成形データを「集める」から「判断する」へ Muratec Molding Monitor(MMM)による成形現場DX
矢田 尚
ムラテックメカトロニクス株式会社
成形加工の現場では、設備やプロセスの見える化に加え、収集したデータの分析、機械学習による監視、自動化への展開が進んでいる。ムラテックメカトロニクスが開発した「Muratec Molding Monitor(MMM)」は、成形機側のデータと金型内センサから得られるデータを同一時間軸で捉え、成形状態を分析・判定するシステムである。MMMでは、成形不良と原因の関係をFTAで整理し、必要なセンシング項目を選定した上で、1 ms周期でデータを収集する。取得したショット波形はSOM(自己組織化マップ)によって分類し、さらにSAMMON MAPPINGによって基準波形からの乖離方向と距離を2次元上に可視化する。これにより、良品、ヒケ、バリなどの状態を分類し、判定結果を成形機や取り出し機の制御、トレーサビリティにも活用できる。近年では、熟練技術者不足への対応に加え、再生材や複合材料の配合変動に起因する成形状態の変化を検知する用途への展開も進められている。
1.はじめに―成形現場に求められるデータ活用
成形加工をはじめとするものづくりの現場では、設備や製造プロセスの「見える化」、収集したデータの分析、さらに機械学習を活用した監視や自動化へと取り組みが進んでいる。
しかし、実際にこうしたシステムを生産現場へ導入しようとすると、単にセンサを取り付けてデータを収集すればよいというものではない。成形機側のデータと金型内のセンサデータでは、それぞれ取得方法や時間軸が異なるためである。
射出成形機では、射出圧力、保圧、樹脂温度、スクリュー位置、制御タイミングなど、多くのデータがすでにデジタル化されている。一方、金型側から取得する圧力や温度などのデータについては、成形機側のデータと同期させ、同じ時間軸上で比較できるようにする必要がある。
ムラテックメカトロニクスは、こうした成形現場特有の課題を踏まえ、「使いやすいツール」をコンセプトとしてMuratec Molding Monitor(MMM)を開発してきた。本稿では、MMMによるデータ収集と分析の考え方、さらに成形現場での活用事例について紹介する。
2.データ収集―まず「何を測るか」を決める
成形プロセスをデータ化する際、最初に考えなければならないのは、どのデータを取得するかである。
対象となる金型や成形品について、最終的に何を判断したいのか、そのためには何を測定すべきなのかを明確にする必要がある。
成形不良には必ず何らかの要因が存在する。金型のキャビティ・コア形状、ランナー形状、材料特性、成形条件などをもとにCAEによる流動解析を行えば、成形挙動をある程度予測することができる。しかし、解析結果と実際の成形現象が必ずしも一致するとは限らない。
そこで重要になるのが、実際の成形現象を測定し、解析結果と照合することである。
その際、不具合現象と原因候補の関係を整理する手法としてFTA(Fault Tree Analysis)などを用いることができる。例えば、ショートショット、ウェルドライン、ヒケ、バリ、シルバー、フローマークなどの不具合について、成形動作、温度、圧力などの要因との因果関係を整理し、どこをセンシングするかを決定していく。
この段階は一見すると地道な作業である。しかし、測定する項目の選定を誤れば、その後どれだけ大量のデータを集めても、目的とする不具合との相関を見いだすことは難しい。
例えばシルバーストリークを対象とする場合には、バルブゲートの開閉状態、樹脂温度、金型内圧など、不具合発生との関連が想定される位置へセンサを配置し、それぞれのデータの相関を調べる。
MMMでは、取得するデータについて「真値をありのまま捉える」ことを重視しており、アナログスレーブユニットを使用してデータを収集する。基本となるサンプリング周期は1 msである。最終的な判定出力であるエッジ判定も考慮し、1 msでのデータ通信によってリアルタイム性を持たせている。
3.成形ショットを分類・可視化する
3.1 SOMによる成形ショットの分類
MMMによる分析の基本となるのが、成形ショットごとに取得した波形データのクラスタ分析である。
トリガー信号を時間軸のスタートラインとし、取得した波形のクラスタ分析を行う。選定した複数のセンシングデータは、それぞれが1本のプロセス波形を形成する。複数のデバイスから得られたこれらの波形について、各ショットがどのような軌跡をたどったのかを解析する。
最初の解析に用いられるのが、SOM(Self-Organizing Map:自己組織化マップ)である。
SOMでは、取得した波形の特徴が近いものを同じグループとして分類する。例えば、成形現場で起こるゲート開閉タイミングのばらつき、樹脂内圧の流動経路などによるばらつき、樹脂温度のばらつきといった具合に、多次元の特徴を持つ波形を分類する。
