アンチブロッキング剤に使用される材料とその特性

山田佳之
笛田・山田技術士事務所

1.アンチブロッキング剤とは

ブロッキングとは、プラスチックフィルム(フィルム)同士が互いに接着する性質を示す言葉である。プラスチックフィルムの製造において一旦ブロッキングが発生すると、最悪の場合生産設備を停止する事となり、結果として多額の損失が発生する場合がある。

ブロッキングは、フィルム表面が平滑であればあるほど強くなる。また使用している樹脂、例えばポリエチレン樹脂の密度が低くなるほど樹脂の結晶度が低くなるため、ブロッキングが起こりやすくなる。ブロッキングは、フィルムの肉厚が薄くなればなるほど強くなり、光沢があり透明性が高いフィルムではブロッキングはより起こりやすくなる。

ブロッキングを防ぐためには、フィルム表面に微細な凹凸を付けることが効果的で、アンチブロッキング効果を持つ添加剤(アンチブロッキング剤)を樹脂に練りこんだり、フィルム成形時に添加したりする。アンチブロッキング剤は、フィルム表面にごくわずかな微粒子からなる凹凸を形成することによりフィルムどうしが接触する部分を少なくすることができ、アンチブロッキング性能の向上に大きな効果がある。

図1 アンチブロッキング効果のイメージ

アンチブロッキング剤は充填剤(フィラー)の一種である。プラスチックや樹脂は、中にフィラーと呼ばれるミクロサイズやナノサイズの物質を混ぜ合わせることで、強度や耐熱性、各種耐性を高めたり、新しい機能を持たせたりといったことが可能になる。アンチブロッキング剤に使用されるフィラーは無機系と有機系に大別され、種類はもとより大きさや添加の仕方で発揮される性質は異なるため、フィルムに対する選定が重要となる。更に、フィラーによっては、アンチブロッキング機能と他の機能を合わせ持つものもある。

2.アンチブロッキング剤の要求特性

アンチブロッキング剤に要求される特性は、他の添加材や樹脂等の対象物に影響を与えないように化学的に活性が低く、分散性や導入性を良くするために比重があまり大きくないこと、吸油量や吸樹脂量が多いて添加により対象物の物性が変化しないこと、製品加工性がよく、アンチブロッキング剤添加により、外観や機械的、化学的、電気的に製品の特長を低下させないこと等の要求を満足させなければならない。更に、入手が容易で品質安定性が高く、大量に生産ができて廉価であることも必要である(図2)。

図2 アンチブロッキング剤の要求特性

3.アンチブロッキング剤の物性

3-1 粒子径

アンチブロッキング剤の粒子の大きさは、性能に直接影響を及ぼす。一般に、粒子が小さいほど、添加量は少量で済みますが、飛散しやすく、凝集もしやすいためハンドリングは難しくなる。

基本的には、粒子、粉体の形状で使うため、微粒子粉体特有の挙動による粉体制御、粉体加工の技術が関係してくる。

表1 アンチブロッキング剤の大きさと特徴

アンチブロッキング剤の大きさと特徴

3-2 形状

大きさと共に並んで重要な要素となるのが形状である。アンチブロッキング剤は、ミクロンサイズやナノサイズのものを均一に混合、塗布するときに形状が大きく影響する。更に、流動性、分散性等の微粒子特有の粉体特性や添加後の加工性にも影響する。アンチブロッキング剤に使用される粒子の形状は球状と不定形が多く用途によっては、繊維状、板状の形状のものが用いられる場合がある。

3-2-1 球状

球状のものは不定形粒子に比べ、樹脂に混ぜる際により均一に分散できる。また、異方性が無いため、応力集中も起こりにくいため耐衝撃性が強くなり、更に熱膨張した際にも歪が出にくくなる。しかし、摩擦係数が小さいため樹脂やフィルムから脱落しやすく、形状制御に手間を要するため、価格は不定形状のものに比べて高くる。

写真1 球状品の一例1)

