岡田きよみ
あなりす
こんにちは!「あなりす」の岡田です。
今回は、分析機器を使用しない異物分析をご紹介します。前回と同様に早期の問題解決に焦点を当てています。一つでも貴社で使えそうな方法があれば試してみて下さい。
ブラックライトは、紫外領域の光を放射するライトです。物体にブラックライトを当てると蛍光体だけが発光します。私たちの周りには、蛍光染料や蛍光剤の入った物質が多数存在し、異物にブラックライトを当て発光するかどうかで材料の予測がつく場合もあります。
また発光の有無に、異物の色や形など、他の情報を組み合わせることにより、特定できる異物の種類が増加します。
図1は、精密機器上の異物をブラックライトで検出した例です。ブラックライトで光っている部分は、フラックス、糸くず異物、粒子異物(ホコリ)などです。
予備知識ですが、蛍光材料は食品衛生法で食品に直接接触する包装容器には使用できないことになっています。仮に食品異物にブラックライトを照射し蛍光が観察できれば、その異物が包装容器由来ではないということがわかりますよね。
一度、周囲の物質にブラックライトを当て、蛍光の有無を調べてみてはいかがでしょうか。それらの結果をデータベースに整理しておくと異物発生時に役立つはずです。
磁石にくっつけば、ニッケル、コバルト、鉄の可能性があります。異物が磁石にくっついた場合、付近に錆などの異物発生源がないか捜してみましょう。
磁石を使う際の注意点ですが、磁石を直接異物につけるのではなく、異物と磁石の間にラップフィルムなどを入れて近づけてください。異物が磁石に直接付着すると、付着した異物を回収するのに手間がかかります。とくに微細な異物だと大変です。簡単に異物が回収できれば、次の分析も素早く行えますよね。
異物を採取し、ヨウ素-ヨウ化カリ溶液を加えて、紫色を呈するかどうかを確認します。これも手軽にできる定性確認の方法です。
ただし、ここで注意点があります。デンプンが固まって水に溶解していないときには、ヨウ素溶液に入れても紫色に変化しません。デンプンが含まれている可能性のある異物は、ヨウ素液に入れ熱をかけて撹拌した後、再度観察してください。
異物にタンパク質やアミノ酸が含まれていれば、ニンヒドリン試薬を加えて加熱すると、試料が青紫色に変色します。この反応は、指紋の検出にも使用されています。刑事ドラマでおなじみですよね。
繊維染色試薬の一例として、カヤステインQ (kayastainQ) を用います。カヤステインQは、日本化薬(株) の主要12繊維(ポリエステル、アクリル、トリアセテートなど)の鑑別が簡単にできる繊維鑑別剤です。サンプルを常圧で染める(煮る)ことにより、素材に応じて色相が変わり、素材を判別することができます。
ただし、様々な繊維が同時にある時、繊維そのものに色がついている時、繊維に樹脂加工されている時は、色相がずれて判別が困難になることがあります。他にも、カヤステインQと同じように使用できる試薬としては、ボーケンステインⅡ(BOKENSTAINⅡ:BOKEN試薬機関)があります。
ガラス面の上にシリカゲルあるいはアルミナがコーティングされているプレート(販売されています)に検査対象の溶液をスポット*) し、特定の溶媒で脂溶性混合物を展開して分離します。詳しくは、インターネットの「メルク TLC」で検索し、表示されるカタログに記載されていますので参照ください。
*) キャピラリー(市販されている細いガラスの管)などで溶液を同じ位置に滴下して乾燥する動作を何度か繰り返します。
通常は順相(有機溶媒を移動相として使用し、脂溶性成分の試料を分離する)のシリカゲル担体を用いたプレートを使います。シリカゲルはOH基を多数含む極性が高い物質で、スポットしたサンプル(混合物の各成分)の極性が高いと、シリカゲルとの相互作用が強まり、溶媒で展開されにくくなります。逆に極性が低いと溶媒展開されやすくなります。この性質を利用して混合物を分けるのです。
では、その際の展開溶媒ですが、極性が低すぎるとスポットしたサンプルがシリカゲルに吸着して離れません。一方、極性が高いと、シリカゲルと強く結合している物質は、溶媒とも相互作用して溶媒のほうにも流れていきます。つまり、サンプルによって展開溶媒を変えなければならないということです。
