プラスチックごみ問題を考える上で整理すべきこと
秋元英郎
秋元技術士事務所/プラスチックス・ジャパン株式会社
1.はじめに
本稿は、秋元技術士事務所開設10種年、プラスチックス・ジャパン株式会社創立5周年記念講演会における講演内容を記事として編集し直したものである。講演内容に対して加えている部分がある。
プラスチックは人類が生み出した素材であり、素材のコストや加工のコストが低く(同時に消費エネルギーも小さい)軽量で加工しやすい、錆びたり腐ったりしにくいという長所がある反面、環境に流出した場合に殆ど分解しないという大きな問題点がある。
プラスチックは多くの人の安全や健康をサポートしており、筆者はプラスチックを「上手に」使うことを教えることで、多くの人々を幸福にできるとの確信の元、プラスチックに関する優れた技術を伝え、教え、広めることに注力してきた。
近年、海洋プラスチックごみ問題が大きく注目されるようになり、プラスチックの専門家がすべきことが広がってきた。
例えば、①どのような使い方をすれば環境流出が防げるかを考えること、②過度なプラスチックバッシングや代替材料が雨後の筍のように現れる中で、一般市民に分かりやすく正しいことを伝えていくこと、③プラスチックごみ問題に取り組む団体に対する支援(メンター活動)等が挙げられる。
本稿では、プラスチックごみ問題を理解するために伝えたいことを書いた。国連が定めたSDGsの17項目の多くにプラスチックが関係しており、プラスチックに関係するものとしてはSDGsとの関係をしっかり理解することも必要であると考え、最初はSDGsから入る。
2.SDGsとプラスチック
2.1 SDGsとは
SDGsとは、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)のことであり、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標で、17項目の目標から構成されている。「開発」という言葉が入っているように、原始時代に戻るのではなく、すべての人が今よりも幸せになるような進歩を促す目標である。17の目標はどれかを選んで達成を目指すものではなく、「すべて」を達成する必要がある。当然ながらその中にはトレードオフになることも多いが、そのトレードオフを上手に解決していくことが求められる。
なお、17の目標はさらに細分化された169のターゲットから構成されている。
<参考:ユニセフのサイト「持続可能な開発目標(SDGs)とターゲット」>
2.2 プラスチックが貢献している例
ここではSDGsの各目標達成に対してプラスチックの活用が関係している代表的な例を示す。ここに示すように、プラスチックは人々が健康で文化的な生活をおくるためには必要不可欠な素材になっている。言うまでもなく、ここに示すものがプラスの側面と同時にマイナスの側面を持っていることもある。
2.2.1 目標2 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
飢餓をゼロにするためには、「1 貧困をなくそう」の達成も必要であるが、ここでは食糧の生産の過程と食糧の保管・輸送の過程について拾い出した。
安定的な農作物の生産のために、温室用フィルムやマルチフィルムが使われている。また、化学肥料の過剰な使用や追肥の労力削減のため、肥料の粒子をプラスチック層でコーティングしたコーティング肥料は農業の生産性向上と過剰な肥料成分による地下水汚染の抑制に貢献している。
2.2.2 目標3. あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
マラリアの根絶のために、プラスチックの配合技術が活かされた殺虫効果を持つ蚊帳が世界中で使われている。
医療機関における二次感染防止に活躍するディスポーザル品(シリンジ、輸液バッグ、点滴チューブ)は殆どがプラスチックであり、使用後は適切に焼却処分されている。
プラスチック使用された検査キットにより、検査の効率が上がっている。
2.2.3 目標6. すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
上水道、下水道の管がプラスチック化されることで、配管の破裂や継ぎ目からの漏水を防ぐことができ、安定的に上水、下水を運ぶことができるようになった。大口径の下水管の成形技術も開発されている。
貧困地域における屋外での排泄を無くすために、プラスチック製のトイレが人道支援によって設置されている。
貧困地域への食糧支援の一環で、PETボトルに充填された水が届けられている。