3-2-2 不定形状

別名、破砕状といわれ、原料に強い力を加えて粒子径を制御する方法(Breaking Down法)で作られる。異方性があるため、球状に比べ応力集中により粒子が崩れやすく、更に、摩耗により微粉が発生する可能性がある。また分散性や流動性が劣るため、使用方法によっては分散不良やタンク内でブリッジが形成されやすくなる。

その反面、摩擦係数が大きいため保持力が高くなり樹脂やフィルムから脱落し難い、製造工程が比較的単純であるため球状に比べて安価な傾向がある。このため、トータルな面で多くのアンチブロッキング剤に不定形状のものが用いられている。また、不定形状粒子の角取りを行ったものを疑似球状粒子いい、球状、不定形状の中間的な性質を持っている。

写真2 不定形状の一例2)

3-2-3 針状、繊維状

針や繊維のような形状は、機械的強度などの向上に効果が高く、補強効果や耐熱性の向上に有効で、特に繊維状のものは、制振効果にも優れる。また導電性を付与する場合に、電気の通る道を作り出すのに有効である。このようなフィルムの特長を損なわないためにも、アンチブロッキング剤としても使用される場合がある。一般に縦横比であるアスペクト比の大きいものの方が高い効果を発揮するが、成形安定性や加工性に影響する場合もある。更に、アスベストのように発がんが指摘され使用が禁止されているものもあるため、注意が必要である。

写真3 針状形状の一例3)

3-2-4 板状

機械的強度を高めたり、機械的性質の改善に有効な形状で、針状や繊維状と同様に、導電効率を高めたり、制振効果、またガスなどの遮蔽効果の向上、表面平滑性の付与、表面硬度向上などにも有効である。針状、繊維状と同様、これらの特長を損なわないためにアンチブロッキング剤としても使用される場合がある。

写真4 板状の一例4)

3-3 無孔、多孔質

3-3-1 無孔

粒子の穴が空いていないタイプのものです。一般には天然物系のものが多く、多孔質に比べ粒子強度が強い反面、多孔質に比べ比重が大きい傾向がある。

3-3-2 多孔質

表面粒子に穴(細孔)が空いているもので、比表面積が細孔容積が大きいことから、アンチブロッキング剤はもとより、塗料の艶消し、吸着材等様々な分野で使用されている。細孔の構造で凝集構造、シリンダー構造に大別され、人工的に作られるものが多いが、珪藻土やイモゴライト等天然に存在するものもある。

写真5 凝集構造の例5)

写真6 珪藻土の細孔構造6)

図3 イモゴライト7)

4.アンチブロッキング剤の添加方法

添加方法は、添加する工程により、内添、外添に区分され(図4)、それぞれの工程に合わせたアンチブロッキング剤が上市されている。

図4 アンチブロッキング剤の添加工程8)

4-1 内添

内添とは、原料に直接アンチブロッキング剤を混合して、直接樹脂に練り込む方法で、添加以降の工程でアンチブロッキング剤が変質、樹脂やフィルムに影響しない特性が要求される。内添において、着色剤や機能性を付与する添加剤、カーボンブラック、鉱物系フィラーなどを高濃度・高分散させたペレット形状のものをマスターバッチという(図5)。

図5 マスターバッチのイメージ

4-2 外添

外添は、フィルムを横に延伸する前の塗工工程でアンチブロッキング剤を添加する添加する方法で、アンチブロッキング剤がフィルムから脱落しない、後工程でフィルムに影響しない特性が求められる。

5. アンチブロッキング剤の種類

Fig6にアンチブロッキング剤の素材別の一覧を示す。

アンチブロッキング剤は、有機系、無機系に大別され、更に無機系は、天然素材と合成系に分類される。天然素材は、ケイ酸塩、クレー(粘土)、炭酸カルシウム、珪藻土などが用いられている。合成系は、シリカをはじめ、ゼオライト、沈降性炭酸カルシウムなどが用いられる。天然素材系は、合成系に比べ物性や組成を制御するのが難しいが、比較的廉価な傾向がある。有機系はワックス・パラフィン系、EO/PO(エチレンオキシドプロピレンオキシド)、脂肪酸石鹸系、脂肪酸アミド系、シリコーン系が用いらる。

