秋元英郎
プラスチックス・ジャパン株式会社
秋元技術士事務所
2020年9月から2021年2月にかけて、全国から自らの意志で手を挙げた約100名の高校生からなる3つのテーマ、9つのチームによるプロジェクトが行われた。プラスチックス・ジャパン株式会社および秋元技術士事務所はそのプロジェクトを支援する立場で参加した。
きっかけはプラスチックス・ジャパン・ドットコムのお問い合わせフォームに届いた、高校生K君からのお問い合わせ(お願い)であった。同じ内容のメールは秋元技術士事務所のお問い合わせフォームからも届いていた。インターネットでプラスチックに関係する「有識者」を検索してコンタクトしたとのことであった。
メールの内容を抜粋すると
「今回はPlastics Japan様に高校生の異分野融合型の研究プログラムIHRPにご協力いただきたく、メールさせていただきました。
プロジェクトの概要としては、高校生が現在問題となっているプラスチック問題に対する研究プロジェクトを会議の場で企画し、研究機関や企業などのスポンサーを頂いて実行するというものです。
現在、僕は東大で研究プログラムに参加し、海洋プラスチック汚染に関する研究を行っているのですが、そこで全国にはレベルの高い、様々な研究を行なっている高校生が数多くいるということを実感しています。
そして、今の僕ら高校生が当事者となっている環境問題に対して、そのような高校生の力を合わせれば研究を通して貢献することができると考え、また高校生の当事者意識というものが芽生えるのではないかと考えています。
しかし、現在、高校生の研究プロジェクトというと、コンクールのように競い合うものばかりで、本来一丸となって取り組むべき環境問題などに対してあまり良い結果をもたらしてはいません。
そこで、研究プロジェクトを立てる会議を行い、様々な分野で多種の研究を行っている高校生がそれぞれの研究の良さを組み合わせて協力して研究プロジェクトを作り出すこのプロジェクトを企画しております。
具体的には、今回の議題(プラスチック問題)に関して、全国の高校生から分野を問わずその議題に関して少しでも貢献できそうな研究を行なっている人を募集し、会議の場で一つ(または複数)の研究プロジェクトを他の高校生と共に作り上げてもらうというものです。
自分の研究を他の人の研究と組み合わせてまた新たなアイデアを作り出していけると期待しています。
また、会議にこのプロジェクトに賛同していただける研究機関や学校、企業の方々をお呼びし、会議後半ではそれらの方からご提供いただける研究設備やメンター、資金などのスポンサーの交渉を各プロジェクトごとに行い、会議後に実際に研究プロジェクトを進めていくということを考えています。
現在、複数の団体や企業様とスポンサーに関しましてお話しさせていただいてるところなのですが、今回、Plastics Japan様にも、研究に関するメンターの派遣・研究費のご提供などにつきましてぜひプログラム自体のスポンサー、または研究プログラムのスポンサーになっていただけないかと思いましてメールをさせていただきました。」
メールやオンライン会議でやりとりをし、金銭的な支援ではなく、高校生のグループに対してアドバイスを行う「メンター」の形で参加するとともに、プラスチックス・ジャパン株式会社と秋元技術士事務所は「協賛」として加わった。
主催者から送られた資料から転記する。
「高校生が, 理系と文系という枠や地域を超えてグループを組み, 海洋プラスチック汚染問題の解決策につながる斬新なアイデアを創造し, 社会に提案する。
具体的には, 海洋プラスチック汚染に関連する3つのテーマ
①プラスチック製品の代替手段
②プラスチックのリサイクル手法の最適化
③プラスチックの海洋環境への影響削減
のいずれかに沿って, 各グループが調査・研究する。そのうえで, 独自の解決策をまとめ, 成果を競う。 成績優秀なグループは, 研究成果を国内外の会議で発表する。
参加する高校生は, 具体的かつ実現可能性のある解決策を作成するため, 大学や研究機関, 企業の研究者ら(メンター)からアドバイスを受けながらプログラムに参加する。
なお, 参加者募集や参加者のミーティング, 成果発表・表彰, 研究者によるアドバイスなど一連の過程は, SNSやオンライン会議などのICT(情報通信技術)を最大限活用する。」
プラスチック業界のど真ん中に生きる者として、昨今大きく注目されている海洋プラスチックごみ問題は何としても解決しなければならないと考えていたこところ、2019年にドイツで開催されたK2019ではより踏み込んだ議論が行われていた。
一方で、世論の中には、プラスチック全廃を主張する人もおり、プラスチックが人々の健康や安全に貢献している部分が忘れ去られる危険性を強く感じた。
プラスチックの専門家の使命は、プラスチックについて正しい情報を提供し、正しく理解して正しく使うための支援を行うことにある。このプロジェクトを誤った方向に進まないように見守りながら成功に導くことは専門家の使命の一つと考えた。このようなお願いが来ること自体が専門家冥利につきる。
2020年6月に発表された実施要項に記載されたプロジェクトの流れは以下のとおりである。
参加を希望する高校生はエントリーを行い、送られてくる課題に答えて応募する。その課題をもとに実行委員会で選考を行い、グループを割り振る。
グループごとに、成果発表までの予定、及びに研究グループ内での各々の役割、またグループが提示する解決案の方針をメンターの方々と共に決めていく。
第一回ミーティングに引き続き、さらに具体的な内容まで踏み込んで今後の方針やグループの指針を決定し、全体で発表を行う。
各グループで月に1~2度のオンラインミーティングと、2月の直前ミーティング(3回程度)を行ない、各参加者が自らの研究や調べ物を行いながらそれから得られた成果をもとに、各テーマ担当のメンターと共に成果発表までの準備を進めていく。
