ロト・コンサルタント ジャパン,金沢大学
五十嵐 敏郎
第1報で、塩ビバッシングを克服し、国連の事務総長に「塩ビはリサイクルの優等生」とまで言わせた欧州の塩ビ業界の活動について第2報で紹介すると予告したが、今年(2018年 )になってマスコミなどでマイクロプラスチック問題が大きく取り扱われるようになり、政治問題化し始めるなど,プラスチック・バッシングの様相すら見せ始めた。
「ダイオキシン問題」,「環境ホルモン問題」で塩ビがバッシングを受けた時に塩ビ業界に身を置き、一旦炎上すると対応するのに大変な思いをした。そこで予告を変更し、第2報では海洋プラスチックごみ、特にマイクロプラスチックを減らすための対策について筆者の考えを述べる。第1報で予告した塩ビバッシングの克服については別途タイトルを変えて報告する。
プラスチックの関係する人たちは今後、海洋プラスチックごみ問題、特にマイクロプラスチック問題に対して意見を求められたり対策案の提示を求められることも多くなると予想させる。第1報で記述した海洋プラスチックごみやマイクロプラスチックの実態と合わせて、自分の考えや自分の対策案を持つことの手助けになれば望外の幸いである。
第1報でも簡単に記述したが、もう一度筆者が考える6つの対策案を示す。
① すべての国民がプラスチックの廃棄を適切に行う
② 生分解性ポリマーへ代替する
③ 使い捨てプラスチックの製造を禁止する
④ リサイクルしやすいプラスチック製品を開発する
⑤ 非破壊劣化診断による劣化管理と寿命予測で非管理の短期使用から管理された長期使用にプラスチックの需要構造を変える
⑥ 小さな破片まで劣化しない樹脂・添加剤系の開発(海洋での回収チャンスを増やす)
以下,6つの対策案についてもう少し詳細に示す。①,② と ④ については、第1報と重なる記述が多いことご了承ください。③ については、今年(2018年)になってからの動きを中心に記述する。⑤ と ⑥ は、「劣化を総合的に科学する」プロジェクトが目指す対策案に関係することも含め記述する。
- 安易に廃棄する不適切な行動を規制する。
- ゴミ収集システムを構築し機能化させる。
- 埋立地の適切な使用を行う。
言うは易く、実際の行動は難しいのが現実である。
- 川や海に流れ着く前に分解させる.
- 海洋中での分解速度は陸上での分解速度と異なる.
- 生分解性ポリマーの分解過程で生じる生成物の安全性は不明である.
- 環境省は生分解性ポリマーへの切り替えを中心に考える可能性がある.
物性低下が顕著で、現状は全ポリマーの1%程度しか使われていない。
レジ袋の規制とペットボトルの規制が先行している。2017年までの規制の実態をまとめる。
- 2014年8月:米カリフォルニア州でレジ袋禁止法案が成立した。
- 2014年11月:EUが加盟国へレジ袋削減案策定を義務付け、2025年までにレジ袋の消費を1人1年40枚まで削減するのをEUの目標に設定した。
- 日本では1人当たり年間300枚のレジ袋が使われている。
- 2016年:英国でレジ袋の有料化が始まる。
- フランスでは,使い捨てプラスチックの禁止法案が2017年1月に成立.法案の施行は2020年1月からである 1)。
表1 世界各国でのレジ袋規制 2)
- 2014年3月:米サンフランシスコ市で公共施設内の販売に限ってペットボトルでの飲料水の販売を禁止した。
- 2016年9月:フランスで「プラスチック製使い捨て容器や食器を禁止する法律」が成立した。(ただし施行は2020年から)
- 人口22万規模の都市でペットボトルを収集・運搬するのに年間1億円かかると試算されている。
- NYの空港等で持参容器(マイボトル)へ飲料水を販売・提供するシステムが始まり広がっている。
- 持参容器へオリーブ・オイルやメープル・シロップを安価に販売するシステムが地元住民に好まれていた。カナダ・トロントの市場やサンノゼのファーマーズ・マーケットで筆者が体験した。