2.2.4 目標7. すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する
風力発電や太陽光発電の効率化にはプラスチック素材が不可欠である。例えば、風力発電のブレードは強化プラスチック、太陽電池の封止にはプラスチックのシートが使用されている。また、リチウムイオン電池のセパレーターフィルムもプラスチックである。
2.2.5 目標12. 持続可能な生産消費形態を確保する
食品の鮮度を保ち、細菌やウィルスから保護して安全に人々に届けるためにプラスチックの容器・包材が貢献している。少量の包装や個包装により開封後の食品の劣化によるフードロスも抑制している。
2.3 プラスチックが悪影響を及ぼしている例
2.3.1 目標12. 持続可能な生産消費形態を確保する
プラスチックはその特性から、使い捨て(ワンウェイ)の用途が多く、使用済みプラスチックが大量に発生している。正しく処理されてエネルギーや資源として活用されているものも多いが、ごみとして環境に流出しているものも大量にある。
2.3.2 目標14. 持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
漁業の現場で使用された漁網や浮きが海に取り残されてごみになるケース、陸上や水辺で不法投棄されたり集積場から流出したプラスチックごみが海に流れ込むことで、海洋に大量の使用済みプラスチックごみが存在している。
3.使用済みプラスチックの行方
3.1 行方を左右するプラスチックの使い方
プラスチックは錆びない・腐らないという特徴はあるが、プラスチックを使用した製品には寿命があり、必ず「使用済み」プラスチックが発生する。その用途が使い捨て用途であれ、耐久消費財の構造部材であれである。
プラスチックの使い方によって、使用済みプラスチックが回収可能(人の管理下にある)なものと、回収不可能なものがある。回収可能な使い方であってもイレギュラーに回収できなくなることもある。使用済みプラスチックに対しては、回収したものをどのように処理するか、イレギュラーに回収できなくなる事例をどのようにして減らすか、イレギュラーに回収できないケースに備えてどのような製品設計を行うかを考える必要がある。また、回収できない用途であっても、正常な状態とイレギュラーな状況では使用済みプラスチックが置かれる環境に違いがあることを理解する必要がある。回収可能/回収不可能と想定・計画内/イレギュラーのマトリックスを図2で示した。
図2中の4分割のそれぞれで対応方法が違ってくる。「1」は人の管理下にあり、利用されるべきものであり、より合理的な活用を検討すべきものである。「2」の対策には、発生させないための対策と、将来発生するものに対する対策、すでに発生したものに対する対策がある。「3」の対策には、回収可能にするための対策と回収されずに残っているものに対する対策、将来発生するものに対する対策がある。「4」の対策はイレギュラーに発生することを減らす対策と、将来発生するものへの対策、すでに発生したものへの対策がある。下の表にまとめた。
ただし、回収可能な用途であっても、回収されるか流出するかは見通せないため、「1」に対して発生の抑制を行うことがある。例えば、現在普通に使用されている小型PETボトルは、リサイクル技術が確立するまでの間、業界において自主規制されていた。レジ袋の有料化も「1」に対する発生の抑制である。
表1 各象限に対する対策の考え方
3.2 使用済みプラスチックの流れ
表2にK2019(ドイツ デュッセルドルフ)のドイツ機械工業会(VDMA)ブースで報道関係者向けに開催されたセミナーで示された地域ごとの使用済みプラスチック発生割合のデータを日本語に書き直したものを示した。使用済みプラスチックの約半分の量はアジア・オセアニアから発生している。ただし、これらの数字はいつの時点の数字であるかが示されていないことと、必ずしも各国・地域で同じ基準で集計しているとは限らない点で取り扱いに注意を要する。それでも、大きな傾向をとらえるには十分と考えられる。
表2 世界の使用済みプラスチックの発生割合
K2019 ドイツ機械工業会ブースにおける報道関係者向けセミナー資料より
図3は同じセミナーで使われたスライドであり、使用済みプラスチックの流れを示している。図中の単位は100万トンである。生産したプラスチック製品の多くは使用されている途中であるが、年間生産量の半分に相当する量が使用済みプラスチックとして回収され、40%相当の量の使用済みプラスチックが環境に流出している。また、回収された使用済みプラスチックは埋立、焼却(熱回収)、リサイクルに分かれて処理されている。