図6 アンチブロッキング剤素材別一覧

5-1 無機系

5-1-1 天然素材

5-1-1-1 ケイ酸塩

ケイ酸塩は天然鉱物の中でアンチブロック用途に広く使用されている素材で、カルシウム、アルミニウム、マグネシウムが最も一般的に使用されています。中でもケイ酸カルシウムとケイ酸アルミニウムは、その構造と硬度から主に内部添加(内添)に使用さる。また、タルクに比べアンチブロッキング性が高い傾向がある。

5-1-1-1-1 ケイ酸カルシウム(ワラストナイト)

ワラストナイト(珪灰石)は天然に産出するメタケイ酸性鉱物で、化学式ではCaSiO3で表わされます。無孔で、針状および繊維状の集合体である。導電性、断熱性、油分吸収性が高く、安定した化学的性質、耐熱性、耐摩耗性、耐食性等の耐性を有するため、プラスチックをはじめ、高機能材料、塗料等様々な分野で使用されている3)

5-1-1-2 ケイ酸マグネシウム(タルク)

酸化マグネシウムとケイ酸の複合塩(Mg3Si4O10(OH)2)で、工業的に柔らかい鉱物のひとつである滑石を粉砕して製造されている。滑石は滑らかな使用感触と自然な光沢があることが特徴であり、粒子形状が板状のため、添加により剛性,耐熱性、耐収縮性が向上することから、プラスチック用としては主としてポリプロピレンの充填材に用いられている。アンチブロッキング剤としては内添、外添ともに用いられている。更に、タルクは酸に対する抵抗性がかなり強いことから食品関係のプラスチックに配合されることもある。更に、タルクを配合した塩化ビニル樹脂製品は耐候性に優れているという特長がある。

5-1-1-3 アスベスト(現在は禁止

アスベスト(石綿)とは、蛇紋石族の造岩鉱物に属する繊維状のケイ酸塩鉱物である。中でもケイ酸マグネシウム塩を主成分としたクリソタイルは、耐熱性に優れ、引っ張り強さが大きいことから、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂やシリコーン性樹脂の耐熱性、耐摩耗性の改良剤として広く使用され9)アンチブロッキング剤としても用いられていた。

しかし、石綿が発がん性を有することがわかり、平成18年9月1日以降、石綿及び石綿をその重量の0.1%を超えて含有する全ての物の製造、輸入、譲渡、提供、使用が禁止されている10)

石綿は、直径 3μm 未満で肺胞に到達しやすく、更に、形状はアスペクト比3(長さと直径との比率が 3 対 1) を超え、鋭度が高いため肺胞に刺さりやすい。このため一度肺胞に入ったものは排出されず蓄積するため、発がん性が高いといわれている。

写真7 石綿の粒子形状

5-1-1-4 ケイ酸アルミニウム(ゼオライト)

沸石とも呼ばれるアルミノ珪酸塩鉱物で、大きな特徴としては結晶構造に由来した微細な空洞を有している。その構造により吸着機能、触媒機能、分子ふるい機能、イオン交換機能といったさまざまな用途に利用されている。ゼオライトは、結晶性のアルミノケイ酸塩であり、シリカ、アルミニウム、酸素の骨格と、イオン交換可能なナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄等のプラスイオンから形成されている。

図7 ゼオライトの構造11)

また、ゼオライトの特徴として、1nm以下の規則的な微細孔を有しているが、その細孔径は結晶構造によって異なる。天然ゼオライトは、モルデナイト(硬質)とクリノプチロライト(軟質)に区分され、アンチブロッキング剤には、モルデナイトを粉砕したものが用いられている。

天然ゼオライトの他に人為的に作られた人工ゼオライト・合成ゼオライトがあるが、天然ゼオライトに比べ、能力は高いが高コストであり、用途も棲み分けられている。

5-1-1-2 クレー(粘土)