- 欧州委員会,欧州投資銀行,世界自然保護基金等は、3月8日に持続可能な海洋経済のための金融原則を発足した。この原則は14項目あり、生物生息地保護,海洋プラスチック汚染,乱獲等の幅広い海洋問題をカバーし、環境保護,調査活動,技術開発等のあらゆる分野での、協働,対話の重要性を確認し、それらを促す投資活動を推進する。
- 英国マクドナルドは、プラスチック製ストローの使用を段階的に廃止し、紙製ストローに変え、セルフサービスで提供せずに店員が提供する。
- ペットボトル等のプラスチック製飲料容器について、EU加盟国は2025年までに90%以上回収義務を負う。回収方法には、デンマーク等で導入されているデポジット制を想定する。
- G7シャルルボワ・サミットは6月9日、海洋プラスチック問題等に対応するため、世界各国に具体的な対策を促す「健康な海洋,海,レジリエントな沿岸地域社会ためのシャルルボワ・ブループリント」を採択、英国・フランス・イタリア・ドイツ・カナダの5か国とEUは、自国でのプラスチック規制強化を進める「海洋プラスチック憲章」に署名した。
- 米国と日本は「海洋プラスチック憲章」に署名しなかった。日本の署名拒否の理由として、「趣旨は賛成だが,国内法が整備されておらず、社会に影響を与える程度が不明のため」とした。
- 来年6月に日本で開催され日本が議長国を務めるG20で「海洋プラスチック憲章」を上回る提案行うことも予想される。
- 2030年までに、プラスチック用品を全て再利用可能あるいはリサイクル可能,また再利用やリサイクル不可能な場合は熱源利用等の他の用途への利用に転換する。
- 不必要な使い捨てプラスチック用品を著しく削減し、代替品の環境インパクトも考慮する。
- プラスチックゴミ削減や再生素材品市場を活性化するため政府公共調達を活用する。
- 2030年までに、可能な製品ではプラスチック用品の再生素材利用率を50%以上にする。
- プラスチック容器の再利用またはリサイクル率を2030年までに55%以上、2040年までに100%に上げる。
- プラスチック利用削減に向けサプライチェーン全体で取り組むアプローチを採用する。
- 海洋プラスチック生成削減や既存ゴミの清掃に向けた技術開発分野への投資を加速する。
- 逸失・投棄漁具(ALDFG)等の漁業用品の回収作業に対する投資等を謳った2015年のG7サミット宣言実行を加速化する。
今年に入ってプラスチック製品を禁止する動きが活発になり、プラスチッ
クバッシングの様相を呈し始めた。今後継続的な注視が必要である。
- 複数素材を組み合わせた製品から、単一素材で同様な機能を持った製品の開発が指向されるべきである。
- シャンプー容器で蓋のない構造にすれば一体でリサイクル可能になる。意味のイノベーション,意味のデザインの普及でこのような製品が開発される時代が待ち望まれる 3), 4)。
プラスチックのリサイクルを困難にしている要因にはいくつかあるが、いずれも顧客や市場の要求に合わせて高機能化を図った結果であり、Simple is best.という原則から逸脱している。
① プラスチックに使用する樹脂の種類が非常に増え、2000種とも言われる。
② 添加剤の種類も増え、樹脂と添加剤の組み合わせでコンパウンドの種類は天文学的な数まで達した。
③ プラスチックを何層も積層させた製品が開発され上市された。
④ 樹脂/添加剤に繊維状や粒状のフィラーを配合した製品が開発され上市された。
意味のイノベーションによる製品開発が必要である。
- プラスチックを削減するには、レジ袋などの短期用途を減らして建材・パイプなどの長期用途にシフトすることが重要である。
- しかし,図 4 で示されるように、代表的な汎用樹脂であるポリエチレンはフィルム・シート用途が65%と三分の二を占め、そのうち約半分が使い捨て用途である。
