プラスチックの材質分析例~ピンポン球の材質
岡田きよみ
あなりす
「あなりす」の岡田です。異物シリーズの合間、分析未経験のOさんの測定例を紹介します。
最近、日本の卓球が盛り上がりを見せており、頼もしい限りです。
友人が、「ピン球のメーカー、材質によって跳ね方、回転のかかり具合、台上での曲がり程度が異なるため、何でもありのプラスチック球ではなく1つの材質に早く決めてほしい・・・」とぼやくのを聞いて、どういうことなのか卓球のピンポン球の材料について調べてみました。
インターネットで調べてみたところ、以前のピンポン球は、セルロイド素材でしたが、ITTF(国際卓球連盟)の決定により、2012年のロンドンオリンピック以降、プラスチックに変更されました。
変更理由としては次の三点が挙げられています。
セルロイドは燃えやすく、太陽光線に当たっただけでも劣化しやすい。(素材として耐久性に乏しい)
良質のセルロイドの入手が困難になってきている。
プラスチック素材のほうが、試合が短くなりすぎず、ラリー戦が続く。(回転を少なくし弾みを抑える)
なお、プラスチックボールへの一気に行われたわけではなく徐々に移行したようです。ただし、プラスチックの材質に関しての規定はありません。プラスチック球の製造国主は中国で、次いでドイツ、日本です。
日本では、材料開発は東レ、製造はニッタクがそれぞれ担っており、1社1製品しかありません。また、日本メーカーといえども他は全て中国製です。
では、実際にピンポン球をFT-IRで測定して見ましょう。測定はFT-IRをはじめて触るOさんが行いました。メーカー:A~Iのピンポン球を分析しています(図1参照)。
測定手順:FT-IRの1回反射ATR法を用いての測定
1. ピンポン球を切り取る。
2. 測定面を測定部位(ダイアモンドクリスタルの部分)に押し当て、測定を開始する(図2参照)。
3. 測定後のスペクトルを、汎用データベースを用いて検索する。
4. ピンポン球の表と裏両面の測定を行う。
測定結果
以下の表から、同じメーカーでもピンポン球によって材料が異なることがわかります。図3には、主要材料のスペクトルを載せていますのでご参照ください。
表1 メーカー毎の主要材料
資料:測定結果より筆者作成
ピンポン球の表と裏では、すべてのサンプルで同じ材料であることも確認しました。
(参考)データベース検索では、第一ヒット物質が違ったものもありました。そこで、スペクトルとサンプルの状態を確認して、同じ物質であることを確認しました。検索結果が違ったのは、サンプルの劣化および汚れに由来することがわかりました。←ここは、Oさんには判断の難しかったところでした。
1ポイントレッスン!
曲面の強いサンプルは、測定面と装置の測定部位との密着を上げるためにサンプルを切断することも必要です。
劣化や汚れの程度がひどい場合は、劣化や汚れ由来のピークにより、検索結果が違ってきます。劣化や汚れが少ない面を測定する、表面をアルコールで拭いてから測定する、同じサンプルを何点か測定する などの工夫をしましょう。
何かおかしいかな?と思ったら、必ずサンプル状態や個々のスペクトル確認を行い、疑問を解決して、次のステップへ進む。
一般に売られているピンポン球の素材は実に様々でした。これでは、メーカーによって弾み方や曲がり方が違うのは当たり前ですね。
余談ですが、ピンポン球には、材質ともうひとつ、ボールの継ぎ目の問題もあります。ニッタクのプラスチックボールには今までのセルロイドと同様に真ん中に継ぎ目があるのですが、中国のボールはふくらませて作るので継ぎ目がありません。継ぎ目のありなしもピンポン球市場では、混在しているようです。
これだけ異なるピンポン球の規格が今後どうなっていくのか楽しみですね。いまのところ公式試合以外では、ボールの規格が決まっていないことが多いので、マイボールを持てばいつも負けている相手に勝てるかもしれませんよ。
以上、FT-IR未経験のOさんによる測定内容と結果を紹介しました。なお、測定方法を覚えて簡単なレポートをまとめるまでにかかった時間は約3時間です。このようにFT-IRでの主成分測定は、データベースがあれば簡易にできる測定であることをおわかりいただけましたでしょうか。