クレーは粘度鉱物の総称で,大部分は岩石が熱や水あるいは風化作用によって生成した含水けい酸塩を主成分としてる。カオリン、イモゴライト、ハロイサイトはともにケイ酸アルミニウムを主成分、アタパルジャイトはアルミニウムとマグネシウムのケイ酸である。

5-1-1-2-1 カオリン

カオリナイト(別名kaolinite、カオリン石 )は、鉱物(ケイ酸塩鉱物)の一種でこれを粉砕したものがカオリンです。化学組成は Al4Si4O10(OH)8、結晶系は三斜晶系で粘土鉱物の一種である。

焼成クレーは、カオリンクレー原土を粉砕し、水比分級をして精製し熱処理したものであり、主にプラスチックの電気絶縁性を向上させる充塡剤の一つとして使用されているが、アンチブロッキング剤にも使用される場合がある。

また、二層構造をもつカオリンクレーは、加硫ゴムに添加することで、高モジュラス、引張強さ、耐摩耗性を与えるものをハードクレーと呼ぶ。一方、そのような効果を与えないものをソフトクレーと区分する場合がある。しかし、両者間には化学組織は差がほとんどなく、粒度分布に依存しており、ハードクレーは粒子径の小さい部分が多く2µm以下が約80%を占めるのに対し、ソフトクレーは50%前後といわれていて、どちらもアンチブロッキング剤として使用される場合もある。

5-1-1-2-2 イモゴライト

「イモゴライト」は1962年に熊本県人吉の「芋後」という火山灰土壌から発見されたアルミノシリケートナノチューブであり、シリンダー構造の細孔(Fig8)を有している。比表面積、水に対する親和性、吸着能力が高いため、熱交換用の多孔質材料、有害汚染物質、生活環境場の調湿材料等、様々な分野への工業的利用が期待されている。このため、工業的な大量合成も検討されている12)

図8 イモゴライトの構造13)

5-1-1-2-3 ハロイサイト

ハロイサイトの化学組成は含水ケイ酸アルミニウム(Al2SiO5(OH)4)で、カオリンと同じ組成でありながら形状はナノチューブ構造になっている。外側はシロキサン(-Si-O-Si-)のマイナスチャージ、内側はアルミノール(-Al-O-Al-)のプラスチャージであり一つの結晶体としては非常に安定的な結晶構造を持っている。産地はアメリカの他、ニュージーランド、中国、ロシア、南アフリカ、トルコなどが挙げられるが、現在知られている中で、高純度で多量に産出するのはアメリカ産のみである14)

 

図9 ハロイサイトの構造14)

5-1-1-2-4 アタパルジャイト

アタパルジャイトは、(Mg,Al)5Si8O20.4H2Oでの粒子中に水路のような隙間があり、用途によって粘度調整(ゲル)グレードと吸着グレードにわけられる。

図10 アタパルジャイトの構造イメージ15)

イモゴライト、ハロイサイト、アタパルジャナイトは、吸湿性、吸着性等の高機能性を有するフィルムに対するアンチブロッキング剤として用いられているケースが多く、結露抑制フィルムの特許内でアンチブロッキング剤の一つとして紹介されている16)

5-1-1-3 炭酸カルシウム

炭酸カルシウムは、炭カル、軽カル、重カルなどの名で呼ばれ,プラスチック用白色充塡剤として最も広く使われるものの一つでアンチブロッキング剤としても用いられてる。炭酸カルシウムの種類は、その原料と製法によって製品名がいろいろな名があるが、化学組成はいずれもCaCO3である。

重カルは,重質炭酸カルシウムの俗称で石灰石を機械的に粉砕したもので、その粉砕方法によって乾式重カルと湿式重カルとに分けられ、双方とも平均粒子径は、3~5μm程度である。

5-1-1-3-1 乾式重質炭酸カルシウム(乾式法)

石灰石を山から掘り出し砕いた石灰石を水の中で粉砕し、水と微細な石灰石の混ざった液体(スラリー)を水比分級により重たい粒子と軽い(小さい)粒子に分けて軽い粒子のスラリーを乾燥させて解砕して目的の粒子を得る方法である。