- 建材やパイプ用途などの長期用途が増えない理由として、プラスチック製品の劣化の程度をフィールドで非破壊法により正しく評価する方法がないことにある。
- ポリエチレンは剛性や耐熱性が低く、建材やパイプ用途への展開を妨げている。しかしながら、PE層/PE発泡層/PE層からなる三層構造体はこれらの欠点をカバーできる。
- 中間発泡層には分離分別して得たポリエチレンのリサイクルペレット・フレークが使用できる可能性が高い。
ポリエチレンは剛性が低く建材用途に不向きという「思い込み」の呪縛の
払拭が必要である。
- これまでの劣化研究は化学劣化中心で個別的な対応にとどまる。
- 「劣化を総合的に科学する」プロジェクトでは、化学劣化に物理劣化や生物劣化を加え、総合的に研究する劣化学を創成する。
- 海洋に廃棄されたプラスチックが、5㎜以下のマイクロプラスチックまで劣化するのは物理劣化(クリープ,疲労,衝撃など)を中心に、化学劣化や生物劣化が加わって起こると予想される。
- マイクロプラスチックまで劣化する機構が分かれば対策案も生まれる。
マイクロプラスチック生成機構の解明と対策案の模索が必要である。
マイクロプラスチック問題は日を追うごとに社会問題化し、G7やG20で主要議題なるなど政治問題化し始めた。最近になって,環境学者,海洋学者,NPOやNGOの人達が積極的に発言し始めているのに対し、プラスチック関係者の発言が少ない。
環境省が来年6月に大阪で開催されるG20に向けて、有識者を集め対策案の検討を始めたが、有識者メンバーの中にプラスチックを良く知る人が少ないことが気になる。年末までにマイプロプラスチックの対策案を纏め、来年からパブリックコメントを開始し、取りまとめた対策案を政治家がG20のメンバー国に向けて発言する。下手をすれば,プラスチック産業の将来が私たちの手を離れて決まってしまうかもしれない。
「ダイオキシン問題」や「環境ホルモン問題」で塩ビが炎上した時に塩ビ業界に身を置き、本来業務も制限して自治体の環境部門の人達に説明するために駆けずり回った。「塩ビなんてやめてしまえ」と冷たくあしらう担当者から理解を示す担当者まで様々だったが、理解を示す担当者も帰りがけに「あなたの言うことはよく理解できました。でも、市民と向き合うときは違うことを言いますよ。」と言われ、愕然とした記憶がある。
塩ビは幸いに200ほどの欧州の塩ビ関係者が結束し、2000年にVinylPlasという名称のボランタリーグループを作り、地道で真摯な活動を続けたおかげで、前国連事務総長に「塩ビはリサイクルの最先端」という発言を引出し塩ビ廃絶の動きを封じた。日本でも,塩ビ協会を塩ビ・環境協会と名称を変え,真摯に向き合ってきた。
プラスチック関係者は,「マイクロプラスチック問題」の当事者である。広範囲に情報を集め、プラスチック関係者の間で情報を共有した上で議論を重ね、対策案を積極的に提示する必要があるように思う。
1) Mosbergen,D.,「世界初、フランス『プラスチック製使い捨て容器を禁止します』」,The Huffington Post, 2016年9月20日
2) 高田秀重(2017),「マイクロプラスチックって何だ」海洋プラスチックごみシンポジウム資料』,2017 年 8 月 26 日, (2017)
3) 安西洋之,八重樫文,「デザインの次に来るもの」,(株)クロスメディア・パブリッシグ,2017年5月1日
4) ロベルト・ベルガンティ,「突破するデザイン」,日経BP社,2017年7月3日
5) Valente,M., “Designing the shampoo bottle of the future ” Plasticity London, 21 September 2016
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