アメリカ成形業界状況(2024.12) ―雑誌から垣間見る―
佐藤功技術士事務所
佐藤功
人工脊髄、耐衝撃性生分解性、EV、電池、かさ密度、単軸押出機
1.業界動向
1-1 全体状況
アメリカ経済の好調が伝えられているが、サービス業、情報産業がけん引しており、製造業の低迷は続いている。プラスチック産業も例外ではない。特にシェールオイルブーム時代の樹脂工場大増設、米中間経済摩擦の影響が大きい。加えてトランプ政権の関税政策不安、寒波による物流混乱懸念などを控えており、浮揚の兆候は見えていない。
1-2 個別動向
・NEOS Styrolution Ohio工場のABS,AS生産を停止した。
・包装資材メーカーのNefabがミシガン州に進出した。
・周辺機器メーカーGlobeiusがPlastixsを買収し、取扱品目を拡大した。
・Farrel PominiとLummusはプラスチック熱分解プロセス開発で提携した。
・SABICがシンガポールにUltem工場を開設した。
・中国の射出機メーカーYizumiが米拠点を強化した
・水管理業のAdvanced Drainage Systemsがオハイオ州に技術センターを開設し雨水利用などを推進する。
・WHOIがアセテート発泡体は海中での生分解性が極めて速いとの論文を発表した。
・AxensのPETリサイクル事業がフランス環境エネルギー庁に承認された。この事業は日本のJEPLANが技術協力している。
2.新技術紹介
2-1 人工脊髄
Curitevaは3DプリントでPEEK製埋め込み用脊髄を生産している。PEEKは高性能なうえ、生体適合性が高い。従来は切削加工で作られていたが、3Dプリントの特性を活かし、多孔構造にして生体適合性を上げている。PEEKはTgとTmの温度差が大きく固化しにくい。フィラメントを引っ張りながら積層して結晶化しやすくしている。成形品は要求性能の6倍の強度を有する。
クリーンルーム内に設置された9台のプリンタで10時間✕2シフト/日、週5日稼働させて生産している。切削仕上げでの材料ロスは2%程度だ。その後マーカーにチタンピンを埋め込み、アパタイトコーティングして親水性を付与する。すでに2,000個以上が使われているが再手術が行われた例はない。
2-2 EV電池容器の樹脂化
自動車のEV化が進んでいる。バッテリーケースは鉄又はアルミ製だが軽量化、環境負荷軽減のため樹脂化が期待されている。Engelは各社の協力のもと、開発を進めている。ケースはトレーとカバーから構成されている。カバーは難燃性が必須だ。2枚の0.3㎜の長繊維強化シートの間に1.9㎜の難燃PPをサンドイッチ成形して試作した。トレー試作では部品統合を重視し、金属インサート37個、ファスナー5個を付けた。バルブタイプのホットランナでシーケンシャル射出している。成形機は大型車用では型締め力1万t、射出圧1500t、シリンダ径190㎜程度のものが必要になる。2段可塑化して長繊維のインライン混錬も有効だ。
2-3 真空成形用PLA/PHAアロイ
食品包装用真空成形品の生分解性プラスチック化要請が強い。この用途にPHAは耐衝撃性が不足しているため非バイオ系の改質剤を使用されていた。生分解性を向上させるため、PHAメーカーのCJ BiomaterialsとPLAメーカーのNatureWorksが共同研究を行い、PHA/PLAアロイにより、透明性が高く、耐衝撃性の優れた材料の開発し成功した。この材料は食品安全規格FDA、たい肥化規格BPIを取得している。また、成形温度が引き下げられ、成形コストが削減できる。トリミング廃材の再生も可能だ。乾燥工程を省くため両材料とも絶乾品の密封出荷をしている。また、マスターバッチPHACT MA1250P-2も用意されている。
2-4 ミートトレー真空パック用PEフィルム
ブラジルのVideplastはLLDPE、Exceed XP 7052MLで真空パック用のフィルムの開発に成功した。肉製品、チーズなどの包装にPETトレーと組み合わせて市場実験中だ。バリア層を持ち7層構成になっており、十分な強度、透明性を有している。アイオノマーを含まないことと、薄肉化が出来たことでコスト競争力が高い。
3.技術解説
3-1 かさ密度
