Categories: 製品技術紹介

世界における樹脂流動解析技術に関する応用の現状および発展

Venny Yang, President at CoreTech System (Moldex3D)
Sam Hsieh, Senior Deputy Technical Manager at CoreTech System (Moldex3D)

 

(本記事はコアテック・システム社のニュースレターから同社の許可を得て転載しています)

2016年、アンシス社はエンジニアリング・シミュレーション・ソフトウェア会社の中で初めて年間売上高が10億米ドルを突破しました。その売上規模はすでに多くのCAD/CAMソフトウェアサプライヤーを上回っており、CAEが設計を主導する時代の到来を示しています。

2017年2月に精密測定機器のリーディング・カンパニーのヘキサゴングループが8億3,400万米ドルを投じてCAEの老舗のMSCソフトウェア社を買収したことは、ハードウェア会社がデジタル設計の世界に大きな一歩を踏み出したことを象徴しているだけでなく、現実の製造環境の測定データとシミュレーション解析を緊密に結びつけ、企業の製品設計の最適化と従来型生産の限界の突破をサポートし、製造業をインダストリー4.0の道へ導くということを意味しています。

これらの変化と整合は、電気機械関連産業の創造と革新をもたらし、規模はまだ小さいものの、同じ設計の最適化とシミュレーション技術の進化が、まさにプラスチック射出成形とモールド設計の世界においても繰り返されています。

樹脂流動解析者の役割の変化

樹脂流動解析は、もはやプラスチック製品設計の診断でのみで運用されるのではなく、生産上の問題の解決にも応用され、現在、工業界では製品およびモールドの開発前の設計、検証ならびに最適化において広く運用されるまでに進化し、大多数の企業の生産工程の設計において欠かすことのできない存在となっています。

この変化の過程において、すべての3Dの製品およびモールドの設計CADソフトウェアの普遍的応用は、トップクラスの功績であり、自動化されたメッシュ生成ツールはさらに貢献度が高いといえます。

かつての解析担当者は、数時間、場合によっては数日かけてモデリングの処理、メッシュの生成を行ったうえでようやく解析作業を展開できました。現在はフルオートメーション化されたeDesignおよびBLM(Boundary Layer Mesh)メッシュ生成技術があり、すでに単結合メッシュ生成を行うことができ、製品仕様の変更と同時にメッシュを更新するという理想までもが可能になっています。

そのため、標準的な樹脂流動解析作業は、すでに専門のCAE解析者からモールド設計者、さらにはより川上の製品設計者へと徐々に移行しています。製品設計者とモールド設計者が樹脂流動解析ソフトウェアを頼りに、ゲート位置の決定、バランスランナーの設計、スプルーレイアウトの最適化、反り変形問題の解決などを行うことも一般化しています。

多くの会社は、すでに樹脂流動解析の核心を会社内部の設計ガイダンスプラットフォームにまで取り入れており、樹脂流動解析を通じ、製品ごとに射出圧力の上限、収縮率および反り変形量を自動的に検証する設計品質管理の理想を実現しています。また、内部のプライベートクラウドのコンピュータ・クラスタと連動して同時に演算し、大幅な計算時間の短縮と反応速度の上昇を行っています。

ユーザーの時間を大幅に節減させ、最適な樹脂流動解析の3Dランナーメッシュを手に入れるため、Moldex3D R15.0では新世代の自動化高品質ランナーメッシュ生成技術を取り入れました。新たなランナーメッシュ技術は、高精度の六面体メッシュを自動的に生成でき、ユーザーにさまざまなノードタイプを提供して線形ランナーの境界面を結びつけることで、ランナーのオリジナルの幾何形状をリアルに反映し、計算時間のさらなる短縮とシミュレーション精度のさらなる向上に貢献します。