使用済みプラスチックの行方は地域によって大きく異なる。圧倒的に排出量が多いアジア・豪州では不法投棄される量も圧倒的に多い。一方回収された使用済みプラスチックの処分方法は、アジア・豪州においてはリサイクルと熱回収の形で活用される比率が高いが、北米では埋立が圧倒的に多く、欧州・トルコはアジアと北米の中間的である。近年欧州(特にドイツ)では、熱回収が見直される動きを見せている。
使用済みプラスチックを環境に流出させないという観点では埋立も適切な処分方法であるが、石油とエネルギーを使って創った素材の活用という意味では、埋立は好ましい処理方法ではない。また、水害や台風によって埋立処理された使用済みプラスチックが河川や海へ流出する可能性がある。
図5に回収された使用済みプラスチックの処理の流れを示した。収集された使用済みプラスチックは分別されて、メカニカルリサイクル(マテリアルリサイクル)、ケミカルリサイクル、熱源化(サーマルリサイクル)として活用される。
4.プラスチックのリサイクル
4-1 メカニカルリサイクル(マテリアルリサイクル)
メカニカルリサイクルとは、プラスチック素材のまま形を変えるだけ(つまり、成形加工)で再利用する方法であり、日本国内ではマテリアルリサイクルという呼び方が一般的である。
4-1-1 PETボトルのリサイクル
代表的なものにPETボトルのリサイクルがある。回収された使用済みPETボトルは粉砕され、乾燥されて成形や紡糸工程を経て再利用される。PET樹脂は少量の水分によっても成形時に加水分解を起こすためにリサイクルPETの用途は繊維や射出成形用途(ただし少ない)などに限定されていた。近年、加水分解による分子量低下を補うべく、化学的に再高分子量化(物性回復)してボトルの成形に供することも可能になってきた(協栄産業)。使用済みPETボトルを回収してPETボトルとして使用する取り組みは2012年からサントリーが、また、最近は7&iが積極的に取り組んでいる。7&iはセブンイレブンの店頭で回収しており、国内で使用された量の1%相当の量が回収されているとのことである。店頭で回収したPETを原料としたボトルに充填したプライベイトブランドのお茶も売られている(図6)。
図7に使用済みPETボトルのフローを示した。
4-1-2 メカニカルリサイクルの課題
メカニカルリサイクルの課題としては以下の項目が挙げられる。
- 繰り返し使用による劣化
- 材料の種類が多すぎて区別できない(材料表記が「PET」と「プラ」であり、PET、PS、硬質PVCは見ても区別しにくい)
- 異物の除去(特に容器包材の内容物)
- 複合化によって分離できない
材料の種類が多いことに対しては、消費者に分別を求めるのではなく、収集したのちに赤外線分光法で機械によって分別ができるようになってきた。
食品包材の異物除去に関しては、回収した包材を水洗して脱水する装置も開発されている。
複合化の問題に対しては、性能を多少犠牲にしても単一素材で製品化する(モノマテリアル化)動きがある。例えばPET/PPからなるパウチをオールPPやオールPE(図8)にする流れ、すべての部材をTPUとしたスポーツシューズなどの取り組み(図9)がある。アディダスとBASFの共同プロジェクトでは使用済みのシューズをアディダスのショップが回収し、BASFが素材として再生する取り組みである。
4-2 ケミカルリサイクル
ケミカルリサイクルとは、使用済みプラスチックを化学反応を用いて、別の化学物質として活用できるようにする技術であり、原料モノマーに戻す方法とモノマー以外の化学原料に変換する技術がある。セメント製造時にキルンで焼成材として従来から廃プラスチックが使われてきたが、ここでは石油化学原料に戻す例と水素を取り出す例を紹介する。
4-2-1 使用済みプラスチックをオイル化して石化原料として使う方法
K2019においてBASFが提唱していた方法で、Chemcycling®という商標も付けている。リサイクルに使用された使用済みプラスチックは計算上特定のプラスチックペレットの原料になったとする。その材料を購入する側は、使用済みプラスチックからリサイクルされた原料を使用したと表示できる。K2019ではChemcycling®されたポリアミド樹脂を用いた自動車部品が展示された。図10にはK2019Previewイベントで配布されたChemcycling®による製品写真を示す。
4-2-2 使用済みプラスチックから水素を取り出す方法