成形不良は一つの因子だけで発生するとは限らず、複数の要因が組み合わされて生じるケースも多い。そのため、多次元のセンシングデータを整理して類似した状態を分類する処理が、その後の分析にとって重要となる。
一度クラスタを形成できれば、新たに取得したショットについて、過去のどのグループに近いのかを高速に判定することができる。
つまり、単に成形波形を記録するだけでなく、「このショットは過去のどの成形状態に近いのか」を判断するための基盤として利用できる。
3.2 SAMMON MAPPINGによる違いの可視化
SOMによってクラスタ分類したデータは、次の分析段階へ送られる。
MMMでは、その分析手法としてSAMMON MAPPINGを採用している。
開発段階では、MT法(マハラノビス・タグチ法)を含む複数の分析手法について評価が行われた。FTAから推定したセンサデータを使用して不具合との相関関係を評価した結果、MT法とSAMMON MAPPINGはいずれも同等レベルの結果が得られた。そのうえで、その後に行う多重教師や判定基準の重み付けなどの処理を考慮し、SAMMON MAPPINGが採用された。
SAMMON MAPPINGの特徴の一つは、多次元のデータを2次元上に表し、その違いを視覚的に捉えやすくできる点にある。
まず任意の波形を機械学習させ、教師となる基準を定める。その後、異なる波形をSOMによって集団化し、基準からの乖離度と方向性を仮想空間上に配置する。
この考え方を分かりやすく示したものが図3である。
例えば、国語、算数、社会という三つの成績を持つ生徒を考える。すべて100点のA君を基準とした場合、B君、C君、D君などの成績との差は、それぞれ異なる方向と距離を持つことになる。
同様に、成形プロセスでも圧力、温度、時間など複数のデータを組み合わせることで、基準となる波形からどの方向へ、どの程度離れたのかを表現できる。
この特徴は、成形現場で発生する時間軸の速い・遅い、圧力の高い・低い、温度の高い・低いといった、相反する現象を可視化するのに適している。
3.3 実成形データによる良品・不良品の分離
実際の成形現場で取得したデータをSAMMON MAPPINGで表示した例が図4である。
画面右側には各センシングデバイスの分布とその方向性が表示され、左側にはそれらを総合した分布が示される。表示画面上では4チャンネルとなっているが、システム上では20チャンネルまでの分布を持つことができ、そのすべてが総合分布の作成に寄与する。
図4では、中央付近のドットが「良品」を基準波形としたデータである。下部には「ヒケ」の集団、上部には「バリ」の集団が形成されている。
さらに、良品集団とヒケ集団の間には、「ヒケ気味」と評価された成形品の集団が位置している。
このように、単純な良品・不良品の二者択一ではなく、良品から不良状態へ移行していく途中の状態もマップ上で把握できる。
MMMでは、マッピングによって得られたドットの位置を学習させ、中央からのユークリッド距離を基準として判定し、リレー出力することができる。
そのリレー出力を利用すれば、成形機を停止させる、取り出し機のルートを変更するといった後処理と連動できる。さらに近年では、判定結果を利用して成形条件を補正するといった展開にもつながっている。
SAMMON MAPPINGの総合分布を形成する際には、各デバイスのばらつきと距離を比較し、方向性と乖離度の「寄与度処理」を行う。それぞれのデバイスが持つばらつきの大きさを加味して、ショットごとの総合的な判定につなげている。
4.成形現場での活用と実績
4.1 設計・生産技術・量産工程での活用
MMMは2010~2013年の開発期間を経て、実際の生産現場への展開が進められてきた。顧客ニーズを踏まえてシステムのアップデートを重ね、10年以上にわたり、さまざまな業界や現場の課題に取り組んできた。
射出成形を中心として、押出成形、発泡成形、プレス成形などでも成果を上げている。
設計・開発段階では、CAEによる解析データと実成形データとの比較分析に利用できる。解析上の予測と実際の成形現象の乖離を確認することで、金型設計や成形条件設定にフィードバックすることができる。
生産技術では、金型ごとの最適な成形条件を見いだし、より安定した条件で量産を行う用途がある。材料費削減、捨てショットの削減、後工程の簡素化、不具合発生時の早期対処などにもつながる。
量産工程では、良否判定による検査工数の削減や不良品の流出防止、自動化、省人化、設備監視、遠隔監視などが主な用途となる。
さらに、設計・解析段階からデータを残し、そのデータを生産技術、量産現場へ引き継ぐことで、工程を横断したデータ共有が可能になる。良品・不良品に関するデータを共有し、最終的に品質向上、品質維持、コストダウンへつなげていくことができる。
対象となってきた製品分野も幅広い。