図1 六面体ソリッドメッシュ(Hexa-based solid mesh

図2 ノードタイプ(Node types)、ノードプレビュー(Node Preview)などの多様な特色

図3 ゲート部分を特に強化することで、
常用するゲートのノードタイプに合ったメッシュ生成の選択が可能に

「非マッチングメッシュ」技術の誕生により、製品とインサートの間のメッシュ境界面は連続性および数量対応の必要なしにシミュレーション解析を行えるようになり、また、正確なシミュレーション結果の分布と連動性のあるコンポーネント変形予測の取得も可能になりました。

Moldex3D R15.0の非マッチングメッシュ技術は、当初のインサート(part insert)のサポートのみから、モールドベースメッシュのサポートにまで拡大し、製品とインサートのメッシュノードがマッチングしない条件下では3Dソリッドモールドベースメッシュを事前に自動生成できないという限界を克服しました。それにより、ユーザーのモールドベースメッシュの処理効率と解析の精度を高め、すべてのユーザーが高品質のメッシュ技術によりもたらされるシミュレーション解析の効率と精度を体験できます。

図4 非マッチングモールドベースメッシュと分析結果

シミュレーションから完全エミュレーションまで

エンジニアのCAEに対する要求と期待は永遠に尽きることはありません。一般のプラスチック射出成形の製造工程のシミュレーション解析のほか、現在では樹脂流動解析機能は射出圧縮成形、圧縮成形、金属粉末射出成形などの特殊な製造工程もカバーしています。

短繊維と長繊維の繊維強化複合材の射出成形過程における繊維配向とFEA統合解析は、Moldex3Dの公認された先進機能であり、すでに世界の先進的な自動車メーカーやエンジニアリング・プラスチックのリーディング・カンパニーでそろって採用されています。Moldex3D R15.0はこれらの長所を繊維複合材の圧縮成形の製造工程解析にまで広げ、ユーザーの大型繊維強化複合材の製造技術の設計、最適化をサポートします。

繊維強化複合材の製造工程を完全にサポートするほか、自動車の軽量化と低燃費化に対する要求が年々高まるにつれ、Moldex3Dは、すでにガスアシスト射出成形、水アシスト射出成形、マイクロセルラー(代表的技術:トレクセル社のMuCell®)、熱可塑性樹脂の化学発泡などの先進的な成形技術をシミュレーション予測の範囲に取り込み、良好な検証データと使用実績を手に入れています。

最新のR15.0の化学発泡成形モジュールは、ポリウレタン(Polyurethane, PU)フォームの製造工程のサポートが追加され、ホットメルトのキャビティ内での架橋動力学(Curing Kinetics)および発泡動力学(Foaming Kinetics)の計算を考慮しています。ポリウレタンフォームシミュレーション解析を通じ、ユーザーは製造の過程をより詳細に把握でき、充填と発泡の段階の動的挙動の正確な予測、射出成形条件の確認および原料注入の制御の最適化が可能になり、そのことによって製品設計が最適化され、適した生産条件の評価と決定がさらに容易になります。

図5 PU化学発泡成形の製造工程の応用事例

近年、インモールド・デコレーションの射出成形生産が普及していますが、依然としてウォッシュアウト(インク流れ)、皺変形など多くの成形技術の課題に直面しており、製品開発のコスト上昇と長時間化を引き起こしています。

Moldex3D R15.0では専用の解析機能を提供し、インモールド・デコレーション・シミュレーションのプリプロセス中にフィルム境界オプションをサポートすることで、最速、簡単かつ正確な方法で加飾メッシュ層を処理できます。同時に「ウォッシュアウト指数」を提供し、製品設計者がウォッシュアウトの状況を予測できるようにして品質の高いインモールド・デコレーション製品の生産を確保しています。

図6 異なる成形条件におけるウォッシュアウト指数の結果比較

解析により、実際の結果と相当程度一致するフローフロントを予測できるほか、さらにフィルムの熱伝導効果を考慮することにより、成形過程における熱履歴(heat hesitation)現象も把握できます。この現象は、まさに加飾層の熱伝導能力が比較的劣ることにより生じるものです。