昭和電工川崎事業所のKPR法は回収された包装容器として使用されたプラスチックを圧縮した後に高温で分解して水素と二酸化炭素を得る技術である。二酸化炭素は系列の昭和電工ガスプロダクツにて炭酸ガスボンベに充填される。水素は昭和電工内で窒素と反応させてアンモニアを生成する他に、配管で輸送され、川崎キングスカイフロント東急REIホテル(通称水素ホテル)の燃料電池で発電されてホテルの電力の30%を賄っている。
4-3 熱回収(サーマルリサイクル)
多くのプラスチックは石油を原料にしており、石油同様に可燃性のものが多い。リサイクルを繰り返したとしても、最後は処分方法は埋め立てるか燃やすかのどちらかに限定される。埋立を行うと、プラスチックは分解しないで残り、減量できずに処分場の面積は拡大し続ける。燃焼させれば減量でき、エネルギーを取り出すことが可能である。燃焼に反対している人の主張は燃焼させると二酸化炭素を放出するというものである。しかしながら、石油をエネルギー源として使用している限り、二酸化炭素の放出はあり、石油の代わりに使用済みプラスチックを燃やす場合、その分石油を燃やす量が減るためバランスは取れる。近年欧州でも熱回収を見直す動きが出てきている。
一方で、プラスチックをすべて生分解性プラスチックに代替して、埋立処分すべきと主張する人もいるが、生分解性プラスチックが分解しても最終的には二酸化炭素を放出するし、エネルギーは取り出せない。
したがって、筆者は埋立処分よりも燃焼によるエネルギー回収を進めるべきと考えている。小型の熱回収装置が販売されており、温水の発生装置として使用できる。図11に使用済みプラスチックを圧縮してペレット化する装置、図12に圧縮したペレットを燃焼する小型ボイラーを示した。このような装置は貧困国への支援としても輸出されており、貧困国におけるプラスチックごみ削減と温水供給による環境改善が進められている。
5.プラスチック代替素材に対する考え方
プラスチックごみ問題が大きく報道されるようになってから、代替素材の情報が目に付くようになってきた。大きく分けると、紙などの既存素材、プラスチックと無機物(51%以上)の混合物、生分解性プラスチック、植物由来プラスチックに分けられる。それぞれについて筆者の考えを交えて述べる。
5-1 プラスチックから紙への代替
プラスチック代替素材として紙へ移行するケースが見られる。例えばプラスチックのストローから紙のストローへの切り替え、菓子の袋(個包装ではなく、大袋)をプラスチック袋から紙袋への切り替え、プラスチックのトレーから紙の成形品への切り替え等がある。しかしながら、紙は製造工程で大量の工業用水を使用し、大量の薬品(紙薬品)が添加されるため、決して環境負荷が小さいものではなく、環境負荷低減のためにプラスチックに置き換わってきた歴史がある。今その歴史を逆行しようとする動きが出ているのである。
ストローを紙に代えるという考え方の根底にあるのは、ストローのポイ捨ては無くならないので、わずかな割合でもポイ捨てされた場合に環境中で分解する素材を選びたいという考え方である。一方で回収された紙のストローは大量の水分を吸収して可燃ごみとして処理される。可燃ごみとしてみるとポリプロピレンのストローに比べると焼却に要する燃料が必要になる分環境負荷は大きくなる。
店舗で購入した飲料は店舗内で飲むか、移動先で飲むか、移動中に飲むかに分けられる。ポイ捨ては移動中に飲んだ後に起こると考えても良い。つまり、ストローの材質の問題ではなく、マナーの問題であり、歩きタバコと同じように規制する方が有効と考えられる。それができれば、回収率が向上するので、紙よりもプラスチックの方が環境負荷は小さいはずである。
菓子類の包装に関しては、キットカットの包装袋がプラスチックから紙に替わった例が有名である。図13はJapanPack2019の株式会社イシダブースの展示の写真である。しかしながら、個包装は紙化されていない。内容物の品質保持に対する要求が低い部分を紙に代替したものと考えられる。また、製袋にはプラスチック袋と同様にヒートシールの工程が必要であるため、内面には薄くポリエチレンがラミネートされており、雑紙としてはリサイクルできず、可燃ごみとしてプラスチック包材ごみと合わせて処理される。
従来から紙が使われていて、サイクルされている代表的なものに牛乳パックがある。工作で牛乳パックを使ってはがきを作る体験をしたことがある人もいるであろう。牛乳パックをリサイクルする際には防水とヒートシールのためにラミネートされているポリエチレンを剥がす必要があるが、ポリエチレンには多量の紙の繊維が付着するためリサイクルが困難であり、主に焼却される(最近は古河電工のポリアルリサイクル技術のように複合材料化される例もある。)
