクリーンパッド印刷の説明パネル

図28 スクリーンパッド印刷を用いたサンプル

同社は東レの金属色の超多層ポリエステルフィルム「ピカサス」を使った加飾サンプルも展示していた(図29)。「ピカサス」は屈折率が異なる2種類のポリエステルを交互に積層した構造で、金属を使わずに金属色を表現できる素材である。

図29 「ピカサス」を用いた加飾サンプル

4-5 出光ユニテック

出光ユニテックは、PPフィルムに富士フィルムのインクジェット印刷装置で印刷したフィルムによる加飾成形品を展示していた(図30)。加飾フィルムで加飾すると、塗装に比べてリサイクルがしやすく、リサイクル材の物性低下も小さい。

図30 出光ユニテックの加飾サンプル

5.樹脂加工品・樹脂加工技術

5-1 積水化成品工業

積水化成品工業のブースでは発泡を使った自働車部品や試作品が多く展示されていた。図31はあらかじめプレス成形で賦形された複合材料と発泡シートを後工程で貼り合わせた成形品であり、オイルパンなどをターゲットにしているようである。図32はエンプラのビーズ発泡を用いた座席の部品である。

図31 積水化成品工業ブースに展示されていた複合材料と発泡シートの積層

図32 積水化成品工業ブースに展示されていたエンプラのビーズ発泡成形品

5-2 JFEケミカル

JFEケミカルとケープラシートは発泡性のスタンパブルシート「KPシート」を展示していた。古い技術であるが、展示会で見かけることが無かった。図33は説明パネルから切り抜いた図、図34は膨張サンプルである。

図33 JFEケミカルブースのスタンパブルシートの説明図

図34 「KPシート」の展示サンプル

5-3 タカギセイコー

タカギセイコーは日本で最初に「MuCell」技術で量産化した会社であり、自動車部品の生産も行っている。図35はスペーサーを通常成形と「MuCell」で成形したものである。手に取って重量を比較して軽量化を実感することができた。

図35 タカギセイコーブースに展示されていた発泡成形を用いたスペーサー(奥)と比較の通常成形品

図36は炭素繊維複合材料と発泡成形を組み合わせた成形による軽量で剛性が高いサンドイッチ型コンポジットの説明パネルと試作品である。発泡成形の部分はコアバック技術が使われて高倍率を実現している。なお、試作品はマンホールの蓋であるが、軽すぎて水に浮くのでこの用途には使えないとのことである。

図36 複合材料とコアバック発泡を組み合わせた複合成形品

同社はセルロースをナノではなくミクロンオーダーに解繊したセルロースマイクロファイバー(CMF)を用いたPPのコンポジットを展示していた。CMFは絡み合いが起こりやすい形状であり、物性に特長が出やすいとのことである。図37は説明パネル、図38は射出成形品およびその上に塗装した成形品である。PPに30%添加したものをマスターバッチとして使用したとのことである。

図37 セルロースマイクロファイバーとPPの複合材

図38 セルロースマイクロファイバーとPPの複合材の成形品(後)と塗装品(前)

5-4 山下電気

山下電気のブースではウェルドレス成形技術「Y-HeaT」を用いた製品が展示されていた。図39は透明樹脂をウェルドレス成形して裏面から黒で塗装したものである。透明層があるため、深みがある質感が得られる。図40はピアノブラック色のウェルドレス成形品である。

図39 山下電気ブースの透明樹脂のウェルドレス成形品(裏面塗装)

図40 ピアノブラック色のウェルドレス成形品

6.おわりに

クルマの軽量化という切り口だけでもいろいろとアプローチがあるものだと感心させられる展示会である。プラスチック関連の出展者数がもう少し増えて欲しいところである。

 

 

plastics-japan

Recent Posts

アメリカ成形業界状況(2025.07) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功技術士事務所 佐藤功 押…

3週間 ago

コンサルタントの部屋(大田佳生)

旭化成で長年にわたり押出機およ…

3週間 ago

展示会レポート インターモールド2025

秋元英郎 秋元技術士事務所 1…

1か月 ago

アメリカ成形業界状況(2025.06) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功技術士事務所 佐藤功 2…

1か月 ago

添加剤の現状、化学規制、輸出規制、及びその将来

大越雅之 一般社団法人難燃材料…

2か月 ago

This website uses cookies.