五十嵐 敏郎
ロト・コンサルタント ジャパン,金沢大学
プラスチックは、用途に合わせて超硬質プラスチックから超軟質プラスチックまで様々な種類を開発し上市した。また、ガラス繊維や炭素繊維などとの複合化・多層フィルムの開発などで用途を拡大してきた。図1に示すように過去50年で生産量が20倍も増加して3億トンを超えるまで成長し1)、年率5%で増え続けて今後20年で倍増すると予想されるなど金属・セラミックスと並んで3大材料の地位を確固たるものにしてきた。
しかし,種類の拡大,複合化や多層化はいずれもリサイクルを困難にしており、現状でも金属やセラミックスに比べてリサイクル率が低いプラスチックのリサイクル量を増やすうえで大きな障害となっている。
本報告では、プラスチック開発の負の側面であるリサイクル問題、とりわけ海洋国家である日本と深く関係する海洋プラスチックごみ問題の現状について述べ、今後の対策案を提示する。
年間78百万トンのプラスチックを生産している米国を取り上げて、プラスチック廃棄量とリサイクル量の推移について見てみる。
図2に米国のリサイクル事情を示す2)。14%がリサイクルされ14%が焼却(熱回収)される。40%が埋め立てられ、32%(2500万トン)が環境中に流出して森林や海洋のごみとなり、生物多様性等に悪影響すると考えられる。
リサイクルされる14%の内訳は、同じ部品にリユースされるのが2%、性能の劣った部品に使用されるのが8%で、残り4%はプロセスロスである。
図3に埋め立てられるプラスチック廃棄量とリサイクル量の年次変化を示す3)。リサイクルされるプラスチック量も1990年ごろから増えているが、廃棄量には追いつかない。
図4に最も環境中に流出すると考えられる包装・容器のリサイクル率を示す4)。プラスチック製包装・容器は他材料に比べてリサイクル率が13.8%と圧倒的に低い。これをポテンシャルがあると前向きにとらえるか、リサイクルが困難な材料と考えるか見解が分かれるところだが、多種類化・複合化・多層化の進展から後者の可能性が高い。
図5に海洋プラスチックごみの実態を示す7)。年間で1200万トン余りの海洋プラスチックごみが発生し、そのうち1%が海の表面を漂い、5%が海岸に漂流し、残りの94%は海底に堆積する。2014年に全世界で行われた分析結果から海洋プラスチックごみの総量は2億5千万トンに達しており、図6に示すように2014年時点で海に生息する魚の総重量の1/5に達しており4)、2050年には魚の総重量を上回るとの予測が2016年1月のダボス会議で示され、海洋プラスチックごみ問題が大きな注目を集めた。
図7に示すように、海洋プラスチックごみの排出国のベスト5はアジア諸国が占めている8)。第1位が中国で最大で年間500万トン弱を排出する。以下、インドネシア,フィリピン,ベトナム,スリランカと続き、20位の米国の排出量を大幅に上回っている。
これらの諸国で生産されるプラスチックの管理が不十分なこともあるが、実際にはリサイクル困難なプラスチックごみが、欧米・日本からアジアの発展途上国に持ち込まれ、川・運河・湖に捨てられて最終的に海洋に流れてしまう 3)(図8,図9)。アジアの発展途上国の倫理問題に矮小化させるのではなく先進諸国も一緒に対策を考える必要がある。
海洋プラスチックごみの中で特に生態系への影響が大きいのが、5㎜以下の「マイクロプラスチック」である。「マイクロプラスチック」には大きく分けて2つの発生原因がある。
1)元々が5㎜以下の小片として製造されたプラスチックで、この中にはマイクロビーズと呼ばれるミクロン以下の小さなプラスチック微粒子がある。ポリエチレンやポリプロピレンでつくられる。化粧品などに含まれ、下水処理施設のフィルターを通過し、河川を経て海に流れる。量的には少ないが微細な故に質的な問題は大きい。
また,ペレットと呼ばれるプラスチック製品の原料も含まれ、加工場から河川を通じて海に流れる。その他,ペイント片やタイヤ粉・繊維くずなどが含まれる。これらを合わせて年間100万トン近くが海洋に流れ出す7)(図5)。
2)河川を通じて、あるいは直接海に捨てられたプラスチック製品(レジ袋やペットボトルその他もろもろ)が、紫外線や波の力で劣化し、5㎜以下の小さな破片になったもので年間100万トン発生すると言われる。
「マイクロプラスチック」は大きさが小さいが故に次に示す大きな問題を抱えている.