アメリカでは牛乳容器としてポリエチレンが使われることも多く、モノマテリアルという点では紙容器よりもリサイクル性に優れる。容器の機能をさらに高めるためにポリエチレンと発泡ポリエチレンを交互に積層したシートを使用しようという動きもある(ZoteFoamsの「reZorce」)。
5-2 プラスチック成分が少量成分のコンポジット
脱プラスチック素材として石灰石の粉を51%以上混ぜた素材が市場に出ている。このような材料は包装容器リサイクル法の負担金が無いことがメリットとされている。しかしながら、このような素材は元々紙代替として登場したものである。製紙工程では大量の水を使うが、プラスチックの押出成形で製造できることから水の使用量が少なく、環境に優しいというのが当初のアピールポイントであった。
このような素材の問題点は消費者がどの分類でごみ出しするのかがわかりにくいこと、紙であると誤解して古紙に混入する可能性があることである。また、プラスチックとしてのリサイクルの流れに乗らなくなるという問題もある。ストレートのプラスチックで問題無い用途に対して代替されている例も出ており、混乱を生じさせないような整理が必要である。
一方で木粉や麻の繊維を混合したプラスチックも世の中に多く出ている。これらは紙と違って別な素材のリサイクルルートに紛れ込むという問題は生じない。使用後に焼却するように徹底し、埋立に回されないように周知する必要がある。
5-3 バイオマスプラスチックと生分解性プラスチック
バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックについて論じる前に、「バイオプラスチック」について説明しなければならない。「バイオプラスチック」とはバイオマスプラスチック(植物由来プラスチック)と生分解性プラスチックを合わせた名称である。しかしながら、バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックは全く別物であり、誤解を生む原因を作っている。
5-3-1 バイオマスプラスチック(植物由来プラスチック)
植物由来プラスチックの開発には大きく2つの流れがある。1つは植物由来の原料で新たな生分解性プラスチックを開発するというもの。もう1つは、既存のプラスチックの原料を植物由来の合成ルートに替えるものである。植物由来プラスチックの動きの中に農業国が「産油国」になる野望が見える。アメリカは植物由来プラスチックの開発に力を入れていたが、シェールガスが使えるようになってからは下火になっているように感じられる。
植物由来プラスチックとして近年使用が拡大しているのが植物由来のポリエチレンであり、ブラジルのブラスケムはサトウキビを原料にエタノール経由でエチレンを合成し、ポリエチレンにしている。石油由来のポリエチレンと植物由来のポリエチレンは化学的に全く違いは無いが、ポリエチレンメーカーとしての重合技術の差に由来する材料特性の違いは存在する。
5-3-2 バイオマスプラスチックの誤解
新聞やネットメディアによる報道には、消費者の誤解を誘導しそうなものが多い。
新聞系のネットニュースの報道で、あるコンビニエンスストアのグループがおにぎり全品の包装を、サトウキビを原料に配合した「バイオマスプラスチック」と呼ばれる素材に切り替えるという報道があった。サトウキビを原料に「配合」しているわけではなく、サトウキビを原料に使用したポリエチレンが使われている。したがって、生分解性が有るわけではないが、そのような誤解を誘導しかねない。なお、この記事はその後削除された。
別なメディアでは、コカ・コーラも導入予定。オランダ企業発、砂糖でできた「土に還る」ペットボトルという報道があった。しかしながら原料メーカーである東洋紡のプレスリリースには生分解性についての記載はない。これは砂糖からできた事から記者が勝手な想像で記事を書いたものと考えられる。
5-3-3 生分解性プラスチック
生分解性プラスチックを分解の機構で分類すると、金属酸化物等による酸化分解によって低分子量化し、その後微生物によって分解されるタイプと加水分解によって遊離した低分子化合物が微生物によって分解されるタイプに分けられる。市場にあるもの及び開発中のものの多くはポリエステル系の材料であり、加水分解型である。
その加水分解型はさらにコンポスト中(50~60℃)で分解するもの、土壌中(20~30℃)で分解するもの、海洋中で分解するものに大別される。試験方法はいくつかあるが、ここでは触れない。生分解性プラスチックとして代表的なポリ乳酸(PLA)はコンポスト中で分解するタイプ(コンポスタブル)である。土壌中で分解するタイプの代表はPBS、海洋生分解性を持つものの代表はPHBHである。
