塩野 武男
株式会社オオハシ
本レポートでは、株式会社オオハシが中心になって開発した、架橋ポリエチレンの架橋を崩し、新たな特性のポリエチレンを作る資源循環システムについて紹介する。
当社の主な事業は使用済みプラスチックの再生である。再生したプラスチックを単に再生材として販売するだけではなく、それを活用した自社製品の開発も行っている。図1に示す「リピーボード」は、【国土交通省のNETIS】・【エコマーク】に認定された再生プラスチック製敷板であり、30年以上の販売実績を持つ。原料に「廃電線の被覆材低密度ポリエチレン」や「再生高密度ポリエチレン」を用いており、割れにくく対候性に優れたエコな製品である。
ところで、回収する使用済みプラスチックの中には撤去された電線やケーブルもある。これらには架橋ポリエチレン(XPE)が多く使用されている。後述するように架橋ポリエチレンは非常に優れた材料であるが、全くリサイクル適性が無い材料であり、電線メーカーでも非常に難儀する状況であった。
架橋ポリエチレンには大きく2種類の製造方法がある。1つは混ぜた過酸化物を分解させて、フリーラジカルは発生させ、ラジカル反応によって架橋させる方法であり、1つはビニルシラン等のシラン化合物をグラフとしたシラン変性ポリエチレンを触媒と水の存在下で反応(シラノール縮合)させて架橋する方法である。
架橋ポリエチレンの代表的な用途を図2に示す。
架橋ポリエチレンの長所を以下に挙げる。
-高温・低温に強い
-耐加水分解性
-高い電気・絶縁特性
-高い耐摩耗性
-飲用水認可
-標準的なラインでの高い押出速度
-低コスト
-機械的強度が高い
一方で、三次元的の網目のような架橋構造があるために、架橋した後では高温でも流動しないためにリサイクルして再利用することができない。
架橋ポリエチレンの主要な用途は前述のように電線・ケーブル用途と温水パイプ(給湯・床暖房)用途である。架橋反応はポリエチレンの耐熱性向上には非常に有効であるが、高温にしても全く流動しないということは、再溶融させてマテリアルリサイクルを行うことができないことを意味している。
これらの用途で回収された使用済み架橋ポリエチレンは大きく分けて、産業廃棄物としての埋め立て処理が多く、熱回収(サーマルリサイクル)処理が徐々に増えている。
産業廃棄物として埋め立てる方法は、限られた国土を非生産的に使うという点や、野積み状態で火災が発生するリスクがあることが問題であり、何の価値も生み出さない処分方法である。熱回収は、石油由来の燃料の代替にはなるが、燃焼時に二酸化炭素を放出する問題と、生み出す価値が小さい点が問題である。
XPRシステムは、Cross-Linked Polyethylene Recycle Systemのことである。架橋ポリエチレンの架橋構造の一部分~大部分を切ることで、レオロジー特性に特徴を持つ、高付加価値の部分架橋ポリエチレンを効率良く生産する技術である。すなわち、熱可塑性を持たない架橋ポリエチレン(図3)を再び熱可塑性を持つ部分架橋ポリエチレン(図4)に変性する技術である。
図5に、架橋高密度ポリエチレンとXPRシステムで処理した後の部分架橋高密度ポリエチレン(条件を変えたもの)の200℃における動的粘弾性試験から得られた貯蔵弾性率(G’)の周波数依存性を示した。
架橋高密度ポリエチレンは周波数によらず貯蔵弾性率がほぼ一定である。これは強固な三次元網目構造による。一方でXPRシステムによって処理した部分架橋ポリエチレンは貯蔵弾性率の値が全体的に低いとともに周波数依存性を示している。傾きが2よりも小さいことから残存している架橋構造によって分子間の絡み合いがある程度形成されていることと、流動性を持った材料に変化していることを示している。
現時点でサンプルとして提供できるのは高密度ポリエチレンタイプと低密度ポリエチレンタイプであり、ゲル分率は10~30%程度の範囲内で調整可能である。また、高密度ポリエチレンタイプはナチュラル色であり、着色可能である。低密度ポリエチレンはカーボンを含有しており、黒色である。表1、表2に高密度ポリエチレンタイプと低密度ポリエチレンタイプの代表的な特性を示した。
表1 高密度ポリエチレンタイプの部分架橋ポリエチレンの特性
表2 低密度ポリエチレンタイプの部分架橋ポリエチレンの特性
部分架橋ポリエチレンは直接重合されたポリエチレンには無いユニークな特性を持っている。発泡成形やブロー成形には材料に高い溶融張力が求められる。本材料は、発泡成形やブロー成形に用いるポリエチレンの改質材としての可能性がある。
本技術はサポインの資金によるサポートを受けて行った。
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