※ここでさらに協力を申し出ていただけた企業や研究者と各研究グループを繋ぎ、実際に提案する解決策を実行していくということも考えられる。
本プロジェクトの中でメンターの役割は極めて重要であった。質問に対して適切に回答する必要があるが、自分たちで調べることを省略させないよう、匙加減が難しい部分もあった。また、アドバイスはするものの、誘導しないように適切な距離感が必要であった。
メンターにはプラスチックに関係する各方面から参加があった。また、高分子学会からは多くのメンターが参加した。
メンター会議(2020年6月25日)、メンター事前ミーティング(2020年8月9日)が行われた。なお、メンターは本人の希望と全体のバランスから3つのテーマのいずれかに割り振られた。
プロジェクトの告知は各方面へのプレスリリースで行われた。プラスチックス・ジャパン・ドットコムにも募集記事を掲載し、メールによる告知を行った。
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応募した高校生は期限までに小論文を提出し、小論文の内容で参加者約100名が選抜された。参加者は希望により3つのテーマ(それぞれ3チーム)に振り分けられた。
キックオフミーティングはZOOM上に高校生の参加者とメンターが勢ぞろいし、方針説明、基調講演、アイスブレークのためのグループワークが行われた。
基調講演として東京大学大学院農学生命研究科岩田教授より、約40分の講演があった。
キックオフミーティングからちょうど2週間後の日に行われた第2回ミーティングでは、高校生が9つのチームに分かれて進め方の議論を行った。メンターは同じテーマの3つのグループのいずれかに入ってファシリテートした。
(ミーティングの目標)
当代表者)
組む問題の方向性の決定
最初の印象としては、事務局が設定した課題(①プラスチック製品の代替手段、②プラスチックのリサイクル手法の最適化、③プラスチックの海洋環境への影響削減)の範囲内で答えを探そうとしていた(最終的にはその枠を破ることになった)。
各グループ(それぞれ約10名)はオンライン会議を基本に少なくとも週に一度のミーティングを行い、課題に対する解決策を模索していった。必要に応じてメンターが質問を受けた。メンターへの質問はSlackでの一斉配信や個別メッセージで行われた。
それぞれのメンターで考え方に違いがあるため参加者は戸惑ったかもしれないが大きな混乱は無かった。
プチ発表会とは、中間報告のような位置づけであり、2回開催された。
テーマが異なる3グループずつをZOOM会議のブレークアウトルーム機能で分け、各グループが10分の持ち時間の中で、
・着眼している課題
・ソリューション案
(いつどこで誰がどのように使用できるプロダクト/サービスか)
・社会へのインパクト
・活動の現状
・今後の予定
について発表を行い、その後テーマを越えたメンバー間にメンターを交えた形でディスカッションが行われた。
本プロジェクトではあらかじめ大きく3テーマが与えられていたが、それぞれのテーマは単独で解決することが困難である場合も多く、別なテーマに取り組んでいるメンバーの視点が新しい気づきを与えていた。
第1回と異なり、同じテーマの3グループをZOOM会議のブレークアウトルーム機能で分け、各グループの持ち時間30分の中で発表10分、高校生同士の質疑応答10分、メンターからの質問およびアドバイス10分で発表・質疑応答が行われた。
各メンターは自分自身が属するテーマの発表会に加わった。
この頃になると、各グループともに与えられたテーマの枠を破って、テーマの境界領域やテーマを統合したコンセプトを打ち出すようになってきた。それは最初からある程度予想できていた。例えば、プラスチックの代替とリサイクルは一見別な課題であるが、リサイクル適性を考慮したプラスチック素材への代替という考え方は当然出てくる。
9グループがそれぞれ10分発表して、5分の質疑応答があった。メンターによる審査(2グループを選出)と参加高校生による投票(1グループを選出)を組み合わせて、優秀グループ3グループを選んだ。
以下にプレゼンテーションのタイトルを列記する。
・企業と個人は密でいいんです!
・Pla+ 企業x消費者の連携
・Dream Container Project 未来の食品容器普及大作戦
・ゴミをキッカケに変える場所
・プラスチックを回収する箱
・CO2の利用 サーマルリサイクルのメリットを活かす
・コインランドリーにおけるマイクロファイバーの削減
・プラスチックの海洋環境への影響削減
・PLA-FRE
メンターによる審査の項目は
・課題設定について
設定した課題の重要性
着眼点の独創性
・解決策について
課題に対して機能しているか
アプローチの独創性
解決策に至ったプロセス
・プレゼンテーションのわかりやすさ及び発表者の熱意
高校生参加者による投票は、是非実現してほしいアイデアに対し、1人1票の投票とした。
審査の結果サステナブル・ブランド・ジャパン(横浜)での発表に選ばれたグループは以下の発表タイトルのグループであった。
・企業と個人は密でいいんです!
・コインランドリーにおけるマイクロファイバーの削減
・プラスチックの海洋環境への影響削減
<関連記事:高校生による海洋プラスチックごみ問題への取り組み>
最後にサステナブル・ブランド・ジャパン(横浜)で撮影した写真を貼り付ける。
サステナブル・ブランド ジャパン(横浜)における各グループの発表内容に関しては、サステナブル・ブランド ジャパンのWEBサイトに掲載されているのでリンクを貼っておく。
<関連サイト:海洋プラ問題の解決策、社会実装目指し高校生が提案(2021年4月20日)>
PDFファイル第1回IHRP報告書
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