したがって、極性の違う溶媒の混合比を変化させ、一番きれいに展開できる最適溶媒を決定していく必要があります。例えば極性溶剤として、酢酸エチル、メタノール、エーテルなどが、非極性溶媒としては、ヘキサン、ベンゼンなどがあります。
もちろん、まずは、分析したいサンプルを溶かすことが必要条件ですよ!そして、極性を変化させ含有成分を展開してください。
TLCの検出方法として、目視で色が確認できるものは目視確認し、紫外域に吸収のある物質(ベンゼン環など)はブラックライト(あるいはUVランプ)で確認して印をつけます。
図2上段(a)を用いてTLC分析の手順を説明します。子供の頃、画用紙を短冊に切り、水性マジックをスポットしたものを水に浸けると、水の上昇と共にマジックに含まれる色素化合物が分離する実験をした記憶がありませんか。TLCの原理・方法はそれと同じです。まず、シリカプレート下線中央部に溶液をスポット(ガラスキャピラリーでスポットすればOK)します。
次に、何度か同じ位置にスポットした後、展開溶媒に浸けます。展開溶媒が短冊の上部まであがれば終了です。その後、シリカプレートを乾燥させ、展開距離を測定します。展開させた物質によっては、ブラックライトで位置を確認する必要があります。
図2下段(b)をご覧ください。スポットの移動距離を溶媒の移動距離で割り導出した値であるRf値(retention factor value)を示しています。離液組成、温度、担体、チャンバーの溶媒蒸気の飽和度、スポット量を管理すれば再現性があるため、サンプル同定に有効です。
また、比較サンプルを用意し、同プレートにスポットすれば構成成分の違いがわかります加えて、自分たちが使用する材料に関して、用いる溶媒とスポット位置から展開される位置までの情報を事前に調べていれば(TLCデータベース)、異物が発生し、サンプルの解析が必要になった場合にその異物成分の目安がつきます。
そして、TLCにより材料(混合物)を分離して、分離した物質に対して他の分析機器を用いて詳細な情報を得ることが可能です。
図3にTLC分析の例を示します。
①は、黄色異物(異常部)が発生した例です。
異物部と正常部を同じ体積分サンプリングし、エタノールで抽出しました。なおその際、黄色成分がエタノールに溶解することは確認済です。エタノールを乾燥させた後、エタノールを一定量加えた溶液をシリカプレートにスポットします。展開溶剤を、ベンゼン:酢酸エチル=5:1としてシリカプレートに溶剤を展開させました。黒( )および黒〇部分は、ブラックライトで黄色になっていた部分です。
TLCでは、色素成分だけでなく蛍光成分も分離できます。異常部では黄色部分があるのに対し、正常部ではないことから、この物質が異常を引き起こした原因物質であると言えます。分離した黄色部分を掻き取り、エタノールで抽出した後、GC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)分析を行いました。
②は、メーカ別に黒染料を展開させた例です。
無色の黒〇部分は、ブラックライトで黄色になっていた部分です。染料のTLCを比較するだけでどのメーカのものかを判別できます。
TLCは、ポリマーの添加剤分析や反応の経過をみるためにも利用されています。ただし溶媒選択では、少し経験が必要なところもありますので、事前に自分たちが扱っている材料や想定される異物に適用できるかを検討しておきましょう。
今回紹介した方法は、学生時代に生物化学実験で使用したことがあるのではないでしょうか。少しそのときのことを思い出し、現在の業務に応用できないか検討してみていただければと思います。異物のフィルタリングに使用できるかもしれませんよ。もちろん紹介した以外にも、様々な手法があります。
学校で習ったことを思い出したり、実験関係の本やインターネットで調べたりして、自分たちの材料に適合した便利な試薬反応やグッズ、方法を見つけてくださいね。
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