異物分析(その4:観察と異物分析でのIR )

岡田きよみ

あなりす

こんにちは!「あなりす」の岡田です。

 

前回は、異物のサンプリング方法やその留意点について解説しました。今回は、サンプリング後の手順について説明します。

製品生産をしている限り、異物は常に発生する可能性がありますから、異物の情報収集は、日常的に継続して行ってください。

異物が発生した場合、サンプリング後、発生した異物を分析する前にまず「異物の観察」を行ってください。図1異物分析のフローチャートの外部観察をご覧ください。

図1 異物分析のフローチャート

外部観察

外部観察では、観察機器がないために現場ではできなかった観察や、それに基づく異物の分類を行います。

図2 異物の観察と分類

これらの観察や分類が異物発生原因の特定に直結することは数多くありますので丁寧に観察してください。観察では、前回までに繰り返し述べてきた「比較観察」を行います。正常時と異物発生時、あるいは正常部と異常部の相違点を意識して観察することが大切です。

観察の際には身近なものの大きさを把握し、自分の中で感覚的な基準を持っておくと異物原因が推測しやすくなります。また、観察したときの色やパターンについて把握し、何かの基準で分類すると後の分析段階で役立ちます。例えば、色、発生場所、大きさ等で分類してまとめておくと、共通点に気づくこともあるでしょうし、各分類中の代表異物を数個取り出し観察するだけで問題解決に至る場合もあります。

加えて、異物の発生頻度(常に発生するのか、まれに発生するのか)を記録しておくことも、分析の優先順位を決めるという点で大切です。発生頻度が高い異物から優先的に分析し、発生原因を特定しましょう。(「異物分析 その1:早期問題解決にむけて!」を参照下さい)さらに、そのときだけの分析のためだけにデータ収集するのではなく、分析後にこれらの情報を異物データベースとして登録しておくことで、次に同様の異物が発生したときに迅速に対応できます。

次に、外部観察で異物特定ができない場合はIR測定を行います(図1;IR部分参照)。

IR(赤外分光光度計)測定

IR測定を行う理由は、私たちの身の回りの大半の物質は有機物(高分子)により構成されており、有機物の分析を得意とするIRを用いることで、原因特定率を向上させることができるからです。

IR測定から得られるスペクトルは、有機物の状態やその変化に関する情報を反映しており、材料の違いや材料の変化を知る事ができます。また、異物部分のみを取り出して測定することで、より正確な分析が可能になります。図3にIRから得られる情報を示しておりますのでご参照ください。

図3 IRから得られる情報

さらに、IRは、有機物だけでなく無機物に関する情報も得られます。プラスチック材料を例に考えれば、樹脂の組成成分、有機物質添加剤、無機物添加剤のすべての成分に対して特徴的なスペクトルピークを有しているため、成分分析が可能です。

また、測定は簡易で測定時間が短いこと、スペクトルのデータベースが非常に多いこともIRが使用される理由です。表面に付着している数μmまでの異物であれば、数分で測定でき、測定後に得られたスペクトルをデータベース検索や解析することによって異物の詳細情報が得られます。測定結果スペクトルが、データベースにヒットすれば、測定から解析まで数10分で終わります。さらに、測定方法によっては非破壊分析が可能です。

一方で、金属そのものの分析はできません。金属の吸収スペクトルに特徴ピークがないからです。「吸収がないので金属である」と判断はできても、金属の種類はわかりません。

また混合物の分析についても、液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーのようにIR装置自体に成分を分離する機能は持っていないため、混合物を分離する事ができず、混合部の情報がそのまま混合スペクトルとして出てくることから、異物の特定ができない場合があります。ただし、異物部分のスペクトルから、スペクトル解析で明らかになったスペクトルや、正常部分のスペクトルを差し引くことにより、混合物のスペクトル情報を分離していくことは可能です。

図4に異物部のスペクトルから正常部のスペクトルを分離した例を示しています。異常部から正常部であるポリエチレンテレフタレート(PET)のスペクトルを差し引き、異常部ではPETにポリエチレンが混合していることが判明しました。

図4 差スペクトルによる成分分離

以上から、IRの長所と短所をまとめてみました。IRの長所と短所を熟知して実践することが異物問題の早期解決への近道です。

図5 IRの長所と短所

IR測定を行って、異物が生物由来なのか、ゴム・プラスチック等の有機物なのか、石等の無機物なのかについて判断をした後、さらに分析が必要であれば図1に示した手順を参考に進めてください。もちろんIRでなくてもご自分の得意な分析装置があれば、それを用いて分析を進めていただければと思います。

IR以外の装置を用いた例をとして、電子顕微鏡により分析をした先輩の話を紹介します。その先輩は、紙に付着した茶色い異物結果を電子顕微鏡により観察しただけで、「○○メーカーのチョコレート」と結果報告をしてきた事がありました。

なお、後ほどIRで分析を行った結果も同様でした。結果を出すまでのプロセスを伺ったところ、異物状況から発生原因を推定し、電子顕微鏡で推定物の表面と、加速電圧変化による異物損傷の程度を観察して結果に至ったとのことでした。

この話から、たとえIR装置を使用しなくても、他の装置により正しい分析結果を導き出せる可能性があることがわかります。自分の得意とする分析からはじめて結果を得た後、さらなる確証を得るために他の分析手法を用いればよいわけです。

最後にIR分析について少し補足をしておきます。物質の構造が類似するものは、ほぼ同一のスペクトルが得られるため、構造は明らかであっても異物の由来が特定できない場合があります。例えば、製品の中で類似するスペクトルを有する物質が複数用いられている場合や、異物原因の候補として考えられる複数の物質のスペクトルが類似している場合などです。

これらの場合、どの物質が異物の原因であるのか区別がつきません。そのときは、もう一度、異物観察に戻り、観察とIR分析で得られた情報を組み合わせ、異物を特定していくことも1つの方法です。例を図6に示しました。

図6 IRと観察での異物分析

図6上部の玉葱の表皮とパン粉のスペクトルは類似しており、一見すると区別がつきません。しかし、顕微鏡で組織を観察すると、その物質が玉葱であるのか、パン粉であるのか一目瞭然です。また、図6下部に示した、髪の毛、皮膚、ナイロンもスペクトルは類似していますが、顕微鏡観察するとそれらの違いはすぐに分かります。

繰り返しになりますが、「異物の観察」「IR分析」「IR分析情報に応じた分析機器の使用」(図1参照)という手順で異物分析を進めていきます。

早く問題解決をしたいとあせるあまり、各段階での結果を見逃さないように注意してくださいね。