岡田きよみ
あなりす
こんにちは!「あなりす」の岡田です。
前回までは、異物発生現場でできることやその場での問題解決のヒント、あるいは実際に生産現場で行われている検査の一部について書きました。今回は、正確な分析結果を迅速に導き出す上で不可欠な工程である“サンプリング”(図1中の①)について紹介します。
具体的には、「異物発生現場でのサンプリング」と「サンプリングした異物の移動時」の注意点について解説します。
今回のポイントは、“次の工程での測定/分析を踏まえてサンプリングする”です!!
これを念頭に読み進めてくださいね。
分析依頼者・分析者が異物発生現場に行き、異物を採取します。採取後、異物の分離、正常部との比較、発生原因の特定を行うため、サンプリング時には、“コンタミネーション(異物原因物質ではない汚れ)”に気をつけなければなりません。コンタミネーションが起きると、分析しても適切な結果が得られないからです。
近年の分析機器は非常に感度がよく、サンプル表面に手が触れただけで得られる結果に違いが生じます。図2にポリエチレン表面を手で触った箇所と、触っていない箇所をFT-IRで測定したスペクトルを示しています。一見、変化はないように見えますが、差スペクトルやスペクトルの1600cm-1 付近を拡大すれば明らかに違いが確認できます。
プラスチック製品では、ブルームやブリードなどが問題になることがあります。その分析過程でサンプル表面に直接手が触れ、コンタミネーションが起こると、原因成分とコンタミネーション成分が混合し適切な結果が得られなくなります。また、その場合、コンタミネーション成分と異物成分を分離する必要があり、分析時間が余計にかかります。
より具体的な異物のイメージが得られるよう表1に異物の例を示します。
表1 異物の例
この表を見れば、大小問わず、生産ライン周辺や身の回りに存在するものすべてが異物となる可能性があることがわかります。異物分析では、これらの異物をできるだけ正常部分と分離して分析することが求められ、そうすることで原因物質の特定がより確実となります。
例えば、異物として髪の毛が製品に付着した場合を考えてみましょう。髪の毛の太さは100μm前後です(100μmより小さいものは肉眼では確認が困難です)。目にみえる髪の毛と正常部を分離しやすいよう、どのようにサンプリングし分析担当者に持っていけばよいと思いますか。白と黒のコントラストでわかりやすいからガーゼに絡ませた?これではガーゼの間に入ってとれません。
体験談ですが、私が分析担当部署で勤務していたとき、現場からの塵状異物をガムテープでサンプリングし、ガムテープの粘着面に挟んで持ってきた方がいました。まず…困りました。いや、困るというより、癒着したガムテープの粘着面をはずすのに一苦労、はずせたら今度は異物がとれない。やっとの思いで採取し分析したら粘着剤物質のみのデータが検出され、肝心の異物のデータは検出されない…。だんだん腹がたってきました。お願いですから、分析時のことを考えてサンプリングしてくださいね。この場合はポストイット(微粘着テープ)を使うのがよいでしょう。
図3にサンプリングの注意点をまとめましたので、ぜひサンプリング前にご一読を。
サンプリングした異物は、どのように分析場所に持っていけばよいのでしょうか。せっかく上手くサンプリングしたものの、持ち運ぶ際にラップで巻こうか、紙に巻こうか、迷うことはありませんか?答えとしては、どちらもよい方法とは言えません。
サンプルの持ち運びは、異物の落下時に拡散を防ぐ容器に入れること、異物が付着しても簡単に分離できる容器を用いること、異物が他の物質と化学反応を起こさないようにすること を考えます。注意点は図4に記しています。
例えば、せっかくうまくサンプリングしても可塑剤を含むフィルムにまいて炎天下に放置してしまったら、どうでしょうか?外に巻かれたフィルムの可塑剤や劣化物を分析することになりかねません。
ご参考までにもう一つ私の体験談を紹介しておきますね。ある時、フィルム中の白色異物に対する分析依頼がありました。しかし、持ち込まれたサンプルには白い異物はなく、透明液状の異物が付着しているだけでした。
サンプリングの方法やサンプルが届くまでの経緯を確認すると、異物を発見してから分析に持ち込まれるまでに10日ほど経過していたこと、サンプルを海外から輸送したため保管時の温度差が大きかったことが明らかになりました。加えて、フィルムの添加成分は反応性が高く、反応物質の様子が時間と温度によって変化することがわかりました。
このように、使用材料に反応性の高い物質を使用しているサンプルもありますので、なるべく低温下でサンプルを保管・移動させることが大切です。それが不可能な場合は、異物発見直後の写真などをとっておくとよいでしょう。
最後に大事なことをもう一つ。実際の現場では予想もしない異物が発生するなど、マニュアル通りにいかないことが多々あります。自分だけでは判断・対処できない場合は、どんな些細な情報でも分析担当者に伝え、相談し、周囲とのコミュニケーションをとりながらサンプリングやサンプリング後の処置を決めることが大切です。
またその時、分析担当者の方は専門用語で指示をするのではなく、分析担当以外の人にも理解できるよう言葉に十分留意し、現場で対処可能なことと不可能なことを探りながら話を進めるようにして下さいね。
ここでもコミュニケーションは重要ですよ。
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