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アメリカ成形業界状況(2025.03) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功技術士事務所
佐藤功

製鉄所発の炭酸カルシウム、新しい押出機、溶融粘度、押出機内の樹脂劣化、制振、セル生産システム、リサイクル事業のハブ機能、AI、圧空成形製EV給電機ハウジング

1. 業界動向

1-1 全般

政権交代でプラスチック業界にも動きが出てきた。受注が拡大し、材料価格も上昇に転じた。これらの動きから1月の総合指数は48.2に向上した。

1-2  個別動向

・射出成形モルダーの経営指標調査Top Shopの受付が始まった。結果は10月号に発表される。
・Milacronの射出成形機、押出機事業が投資グループによって買収された。
・KraussMaffei、Coperion 日精樹脂が米事業強化した。
・PennWest UniversityがAIM(米射出成形研究所)と協力し射出成形コースを設設けた。
・Arterexがイタリアの医療機器業者を買収した。

2. 新技術、新材料

2-1 製鉄所の脱炭素プロセスから副生でする炭酸カルシウム

CarbonFree はUSスチールの脱炭素システムSkyCycle で副生する炭酸カルシウムをプラスチック添加剤への利用を推進し、製鉄の脱炭素化に貢献する。品質は沈降性炭カルに匹敵し食品添加剤、塗料、建材などへの活用が期待できる。

2-2 新しい押出機

カナダのReDeTecが新しい押出機MixFlowを発表した。単軸押出機で供給部にのみ輸送用のスクリューがある。断熱部を介した溶融部は伝熱良い材料でできており、外部加熱によってのみ溶融させる、樹脂は数ミリの流路を移動しながら溶融する。熱効率が高く、L/Dは6と短い。

3.技術解説

3-1 射出成形における溶融樹脂粘度

射出成形では充填時間を出来るだけ短縮したい。充填速度は成形サイクル、せん断発熱による樹脂温度上昇、配向による成形品の異方性などに影響する。溶融樹脂は非ニュートン流体なので、高速になれば粘度が下がる。せん断速度と粘度の関係は多くの研究がある。指数関数になっているのでわずかな誤差でも影響は大きい。

3-2 押出機内の樹脂劣化対策

押出機内で溶融樹脂が長時間滞留すると分解したり着色したりする。劣化はスクリューの着色状態で知ることが出来る。スクリュー溝底前方の着色はコーナーRを大きくすれば解消出来る。ミキサーやサブフライトのヤケは設計が適切でないので、形状変更が求められる。計量部全体が焼けているのは停止時に起きたもので、停止時のシリンダー温度を下げる必要がある。

3-3  制振ソフト

ロボットや3Dプリンタでは駆動部の振動が問題になる。位置が定まらなかったり、像が乱れたりする。振動すると収れんするのを待ったり、動作速度を落としたりするとしか対策はなかった。振動を予想し、制振方向の力を加えることが行われるようになってきた。振動が問題になる場面は多様で、様々な制振法を取りうる。さらなる進化が期待される。

4.ケースステディ

4-1 ゴルフ用品の自動生産

PingはWittmannからセル生産システムを導入した。セルは成形機、温調機、組み立てロボット、粉砕機からなり、従来1ライン2~3人かかっていた作業を1人で2ライン担当出来るようになった。材料リサイクル率が40%程度まで上がったが不良品は出ていない。Wittmannはセルの設計、装置製作だけでなく、立ち上げ時のオペレータ教育も行ってくれた。このため、スムースに導入出来た。

4-2 リサイクルシステムの精緻化

コロラド州はモルダー数が少なく、各社ごとの廃棄物も少ない。廃材の種類も多い。リサイクル業者Direct Polymersは各種廃材を全量引き取らざるを得ず、再生しても引き取り先を見つけるのが大変だった。個々のケースを丁寧に進めた結果、需給のネットワークが構築でき、同社がハブ機能を担うようになった。ネットワークが広がり需給変動にも対応しやすくなった。品質管理機能、粉砕機能の共有化による輸送コストの削減、サプライチェーンの短縮などにも取り組んでいる。これらによりシステムの最適化が一層進む。

4-3 混練業のAI活用

混練業 Alterraは自社で構築した操業監視システムとAI(ChatGPT)を組み合わせて成果をあげている。監視システムはラインセンサーから得られる操業データを監視しており、逸脱すると警報が発せられQCチームが補正している。監視データをAIに学習させることにより、操業の安定化、省エネ、生産性の向上、品質改善などが進んでいる。また、AIによる作業安全の推進、生産計画、設備計画の合理化にも取り組んでいる。

4-4 圧空成形製EV給電機ハウジング

Ray ProductsはEV用給電装置をOEM生産している。ハウジングを板金、射出成形、RIMなどで検討してきたが、耐候性、ULV-0、外観、コストなどで満足出来るものがなかった。そこで Sekisui Kydexと共同で専用シート1100UVを開発した。このシートをインモールド着色圧空成形して各社に供給している。

5.あとがき

トランプの影響が出始めている。輸入規制が国内製造回帰に進んでいる。ただし、顕在化している動きは駆け込み需要の可能性もある。関税引き上げが思いのまま進むことは考えにくいこと、インフレ対策との整合性など懸念事項が多く、紆余曲折が予想される。一層の即応力が求められる。

今月は新技術の紹介があった。カナダ発の新押出機は「練り」がほとんどない状態で溶融する。溶融樹脂の品質に注目したい。USスチールの副生炭カルは構想通りに実現するとは思えないが、温暖化対策が産業構造を大きく変えることを予想させる。ウオッチを続けたい。

 

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