1)同じ重量でも表面積が大きくなり、海水中に存在するPCBなどの有害な有機化合物を吸着しやすい(友は友を呼ぶ)。最大100万倍まで濃縮されるとも言われる。
2)海鳥や魚類が餌にするオキアミが食べる藻類は、海中で自然に分解するときに硫黄臭のあるジメチルスルフィドを発生する。海鳥はジメチルスルフィドの硫黄臭を頼りにオキアミのいる餌場に行く。海に浮かぶマイクロプラスチックは藻類が繁殖する絶好の足場になる。その結果、海鳥が有害物質を高濃度に濃縮したマイクロプラスチックをオキアミと間違えて誤食し、固体数の減少が始まる。魚も同様に誤食する可能性が高い。
3)海鳥や魚類の個体数の減少による海の生物多様性が損なわれることに加え、食物連鎖を通じて人間の体内にもマイクロプラスチックに濃縮された有害物質を取り込むことになる。魚を多く食べる日本人も関心を持つべき問題である。
1)すべての国民がプラスチックの廃棄を適切に行う。
- 安易に廃棄する不適切な行動を規制する
- ゴミ収集システムを構築し機能化させる
- 埋立地の適切な使用を行う
⇒ 言うは易く,実際の行動は難しい
2)生分解性ポリマーへ代替する。
- 川や海に流れ着く前に分解させる
⇒ 物性低下が顕著で,現状は全ポリマーの1%程度
3)使い捨てプラスチックの製造を禁止する。
- フランスでは、使い捨てプラスチックの禁止法案が2017年1月に成立 9)
- 法案の施行は2020年1月
- EUやインドも同様の法案を準備
⇒ プラスチック産業界の死活問題であり、反対意見が強い
4)リサイクルしやすいプラスチック製品を開発 10),11)
- 複数素材を組み合わせた製品から単一素材で同様な機能を持った製品へ
- 図10に示す現在のシャンプー容器は蓋と本体の素材が異なるため、蓋と本体を別に集める必要があり、リサイクルが困難である。図11に示す未来のシャンプー容器は、蓋と本体が同じ素材で構成され、蓋と本体を別々に集める必要がなく、リサイクルが容易になる。
- 図12に示すように、蓋そのものを無くすデザインも考えられている
⇒ 意味のイノベーションとして、次世代デザインの主流になる?
5)非破壊劣化診断による劣化管理と寿命予測で非管理の短期使用から管理された長期使用にプラスチックの需要構造を変える。
6)小さな破片まで劣化しない樹脂・添加剤系の開発(海洋での回収チャンスを増やす)
海洋プラスチックごみは、年間で約1000万トンが排出される。その中で,回収が困難であり有機系の有害物質が付着しやすく海鳥や魚がオキアミと間違えて誤食するマイクロプラスチックも年間で約200万トンが生じる。
その実態が解明されるに伴い、海洋プラスチックごみを減らす実効的な対策が求められ始めた。日本は海岸線の長さが世界第6位(利用可能な海岸線の長さでは世界第3位)の海洋国家である。海洋プラスチックごみを排出しているアジアの発展途上国とは、東シナ海・南シナ海でつながっていることに加え、海の魚を主なタンパク源としてきた。したがって、日本は率先して実態解明を行い、対策を立案して発信し、世界をリードする義務を負っていると考える。
この問題はプラスチックにとって負の遺産になる可能性があり、無策で過ごしたり対策を間違えると、プラスチックバッシングとなりかねない。かつて塩ビバッシングの最盛期に塩ビ業界に身を置いた者として、一度炎上すると消すのに大変な努力がいることを見にしみて痛感した。
プラスチック業界、とりわけ使い捨てにつながるフィルム・シート分野が45%にも達するポリオレフィン業界では真摯な対応が求められる。
第2報では、塩ビバッシングを克服し、国連の事務総長に「塩ビはリサイクルの優等生」とまで言わせた欧州の塩ビ業界の活動について紹介する。
1)PlasticsEurope,Plastics – the facts 2015 (2015).
2)www.elienmacarthurfoundation.org .
3)Material Solutions,“A Big Conversion Suggests Big Questions and Big Answers ”,
PLASTICITY SHANGHAI, 2016.
4)Conrad Mackerron, “ Challenges, Risks and Opportunities in Transition to Recyclable Multi-material Packaging “, PLASTICITY, 2017.
5)高田秀重, 「プラスチックによる環境汚染のいま」,府中・生活者ネットワーク,2016年4月.
6)鈴木良典,「海洋ゴミをめぐる動向」,国立国会図書館 調査と情報 No. 927 (2016.11.15)
7)www.eunomia.co.uk/reports-tools/plastics-in-the-marine-environment/ .
8)Jambeck et. al. , Science Magazine, Feb. 2015.
9) D.Mosbergen「世界初、フランス『プラスチック製使い捨て容器を禁止します』」,
The Huffington Post, 2016年9月20日
10)Marilu Valente,“Designing the shampoo bottle of the future ”.
www.merged-vertices.com.
11)安西洋之,八重樫文「デザインの次に来るもの」,(株)クロスメディア・パブリッシング,2017年5月1日.
This website uses cookies.