5-3-4 生分解性プラスチックの誤解
生分解性プラスチックをめぐっては多くの誤解があり、誤った情報が多く発信されている。単に間違ったのか、意図して誤解を誘導しようとしているのかは判断できない部分もある。
例えば、海洋生分解性を持たない生分解性プラスチックのプロモーション動画に海の動画やウミガメの動画を使っているケースが見られる。ウミガメはナショナルジオグラフィックによる衝撃的なウミガメの鼻にプラスチックストローが刺さった動画を連想させ、その解決につながるような誤解を誘導している。ポリ乳酸の製品が海洋プラスチックごみ問題の解決につながらないのは明らかである。
プラスチックをすべて生分解性にして、焼却を止めて埋立すべきという主張がある。プラスチックを燃やすと二酸化炭素が排出されるので燃やすのは良くないという考え方がベースにある。しかしながら、埋め立てた生分解性プラスチックはいずれ微生物によって分解されるので、同じ量の二酸化炭素が排出される。排出のタイミングがずれるだけである。燃焼させればエネルギーを利用することが可能であるが、微生物による分解の場合はエネルギーの活用は困難である。埋立自体の問題もある。例えば洪水や台風などの災害によって環境に流出する可能性があり、埋立のスペースを確保する必要もある。されに長期的には生態系への影響も考えられる。
確実に回収できる閉鎖空間で生分解性プラスチックを使う動きもみられる。例えば航空機内のカトラリー類に生分解性プラスチックを使用しようという動きがある。このように確実に回収できる場所では、リユースやリサイクルをすべきであり、残飯と合わせてコンポストに投入すべきではない。
また、生分解性プラスチックを堆肥に使えないかといったアイディアを耳にすることもある。確かに堆肥の中で分解するが、植物の栄養素である窒素、リン酸、カリウムを殆ど含んでおらず、栄養源にはならない。
5-3-5 生分解性プラスチックを使うべき用途
生分解性プラスチックを使うべき用途のひとつは生ごみと分離が困難な用途である。もちらん生ごみが堆肥化される場合である。例えば台所の三角コーナーに使うネットやティーバッグ等がそうである。
農業用途でも生分解性プラスチックを使うべき用途がある。例えばマルチフィルムや肥料パイル用途が例として挙げられる。これらは土の中に埋められるため、使用後に回収することが困難だからである。
6.身近な話題から
6-1 レジ袋について
プラスチックに関して2020年の大きなトピックはレジ袋の有料化であろう。レジ袋の代わりにエコバッグを持ち歩くことを習慣化した人も多いであろう。しかしながら、エコバッグは製造時の消費エネルギーがレジ袋の約50倍という試算もあり、汚れによる衛生上の問題もある。レジ袋の問題は、使用済みの袋が不法投棄されることである。実際は多くの場合はごみを入れたレジ袋の不法投棄である。レジ袋をごみ袋としての再利用を促す動きが出てきている。例えば、千葉県市原市内のスーパーマーケットでは1枚5円前後で販売されているレジ袋が指定ごみ袋として使用できる仕様になっている。この場合、別途ごみ袋を購入する必要がなくなり、レジ袋の不法投棄が抑えられる。同様の動きは千葉市内のイオン系スーパーマーケットで行われている。レジの横で通常は10枚入りで売られている千葉市指定ごみ袋を1枚ずつ購入できるようにしている。
そのような取り組みが行われていない地域でも、指定ごみ袋をマイバッグとして持ち歩く方法が可能である。
6-2 過剰包装について
プラスチックごみの原因のひとつとして過剰包装が挙げられる。過剰包装と言われているものの中にも、真に過剰なものと多重包装がある。例えば切り餅のパックの場合、個包装された餅が大袋に包装される。個包装は無ければ一度開封すると速やかに使い切らないとカビが発生し、廃棄する必要が生じるというフードロスを防ぐ役割がある。多重包装が機能しているのか、単に見栄えと高級化のために多重包装しているのか区別して考える必要がある。特に感染防止や災害への備えを考えると、個包装は必要である。
7.日本のプラスチック産業が進むべき道
我が国における使用済みプラスチックの処理技術は非常に高水準である。使用済みプラスチックの処理技術・活用技術によって国内で発生する使用済みプラスチックを国内で全量処理するだけでなく、海外から原料として輸入しても経済的に成り立つレベルの技術革新も必要である。使用済みプラスチックの活用技術は国際協力のひとつとしても注力すべきである。
プラスチックに対する正しい理解のため、専門家は一般市民や学生に対してもわかりやすく話しかける努力が必要である。