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製品設計の「キモ」(20)~ 「設計工数の見える化」から始める業務改善

製品設計コンサルタント
田口技術士事務所  田口宏之

1. はじめに

設計・開発部門(以下設計部門)は他部門から様々な要求を受けることが普通だ。競争力のある商品(もちろん短期間で)、品質向上、コストダウン、営業部門の支援に至るまで、数え上げればキリがない。

やることが多すぎて現状の人数では回らないというのが実情だろう。人員増の要望が通る可能性もほとんどないため、人数を増やさずに品質向上やコストダウン等を実現させなければならない。

しかし、設計の仕事は複雑かつ属人的であるため、業務改善は容易なことではない。何から手をつければよいのだろうと悩んでいる設計管理者も多いかもしれない。今回は「設計工数の見える化」から始める業務改善を提案する。

2. 「設計工数の見える化」の必要性

筆者は「設計部門における未然防止・再発防止」というテーマでセミナー講師やコンサルティングを行っている。そのため受講者などに所属企業の諸事情をヒアリングさせて頂く機会が多い。そこで分かっ

は、ほとんどの企業の設計部門が、設計工数を集計していないという事実だ。すなわち、「設計工数の見える化」を行っていないということである。

延べ100社以上にヒアリングを行ったが、「設計工数の見える化」を実施している企業は1割以下であった。

ここで「設計工数の見える化」の必要性について確認してみよう。

① 品質の安定化

限られた人数で多くの設計テーマを推進するためには、各設計テーマに適切な設計者、人数、期間、工数などを割り当てる必要がある。そのベースとなるのが設計工数の見積りである。見積りの精度が高ければ、特定の設計者・時期に設計負荷が集中することを避けることができる。

負荷の平準化は設計者の集中力維持(=ポカミス防止)や、必要な検証や評価試験を意図的に実施しない「不正」を防ぐという点で非常に重要である。設計テーマでは想定外の不具合が発生したり、途中で要求事項が変わったりするなど、設計工数の見積りは簡単ではない。しかし、見積り→設計工数集計→検証を繰り返すうちに、見積りスキルは向上していく。

逆に言えば、「設計工数の見える化」を実施しない限り、見積りスキルは決して向上しない。品質を安定させるためには、「設計工数の見える化」が不可欠なのである。

② テーマの優先順位付け

以下の2テーマのうち、優先して実施すべきはどちらだろうか。

表1 コストダウンテーマとその効果

表1だけで考えると、コストダウン効果が大きいテーマ①を優先すべきだと考えるだろう。もちろんお分かりのように、これには設計工数すなわち設計者の人件費が考慮されていない。設計工数の見積りを表2のように考えた場合、コストダウン効果はテーマ②の方が大きくなる。

表2 真のコストダウン効果

こんなことは当たり前だと思うかもしれない。しかし、前述したように、多くの企業が「設計工数の見える化」を実施していない。つまり、人件費も考慮した真のコストダウン効果が分からないまま、テーマを選定しているということになる。

新商品開発、品質改善などでも同様である。テーマの優先順位を合理的に決めるためには、「設計工数の見える化」を避けることはできない。

③ 設計部門の生産性向上

多くの設計部門にとって、生産性向上は喫緊の課題であろう。生産性はアウトプット÷インプットで示される。すなわち、少ないインプットで大きなアウトプットが得られれば、生産性が高いということができる。

生産性を向上させるためには、現状の生産性把握、目標とする生産性と達成時期の設定、施策の実行という流れで業務改善を進めていくはずだ。そのためには、インプットとアウトプットの数値化が不可欠である。

アウトプットは設計部門の特徴・役割によって異なるが、インプットは設計工数を指標にすることが自然だ。つまり「設計工数の見える化」を実施しない限り、まともな生産性向上対策もできないということになる。

3. 設計工数の集計と評価

これまで述べてきたように、「設計工数の見える化」は設計部門にとって必要な活動である。しかし、設計工数の集計作業が大きな負担となり、継続できないというケースがよくあるようだ。

初めて「設計工数の見える化」に取り組むのであれば、1日数分程度で終わるぐらいのシンプルな集計方法から始めることをお勧めする。以下私自身も行っていた集計方法を説明する。

まず、設計部門の業務を「設計業務」「設計付帯業務」「設計外業務」に分類する。次に、それぞれの設計テーマごとにNo.をつける。各テーマは設計管理者が工数の見積りを行った上でスタートする。

表3 設計業務テーマ一覧表

設計者は集計表に自分が手がけている設計テーマのNo.を記入し、それぞれの設計テーマで使った時間を一日ごとに記入する(図1)。時間はあまり細かく記入する必要はなく、15~30分を最小単位とする。

図1 設計者の工数集計表

一つの設計テーマが完了したら、設計工数をすべて集計し、見積り工数と実績値の比較や、想定より工数を要した工程などを洗い出していく。必要に応じて設計プロセスの見直しなど、業務改善を進める。

一定期間ごとに、設計部門全体、各設計者について、設計業務、設計付帯業務、設計外業務の比率を明確化する。設計付帯業務や設計外業務も重要ではあるが、設計者が業務の半分以上を問合せ対応に費やしているようであれば問題である。Q&A資料を拡充する、設計者以外が対応するなどの対策が必要だ。

このように設計業務とそれ以外を明確にすることによって、様々な改善策を講じることができる。

集計を継続するためのポイントは、毎日記入を行うことである。週末にまとめてやろうと思うと、なかなか思い出せず記入が進まない。それがストレスとなって集計が続かなくなってしまう。

私も設計者時代に図1のようなフォーマットに毎朝記入していたが、必要な時間は5分程度であった。自分の仕事の整理にもなるので、特にストレスを感じることはなかった。

4. おわりに

パーキンソンの第一法則「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する※1」にもあるように、見積り工数自体が実際の工数に影響を与える可能性がある。

また、設計業務の中で工数管理・日程管理が最も難しい仕事の一つであるというのも私の実感である。しかし、それが「設計工数の見える化」をしない理由にはならない。

「設計工数の見える化」は、よい製品や高い利益を生み出す組織を作るために必要不可欠な活動であると確信している。

【参考文献】

※1 「パーキンソンの法則」 Wikipedia

plastics-japan

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