成形材料を扱うとき固体密度、溶融密度、かさ密度の3つの密度に留意する必要がある。かさ密度はあまり重視されていないが、喰い込み、溶融、材料搬送、保管などに影響を及ぼす。同じ材料でもペレットサイズ、形状などによってかさ密度は大きく変わる。容積既知の容器に試料を満たし重量を測り、算出する。
3-2 単軸押出機の溶融樹脂温度
押出機の樹脂温度測定は難しい。これは溶融樹脂の伝熱が悪いことが原因だ。40㎜単軸押出機の先端に測定位置可変の熱電対を装着した25㎜のパイプを取り付け、LDPEを流し温度測定した。スクリュー回転数60rpmで8kg/hr流動させた。その結果パイプを183℃に設定した時は測定か所によって温度差が35℃あった。パイプ温度が220℃のときは温度差は5℃になった。壁温度の影響を避けるため熱電対先端を溶融樹脂内に4㎜程度突き出して設置することがある。この位置だと220℃が検出できる。フリーパージ法で測定した結果と比較することも大切だ。
3-3 キャビティへの彫刻
金型に文字情報を彫刻すれば印刷やラベリングが不要になる。ただし彫刻に内容によっては他のユーザーに売れなくなってしまう。このため、加飾法は生産量や用途範囲で決める必要がある。実際に彫刻は印刷やラベリングより少ない。
金型の掘り込みは成形品では突起になり、文字は鏡文字になる。微細な転写は困難なので文字は8ポイント以上にすべきだ。彫り深さは0.25㎜以下、幅/深は1.5~2にする。彫り壁はすべて30°以上の勾配を持たせる。陰刻は簡単だが陽刻は切除量が多くなり時間がかかる。彫りのバリは十分除去しておく。抜き勾配が5°程度あれば離型方向の壁でも彫刻できる。ただし、十分丸み付けしておかないと離型困難になる。冷却配管など型構造の関係で彫刻できないところがある。彫刻部分を入コマにすれば随時交換でき便利だ。詳しくはHanserの“Injection Mold Design Handbook,”を参照されたい。
3-4 フローテスターの活用
押出成形では樹脂圧力が異常に高くなって装置を破損してしまうことがあるので、圧力/吐出量の関係を知っておく必要がある。
フローテスターを利用すると圧力と流量の関係を比較的簡単に測定できる。ダイスは実際に使用するものに交換する。材料を入れ、所定の温度に達したら荷重を交換しながら流出量を数点測定する。荷重は圧力に換算する。荷重を増やしながら測定した場合と減らしながら測定した場合では値が異なるので両方測定した方が良い。なお、加圧にテコを利用すると重量変更が簡単になり、測定範囲を増やし、より細かい挙動の把握が出来る。
4.ケースステディ
4-1 ロボット活用
Hoffer Plasticsは利益の10%を設備更新に投資続けてきた。最近は自動化に力を入れており、従業員は知的作業に回すようにしている。ただし、抜本的なレイアウト変更は出来ないので自立型ロボットと共働を導入し、製品検査、箱詰めなどのマテハンに力を入れ、累計55,000時間の労働時間を削減した。自動化は事故処理作業の削減、安全性向上、稼働率の向上にも役立っている。今後は自動化を品質管理の高度化、荷姿の標準化などとの組み合わせを推進していく。
4-2 自動車分野のリサイクル
Industrial Resin Recycling (IRR)は自動車部品工場から出る廃プラの再生からスタートした。やがて独自で配合するようになり、品質管理体制を確立した。品質管理ではISO9000を取得し内外の監査を受けている。独自の材料を様々な部品に活用している。システムレベルアップのも注力しており、能力アップ、金属の磁気分離、スクリーン自動洗浄にも成功している。自動車はEV化など不確定な要素もあるためカーペット、医療、家庭用品など他分野への参入にも注力している。
5.あとがき
本欄はアメリカの専門誌、Plastics Technologyの記事から同国の業界動向を探ろうとする試みだ。今秋の編集長変更がテーマに影響しだしたように感じる。例えば「インプラント」、「EV」のような最新の技術開発をアメリカにこだわらず紹介する姿勢が見える。一方で「彫刻」や「かさ密度」のような基本事項も充実した。いずれも日本のメディア環境では見逃されている分野なのでありがたい。
日本発のPETケミカルリサイクル技術がフランスで認められたというニュースはうれしい。技術を提供したJEPLANに興味のある方は同社のURLにアクセスください。
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