5-1-1-3-2 湿式重質炭酸カルシウム(湿式法)

石灰石をそのまま粉砕・分級して目的の粒子を得る方法で、乾式に比べて工程が簡単で、製造コストも抑えられる。

大きな粒子(TOP粒子)が混合する可能性が高いという問題点があったが、粉砕機や分級機の発展により解消され、現在は湿式法で作られるものが主流になっている。

このほかに、緻密石灰石を粉砕して水比分級したものは、寒水クレーの名で呼ばれるもので、純白の石灰石を粉砕したものを白亜、カキ殻を粉砕したものを胡粉で白色顔料として絵具に用いられているが、近年は肥料、土壌改良剤、ろ過助剤としても注目されている。

5-1-1-4 珪藻土

珪藻土は、藻類の一種である珪藻の殻の化石よりなる堆積物(堆積岩)である。ダイアトマイトともいう。珪藻の殻は二酸化ケイ素(SiO2)でできており、これを主成分とする。珪藻が海や湖沼などで大量に増殖し死滅すると、その死骸は水底に沈殿する。このとき死骸の中の有機物の部分は徐々に分解されていき、最終的には二酸化ケイ素を主成分とする殻のみが残る。このようにしてできた珪藻の化石からなる岩石が珪藻土であり、多くの場合白亜紀以降の地層から産出される。珪藻土の表面には細孔が存在しその形はさまざまで特性にも影響する。

写真8 珪藻土の細孔17)

また、多孔質のため体積あたりの重さが非常に小さく、粉砕して目的の粒度にした後に1000℃程度で焼成をしたものは濾過助剤に使用されるものが多く、アンチブロッキング剤にも使用されている。更に、珪藻土は水分や油分を大量に保持することができるため乾燥土壌を改良する土壌改良材や、流出した油を捕集する目的にも使用されている。アルフレッド・ノーベルはニトログリセリンを珪藻土に吸収させることで安定性を高めたダイナマイトを発明したのは有名な話である。

珪藻土には発癌の可能性あるとされているが、発癌性があるのは焼結により結晶化した珪藻土で、あるといわれている18)また、粒子径も関係しており、一般にThoracic (粒子径範囲: 0~25ミクロン・50%径:10ミクロン)では気管支や肺胞まで到達する。更に微小な Respirable (粒子径範囲: 0~10ミクロン・50%径:4ミクロン)ではほとんどが肺胞まで到達する。これは、珪藻土に限らずすべての粉体にいえることで、影響の大小はあるが、このような微粒子の粉体を取り扱う場合は常に留意する必要がある19)

5-1-2 合成系

5-1-2-1 シリカ
5-1-2-1-1 フュームドシリカ

フュームドシリカは別名乾式シリカと呼ばれ、ケイ砂(SiO2)に炭素を加え還元焼成することでケイ素(Si)が得られる。このSiを加熱して塩素(Cl2)を加える方法で四塩化ケイ素を作る。現在は、還元焼成を行う時に塩素を投入して作る方法が主流になっている。この四塩化ケイ素を気化させて、水素と空気を加え焼成炉中で気相反応をさせることで得られる。このとき一次反応で生成した水から二次反応で四塩化ケイ素を加水分解させてフュームドシリカを製造する。また、このとき副産物として塩酸が大量に発生する。

5-1-2-1-2 シリカゲル

シリカゲルの出発原料であるケイ酸ソーダは、ケイ砂にソーダ灰を加え溶融させて冷却することで、無水ケイ酸ナトリウム(カレット)が得られ、これに水を加えて高温、高圧で溶解することで得られる。溶融させてカレット得る方法は基本的にはソーダガラスを作る方法と同じであり、硫酸ナトリウムを除去するため水洗工程がある。シリカゲルは、ゲルと名前が付いていることから、中和反応によるゲル化がシリカゲルの物性を決める重要な工程となる。