自動車分野では、バンパー、グリル、内外装部品、ファスナー、ウォッシャーノズル、小物部品、マニホールド、パワートレイン系部品、キーケース、パネル、意匠部品、マリン部品、二輪部品、燃料タンクなどで活用されている。
家電・精密部品では、エアコン外装、外気ファン、多数個取りの小物部品、トナーケース、コネクタなどが対象となっている。
このほか、樹脂レンズ、PESレンズ、集光部品、LEDレンズ、ランプなどの光学分野、人工肺、注射針などの医療分野にも展開されている。
4.2 生産設備との連携とトレーサビリティ
MMMの特徴は、分析結果を画面上に表示するだけではなく、その先の生産システムと連携できることである。
射出成形における先進的な活用例として、金型段取り替え時にBCDコードを用いて、ベースとなるMMMの学習データを呼び出し、自動的に切り替えて監視を開始するシステムがある。
捨てショットは監視対象外とし、自動・半自動モードになった段階から監視を行う。監視した成形品については判定結果に応じて、廃棄処理や良品出荷などの自動分別を行うことができる。
また、判定内容、シリアルNo.、成形日時などをバーコード化して製品に印字することもできる。この際、シリアルNo.と成形機が持つショットNo.との整合性を確保しておく。
品質管理部門では、シリアルNo.を基準として、成形条件データ、MMMのプロセスデータ、判定結果データを紐付けることができる。これによって、個々の成形品についてのトレーサビリティを確立することが可能になる。
5.成形現場が抱える新たな課題への対応
5.1 熟練技術者不足と技能継承
MMMの活用事例として近年増加しているのが、人材不足への対応である。
成形現場では熟練技術者が減少しており、技術継承を含めた対策が急務となっている。
金型を交換した後、最適な条件へ到達するまでに何ショットも成形し、熟練技術者が成形品や機械の状態を確認しながら条件を調整するという作業は、経験や技能に依存する部分が大きい。
MMMでは、学習・分析機能を利用することで、経験の少ない作業者でも捨てショットを最小限に抑えながら量産段取りを行い、その後の監視をシステムに担わせるという運用が可能になる。
管理者は現場の状況をリアルタイムに遠隔監視し、取得されたデータをもとに現場オペレーターへ指示を出すこともできる。
熟練技術者を単純な監視作業から解放し、より高度な問題解決や工程改善へ振り向けることも、成形現場DXの一つの方向性といえる。
5.2 再生材・複合材料の材料変動への対応
今後のMMMの活用分野として注目されるのが、材料の変化への対応である。
樹脂成形では、再生材化と複合材料化が進んでいる。再生材を使用する場合、同一材料であっても再生材の配合割合が変化することによって、成形品に影響が生じる可能性がある。複合材料においても同様に、配合状態の変化が成形挙動や成形品品質へ影響する。
MMMを用いた実証では、材料の配合比率の変化と製品状態の変化との因果関係が見いだされたケースが増えている。
また、SAMMON MAPPING上でも、配合比率の変化が分布の変化として表される事例が検証され始めている。
この技術が進めば、複合材などの配合比率の変化に起因する不具合を、成形プロセスデータから自動的に検知することも期待される。
6.まとめ―データ収集から「判断できるデータ」へ
材料価格の上昇や材料調達の問題、再生材利用の拡大など、成形加工を取り巻く材料環境は大きく変化している。
自動車分野では電動化が進み、ボディや部品には軽量化と高い強度が同時に求められている。金属部材からアルミ部材へ、さらにアルミ部材から樹脂部材へと材料転換が進めば、金型関連業界にも大きな変化が求められる。
新しい材料や形状を使った製品をスムーズに立ち上げ、不具合を抑制するためには、設計や生産技術にもこれまで以上に高度な対応が必要になる。
一方、現場の「匠」と呼ばれる熟練技術者は減少しており、オペレーターそのものの不足も進んでいる。
こうした環境では、単に「データを集める」だけでは十分ではない。
重要なのは、どのデータを取得するのかを最初に設計し、取得したデータから正常状態と異常状態の違いを抽出し、その結果を判定や設備制御、品質管理へつなげることである。
MMMの取り組みは、成形現場のDXを単なる見える化から一歩進め、データ収集から分析、判定、設備との連携、そして自動化へと展開していく試みと位置づけることができる。
不具合発生時の発見、早期修復、因果関係の究明は、成形加工における永続的な課題である。さらに、新材料や再生材、複合材料の利用が拡大すれば、これまでとは異なる不具合が発生する可能性もある。
成形機メーカー、周辺機器メーカー、材料メーカー、金型メーカー、モルダー、センシングメーカーがそれぞれの技術とデータを持ち寄り、産官学が連携しながら課題に取り組むことが、今後さらに重要になるだろう。






