アメリカ成形業界状況(2026.07) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功
佐藤功技術士事務所

プラスチック製品の内需は堅調で、5月の景気指数は56.6と引き続き50を上回った。材料の輸出需要が落ち着いたことで国内価格の急騰は止まったものの、エネルギーコストや消費者物価の上昇が今後の懸念材料となっている。個別動向では、米国のプラスチック成形機出荷、廃サンダルの再利用、太陽光発電筐体向けmPPE、ビスフェノールA規制対応PBTなどを紹介した。技術面では、フッ素系滑剤を不要とするTダイ、保守負担を低減するペレタイザー用カップリング、射出成形シミュレーションへのAI活用、押出成形における引取速度、射出・充填・保圧の用語整理、除湿乾燥機の夏季対策、ホットランナ温度制御、特殊材料への押出ライン対応を取り上げる。さらに、自動車部品モルダーAxiomの事業展開と、コンパウンダーにおける原料混合機更新の効果を紹介する。足元の需要は底堅いが、コスト上昇や国際情勢の影響も残っており、回復基調を慎重に見極める必要がある。

1.業界動向

1-1 全般状況

あいかわらず、不確定要素がただよっているが、プラスチック製品の内需は堅調で、5月の景気指数も56.6と対前月比でわずかな低下にとどまっている。材料の輸出需要が落ち着き、国内価格の急騰は止まった。ただし、スチレン系は季節要因でやや上昇した。エネルギーコスト上昇、消費者物価の上昇が続いており、この傾向が長引けば影響が出てくる。

1-2 個別動向

  • 第1四半期の米国のプラスチック成形機出荷額は2.7億ドル(約430億円)で、対前期比16.4%縮小、前年同期比で8.5%増だった。二軸押出機が半減した。
  • Trash PandaがCrocsと協力し、廃サンダル(PU、PVAcなど)をフリスビーに再利用する。
  • SABICが太陽光発電筐体用にレーザー光溶接可能なmPPEを発売した。UL 94 V-0を1.5 mmでクリアし、耐熱温度150℃で、15年間屋外使用できる。超音波溶着組立の代替を提案している。
  • BASFがEUの食品関連用途におけるビスフェノールA規制に対応し、強化PBTを発売した。
  • Windmoeller & Hoelscher(W&H)が北米支店を拡充し、補修部品供給の迅速化を進める。
  • Equity Groupがプラスチック事業を統合した。

2.技術解説

2-1 PFASが発生しないTダイ

Nordsonはフィルム用Tダイの流路形状、ダイ内面処理法を見直し、フッ素系滑剤の使用を不要にした。ダイ末端の圧力損失を減らし、流動が確保できる。これにより、滑剤由来のPFAS発生懸念がなくなる。

2-2 ペレタイザー用動力カップリング

材料メーカーのLyondellBasellは、水中ペレタイザーの動力カップリングにCoupling Co.のFLEXXORを使用したところ、8年間保守が不要だった。通常、カップリングは金属部材同士がかみ合っている。このため、潤滑が必要なうえ、摩耗が避けられない。かみ合わせ部にゴムやプラスチックを介在させることも行われているが、介在物の定期的な交換が必要になる。

FLEXXORは薄肉多孔円盤で係合し、円盤のたわみで衝撃的負荷を緩和する。摺動部がないので、注油の必要がなく、摩耗もない。

2-3 射出成形シミュレーションへのAIの活用

通常、AIは言語で入力し、言語で回答を得る。これに対し、成形シミュレーションは数値モデルなので、入出力は数値だ。この状態では、双方を結合、統合することはできない。しかし、人間が介在すれば両者の併用が可能になる。この方式、つまりhuman in the loop(HITL)を進めれば、射出成形のシミュレーションを高度化させ、身近にできる。