5-1-2-1-3 沈降性シリカ

シリカゲルと同様、ケイ酸ソーダに硫酸とを反応させ、生じた沈殿をろ過、水洗、乾燥、粒度調整を経て製品となり、シリカゲルと異なり沈殿をさせることで得られるのが特徴である。

5-1-2-1-4 シリカゾル

シリカゾルは、別名コロイダルシリカと呼ばれていて、ケイ酸ソーダ中のナトリウムをイオン交換させることで得られる。シリカゾルはシリカのコロイド粒子が水などの液体に分散している状態のもので、液状であることが最大の特徴で、他の合成シリカとは異なり、フィルムに添加した後には水分等を除去するための乾燥工程が必要となる。

シリカ系は、表面のシラノール基(Si-OH)を処理することにより疎水化等さまざまな特性を付与できるため、樹脂の特性にあわせた多くの種類の表面処理シリカが製品化されている。

5-1-2-2 ゼオライト

合成ゼオライトの製法は2つに大別され、ケイ酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウムといった試薬から合成する方法、天然鉱物を出発原料とした方法に大別される。

後者の方が、製造原価が非常に安いため、酸性白土、カオリン、真珠岩、長石などからゼオライトを合成する方法が検討され、日本では水沢化学株式会社が酸性白土を原料とするビルダー用A型ゼオライトの製品化に成功しており、この技術を用い、樹脂添加剤用途では「シルトン」という商品名で上市している。「シルトン」は球状グレード(JC)と立方体(AMT)と2つのタイプがあり、双方とも、シャープな粒度分布を持つため粒子同士が凝集しにくく、樹脂中での分散性が良いという特長をもち、更には、低水分・低吸湿性であるため、樹脂に添加した際、発泡等の不良現象を抑えることができるため、アンチブロッキング剤をはじめ、さまざまなところに用いられている20)

5-1-2-3 沈降性(軽質)炭酸カルシウム

沈降性炭酸カルシウムは、化学式ではCaCO3で表され、軽質炭酸カルシウム(軽カル)とも呼ばれている。平均粒子径は1〜3μm程度の微細な炭酸カルシウムである。形状は紡鐘形や球形のほか近年は多孔質のものも開発されている21)

製法は、石灰石を石灰釜で無煙炭またはコークスと混ぜて焼成して生石灰を作り、水を加え石灰乳とし, 焼成時に発生した炭酸ガスを吹き込んで炭酸カルシウムを沈降させて製造される方法、塩化カルシウムに炭酸アンモニウムや炭酸ソーダを反応させ炭酸カルシウムを沈降させる方法があり、後者はソーダエ業の副産物である塩化カルシウムを有効に利用できる。

沈降性炭酸カルシウムは化学的にみて純度が高く、粒子の大きさもある程度自由に調節ができ0.1μm以下の超微粉化されたものもあり、特に粒子の細かいものを極微細またはコロイド炭酸カルシウムと 呼んで区別することがある。更に、樹脂に対する分散性を改良するためにステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、界面活性剤などにより表面処理をされたものもある。

5-2 有機系22)

5-2-1 ワックス・パラフィン系

石油を精製して作られ、非常に小さな結晶で構成されているためマイクロクリスタリンワックスと呼ばれ、構造は厚さが薄くて柔軟であることが特徴である。材料との相互作用がほとんどない不活性で、良好な熱安定性を有しているが、製品によって融点が異なり、溶融すると物性が変化してしまうため、加工温度に応じた選定が必要である。

5-2-2 EO/PO系

エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)から調製される汎用性の高い合成材料であり、EOとPOの比率を変えることで、液体から硬い結晶性ワックスまで、多様な材料を生成することができる。

幅広い組成と分子量、結晶性ポリマー(PE、PP、 PET、PA) に有用、幅広い溶解度パラメータを有するため、さまざまな樹脂に対応できる良好な分散性を有する反面、アンチブロッキング効果にばらつきが出やすい、内添用途での使用は難しい、非結晶性ポリマーには効果が乏しいなどの傾向がある。