図7 フローフロントと実験結果の比較

図8 インモールド・デコレーション解析による製品表面温度の分布

3Dプリントもまたモールド設計の様相を変え始めている新技術です。各国のサプライヤーがこぞってこの分野に参入するにつれ、金属3Dプリント設備の価格がどんどん下落しています。金属粉末のコストは年を追うごとに低下しており、中小型モールドに直接プリントすることはすでに完全に実現可能な理想となっています。

中大型のモールドも従来のモールド製造技術と3Dプリントを組み合わせることで、リブ強化とホール周辺の蓄熱問題を取り除くことができます。必要な加工設備の種類と数量が大幅に減るほか、最大のメリットは、冷却水管設計の柔軟性にあります。

3Dコンフォーマル冷却(conformal cooling)を利用すると、モールドの隅々まで容易に冷却でき、冷却時間を大幅に削減できるだけでなく、反り変形と製品表面のへこみを減らすことができます。設計の過程で、Moldex3Dで提供されるコンフォーマル水管生成機能(Cooling Channel Designer)によって水管描画の時間を大幅に削減できます。

また、3D CFD機能を利用して水管ごとに十分な乱流速度に達しているか検査し、冷却速度を確保し、必要な圧力と冷却ポンプの仕様を見積ることができます。さらに冷却解析を反り解析を組み合わせ、従来型の水管とコンフォーマル冷却の両方について、モールドの製造コストと量産時の冷却時間の削減、品質安定性向上のための生産コストと効果を評価します。

まさに上記のとおりであり、3Dプリント技術を全面的に使用してモールドを製造することで、モールド製造の様相が瞬く間に変化し、コンフォーマル冷却水管の普及をもたらします。

風が吹き、「雲」が湧き立つ 4.0に向かって

クラウド・コンピューティングの激しい潮流は、電子商取引と人工知能の大幅な発展をもたらしただけでなく、同時にCAEソフトウェアのサプライヤーとユーザーが次世代計算資源の投資と配置を考慮するときの重要な選択肢のひとつになりつつあります。

パブリッククラウドの設計情報の機密保持についての検討が完全に消え去らないうちに、すでに多くの企業が次々と企業内部でクラスタ・コンピューティング(cluster computing)・システムを採用し、CAE計算のビッグデータと計算時間の要求に対応しています。

例えば、ANSYSやABAQUSなどの有名ソフトウェアは、すでにクラスタ・コンピューティングをサポートしており、数千個のコアにおいてLS-DYNAを同時に運用することで、自動車の衝突問題を解き、自動車業界における日常的な解析検証作業となっています。

同様にMoldex3Dもまたその他の樹脂流動解析ソフトウェアに先駆け、多数の一般的なPCを接続することで計算速度を数十倍以上に高め、1000万ピクセルレベルのプロジェクトの計算要求にも難なく対応できます。仮に同様のレイアウトをクラウド上に設けた場合、即座にユーザーの計算要求を拡大でき、普段は使用量が少ないユーザーや使用量が急増するユーザーは、柔軟性に富んだ従量課金(pay-per-use)により、計算に必要なソフトウェア機能とハードウェア資源を入手できます。

知的財産保護、ネットワーク・セキュリティ、ブロードバンド通信などの技術が日増しに成熟するにつれ、企業もまたクラウド・コンピューティングがもたらす長所をより明確的に取り扱い始めており、Moldex3Dで間もなく登場するクラウド・コンピューティングはすべての企業の注目に値します。

製造工程の設計、生産において、より多くの企業メンバーが樹脂流動解析を利用して企業の競争力を向上させているということは、より豊富な計算データが生み出され、現場で実際に測定した各データと結び付けて企業の貴重な生産実績のビッグデータベースにインポートし、企業がインダストリー4.0に向けて邁進するための不可欠の基礎となることを意味しています。

Moldex3D R15.0のiSLMモジュールは、ユーザーの管理、これらのデータの解析をサポートし、企業による貴重な設計及び製造の生産実績の調査をサポートします。

 

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