製品設計コンサルタント
田口技術士事務所 田口宏之
適切な対策を施していないプラスチックは紫外線で容易に劣化する。
屋外のプラスチック製品が変色、脆化している様子を見たことがあるだろう。図1は屋外に長期間放置したプラスチック製品(PP製)である。
当初はきれいなピンク色だったが、白っぽく変色し少し力を入れるだけで簡単に割れてしまう。今回はこのような紫外線劣化のメカニズムと対策の考え方について解説する。
プラスチックは紫外線により劣化し、物性低下や外観変化を生じる(表1)。
表1 紫外線劣化で生じる現象
紫外線劣化は図2のようなメカニズムで進行する。
③以降は熱分解と同じメカニズムである。そのため、紫外線劣化は環境温度が高い場合や、水分の存在下で促進される。
紫外線劣化を防止するためには、図2で示したメカニズムに沿って対策を施すことが重要である。対策の考え方を順番に説明する。
光のエネルギーは波長が短いほど大きく、プラスチックの光劣化は波長が短い紫外線によって起こる。290nmより波長の短い光はオゾン層によって吸収されるため、光劣化は290~400nmの紫外線によって生じる。
プラスチック製品に照射する紫外線は、太陽から直接到達する直達日射と大気成分により散乱・反射して天空の全方向から到達する散乱日射を合わせた強さとなる。
紫外線は散乱性が大きいことから、快晴の日で50%以上、曇りの日ではそのほとんどが散乱日射である1)。そのため、直達日射が届かない場所でも、空が大きく見える位置では散乱日射が強く照射されている(注1,図3)。
注1 軒下など製品から見て空が見えない位置では、屋外であっても紫外線量は多くない。
屋内で使用される製品でも近くに窓がある場合は注意が必要である。筆者はPP製の住宅設備部品が紫外線劣化したというトラブルを経験したが、その時は南側に大きな窓が設置されていた。
製品にどのくらいの期間、どの程度の強さの紫外線が照射されるかを明確にすることが、以降で述べる対策の要否や促進試験方法を検討するベースとなる。
製品に照射される紫外線のうち吸収されやすい波長は、プラスチックの種類によって異なる。例えばPEでは300nm、PVCでは320nmが影響を受けやすい波長である2)。
ポリマーが紫外線を吸収すると水素原子が切断され、ラジカルが発生する。ラジカルが発生すると③、④と反応が進んでしまうため、ポリマーが紫外線を吸収しないようにするか、ラジカルを増やさない対策が必要となる。以下に代表的な対策を示す。
・塗装、メッキ、フィルムなどの表面コーティング
・カーボンブラック、無機顔料などの紫外線遮蔽剤
・紫外線を熱エネルギーなどに変換する紫外線吸収剤(UVA)
・例えばPMMAは紫外線をほとんど吸収しないため、紫外線劣化が生じにくい
・光安定剤(HALS)の使用
ペルオキシラジカルを捕捉するフェノール系酸化防止剤を使用する。
ヒドロペルオキシドを分解するリン系酸化防止剤を使用する。
添加剤は上記の他にも様々な種類があり、適切に組み合わせて使用することにより効果を発揮する。
紫外線劣化のメカニズムと対策は少し複雑である。添加剤は条件によっては効果を発揮しないだけでなく、変色などの不具合を起こすこともある。必要に応じて材料や添加剤の専門家に頼ってもよいだろう。
1) 国立環境研究センター 「絵とデータで読む太陽紫外線」
2) 野中矩仁 「プラスチック材料の耐候性」繊維学会誌 40.7 (1984)
『促進暴露ハンドブック』 財団法人日本ウエザリングテストセンター
春名徹 編著 『高分子添加剤ハンドブック』 シーエムシー出版
大勝靖一 監修 『高分子添加剤の開発と環境対策』 シーエムシー出版
気象庁 ホームページ 「用語解説」
http://www.data.jma.go.jp/gmd/env/radiation/term_rad.html
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