5-2-3 脂肪酸石鹸系

主に繊維に使用されるアンチブロック材料であり、フィルムや射出成形用途にはあまり使用されない。酸(またはその混合物)とアルカリ性物質との反応(けん化)により形成される石鹸の一種で、一般的には、ステアリン酸から生成されるカルシウム、マグネシウム、亜鉛の塩がよく使われる。一般的に、ほとんどのポリマー用途で費用対効果が高く、ナトリウム塩やカリウム塩は、外添用途に広く使用されている。

熱安定性が良く、無機塩の選択により性能の最適化が可能である。例えば、内添用にはカルシウム塩が、特殊な用途には亜鉛が使用される場合もあり、外添用はマグネシウム塩がよく使用される。

また、結晶性ポリマーには、ナトリウム塩とカリウム塩の外添で使用されます。一方、内添で使用した場合溶解性に問題が生じる場合がある。また、カルシウムとマグネシウム系の石鹸は、通常、分散と塗布を容易にするために液体として使用されるため、外添で使用するのは難しい場合がある。更に、ナトリウム系は研磨性が高くフィルムを傷つけてしまう場合がある。更に亜鉛を含有しているものは、その毒性について疑問視されている。

5-2-4 脂肪酸アミド系

ほとんどのポリマーで非常に優れたアンチブロック性を示しPVCなどの粘着性ポリマーや押出成形されたポリマーフィルム等幅広く使用されている。アミンと脂肪酸から簡単に作ることができ、相溶性、光学効果、熱安定性、その他の物理的特性を調整することができる。

押出成形時の熱安定性を考慮すると、高分子量のアミドが好ましく、ベヘン酸、エルカ酸、およびいくつかの二酸アミドがフィルムや繊維の内添で使用されている。比較的熱安定性が高く、ほとんどのポリマーとの相溶性が良く、様々な化合物が利用できるためカスタマイズされた用途向け、他のアンチブロック剤と組み合わせて使用でき、鉱物系の分散剤としても使用できる。

一方、外添用は配合が難しい、アミドの化学構造がポリマーの安定性に悪影響を与えることがある、FDAやEUの規制によりフィルム包装に使用できる材料の範囲が限定されている等の理由のため、フィルムへの用途によっては使用が制限される場合がある。

5-2-5 シリコーン系

コストが高いため、汎用(低コスト)ポリマーには使用できない。濡れ特性や他の材料に対する不活性さを考慮できるため、他のアンチブロック剤とのマスターバッチとして利用できる。

更に、エラストマー繊維は、表面と表面の接触を最小限に抑えるために、高分子量のポリジメチルシロキサン(PDMS)液であるシリコーンを多用する。すべてのポリマー中でも伸縮性ポリマーのスパンデックスとの相性が良く、防止効果や柔軟化効果を発揮することができる。

その一方、費用対効果が低くニーズは限定的、変性シリコーンは多くのポリマーを黄変させる傾向があり、なかでもアミノシリコーンは短時間で黄変するため他のブロック防止剤との配合が難しい場合がある。

6.まとめ

アンチブロッキング剤は、プラスチックには不可欠なものでさまざまな種類のものが使用されている。

無機系において、天然系は製造コストが安いが、粒度、形状等の物性制御が難しい。一方、合成系は製造コストが高いが、粒度、形状等の物性コントロールがしやすい。

有機系のものは、無機系に比べより粒度、形状等を制御しやすく、更に添加する樹脂に対して相溶性がコントロール可能である反面、強度が弱いという特徴がある。更には、サイズが小さくなることで添加量を抑えることができ、近年ナノサイズの粒子を調製する技術の進歩により、ナノサイズが用いられるケースが増えている。更に、形状制御技術の進歩により、さまざまな形状のものが用いられている。

しかし、安全面においては、ナノサイズの粒子による健康影響23)、形状が針状、繊維状を有しているものは発ガン等肺へのリスクが大きく、このような粉体を取り扱う場合は、局所排気や保護具を用いて人体へ暴露させないようにする必要がある。

参考文献

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に掲載されている図を筆者が加筆
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