2-4 引取速度

押出成形では可塑化部、ダイが重視され、引取りへの関心は低い。成形状態を改善するために引取速度を変えることもある。このやり方が長く続くと、仕様で決めた量と実生産量との間に乖離が起き、採算が取れなくなっていることもある。

仕様どおりの引取速度が確保できていない場合は、成形条件を広く見直し、引取速度は維持されなければならない。

2-5 充填圧力・時間と保圧圧力・時間

射出成形で、射出から保圧工程間の条件呼称があいまいになっている。キャビティ内の状況を理解したうえで、正しく使用すべきだ。また、成形機では別の表現、例えばPn、Tnなどが用いられている。これとの対応も理解する必要がある。

まず、「射出(injection)時間」は溶融材料をキャビティに満たす時間だ。射出後、キャビティ内の冷却が進むと成形品が収縮する。この分の溶融材料を補うため、圧力を高く保つ必要がある。このための圧力と時間が「充填(pack)圧力・時間」だ。

充填終了直後に圧力を下げると、まだゲートが固化していないので、キャビティ圧で溶融材料が成形機側に逆流する。この現象を防ぐため、成形機側の圧力を保っている必要がある。この工程を「保圧(hold)」という。キャビティが小さい場合には逆流の弊害が小さいので、この工程が不要な場合がある。「充填・保圧」双方を含めて「保圧(compensation)」と呼称する場合もある。

2-6 除湿乾燥機の夏対策

除湿乾燥機は環境の影響を受ける。蒸し暑い夏には乾燥剤の除湿が間に合わず、乾燥不良になることがある。外気取り入れの少ない方式では影響が小さい。適正に運用するためには、従業員のレベルアップ、乾燥機の保守、露点計の導入などが重要だ。

2-7 ホットランナ温度制御装置

最近の温度制御装置はAI化されており、PID制御はもちろん、故障検知、アラーム機能、高速立ち上げプログラム、回路保護、中断時の自動温度調整などの機能を備えている。

データ処理系では、運転履歴の記憶と解析、タッチパネル方式の制御盤、成形機などとのデータ交換、USBによる条件記録などができる。

また、モジュール化されており、保全が容易になっている。さらには、コネクタ、熱電対の様式が選べるものもある。

2-8 押出ライン材料適応

押出成形では、粘度挙動が特異、水分やせん断加圧で特異な変化をする、混練に高トルクを要する、食い込みが悪い、分散しにくい、摩耗性のフィラーを大量に含んでいるなどの材料を処理しなければならないことがある。

これらの材料は、汎用の押出機では対応できない。それぞれ、スクリュータイプの選定、ミキシングゾーンの適正な配置、材質側の改良などを行い、成形可能な技術に仕上げる。運転面では、材料の前処理、供給法の工夫、温度などの押出条件の工夫も重要だ。

3.ケーススタディ

3-1 モルダーAxiomの成功

自動車大型部品モルダーAxiomは、成形、二次加工、組立てに関する技術開発を通して、顧客の要請に応えてきた。また、時代の動きをいち早く察知し、絶えず顧客の組立てラインに適合する部品を提供することで事業を拡大している。

3-2 混練用材料ブレンダー

汎用エンプラコンパウンダーのPolymer Resources Ltd.は、原料混合機をリボン型からロータリー型に取り替えた。その結果、処理時間を30%短縮できたうえ、清掃は容易になり、材料ロスも減少した。また、材料劣化、色むらも小さくなり、品質が向上した。

4.あとがき

石油高騰の混乱は少し落ち着き、模様眺めの状況のようだ。インフレなのに消費マインドが衰えていない。プラスチック産業は、これに輸入代替特需が重なったことが好況の背景にある。

「遠い戦争は買い」と言われている。戦場はアメリカから遠く、ミサイルが飛んでくる心配はないのに、兵站需要はたっぷりある。この影響は大きい。日本は第一次世界大戦、朝鮮戦争でこれを享受した。そして、その後、経済停滞も経験した。こんな歴史も忘れないようにしたい。

 

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